クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~   作:誤字脱字

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クロスアンジュ!とうとう堀ちゃん登場!
待ちに待った登場に心躍ります!

今回は予告より多く話せるよ!

あ、今回、話が長くなりそうなので二つに分けました


第七話 黒百合出撃

黒百合の悪魔―――

 

およそ2年前から耳にするようになったテロリスト

当初、エンデラント連合のみで殺戮を行う為、エンデラント連合に明確な反逆意思もしくは恨みを持つ者の犯行だと思われていたが、事態は一変した。

 

エンデラント連合で引き起こった『検疫官連続殺人テロ』を境に犯行の手は近隣国まで及ぶようになりエンデランド連合だけで死者は2000を越え、マーメリア共和国、ヴェルダ王朝、ガリア帝国、ミスルギ皇国、ローゼンブルム王国の五ヶ国を合わせても7500の死者を生み出した

 

犯行の手口が、爆破や襲撃に及ばず王族には毒を盛り殺害する

多種多様の手口が更なる問題を生み……黒百合の悪魔は登場して僅か三年で世界の敵と認められる様になり、多額の報酬金をかけられた国際指名手配犯に認定された

 

…だが、黒百合は捕まる事は無かった

いくら情報網を広げようと奴の尻尾は捕まえる事が出来なく、各国の政治家の頭を悩ませ恐怖に陥れた。…次は自分が狙われるのではないのか?もしくは自分の国が襲われるのではないか?と……

 

激しい疑心暗鬼が渦巻く中、遂にはある組織に命令がくだる事になる……

 

「黒百合の悪魔…アキト・ミルキーウェイを発見次第抹殺せよ、か……うちは何時から人殺しをするように……いや、奴等からしてみれば同じことか」

 

指令書をくしゃくしゃに丸めながらゴミ箱に捨てる老婆は、悪態を付きながら煙草を浮かせる女性に目をやった

 

「ご丁寧にご祝儀もくれるそうだ。成功者には『人間』の地位を与える……今更、外に出たいと思う奴なんてここにはいないさ」

「ジャスミン……」

「まったく、あの子の忘れ形見も随分、面白く育っているじゃないか!…甥の写真を毎度見てつけてくる馬鹿娘が今はどこで何をしているのか……」

「………」

「……悪いねぇ、私は少し休ませてもらうよ」

「あぁ、それと…」

「わかっているさ、指令書は届かなかった。メイにも何も言わないさ」

「……すまない」

 

片手をあげて部屋を出て行く老婆の後を続くように一匹の犬が出て行き、扉が閉じられた

 

一人、煙草を吸う女は窓枠に寄り掛かりながら―――

 

「ツキヨの甥っ子…甲冑師の一族、か…」

 

右腕の義手を抱きながら、欠けた月に語りかけるのであった

 

 

 

クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~

 

第七話 黒百合出撃

 

 

 

 

ローゼンブルム王国近海の深海を、漆黒の機体が潜水していた

 

「―――ローゼンブルム王国、繁華街にて爆破テロが行われた。祝日を祝う住民が集まっていた事もあり被害は多大であり、死亡者350人重傷者625人の被害を生み出した。また、現場には黒百合の花束が置かれていた事から黒百合の悪魔の犯行だと思われる、か……いや、正確には334人だ。あとの16人は『ノーマ』だ」

 

いま最も世間の話題を良くも悪くも集める搭乗者は、煙管を吹かせながら今朝方購入した新聞の内容を確認し、ため息をついていた

 

「今までで一番大きいテロリズムだと言うのに……実りの少ないモノだったな」

 

やはり、人間はテロだとあまり死なないな…

ただえさえ、『マナ』の力を使った治療が確立されているのだ……内臓の一つを潰しても死んではくれない。確実に命を狩り取るのなら直接が一番か…?

 

「いや、コイツを使って襲撃するっていう手もあるな」

 

操縦桿を軽く叩いてやれば、それに答えたかのようにメインモニターに『655,466』と言う数字が浮かび上がってくる

 

「後655,466人……3年間で11,200人。このペースで行けば後222年はかかる、か……死んでるよ、普通に」

 

俺は思わず天を仰いでしまった

単純な話、今のペースのままだと、とてもではないが、目標の人数には届かなく少なくとも1年で約8,000人の命を狩り取らなければ寿命が先に尽きてしまうのだ

 

「戦争でも起きない限り寿命の内にカタを付けるのは難しい…だからと言って一人で世界に戦争を仕掛けるなんて無謀だ」

 

1対世界……

本当の悪魔や神様でない限り到底勝てない勝負だ。……だが、裏ワザがあるとすれば話は変わってくる

もし俺に協力者ができ、協力者が狩り取った命がカウントされるようになれば作業は分割化されコチラの負担を軽減できるし、時間の短縮も出来る

 

この上ない裏ワザではあるが……

 

「…人殺しを手伝ってくれる馬鹿がどこにいるかって話だよな~?……はぁ~、地道に行くしかないか」

 

タメ息交じりに操縦桿に手をかけ、残りのエネルギーを確認しデミウルダスと契約して完成したシステムを起動させていく……

 

「目標の座標を確認、イメージ固定、次元跳躍システム起動…ジャンッ!?システムの緊急停止を申請ッ!」

 

いざセーフティハウスに帰還しようとした瞬間、上空に高エネルギー反応を示す表記が浮かび上がり、突然の事でイメージが発散してしまった

 

慌てて俺はシステムを停止させた。

このシステムは、跳躍先の明確なイメージが無いまま飛んでしまうとどこに飛ばされるかわからない仕組みになっている為、飛んだ先が政府の檻の中と言う洒落にならない場所へと飛ばされてしまうかもしれないのだ

 

いや、檻の中なら力づくで脱出する事が出来るが都市の上空に跳躍してしまったものならコイツが世間に曝され今後の活動に影響が出てしまう!

……緊急停止のデメリットはあるが、仕方ない

 

システムの停止に伴い、音を顰めていく機械音に安堵の息がこばれるが同時に先程まで『655,466』と表記されていた数字が『655,516』へと増えている事に気分は沈んでしまう

 

「はぁ~…普通に飛ぶなら増えないのに何で中止すると増えるんだよ。ったく、なんだって言うんだ!まったく!」

 

事の原因である現象をモニタニングする為、メインモニターに海上の様子を映し出すと……なにも無い筈の空に突如、巨大な穴が空き、そこから大量の未確認生物が流れ込んできたのだ

 

「次元を超えて侵攻してくるって本当だったのかよ博士ぇ。……まさか出会うとは思っていなかったぜ、ドラゴンッ!」

 

個体差はあるが15から20mの小型のドラゴンが上空を旋回し、続くように白い巨大なドラゴンが次元の穴からコチラ側へと侵略してきた

 

「全長約50m……中型種か?どちらにしても十分にデカい。コイツ等と『ノーマ』は戦っているのか…っと、お出ましだな」

 

上空を旋回するドラゴンに接近する熱源が7つ……博士の話通りならば――

 

「―――パラメイル、か」

 

赤のカラーリングをした機体を先頭に緑の機体が6つ。

ブラック・サレナのデータベースにアクセスして確認してみるが間違いなくパラメイルと判明。機体は……グレイブ。『アルゼナル』の所有するパラメイルの量産機

 

先頭の赤いグレイブは、所々カスタマイズされているが、残りの6機は未改造のまま。

戦力は7対42の劣勢からの開戦……本命部隊が来るのでの時間稼ぎか……

 

そんな俺の予想とは裏腹に彼女達は、空を自由に飛び回り、次々と小型ドラゴンを落としていく

連携を取り、追撃し一体づつ確実に落としていく、その姿はまさに芸術で讃頌するに価した。中でも赤のグレイブは一発必中、無駄なくドラゴンを落として行く姿は戦場に現れた戦乙女を連想させてしまう

 

「……予想外だ。時間稼ぎの捨て駒だと思っていたが、彼女らは既に一介の戦力だったんだな。…しかし、これまでだ」

 

モニターの先には巨大な翼を広げ、口元に巨大な光球を形成している大型ドラゴンが映し出されていた

徐々に光を増す光球は、一定の大きさまで膨れ上がった瞬間、激しい光と共に弾け100を越す光の弾丸となって7機のパラメイルに撃ち出されたのだ

 

ただの弾丸なら危機と感じはしないが、弾丸が全てパラメイルに引き攣られるように後を追尾してくる。……ホーミング機能、あれから逃げ出すには彼女達の技量は少なすぎる

 

案の上、光の弾丸は彼女達を飲み込み一機また一機と破壊していく。光が無くなった先に残った結末としては呆気ないもので7機いたパラメイルのうち、2機を残して全て戦闘不能の壊滅。残った2機ですら所々に被弾しており、フライトモードが維持出来ないとアサルトモードに移行していた

 

「戦力差は変わらず2対19の劣勢……それに加え、そのうちの一匹が広範囲攻撃を持つ中型種。……終わったッ!?」

 

モニターには、次弾の準備を始めている中型種と2機に襲いかかる18の小型種。

……見世物もここまでと思い、この場から離脱を計ろうとしたが、ブラック・サレナに強い衝撃が襲いかかった

メインモニターをクリアにして前方を確認してみると淡いピンク色をしたドラゴンが、血を流しながらブラック・サレナに噛みついていたのだ

 

「まだ生きていたのかよ。はぁ~…弾薬は無駄にしたくなかったのだがな……DF(ディストーションフィールド)展開ッ!」

 

眼に見えない強力なバリアがブラック・サレナ全体を包み込みドラゴンを弾き飛ばした

泳げると言っても水中では上手く身動きが取れないのは人間と同じだったようで無防備に腹を曝け出すドラゴンに鉛弾を撃ち込んだ

もとより傷ついていたドラゴンは、直ぐに絶命し海中を漂う魚の餌と化した

 

「…無駄弾だったな。はぁ~…爆破テロも上手く行かないしドラゴンとは遭遇するし散々な……え?」

 

俺は目を見開いて驚きを露わにした

メインモニターの横に表示されていた数値が『655,515』を表記し、ドラゴンの命をカウントしたのだから……

 

「……生物もカウントされるのか?いや、犬や猫を殺してもカウントされなかった。そんな事でカウントされるとしたら魚や肉牛はどうなる?……ドラゴンだけが特別なのか?」

 

明確な情報が欲しいが、その宛てはない

ただハッキリとしているのは、ドラゴンは人間と同じで命を狩るに価する存在と言う事だ!

 

「……実りない戦果だと思っていたが、思わぬボーナスだよ!まったく!」

 

俺は、再び次元跳躍システムを起動させながらテールバインダーを墜落し海の藻屑となったパラメイルに接続する

 

「―――システム起動、跳躍スタンバイ。……パラメイルの通信機能は…生きているか?よし」

 

思わぬ結果になってしまったが、はじめましてだな―――『アレクトラ』

 

「応答せよアルゼナル―――アレクトラは存命か?」

 

 

 

 

 

 

「て、敵、光学兵器を展開っ!?ヒルダ機以外、応答ありませんッ!」

「……第一中隊に出撃させろ。ヒルダ機には撤退するように連絡」

「は、はい!」

「……『はつもの』相手にあの子じゃ荷が重いねぇ?ゾーラが間に合うまでもつか…」

 

何時もと変わらない出撃、いつもと変わらない殲滅戦であった

上の命令に従いドラゴンを殺し、『人間』達の世界を守る。……くそったれなイカれたお仕事をこなすだけであったが……事態は一変する

 

『はつもの』―――

いままでに遭遇例のないドラゴンの通称であり、能力も生態も不明…敵さんの能力しだいではコチラの戦力を全て奪いかねない強力なモノまで存在する

 

……ただ、今回の『はつもの』は強力過ぎた

 

「…複数の光線、それも追尾機能までついた光学兵器の展開。中型種と見て油断したか」

「敵、第二波の展開ッ!ヒルダ機離脱できません!」

「ジル司令官、ここは時間稼ぎの為に続投させては?」

「……監察官殿は仲間を見殺しにしろと?」

「優先事項として本国にドラゴンを接近させてはいけない事を頭に入れておいてください。彼女の代わりの『ノーマ』はまだ沢山います」

「……了解した」

 

『ノーマ』、か…。どちらが本当の『人間』なのか疑うな……

……こちらの有力な戦力が削られるのは痛いが、計画…『リベルタス』に気づかれては仕方ない

 

通信機を手に取り、死刑勧告を告げようとした時―――1本の通信が入った

 

「応答せよアルゼナル―――アレクトラは存命か?」

 

指令所全体に冷たく響く、その声は心臓を鷲掴みにされる錯覚を生み出すほど殺気だっていた

 

「――……え?つ、墜落したヘレン機からの通信です!」

 

通信師であるオリビエからの報告に頭が動き出す

指名を受けたのは私であり、私ではない。現役時代の私……と言う事は『リベルタス』の関係者、か……監察官殿もいる。ここは下手に出ない方が得策か……

 

「……こちらアルゼナル総司令官ジルだ。アレクトラは死んだ、代わりに私が答えよう」

『死んだ、か……どちらでも構わないが、手を貸してやる。俺を攻撃するなと赤いパラメイルに伝えろ』

 

どちらでも構わない?『リベルタス』の関係者ではなく、私個人を知っている者?

しかし、私が王族であったのは10年以上前の話であり、『アルゼナル』に送られた事は公にはなっていない。『リベルタス』に関係ない第三者、もしくは『リベルタス』に関わっていた者の血縁か?

 

「どこの誰か知れないモノの手を借りる訳にはいかない。所属と名前を教えろ」

「……黒百合の悪魔。いや、貴様たちには『ヴィルキスの甲冑師』と言った方がいいか?」

「ッ!なんだ「きゃぁぁぁぁぁ!」…監察官殿は、お疲れのようだ。別室に案内してやれ」

「は、はい」

 

黒百合の悪魔と聞いて発狂しだす監察官殿に指令所にいる全員が驚きを露わにするが、仕方ない事か…通信相手が世界を脅かすテロリストからの直接通信なのだからな

しかし、こちらとしては好都合だ。幸い、『ヴィルキスの甲冑師』には目をつけてはいないようだしな

 

「黒百合の悪魔、アキト・ミルキーウェイ、か……どう言うつもりだ?」

『なに……そこに狩り取る命があったまで。貴様達になんの興味もないが、攻撃されたらたまったモノではないのでな?……だが、攻撃を仕掛けてくるようであれば狩り取る命が一つ増えるだけだ』

 

興味がない?明らかに『リベルタス』の関係者だが、何の情報も聞いていないのか?

 

『くっそたれぇ!ここで私は死ねないのよー!』

「ヒルダ機、被弾!か、解析終了しました!敵中型種の光学攻撃発射まであと1分30秒!」

『返答を要求する。貴様の計画を実行するにも戦力は残しておいた方が良い筈だ』

「ッ!」

 

やはり『リベルタス』について聞いているのか!?この場で何か言われたら支障がでる!

それに『リベルタス』の協力者であった場合、この場で姿を現す事はのちの戦力が(エンブリヲ)に知れてしまう可能性がある……さいわい、ドラゴンの情報を得る事は出来た。第一中隊の準備も完了した……ここは手を借りる事はしない方がいい

 

「残念だが、貴様の手は「一つ、質問していいかい?」ジャスミン!?」

 

私の言葉を遮り、ジャスミンが通信に介入してくる

 

「責任は私が持つよ。……アキトといったねぇ?随分大きくなったじゃないか」

『……貴様は?」

ココ(アルゼナル)での母親みたいなもんさ。アンタの事はツキヨから聞いてるよ」

『………』

「なんでここに介入するのかしれないし、ツキヨから何かを聞いているのかも知れない。だが、私が聞きたいのは……ツキヨは元気かい?」

 

指令所には、ジャスミンが口にした『ツキヨ』と言う人物の名前に疑問に思うモノが多く、口を閉ざしたままジャスミンを見つめている。

……無理もない、ツキヨが脱走したのはもう数年前の事、覚えているモノは少ないさ

 

沈黙していた黒百合の悪魔は、突然『音声オンリー』の画面を顔が映るように変えたと思うと顔を隠すバイザーを取り外した

 

『……博士は死んだ。俺が殺した』

「ッ!」

 

奴の目はツキヨと同じ目をしており、顔立ちもどこかツキヨに似ていたが、奴が言った言葉に息を飲んだ

 

あんなに自慢していた甥に殺された?そんな馬鹿な事が……

友を失った悲しみと、友を奪った相手に対する怒りで口元が震える。そんな中―――

 

「そうかい、なら手を貸してもらおうかね?」

『……了解した』

「ジャスミンッ!」

 

ジャスミンは平然と救援を申請したのだ

 

「どういうつもりだ。アイツはツキヨを殺した相手だ!そんな相手に!」

「落ち着きな、ジル。…アンタはここの司令官だ。一つでも救える命があるのなら救ってやるのが司令官だと私は思うよ」

「だがっ!」

「敵中型種、攻撃開始!数32ッ!ヒルダ機に!」

 

オリビエの声にモニターに視線が向く。

今まさに、ドラゴンの攻撃がヒルダ機に直撃し激しい光と音の爆発が交じり合っていた

 

「それにアイツは、狙われていると言うのに素顔を曝け出した。……それは後悔しているからだと私は感じたよ」

「ッ!」

 

光と音が鳴り止み、爆煙が晴れた先にいたのは全身を黒の装甲で固めたパラメイル……

その異形に私は見覚えがあり、思わず呟いてしまった

 

「ホワイト・リリウム……」

 

かつて友が作り出そうとした『ヴィルキス』にもっとも近いパラメイルの名前を―――

 

 

 

 

 




補足情報
米国のテロ問題研究団体は、世界各地で昨年発生したテロ事件は8500件以上で、死亡者は約1万5500人とする最新報告書をまとめた
と言うニュースを見ました

一人でそれ以上の戦火を出したアキト君は凄いです

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