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ホテルの窓から侵入する陽気が、浩太の背中を照らす。厚い雨雲が切れ、差し込んでくる日差しは、まるで狭いホテルの一室に集まった六人の尻を叩いてきているようだった。穏やかな照り付けとは対照的に、ピアノ線のような緊張が空気を震わせる。小さなテーブルには、ホテル中から集められた刃物や工具が乱雑に置かれている。
ベッドから腰をあげた浩太は、その中にあった中華包丁を握り、重さを確かめてから、椅子に座っている祐介に手渡す。おそるおそる握った祐介は、ずしり、とした重量にひどく違和感を覚えて顔をあげた。
「......岡島さん、これ、俺には重いよ」
「野球で手首は鍛えてんだろ?それは、お前が一番あってるよ」
不承不承そうに祐介は唇を尖らせたが、浩太は祐介の肩を二度叩き、備え付けの机に座る彰一へ首を回す。渡された出刃包丁を一瞥すると、不満気に祐介の中華包丁を指差す。
「俺は、あっちのが性に合ってる」
浩太が困り顔で返す。
「そう言うなよ。お前が仲間を気に掛けてるのはよく分かるけど、これはお前みたいに身軽そうな奴のほうが振り回せるだろ」
彰一は決まりが悪そうに、そっぽを向く。ベッドからその様子を眺めていた真一は、二人だけで交わした会話の内容が頭を過り頬が柔らかく動いたが、すぐに表情から消えていった。
阿里沙と加奈子には、武器が渡されず、阿里沙があげた非難の声を、浩太は巧笑で返し、誤魔化すように手を打ち合わせ、目元の陰影を濃ゆくさせ、少年少女は見回してからゆっくりと、一言一言を噛み締めさせるように言った。
「作戦を話す前に、言っておきたい事がある」
四人の視線が集まり、浩太は真一へ頷いてから続けた。
「これは、俺達二人の仲間を助けたいっていう我儘みたいなもんだ。外の危険はここにいる全員が身を以て知っていると思う。だから......」
「それ以上、変なこと言うと怒るからな」
浩太の言葉を遮ったのは、彰一だった。僅かな狼狽を混じえながら、浩太は口をつむぎ、祐介が彰一に同意を表すように立ち上がった。
「確かに、外の危険は充分に知ってるけど、そんな中でも浩太さん達は俺達を救ってくれた。俺達が動く理由なんて、助けてくれたこと、それだけで良い」
「そうだよ。本当なら私達は警察署で死んでたかもしれないんだし......何て言うか......今更、水臭いですよ」
阿里沙が言い切ってから、祐介が差し出した右手を浩太が見下ろす。躊躇ってしまう。隊長の一件を忘れているのではないだろうか、と勘ぐってしまうほどに、まっすぐな掌だった。真一が浩太の後ろで深く息を吐いた。
「本当に良いのか?俺達の身内には、この事件に関わってる奴がいるかもしれないんだぜ?」
真一は、我ながら非常に不躾な質問を投げ掛けたものだなと胸中で呟く。挑発に近い口振りだった。祐介を始め、加奈子を含めた四人に動揺の色が見えたが、それはすぐに引っ込んだ。
ヤバイ……寒いw