まるで、スイッチでもいれられたかのように、自衛官達は我先にトラックや、その荷台へ乗り込んだ。
直後、集団が格納庫に到着し、車内をとてつもない衝撃が襲う。自身の身体を顧みず、車体へぶつかってきているのだ。助手席にいた真一が、恐怖にかられドアガラスを解放し、銃撃を始めようとしたが、浩太はそれを制した。
「馬鹿野郎!なにやってんだ!」
「何って!奴らにぶっ放してやるんだよ!このままじゃ発車すら出来ねえだろ!」
「だからって窓あける奴がいるかよ!見ろ!」
浩太が指差した先では、耐えきれずにドアガラスをあけた自衛官が数人を仕留めた後に、引きずり出され、開け放たれた箇所から侵入を許し、運転席側のフロントガラスが須臾の間に紅色に染まりあがり、助手席から放られた、強引にもぎ取られたような傷口を残した腕を集団が一斉に奪い合う。
そんな阿鼻叫喚という言葉がぴったりと当てはまりそうな光景が繰り広げられていた。生唾を呑み込む真一に、浩太が続けて言った。
「ああなるだけだ!他に方法がないかを考えろ!」
真一が反駁する。
「どうしろってんだよ!門までこいつらがぎっしりだぞ!」
ドゴン、と助手席側のドアが激しく揺らいだ。ドアが凹み始めている。既に囲まれたトラックの周辺では、早くも数十名以上の犠牲者が出ていた。破られるのも時間の問題だ。何もしなければ、死んだ自衛官までもが暴徒として活動を開始し、こちらに牙を剥くことだろう。
そうなれば、現状の打破は余計に難しくなる。
耐え切れずに発進した一台は、文字通りの肉の壁に阻まれ横転した。割れたフロントガラスに顔を突っ込み顔面の皮膚や肉が削げようとも、意にも介さずにその歯をカチカチと鳴らし、喰らいつこうとしてくる連中だ。嘆声が聞こえるが助けようがなかった。
暗澹とした気分になった浩太は、ここまできたら一か八かの強行突破しかないと、エンジンを掛けた。
「おいおい、何をするつもりだよ!」
「強行突破する。それしかもう道はないだろ!」
「馬鹿言うな!自殺に付き合うつもりはねえぞ!」
「俺だって自殺なんざしたくねえよ!だが、これしか方法はねえだろうが!」
バン、と音をたててドアミラーが叩かれた。助手席のドアは凹み、運転席はドアミラーに皹が入っている。そしていまだに揺さぶられている車内、もはや迷っている暇はなかった。ハンドルを強く握りなおした浩太が確認するように真一へ訊いた。
「準備はいいか?」
「……ああ、分かったよ!分かったよ、このくそったれが!」