感染   作:saijya

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第10話

 呟きに祐介が首を傾げるが、なんでもない、と彰一に誤魔化され、決まりが悪そうに眉を寄せた祐介の背中を明るい声が叩く。

 

「二人とも!真一さんの部屋に集合!」

 

 ホテルの入り口へ振り返った祐介は、沈んでいる気配もない阿里沙を見た。阿里沙はどう思ってるのだろうか。祐介は、確認しようと一歩を踏み出すが、彰一がそれを阻むように、大きく返事をする。

 

「ああ!分かった!すぐに行く!」

 

 阿里沙は、ホテルの中に戻り、祐介は意に染まないような顔で汚れた手を拭いていた彰一に訊ねる。

 

「あいつが、どう思ってるのか聞かなくて良いのか?」

 

「加奈子が後ろにいる時に、聞くような話しでもないだろ」

 

「......それもそうだな」

 

 彰一は、配線が繋がったままのシリンダーを運転席に投げ扉を閉めた。マイナスドライバーを祐介に放り、駐車場の出入り口から差し込む光を眺め、ぽつりと言った。

 

「祐介、見ろよ。雨が......あがったみたいだ」

 

                  ※※※ ※※※

 

 まず、最初に気付いたのは、冷たい何かが顔に当たる感触、次に頭に何かに巻かれているということだった。背中は柔らかなものに沈んでおり、霞んだ視界には、細長い蛍光灯が映った。達也は、額を確かめるように手を上げた。

 ......冷たい。

 グジュッ、とした感触と掌についた水滴、氷が入れられた袋だと分かる。直接、冷やさないように巻かれているのは包帯だった。腫れた瞼を開けば、額の皮膚が縮み、鋭い痛みが走り出す。

 

「まだ、動かない方が良い」

 

 達也の意識は、完全に覚醒した。がばっ、と起き上がり、ベッドの縁に腰かけていた男を視認すると、目を剥いてベッドから転がり落ちた。

 

「そんなに驚くなよ。治療してやってるだろ?なにもしない」

 

 警戒心を剥き出す達也に、男は落ち着けと両手を突きだした。達也の記憶が正しければ、意識を失う直前に、東から呼ばれていた男だ。

 

「小金井だ。よろしく」

 

 まるで、包み隠したような笑顔で小金井は右手を差し出した。当然、達也が握り返すはずもない。鋭く小金井を睨みつつ、達也は口を開いた。

 

「......なんのつもりだ?」

 

 小金井は諦めたように、首を振って右手を下げ、ベッドの下からクーラーボックスを引きずり出し、中から缶コーヒーを二本取り、一つを達也へ放った。不審を募らせる達也は、そう簡単には缶に手を伸ばさず、最初に小金井が口をつけたのを確認してから、一気に飲み干した。

 よく見る安物のコーヒーだが、五臓六腑に染み渡り、達也は息を大きく吐き出す。




……嘘つきと呼ばれる覚悟は出来ている
いや、もう、本当すいません……片付けがキリのいいところまでいって時間ができたんです……

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