幸神のホテルの一室で、簡単な自己紹介が終わった。
そんな時でも、真一は苛立ちを隠そうともせずに、落ち着かない様子で、椅子に凭れていた。陰鬱な空気が、針のように祐介達に突き刺さる。
四人が起きたから、という理由で一先ずは、出発を諦めた真一だが、それにより悪化した雰囲気は、一向に重くのし掛かった。 浩太は、そんな暗鬱とした空気を振り払おうと、ホテルに残されていた食品を全員に配って回っていたが、真一はそれすら口にしようとしない。この時間が勿体ない、そう態度に現れていた。 加奈子も、口が利けない分、そういった気配を強く感じているのか、阿里沙の背中に隠れてしまっている。
切っ掛けを作るように、壁に背中を預けていた彰一が、ツカツカと歩き出し、口火を切った。
「なあ、アンタ......真一さんだっけ?誰かを探しに行きたいのか?」
浩太が驚き、彰一へ目を向けた。仰ぎみた真一の鋭い眼光に、さすがの彰一も思わずたじろいでしまう。
「だったら何だ?まさか、行くな、とでも言うつもりか?」
「おい、真一......やめろ」
「浩太、お前が助けた奴等が、俺にこんなこと言ってやがるぜ?随分、勝手な奴等......」
「やめろって言ってんだろうが!」
突然、声を張り上げた浩太は、真一の胸ぐらに手を伸ばす。少し苦しそうに呻いた真一は、更に目元の剣を強めた。一触即発の不穏な気配が漂い始め、浩太は、歯を食い縛り、乱暴に真一を離した。
仲間割れをしている場合ではない。しかし、弾丸は底をつき、頼りになる武器は、ナイフが二本と、祐介が持っているM360一挺と弾丸が四発、頼りがいがあるな、くそったれ、と浩太は胸中で吐き捨てた。真一は、浩太が起きた朝の五時過ぎから、ずっとこんな状態だった。穴生で離れた達也を迎えに行くと言って、かれこれ四時間、雨は強まるばかりだ。視界が悪いなか、武器もなく、入り組んだ穴生の住宅街を探索するのは、裸で歩き回っているのと同じだ。
浩太は、疲れた表情を出来るだけ祐介達に見せないようにしつつ、小さく溜め息をついて言った。
「とにかく、雨が止むまでは待ってくれ......ここでお前まで行方不明になったら、それこそ笑えないだろ」
真一は鼻を鳴らす。
「悠長に構えてる場合じゃないんだぜ?明日まで降り続けたらどうすんだ?」
「それは......」
「遅くなれば、それだけ達也が死ぬ確率は高くなる。それを分かってんだよな?」
高圧的な真一の口調は、その場にいる祐介達にも重くのし掛かった。
「だからってどうしようもないだろ......今は、達也の無事を祈るしかない......俺達が信じなかったら、それこそ達也は......」
「無事を祈る?達也が離れたのは、一体誰のせいだよ!」
真一は、突然、語尾を荒げて叫んだ。溜め込んでいた怒りが、堰を破ってしまったのだろう。
感情的に、立ち上がった次の瞬間、真一は、右頬に重い痛みを覚えた。意思とは関係なく、真一の身体は椅子を巻き込んで床に倒れた。
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