クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~   作:誤字脱字

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6月入って結構、急スピードで執筆して来たので少し休憩します

休憩と言っても何か月も空けるのではなく、一週間に一度ぐらいのペースに落ちます

理由は、思考だけが先走ってしまい上手く物語を纏められていないと感じたので一回、頭の中をクリアにしていこうかな?と思ったからです

最終話まであと少しですが、ご迷惑をおかけします


第二十七話 天使達の帰還

「アンジュがいる場所は、ここだ」

「ここは……」

 

案内され向かった先は、タスクが拠点としていた孤島

皮肉にも探索していた領域内にアンジュが潜伏していた結果となり、二度手間になってしまったが、タスクのパラメイルは巧妙に隠されており、上空から見つけ出すのは不可能であったと言っておこう……決して俺の探索技術が低いわけではない

 

若干、アンジュを見つけられなかった事をショックに思いながらもタスクがキャンプに使用していた洞窟の前にブラック・サレナを着地させタスクと荻野目を下ろした

 

「アンジュリーゼ様は…いらっしゃらないですね?」

「そうだね…もしかしてもう〈アウローラ〉が迎えに来たのかな?」

「いや、それは無い」

 

洞窟の中にアンジュの存在は無く、ベッドの上に〈ダイアモンドローズ騎士団〉の上着だけが、投げられていたのでアンジュは既にこの孤島を離れたと考える二人に俺は否と答えをつげた

 

「〈アウローラ〉がアンジュを回収していれば俺に連絡が入る。それに……まだランプが暖かい。まだこの島にアンジュはいるはずだ」

 

俺の言葉を聞いたタスクは、机の上に置いてあった銃を手に持ち洞窟の外へと走り出した

 

「何処へ行く」

「アンジュを探してくる!」

「あっ!なら私もッ!」

 

走りながら答えるタスクを見送りながら、俺は、タスクの後に続こうとする荻野目を手で制した

 

「あ、あれ?アキトさん?」

「貴様は行くな……今のアンジュが一番欲しいているモノを考えろ」

 

タスク達には伝えていなかったが、アイツが持って行った銃には引き金に手を掛けた痕跡があった。……察するに最愛の人達を失ったアンジュは、悲しみから自殺を図ろうとしていた事になる

自殺しようとまで、精神的に追い詰められていたアンジュを救い出せるのは騎士であり、最愛の人でもあるアイツしかいない

 

「貴様が迎えにいってもアンジュの心の傷は完全には治らん。……タスクしか出来ない事だ」

 

アンジュの筆頭侍女と名乗る彼女の事だから何か食い掛かってくると思ったが、すんなりと俺の言葉に頷くと竈に火を灯し始めた

 

「……なにをしている」

「私に出来る事をします。私は……お帰りになられるアンジュリーゼ様とタスクさんの為にお料理を準備してお待ちしております!」

 

彼女もアンジュを迎えに行きたいと思っているのに、彼女はその感情を押さえてアンジュの幸せを第一に考え、迎えに行くのではなく迎える事を選んだと言う訳か……

 

「……俺は、貴様を見誤っていた様だ」

「はい?」

「なんでもない……俺も何か協力しよう」

「では、お願いがあります!食材調達を手伝ってください!」

「ふ、任せろ」

 

久しぶりの狩りに心を躍らせながら俺は、森の中に入っていくのであった

――――――――――そして後悔した、容易に手伝うと言うのではなかったと

 

「タスク!はぁ…はぁ…!たすくぅ~~!」

「アンジュ!っく!あんじゅ~!」

「糞がッ!声を押さえやがれ!」

 

静寂とした夜の森に、虫の鳴き声とアンジュの鳴き声、獣の荒い息とタスクの荒い息…………そして俺の声を殺した怒声が響き渡るのであった

 

 

 

クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~

 

二十七話 天使達の帰還

 

 

アンジュとタスクの情事を強制的に聞かされ集中力が飛んでいってしまった俺は、狩りなど出来る筈も無く手ぶらで荻野目の場所に戻るとブラック・サレナから4人分の非常食を取り出し仮眠を取る事にした………勿論、防音仕様のブラック・サレナの中で

 

タスクの治療の為、夜通しで看病をしていた身で機動兵器の中で睡眠をするといった酷な事を身体に与えた結果………寝過ごす事になってしまった

 

情事を終えた二人に何気なく合流し、食事にありつけようとしていた俺は、急ぎ足でキャンプ地である洞窟へと向かったが、既に時は遅く四人前あった筈の食事は無くなり荻野目とアンジュが後片付けをいっていた

 

飯抜きと言う事実を叩きつけられた俺は、荻野目にせめて珈琲だけでも入れて貰おうと声を掛け、椅子に腰を下ろした

 

「………久しぶりだな、アンジュ」

「あなた……モモカ!私にもちょうだい」

「かしこまりました~」

 

煙管に火を入れて珈琲が出来上がるまで時間を潰そうとした俺の向かいに、アンジュは荻野目と一緒に朝食の片づけをしていた手を止めて荻野目に珈琲を催促し椅子に腰を下ろした

 

「……なんだ」

「……その、ありがとう。聞いたわよ?タスク、それにモモカを助けてくれたって」

「………っ!」

 

俺は、まだ夢でも見ているのか?

あのアンジュがお礼の言葉を口にするなんて…しかも妙にしおらしい態度でいるものだから、一瞬言葉を無くし危うく口に咥えた煙管を落としそうになってしまった

衝撃的な出来事を処理する為にも今一度煙管に火を灯し煙を肺一杯に含み、アンジュの顔を直視しないよう視線をズラしながら返事を返した

 

「気にするな。俺も新薬の実験が出来た……ギブ&テイクだ」

「でも、貴方がタスクを救ってくれた事に変わりはないわ………本当にありがとう」

 

……駄目だ、視線から外していると言うのに鳥肌が止まらない!

それどころか、冷や汗まで出る始末、正直いつも通りのアンジュの方が扱いやすく、今のアンジュはイルマと同じで俺の精神をゴリゴリに削っていった

 

このままでは、やられる!と思った俺は、アンジュにとっての禁忌であり俺の禁忌でもある話をすることにした

 

「随分と大人しいな?……抱かれると一皮むけるのか?」

「……え?……ッ!な、なななななっ!?」

「今度からは声をもっと抑えるのだな?夜の森は良く声が響く………おかげで死にたくなった」

「ッ!もう、その話はいいでしょ!……まさか、ヒルダが変わったのって貴方が原因なの!?」

 

顔を真っ赤に染めながら吼えるアンジュに、いつもらしさが戻ったと一安心し、昨日の仕返しとばかりに俺は、余裕を持って答える事にした

 

「貴様がそう思うならそうなのではないか?……経験談で」

「あ、アンタねぇ!いいわよ!そこまで言うのであれば確かめてあげるわよ!…ついでにアンタが私とタスクがエッチしている所を覗いていたって言ってやるんだから!」

 

ちょっと待て―――――――――――ぇッ!!!???

聞き捨てならない言葉に俺の背筋は氷ついた

事実無根のデマを流されては俺の身が持たない!主にヒルダからの圧力が……

慌てて代弁を言う俺にアンジュは「頑張ってね?応援はしないけど」と我関せずのスタイルを取って来ている。クソッ!からかい過ぎたか!

 

最後の望みであり同じ男、更には弟分でもあるタスクに助けを求めようと視線を向けるが………眼を逸らされた

 

「……らしくなったじゃないか、アンジュ」

「そうね、そこは感謝しておくわ」

「話は終わったかな?アンジュ、それとアキトも来てくれ」

 

帰還後に待ち受ける苦難に、うな垂れながらも俺を見捨てたタスクに呼ばれアンジュと共に後をついて行く

タスクに案内された場所は、キャンプ地である洞窟の反対側の森、そこには大きな倉庫があり、中にはピンク色のパラメイルが鎮座していた

 

「……使えるのか?」

「前から整備はしていたから問題ないよ。でも最後の調整を手伝って欲しいんだ」

「………俺は、ヴィルキスの甲冑師ではない」

「そんな事言わないでさ。まずは、ヴィルキスを回収しないと」

「やむを得ない、か……」

 

小言を口にしながらも作業に取り掛かろうパラメイルに近づこうとしたが、アンジュの手によって制止させられた

 

「その必要はないわ。……おいで!ヴィルキス」

 

アンジュが左手を掲げると、指輪が発光し目の前に行方不明となっていたヴィルキスが空間を侵食し姿を現した

 

「……単独跳躍、か。」

 

ブラック・サレナも俺と言う『媒体』を座標に単独跳躍は出来る

そしてヴィルキスも指輪を『媒体』にアンジュの元へと飛んできたと言う訳か……

ヴィルキス……エンブリヲからの解放と訣別という願いが込められた機体は、アンジュの剣となって奴を切り裂くだろう

 

「みなさ~ん!コーヒーを淹れ終わりましたよ~!」

 

呑気な荻野目の声に俺達は、クスリと笑いを零すと彼女の淹れてくれた珈琲を頂く為に彼女の元へと向かったのであった

 

 

 

一晩を過ごした孤島を後にした俺達は、〈アウローラ〉に帰投中、次元融合の一角を目の辺りにした。大気は歪み、海は荒れ…今にも世界が崩壊しそうな異常現象が引き起こっていたのだ

 

その事を危機に感じた俺達は帰投するスピードを速め、真っ直ぐにと〈アウローラ〉と合流を果たした

アンジュの帰投に湧く〈アウローラ〉のクルー達

それは、エンブリヲに対抗する剣が戻った事に対する喜びではなく、『アンジュ』と言う個人が帰還した喜びの方が強いように感じられた

じゃじゃ馬で世間知らずで我が儘なお姫様だが、クルーのみんなから信頼される程のカリスマ性はあったと言うこと………流石は元ミスルギ皇国の第一皇女だと納得をせざるおえない

 

そしてなにより、彼女と彼女の騎士、侍女を連れて来た最大の功労者である俺はと言うと、現在進行形で司令官殿に追い詰められていた……納得できない

 

「アンジュとタスクを発見したのはいいけどさ……なんで連絡を寄越さないのかねぇ〈黒百合の悪魔〉さん?」

「……すまん」

 

確かに連絡もせずに2日も空けてしまったのは、悪いと反省はするが、追い詰め方が、酷過ぎませんか?もう物理的に壁に追い詰められているし……リアル壁ドンだよ、俺の方が身長が高いからヒルダは俺を見上げる形で詰め寄ってきている奇妙な図だけど

しかし……可笑しいな?上目使いで見られているのにドキドキしない。むしろ、冷や汗しかでないのだが?

 

「ヒルダさん、今はその位にしてあげてください……時間も限られていますし」

「サラ子!?どうしてここに!?」

 

俺の窮地に救いの手をさし伸べたのは、同盟相手であり協力者であり同じ研究者であるサラマンディーネであった。彼女の登場にアンジュは眼を見開いて驚きを露わにするが……サラマンディーネよ、もう一手くれ、俺はまだ解放されていない

 

「何も知らないのはあなただけですよ、アンジュ」

 

しかし、助けの手は既に伸ばされないようだ

アンジュを見つけるやいなや歓喜の表情を浮かべるサラマンディーネを見ると、もはや俺の事など視界に入っていないようだ

 

「共に戦う時が来たのですね」

「私はあの変態男に世界を好き勝手にされたくないだけよ」

「そうですね……それとリザーディア」

「……え?」

 

アンジュが再び驚きの声をあげるが、今回は俺も驚いた

サラマンディーネの影から出て来た人物は、アチラの世界に居た筈の俺の世話役だったのだから

 

「ドラ姫様が連れて来たんだよ、なんでもアンジュに謝りたい奴がいるって」

 

ヒルダが俺を解放しながら教えてくれるが、シンギュラーが開いた痕跡が無かった。と言うより彼女だけ?いや、なんとか彼女だけでも送れたと考えたらいいだろう。外の様子を窺うにドラゴンの大群は無理だが、人一人が通れるぐらいのシンギュラーは感知されずに開ける事が出来ると言う事か

 

考えをやめ再び、彼女達に視線を向けると涙を浮かべながら謝るリィザと、許しの言葉と共闘の言葉をかけるアンジュが見れ取れて俺は笑みを浮かべる事が出来た

 

「和解したか………『恩義』を心に置く彼女はやっと解放された」

「なんでアキトが、あのドラ女の事を知っているのか問い詰めたい所だけど……アンタに会いたいって言う奴がいるよ」

「……俺に?」

 

段々と不機嫌になっていくヒルダに、また拘束されるのではないかと萎縮しながら返事を返したが、俺に会いたい人物などいない筈だ

俺の知り合いは、ここ〈アウローラ〉に全員いる。……部外者では武器商人や情報屋と言った裏稼業の繋がりもあったが、この場では無縁の関係……いったい誰が…

 

「エルシャさ」

「……彼女か」

 

ヒルダの口から出た人物に驚きはしなかった。遅かれ早かれ彼女は此方側へと戻ってくる事は判っていたからな

 

「彼女は今どこに?」

「……独房さ」

「行って来る」

 

俺は、彼女の元に向うべく杖を突き始めたのだが、ヒルダに後ろから死刑勧告を言い渡されることになった………

 

「……アンタ、エンブリヲん所で副隊長していたんだって?エルシャから聞いた………後で覚悟しておけよ」

「………了解した」

 

昨日から続く不幸に俺は人知れず涙を流すのであった

 

 

「久しいな、エルシャ」

「ふく、たいちょう……」

 

薄暗い独房の中、エルシャは一点をずっと見つめて俺が入って来た事も気付かずに俯いていたが、俺が言葉を掛けた事によってゆっくりと顔を上げて口を開いた

 

「投降して来たと言う事は少なくとも此方とは戦う気はないと考えていいのだな?」

「……はい」

「そうか」

 

エルシャに抵抗の意思がない事を確認した俺は、この場を立ち去る事も出来たのだが、エルシャが俺に面会を求めたと言っていたのでその場に止まり彼女が口を開くのを待った

互いに口を閉ざしたままであったエルシャの口が迷いながらも開いて、言った――――

 

「副隊長……私はどうしたらいいのでしょうか」

 

――――自分は如何するべきかと

 

「副隊長が言う様にエンブリヲさんは、私を利用するだけの為にあの子達を……でも、あの子達がいなくなって、私……」

 

あの子達とは〈エンブリヲ幼稚園〉の子供達だとすれば………死んだのか、あの子供たち

 

「あの子達は私の生きがいだった。それが居なくなった今……私はどうすれば……うぅ…」

 

言葉の間にも喘ぎ、瞳に涙を溜めていたエルシャは、もう我慢できないとばかりに涙を流し始めた

エルシャの『首輪』は無くなり自由となった。しかし、それと同時に彼女の生きがい……生きる意味さえ無くなってしまった事になる

 

……やはりエルシャは強い

生きる意味などエンブリヲに与えて貰えば良い、子供ではなくエンブリヲ自身に依存すれば生きがいを与えてくれると言うのに、自分で考えエンブリヲの元から去り、でも仲間達とは戦いたくない為、〈アウローラ〉に投降した

 

一見、調子の良い女だと思う奴がいるかもしれないが、彼女は自身の心に従いここまでやって来たのだ。なれば、この後も自分の心に従えば良い事だ

 

「戦え……貴様も心の中ではそれが一番だとわかっているのだろう。だから投降した。ならば心に従い戦え」

 

『首輪』のせいで見えていなかった世界が見える様になった今、エンブリヲがやろうとしている危険性を感じる事が出来るようになった今、強い心を持つエルシャの中には既に答えは出ていた………後はそれを肯定してあげる人物が欲しかっただけ

 

「……厳しい、すね?」

「生憎不器用なモノでな。正直に貴様に信用ならない……エンブリヲが作り出す世界にガキ共を連れて行くと勧誘を受けた時、貴様は裏切りそうだからな」

 

だが、いくら彼女が心で戦う事を選ぼうとも周りの人間は彼女を受けとめてくれるかは、定かではない。また同じ『首輪』をエンブリヲに掛けられて敵になるかもしれないのだ

 

「副隊長、いえ〈黒百合の悪魔〉さん………数多の命を奪ってきた貴方ならわかる筈です。………人は蘇らない」

 

俺の問に彼女は、俺が独房に来て初めて俺の眼を見て言葉を投げて来た

 

「いくらエンブリヲさんが、あの子達を蘇らせようとあの子達は蘇らない。……私が満足するだけの形しか残らないんです。……現実を知ってしまった私には、あの子達の為にも後ろを振り返る事はしていけないのです」

 

後を振り返らない……即ち、過去との離別

苦しみながらも前に進む事を選んだようだな?

 

「そうか……ならば子共達と築いた想いを胸に抱き進み続けろ、彼女らを忘れない為にもこれからの世代の子達の為にも彼女らの想いを背負い戦え……それがあの場にいた11人の子供たちへの手向けになる」

「ッ!……副隊長」

「……俺も少なからずとも、子供達と歩んだ身。俺も一緒に背負ってやる」

「……はい」

「司令には俺から行っておく。……今のうちに泣いておけ」

「あ、りがとう、ございます」

 

話は終わりと言い残し、俺は杖を突き、その場を後にしたのであった

 

 

 

 

アンジュを連れて元総司令であるジルに会いに行っていたヒルダと合流した俺は、案の定、アルゼナルで別れた後の経緯をヒルダに根掘り葉掘り聞かれる事になり、内容が内容なだけに共同スペースではなく、ヒルダの個室へと場所を移した

……昨日から食べ物を口にしていない俺としては、そろそろちゃんと食事がしたいと主張したがご親切な事にヒルダは、食事を持って私室へと入って来た

 

「それで~?エンブリヲの所を逃げだす際にドジって四肢を爆破、そん時に助けたドラ女に誘導されてドラ姫様ん所で休養してたって訳か?」

「概ね合っている」

「ふ~ん」

 

何をしていたとかは省いたが、大体の経緯を話した俺は、ヒルダの持ってきてくれた食事に手を付け始めた

ペースト状の食事がアルゼナルや〈アウローラ〉では一般的だったようでスプーンで掬って食べるスタイルが基本だとスプーンを渡されたが………いかんせん、痛みが無くとも手の痺れは残っている

必要以上に食器にスプーンをぶつけカチャカチャと音を経ててしまっている

 

「それで……さっきから震えている手はなんだよ?」

 

当然の様に、ヒルダに指摘されてしまい俺は苦笑い浮かべるしかなかった

 

「後遺症だ。失っていたモノを無理やりくっ付けたのだ。……安い代価だ」

「大丈夫なのかよ、それ?」

「戦闘に支障はない、それに完治の見込みはある。………しかし、こうも冷えると、な?」

 

〈アウローラ〉は基本的に海中を移動する潜水艦、いくらか空調を調整してあるとは言え、敏感になっている俺の手首は冷えで痺れ出して来ている

案の上、震える手で食事を摂取する事は困難であり、両手でスプーンを支えながらゆっくりとスプーンを口に運んで行くしかなかった

 

「あぁ~!!イライラする!ちょっと貸してみろ!」

 

それを見かねたヒルダは、俺の手からスプーンを奪うと食事を器用に掬い上げ、俺の口元へと持ってきた

 

「ほら、口あけな」

「こ、これは…」

「早くしろよな!」

 

ヒルダの行動に硬直してしまう。

まさか、この年で『あーん』たるものを経験するとは思わなかったのだ

誰も見ていないとは言え『あーん』は流石に恥ずかしいと拒みはしたが、強引にスプーンを押しつけられたら最早されるがままに口を開くしかなさそうだ

 

湧き上がってくる羞恥に耐えながら口を開き、スプーンを入れてもらう

正直、食事の味などわからなかったが、何故だか暖かいモノを感じた

 

「……うまい」

「ゲロメシでよく言うよ……ほら」

 

俺の返事に笑いながら答えたヒルダは、俺の食事を手伝う事を決めたようで次にブロッコリーを掬い上げ俺の口元に運んだ。

こうなっては梃子でも意見を変える事はないと理解した俺は、襲い掛かる羞恥心に耐えながらも食事を進めるのであった

 

「感謝する、ヒルダ」

「水臭ぇ事言ってんじゃねぇよ。……お互い様だよ」

「………お互い様?」

 

食事を終え、礼を述べた俺に笑いながら答えたヒルダは、徐に上着を脱ぎだすと触れるだけの軽いキスを交わし俺をベッドへと押し倒してきた

 

「……急だな?」

「急じゃねぇよ………12年前からずっと冷え続けているんだ……暖めてくれよ、アキト」

「もちろんだ」

 

俺はヒルダの要望に応え熱い口付を交わし、肌を合わせるのであった

 




なんかぐだぐただ

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