感染   作:saijya

118 / 432
第11話

「喉も乾くだろうね。昨日からなにも口にしてなかったんだろ?」

 

「......何が目的だ?言っとくが、仲間ならいないし、武器もないぞ」

 

 小金井は苦笑混じりに鼻の頭を掻いた。うーーん、と唸りつつ、コーヒーを飲み干してから、空き缶をベッドに捨てる。

 

「......この事件は、一体、どこまで広がっていると思う?」

 

 突飛な質問の意図が読めず、達也は眉を寄せた。構わずに小金井は続ける。

 

「奴等が人を襲い出し、中間市に住む人間は、ほとんどが、このモールに集結した。協力してバリケードを作って......例え、世界に人間がいなくなろうとも、協力して生きていこうと誓った」

 

 なんだ、話しが良く分からない。こいつは何が言いたいんだ。ただ、唯一、達也が感じとれたのは、小金井の口調は、確かな怒気を纏っているということだ。達也は、黙って小金井の言葉を聞いてみることにした。

 

「そう一丸になった直後、あいつらが現れ、一号館にいた仲間は殺された。今、モールの外を徘徊しているのは、かつての仲間だ。あいつらさえ現れなければ......」

 

「......あいつら?」

 

「お前を拐ってきた二人組だ!」

 

「ち......ちょっと待て!お前は奴等の仲間じゃねえのか?」

 

 感情の昂りから、大声を発した小金井に向け、達也は右手の掌を見せた。理解が追い付かなかった。

 達也が気を失う前に、東は小金井に身柄を預けた。それは、東からある一定の信頼を寄せられている証ではないだろうか。つまり、達也の認識では、安部、東、小金井の三人は、仲間同士であり、力関係もはっきりしていた。そんな達也の戸惑いも無視し、小金井は、抑揚のない声で言う。

 

「ああ、みんなを助けるには、仕方がなかった......異常者のように振る舞うしか、近付くことが出来なかったんだよ......そうしなければ、あの二人は何をしてくるか分からない......」

 

「......そういうことか」

 

 小金井は、小さく頷いた。それだけで達也は、理解する。それがどれだけ辛いことか。それがどれだけ悔しいことか。自己犠牲に心酔するタイプでもないのは、仲間から不信感を向けられようとも、仲間を守るために、二人に近づいたことからも分かる。

勇敢な男だ。それだけに、不憫に思える。しかし、これは演技かもしれない。狐疑が拭えないのは、環境のせいだろうか。それとも、自分は昔から疑い深かったか。信じてやりたいが信じれない小胆さに嫌気がさし、達也は天井を見上げた。

 小金井は、いずれ死ぬであろう達也を信用して提案しようとしている。それがなんなのか、皆目見当もつかないが、ただ言えるのは、達也にはもう後がないということだ。どのみち、殺されるのは時間の問題だ。ならば、最後の時までは誰かを信じて死にたい。

 信じたあげく、あの女医のような殺意の塊を向けられようとも、小金井のように、仲間を守る人間らしく、最後の瞬間まで、人間として有終の美を飾ってやろう、そんな気持ちを気力で持った。顎を下ろし、達也は小金井と目線を合わせて言った。

 

「前置きはもうやめよう。で、お前は俺に何をさせたいんだ?」

 

 小金井は、鋭く光る達也の眼光から逃げずに返した。

 

「そうだね。じゃあ、率直に言うことにする。一度しか言わないからよく聞いてくれ」

 

 小金井は、辺りを見回し、誰もいないことを探りつつ、達也の耳元で蚊の鳴くような頼りない声で言った。

 

「安部と東を出し抜く為に、君の力をかしてくれ」




次回より第12部「探索」にはいります
やっとキリのいいところにきたので、11月くらいまで多分消えます

……多分w

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。