感染   作:saijya

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第7話

 油断していたとはいえ、東は人の気配には敏感だ。息をしていたのかも怪しい所だ。かなりの警戒心を持って潜んでいたのだろう。押し付けられた銃口越しに、ありありと伝わる殺意、確信をもってここにいた人間を階段から突き落としたのは、こいつだと言える。東は、両手を挙げて口を開く。

 

「こいつは驚いたなぁ......まだ、ここに残ってたのかよ。人を殺したあとってのは、よほどのサイコじゃない限り、すぐ逃げ出すもんだと思ってたんだがな......」

 

「口を開くな。不必要なこと言いやがったら、即座にぶっ放す」

 

 更に銃口が強く当たる。少し唸りながら、相手の足元を盗み見た。靴は茶色のブーツ、迷彩柄のズボン、腰のバックルも特殊なものだ。当てられた消炎器の形状も、恐らく、自分が今、手にしているものと同じだ。

 

「......自衛官か?」

 

 銃口が、ぴくり、と反応した直後、自衛官は階下にいる安部に、低く言った。

 

「やめとけ。見たところ、二人とも民間人だろ......銃を初めて扱うような

奴が正確に当てられるのか?こいつごと俺を撃つことも出来るだろうが、まず、弾丸が貫くのは、お前の相棒だ。この意味が分かるよな?」

 

 安部は、自衛官の忠告を耳に入れつつも、銃を下ろそうとはしなかった。パニックに陥っている。両腕が硬直したように痺れ始めていた。小さく悪態を吐いた自衛官は、目の前にいる東を見澄ます。

 

「その銃をこっちに渡せ」

 

「勘弁してくれよ、自衛官様よお......こっちは民間人だ。こいつを奪われたら......」

 

「良いから渡せ!」

 

 東の言葉を遮り、トリガーを僅かに引いた。この時点で、自衛官の声音に焦りがある。警官に拳銃を突きつけられた経験はあるが、あくまで威嚇行為としてだ。このように殺す意思を持つ者に、銃口を向けられた事はない。東は、初体験に対して、密かに興奮していた。

 この瀬戸際が堪らなかった。ようやく、自分の番が回ってきた。高鳴る鼓動は、どんどん脈を早くしていき、血液が身体中を巡っていくのが分かる。そうか、これが死ぬ間際に見れる光景なのか。くるりと首を動かし、銃口をこめかみから額へ移させ、自衛官を正面から見据えて、東は高々と笑い声をあげた。

 

「ひひひ......ひゃーーははははは!良いね!さいっこうの気分だ!おら、自衛官!何を焦ってんだ?人を殺そうとしてる時は、自分が穏やかになんねえと、相手は何も感じちゃくれねえぞ!」

 

 東の変わり様は自衛官には、どう映ったのか。明らかに、眉間に刻まれた皺が深くなる。銃のバレルを掴み、自らの額へ押し込んだ。

 

「なんだよ!何をビビってんだ?ここで童貞は捨ててんだろうが!一人も二人も変わんねえだろ!ああ!?」

 

 東の凄味を肌で感じたのか、まるで化物を目の当たりにしたように、自衛官の表情が青ざめた。異常な者を見るように、目付きに怯えの色が走る。




東とはレベルが違ったようだ……w

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