「アーキバス、か……エンジンはゾーラのを使ってんだって?」
「あぁ、メイが意気揚々と改造を施していたよ」
「意気揚々としていたのは、メイだけじゃねぇだろ?」
「……パラメイルに触れるのは初めてだったからな、つい」
「けっ!似た者兄妹が……」
ヒルダと交わった後、俺は疲れて眠るヒルダを置いて格納庫に足を運び『高機動ユニット』の整備を行おうとしていたのだが、慌しく動き回るメイを見つけ、どうしたのかと声をかけたところ、ヒルダの機体を変更、強化改造すると聞いて黙ってはいられなかった
技術屋として初めて扱う玩具を目の前にして血のたぎりが抑えきれなかったのだ
サラマンディーネと違い俺と同じ拘りを持っていたメイとの共同開発は、驚くほどに順調に進み重装甲化および軽量フレームへの換装、さらに大破したゾーラ機の強化型エンジンの搭載などの強化により超高性能化に成功したのだ!
限られた時間の中で、これほどまでの強化に成功した俺達は自分達のなした功績を称え共に祝杯をあげようとしたのだが……………格納庫の入り口で般若のような顔で俺達を眺めていたヒルダを見た瞬間、お祝い気分から一気にお通夜レベルまで気分を落した
責めての救いとばかりにヒルダの説教は俺が受けると申し立てメイを解放した………去っていくメイが一生の別れを目の前にするかのように顔を歪めていたのを今でも覚えている
「大体、抱いた女を置いて出て行くなよな………起きた時、隣に居なくて寂しかったんだぞ」
「……すまない」
「それとメイに夜通しで作業させるのもやめろよ。メイも女なんだ、寝不足は肌の敵だ!って言うだろ?」
「……博士やサラマンディーネは、徹夜で研究していたが?」
「博士は他の所に気を使っていただろ?それとドラ姫様は体の作り自体違うじゃねェか!」
「………」
もはや言い訳は通じないと理解した俺は、素直にヒルダの説教を受ける事にし、時にパラメイルの性能の説明を踏まえながらヒルダとの会話を楽しんだ……言っておくが俺はMではない、時たま自分の世界観に戻らなくては心が折れてしまうからだ
「あら?ヒルダじゃない」
「あぁん?あぁ…アンジュか、どうかしたのかよ?」
会話に気を取られて気づかなかったが、アンジュがいつの間にか格納庫に訪れていた
俺はヒルダに、『とある理由』から肩を貸しながらアンジュの元へと向かった
杖を付いた男に肩を貸して貰うなど、奇妙な光景だが今回だけは仕方がないのだ
「タスクを探していたんだけど……どうしたの、ヒルダ?歩きづらそうにして」
「あぁ…どっかの誰かさんが調子扱いたせいで、ね」
アンジュに苦笑気味に答えたヒルダは、続けさまに俺の事を睨んできた……いや、申し訳ないと思うが、長年積もった思いをセーブする事が出来なくて
ヒルダの視線が俺に向き、ヒルダの身に何が起きたのか理解したアンジュは、驚きの表情の内、からかう様な表情に顔を変えた
「百戦錬磨のヒルダでも男相手だとタジタジだったようね?」
「ん?どういう「テメェ!アキトの前で何言ってんだ!」……」
アンジュの言い様を疑問に思った俺は、アンジュにどういう意味か尋ねようとしたが、俺の言葉を遮りヒルダの怒声が耳を刺激した……耳元で叫んでほしくないモノだ
「あら?アキトには教えていないのね?……と言うか痛かったの?」
「男は初めてだから仕方がねぇだろ!つーかテメェはどうだったんだよ!」
「わ、私!?あ、あの時は、タスクが生きていた事を感じたくて頭が一杯で痛みを感じる余裕は無かったわよ!」
「はぁ!?…嘘だろ?それほどタスクの×××は○○だったのか?」
「はぁ!?ちょっと何言ってんのよ!…アンタこそ△△△―――!!」
……俺は心の底からメイを逃がせた事をファインプレーだと思えた
ヒルダとアンジュの口から出る言葉は子供には刺激が強すぎる、むしろ俺もこの場から立ち去りたい。前世では女同士の方が生生しい話をすると聞いた事があるが、ココまで酷いモノだったとは……誰か俺と変わってくれ
「それだっていうのにコイツは、アタシを置いて機械弄りをしてたんだぜ!」
「なによ、それ!少しは労わりなさいよ!って聞いてるの!」
どうやら話はY談から彼氏の愚痴へと移行したようだ
こんな話を聴く羽目になろうとは誰が予想しただろうか……
「仲が良い事は大事だが……決戦前にする話ではないな」
「「ちょっと聞いてるの!」」
「ハイ、キイテイマス」
……まぁ、愚痴を聞く事で彼女らの緊張が解け、万全の状態で戦えるのであれば幾らでも愚痴を聴いてやろうと心に決めたのであった
…………最終的に愚痴大会は、知的好奇心で引き寄せられたサラマンディーネも加わり、ジャスミンがストップを掛けるまで続けられ、三人の隣には黒なのに白く燃え尽きたテロリストが力なく椅子に腰かけていたのであった
◆
クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~
二十八話 決戦
◆
『お兄、大丈夫?……少しやつれているけど?』
「……問題ない、それより装備はD-Tで頼む」
『オーケー、でもビームキャノンは兎も角、ミサイルポットの補充は出来ていないから残弾には気を付けてね?』
「あぁ、上手く使うさ」
ジャスミンに救いの手を差し伸べられるまで、三人官女に精神をゴリゴリと削られてしまったが、概ね戦闘に支障がでないまでに回復した俺は格納庫にて最後の時を待っていた
この戦闘が終われば彼女達の戦いは一時的に終わりを迎える
迫害され世界から見放された彼女達が、世界を守る為にエンブリヲと打ち勝つ
B級ムービーの様な内容だが、エンドロールは、ハッピーエンドと言う訳にはいかない
世界を救う代償は『マナの消失』。『マナの力』を生み出していたアウラを解放し、操作できるエンブリヲを殺すのであれば当然の代償。……当然、『マナ』に依存していた人類は、混乱するだろう。
皮肉なモノだが、次の世界を作って行くのは、自然と世界を救った彼女達ノーマが中心となるだろう……エンブリヲの言う事も大方当っているモノだな?
いまから奴と戦うと言うのに、エンブリヲの言う事も一理あると思うのは何とも可笑しな話だと苦笑し、装着されたD-T高機動ユニットの弾倉を確認する
前の戦闘で消費した11発……残りは19発。使いどころは難しいなと顔を歪めていると、まだ通信が繋がっている事に気づいた
「まだ何かあるのか、メイ?」
『え!?う、うん、えと…』
訪ね難い要件なのか、言葉を詰まらせるメイ
おそらく、その要件を口にする事で戦闘に支障が出るのではないかと遠慮しているのだろう
ふ、甘いな?……ヒルダ達のY談に耐え抜いた俺には、もはや死角はない!
「言ってみろ、俺は気にしない」
『わかった。……エルシャがね、ヒルダがメイのお姉ちゃんになるかもって言ってたけど……本当?』
「ゲホッ!ゲホッ!」
訂正……スゲー驚いた
た、確かにメイは俺の遠い親戚にあたる。彼女であるヒルダが俺と結婚するまで進めばメイの義理の姉にはなるかもしれないが、決戦前に何を教えているのだ、エルシャは!
俺が、驚きのあまり咳き込んでいると話に上がった人物が俺達の通信に介入してきた
『サリアと同じ立場になるのは癪だけど……義妹が出来るのも悪くないかもしれないね?いや、下手したらサリアもアタシの義妹になるのか?うわぁ…可愛くねぇ』
その理屈で考えると魔法少女も俺の親戚になるのか?……身内が魔法少女とか勘弁してくれ
「その話は後で考えよう………さっきから怖い視線で見てくる女がいるのでな?」
視線をモニターから外し、真横に鎮座するヴィルキスへ向けると指でヴィルキスのハンドルを苛正しく叩くアンジュが此方を睨んでいた
「待たせたな」
「冗談、タスクの準備が終わるのを待っていただけよ」
もしかすると最後の別れになるかも知れない程の大きな戦だ。
アンジュは隠そうはしているが、再会できたばかりの恋人、家族との会話に思い残す事が無い様に俺達の話を見守っていたと丸判りだ
アンジュの照れ隠しの材料となったタスクは、『ご、ごめん、アンジュ』と通信を入れていた……まことに不憫な奴だと思っているとアンジュから全体に通信が送られてきた
『みんな聞いて欲しいの……迫害されてきた私達が、世界を守る為に一緒に戦うなんて痛快じゃない?……戦いましょう、私達が生きる為に』
これも訂正だ……アンジュは誰も死なせるつもりはないらしい
『作戦名、ラストリベルタス。ころして、勝って、生き残るわよ』
『『『YES Mam!!!!!!』』』
忙しなく音を上げるエンジンが〈アウローラ〉が浮上した事を伝え、外から聞こえる爆発音が戦闘の開始された事を伝えてきた
「アンジュ、母艦を叩かれたら補給が出来なくなる。護衛をつけろ」
『言われなくとも!ヴィヴィアン!新人2人を連れて〈アウローラ〉を守って!』
『まっつかされたー!』
本来、母艦や拠点の護衛には長距離射撃の出来るロザリーや盾になる事が出来る俺を選ぶのがセオリーだと言うのに、アンジュは装甲の薄いレイザーや経験の少ない新人達に任せた。……一見、セオリーを無視した愚かな選択に思えるが、逆に言えば被弾したとしても直ぐに帰還でき生存率があがる配置とも言える
アンジュが全員に伝えた事が形になっている指示だと俺は笑みを浮かべた
「良い判断だ。貴様には司令官の才能もあるようだな?」
『ふん!私は誰も死んで欲しくはないだけよ』
気分が高揚しているのか隠そうとしている事が口に出ていて尚更、俺の笑みを深める結果となったが……いや、だからこそ任せられると言うモノか
「兵を思いやる指示が出来る者は有能だ………今回は貴様の指揮下に入ろう」
俺の言った言葉に唖然と呆けたアンジュは直ぐに顔を引き締め、疑う様に俺に問かけて来た
「ふーん…どういう心境の変化かしら?」
「俺も生き残りたい質でな?……貴様なら生存率が上がると思ったまで」
「そう、精々ヒルダを悲しませない事ね……パラメイル隊、出撃」
ハッチが開き、次々と発進していくパラメイルに続くように俺もブラック・サレナのスラスターに火を灯した
高機動ユニットを装着したブラック・サレナは他のパラメイルより一回りも大きく、パラメイル二台分のスペースを取っている為、発進は最後となってしまう
「ブラック・ブラック出るぞ!」
全てのパラメイルが発進したのを確認し、発進を即したメイに片手をあげて合図を送り俺は〈アウローラ〉から飛び出した
空では既にビスレロイドとパラメイルの戦闘が開始されており、各機の行く手を阻んでいた。俺はすぐさま、
高物量であるブラック・サレナが高速で突撃すれば最早ビスレロイドの群れなど無いに等しい、激突するやいなや破壊され爆発を引き起こす
だと言うのに爆炎から抜けてきたブラック・サレナには掠り傷程度しか付いていない、重装甲とDFを頼りにした強引な攻撃手段。だが、最強の攻撃と言っても過言ではない
ブラック・サレナの突撃を阻む障害は、この戦域には存在しなく、進路を塞ぐビレスロイドには、最強な攻撃を…戦艦にはビームキャノンを撃ち込み一発で蒸発させた
最強の剣と最強の盾を持つブラック・サレナは次々に〈アウローラ〉に群がる虫を落とし進路を確保していった
進路の確保に成功した〈アウローラ〉は、空へと浮上し、更に進軍していくと思われたが、暁ノ御柱を守るように5機のラグナメイルが待ち構えており、その内の一機が両肩のパーツを広げ此方に標準を向けていた………両肩に集まるエネルギーの量は見て判る程、高密度に集められ、その光景はヴィルキスや焔龍號を想起させ俺は咄嗟に叫んだ
『沈みたまえ、古き世界と共に』
「ッ!アンジュ!収斂時空砲が来るぞ!」
『わかっているわよ!』
感入れずエンブリヲの射線上に滑り飛んできたヴィルキスは、同じ様に収斂時空砲を構え撃ち出した
二機のラグナメイルから破壊の奔流が撃ち放たれエンブリヲの放つ収斂時空砲とアンジュの放つ収斂時空砲は互いに互角。相殺する形で最悪の事態は回避できたが、その余波は凄まじく〈アウローラ〉を取り囲むビスレロイドを一掃させた
『ッ!…N式冷静破壊砲、撃ちます!』
〈アウローラ〉も少なからずダメージを負ってしまうが、周りが片付いた今がチャンス
舵をとるジャスミンも勝負所と感じたのか暁ノ御柱に向い船首を向けると強大な砲台を起動させ撃ち放った
放たれた青い光は、暁ノ御柱に直撃すると凄まじい速度で柱を凍結させていき、完全に氷で包み込んだ。凍り付いてしまい、砲撃の衝撃を逃がす事が出来なくなった柱は半ばから折れて崩壊した。しかし―――
「入り口が塞がれては入れまい……コイツも持って行け」
サラマンディーネは、暁ノ御柱の地下にアウラが眠っていると言っていた
アウラと呼ばれる先祖のドラゴンを補完するぐらいの空間が柱の地下にあるとすれば入り口も自然と大きくなると踏んだ俺は、凍りついた柱の残りと周囲を一掃する為に、D-T装備をパージし、目標へ投下した
投下後、D-T装備は、爆発。激しい爆音と爆炎を作り出しながら柱諸共、地表を削り取った
そして、爆炎が、晴れた先には地下へと続く大穴が出現した
『アソコにアウラが……』
『全機、我に続け!』
あの地下にアウラがいる………この領域にいる全てのモノが抱いた共通した思い、目標まであと少し、焦る気持ちを押し堪えアンジュを筆頭にアウラへの元へと進軍しようとした時………敵は動き始めた
『どこに行くのア・ナ・タ?』
「ッ!」
俺の行く手を阻むように一筋のビームが撃ち出された
見え透いた攻撃は、苦もなく回避する事が出来たが、俺の背中には冷や汗が止まらなかった。
回りを見渡せば、アンジュの前にはクレオパトラ、龍神器達を阻むのはヴィクトリア、エンブリヲに挑むタスク、テオドーラは迷う事無くヒルダとロザリーの元へと向かって行った
即ち――――
「…やはり貴様か、イルマ」
『ハニーって呼んでよ、ダーリン?』
強制的に因縁を齎されたとは言え、俺にはエイレーネが阻む事は予想できていた
背後から立て続けにビールライフルを撃ち出しながら迫って来るエレノールは、前回と違い〈フライトモード〉で追撃して来ているが、D-T装備をパージし本来の姿である〈高機動ユニット型ブラック・サレナ〉となったブラック・サレナに追いつく事など出来ない
案の上、ブラック・サレナはエイレーネを圧倒的な速度で引き離し、明の見や橋に進路を向けた
目標であるアウラを解放すれば、此方の勝利は確実になる。目標が目の前にいるのだ、無理に戦闘する必要はない
スピードを上げて一気に明の宮橋に突入しようとしたが――――
「ッチ!」
追い付けないと理解したのか、それとも
舌打ちしながら旋回し、エイレーネの元へと引き返した
昔の俺ならば脅しなど効かなかったが、祖母とも言える存在、妹とも言える存在……家族と呼べる存在が乗っているあの船を落させる訳にはいかない
明の宮橋、アウラの元へ行くことを断念した俺は、エイレーネに突撃し、彼女を落す事に専念する事にした
『うふふ、やっぱり戻って来てくれた?……いいわ、おいでアキト!私が抱きしめッ!誰!?』
エイレーネの周囲を飛び交い、彼女の意識が〈アウローラ〉ではなく、俺に向うように仕掛け、隙を狙い始めた瞬間、エイレーネに攻撃を仕掛ける機影があらわれた
『何勝手に人の男に手ぇ出してんだ、テメェ!』
赤い機体に黒猫のエンブレムが掲げられたアーキバス・カスタム……ヒルダが声を上げながら俺を援護しに飛んできたのだ
「ヒルダ!ロザリーの方はいいのか!?」
『その本人からのご指名だよ!』
奇襲とも言える攻撃に完璧に虚を付かれたイルマは、先程からうるさい程、聞こえた声を潜めビームシールドでヒルダの攻撃を耐え忍んでいるようだった
『…………………アキト、その女は誰かな?あぁ…わかった。アキトを誑かす魔女だね?魔女を殺さなければ、私達は幸せになれない………殺さなきゃ!』
否、激しい殺意を口にも身体にも漂わせながら〈フライトモード〉のアーキバスを追いかけ始めたのだ
「アイツ一人で抑えられるほど、テオドーラは甘くない。直ぐにエレノールを落して援護に行くぞ」
「オーケー…ってアイツ、アタシの事狙い過ぎだろ?……後で格納庫裏に来いよ、アキト」
「………了解した」
女運がないと言うか全体的に幸運値が低い俺は案の定、ヒルダに要らぬ誤解を与えてしまい、この戦場が殺意と嫉妬がぶつかり合う領域に変化してしまった
「邪魔しないでアキト!そいつを殺せない!」
「殺させるつもりはない」
エイレーネの狙いが完璧にアーキバスへと向いており、いくら改造を施したアーキバスとは言え基本スペックが従来のパラメイルを凌駕するラグナメイルに一対一で勝負を挑む事は死に繋がる
アーキバスの背後を取り、ビームライフルを構えるエイレーネに突撃をし、攻撃の邪魔をする。あわよくばと思っていたが、そう問屋は降ろさず、エイレーネは、大きく回避行動をとり、直撃も掠る事もせずに余裕を持って避けた
流石にラグナメイルでもブラック・サレナの突撃を無碍に受けて無傷ではいられない
しかし、大きく回避した隙を付いてヒルダが弾丸を撃ち込むが、ビームシールドに阻まれ決定的なダメージを与える事が出来ない
「このままじゃ埒があかないか……」
『だったら、その重み脱げよ!それ着ていたら銃を使えねぇんだろ!』
パラメイルに標準装備された機関銃ではダメージは通らない、ヒルダの専用武装である可変斬突槍「パトロクロス」ならダメージを与えられると思うが、そう安々と近接を許してはくれない
ヒルダの言う通り、高機動ユニットをパージすればブラック・サレナの攻撃手段が増えてヒルダが接近するチャンスを作る事が出来るかもしれないが………後遺症で震える手では精密射撃を行う事は出来ない
下手したらフレンドリーファイアをしてしまう可能性を拭えないのであれば、ハンドガンは使わない方が良い
正直、八方ふさがりであるが………手が無いと言う訳ではない!
「ヒルダ、ブラック・サレナに乗れ。仕掛けるぞ」
「あぁん?…わかった」
10m級の大きさを誇るブラック・サレナの背にアーキバスを乗せる
重量が増えて速度も機動も悪くなったが問題ない
「乗ったけど…どうすんだ?」
「エレノールに奇襲を仕掛ける」
「はぁ!?……アキト、『奇襲』って意味わかってんのか?」
「無論だ。ヒルダはエイレーネに一撃入れる事だけを考えてくれ」
「………わかった、アンタを信じるよ」
険しい顔をしていたヒルダは、ふっと笑みを浮かべ全てを俺に託してくれた
……女が男を頼ってくれたのだ、答えなくては男ではない!
旋回し、まっすぐエイレーネ目掛けて突撃する
エイレーネはビームライフルの標準をブラック・サレナに乗るアーキバスに定めた
このままでは、簡単に撃ち落とされてしまう。ヒルダもその事を理解しいるためモニターに映る彼女の顔は険しくなっていった
そしてエイレーネがビームライフルを撃ち出した瞬間――――――――――
「jump」
「「ッ!?」」
――――ブラック・サレナは跳躍した
突然、目の前にエイレーネの後姿が映し出され反射的に『パトロクロス』を振るうヒルダ
いきなり姿を消したと思えば背後から襲いかかる衝撃に眼を剥くイマル
エイレーネの損傷は軽微なモノだが、与えた衝撃は計り知れないだろう
状況の理解ができないイマルは再び俺達に向い、ビームライフルを構え発泡しようとするが、次の瞬間には姿を消し代わりに構えていたビームライフルが『パトロクロス』によって破壊されている
ビームライフルが駄目なら大剣を振ろうと腕を動かせば、腕を破壊し、相手にとっては悪夢でしかない状況を俺とヒルダは作り出したのだ
「……やるじゃないか?」
「へっ!上に乗るのは得意でね……ほら、もう一丁行くよ!」
「あぁ」
やっている事は至って簡単………次元跳躍による奇襲
次元跳躍を戦闘で使用し、敵の死角または意識していない場所へ超短距離跳躍を繰り返すと言うモノ
今までは、戦闘中に明確な短距離跳躍のイメージを組む事が出来なく『只のブラック・サレナ』では戦闘に次元跳躍を使用する事は出来ないでいた。しかし、『高機動ユニット』を装着したブラック・サレナであれば『高機動ユニット』のサポートもあり超短距離跳躍が使用可能となった。
だが、次元跳躍ばかりに気を取られてしまい、跳躍後に攻撃を仕掛けるまで気が回らなくなってしまったので戦闘では使用しないでいたが……役割を分担すれば可能になる
攻撃をヒルダに任せ、俺は次元跳躍に集中する
いきなり風景が変わる次元跳躍にヒルダも最初は戸惑っていたが、持ち前の応用力、なにより相性の良さから不可能だと思っていた【
「なんで、なんで、なんで!なんでアキトが魔女と一緒にいるのよ!アキトの、耳も口も目も……私のモノだ!誰にもやらない!誰にも渡さない!全部全部、私のモノッ」
いつ如何なる場所から攻撃を仕掛けられるか予想の出来ないエレノールはビームシールドを張り攻撃に備える事しか出来なく、右腕を…両足を…翼を…悉く破壊されていく
「俺は貴様のモノではない。俺の意思は俺だけのモノだ!」
『ッ!?』
最後は、俺自身が〆の弾丸となり、エレノールに突撃した
ブラック・サレナはエイレーネの腹部に突き刺さり、アイカメラの光が失った事を確認するとゆっくりと離れていく
「……止めを刺さないのか?」
「エレノールは、戦闘不能。行くぞ」
「お、おい!ったく!」
落下していくエイレーネに背を向けて俺達は、ロザリーの元へと飛んで行った
付き纏われていた
逆に悲しみの感情が湧き立ち、涙が零れ落ちた
「……消したと思っていたが、まだくすぶっていたとは、な」
この涙は、心の奥底に眠るもう一人の俺が流した涙であったのかもしれない