クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~   作:誤字脱字

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改めて記載しておきます

このssのヒロインはヒルダであると!
「ん?」と思われると思いますが、最後まで読んで頂ければ理解して頂けると思います


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第二十二話 傀儡

〇月〇日 晴れ

 

どうやら神様と言う(たぐい)は馬鹿の集まりの様だ

一方的にだが、死闘を繰りひろげた相手を自身の近衛騎士に任命するなど正気を疑う

一応俺に対する首輪のつもりなのか、四肢に小型の爆弾を取り付けられたが、その他の制限はない

『思うように行動し思う様に実行しろ』……そう告げて(エンブリヲ)は、俺の肩を叩きながら地位と権限を与えた

………上等だ、俺はこの機会を気に奴のカラクリを暴こうと決意した………奴を殺す為なら奴の騎士にでも犬にでもなってやろうじゃないか!

 

追伸:エンブリヲから拷問の時に没収されていたキセルを返して貰った……暗殺は明日から試みる事にする

 

〇月△日 晴れ

 

朝食に毒を入れた。現在の医療では『マナ』を持ってしても解毒の出来ない猛毒を……

しかし(エンブリヲ)は、涼しい顔をしながら朝食を楽しんでいた………毒殺は失敗に終わる

昼飯のパンの中に小型爆弾を入れた。現在の科学力で再現できる最高の小型爆弾を……

威力はコンクリートブロックを破壊する程度のモノだが体内で爆発すれば一溜りもないだろう…………奴は大きな音と共に血吹雪を上げて弾け散った。……が、血煙が止んだ頃には元通りの姿で綺麗になった部屋で紅茶を楽しんでいた………内部破壊も失敗に終わる

『諦めたまえ』と肩を叩きながら諭されたが、テロリストにも意地と言うモノがある!……今日だけで21回の殺人を試みるが、悉く失敗に終わる。

気づいた時には、元の姿に戻っている事からエンブリヲはホログラムなのではないかと考え行動してみる事にする

 

追伸:昨日の戦闘で聞いた声の持ち主であるクリスと言う名の少女と出会った。腕が良いと褒めたが俺がブラック・サレナの操縦者だとわかると唾を吐かれた………俺が何をしたって言うのだ

〇月□日 曇り

 

奴はホログラムでは無かった。そもそもホログラムは飲食したモノは消せない。そんな初歩的な事を(エンブリヲ)が夜の営みをしているのを見るまで気づかなかったとは昨日の俺はどうにかしていた。………しかし、エンブリヲの趣味がわからない。なんなのだ、あの変身ヒーローの様な服装は?相手も相手だ、あの年で魔法少女とかやめてくれ

今日は、朝から嫌なモノを見てしまった為、暗殺する気になれず大人しくエンブリヲに付いて行き各国を洗脳しに行った。奴だけでも十分に公務を行えると言うのに態々俺を連れて行った理由は、『黒百合の悪魔』と対面した代表達の驚く顔を見てみたいと言う幼稚な理由だった。………俺はナマハゲや死神の類なのか?案の定、何人かは、失神していた

昨日からストレスが溜まるばかりで、胃が痛くなってきた俺を愉快に思ってかエンブリヲは俺を昼食に誘ってきた。

 

なぜ、奴と一緒に喰わなければいけないのか意味が解らなかったが、奴に手を握られながら誘導されては断りきれない。だが、あの時、無理やり払い退けてでも拒否すればよかったと激しく後悔した。

扉を開けた先には裸エプロンで料理を作っている女がいたのだ。そして理解した………奴は俺の胃を殺しに掛っているのだと

 

『座りたまえ、ターニャの料理は美味しいぞ?』『エンブリヲ様!お一人じゃないんですか!他の人もいるなんて……恥ずかしいです』『私の美しいターニャを自慢したかったのさ』『エンブリヲ様……』とイチャイチャするエンブリヲの額に鉛玉を撃ち込み部屋を後にした………決して羨んだ訳ではない事はここに記載しておく

 

追伸:帰宅中に『お兄ちゃん、大丈夫?』と子供から心配された……思わず飴をあげてしまったが、保護者の女性に『知らない人から物を貰ってはいけません』と注意されている光景を見て……正しい事なのだが、心の中で泣いた

 

〇月×日

今日は、明日正式に受託される近衛騎士団と顔合わせをした。………上司が魔法少女だった。……心が折れそう。しかも、団員は俺以外全て女で大半が顔見知りだった

上司が…と言うか隊長が魔法少女、団員は裸エプロンと唾吐き女、保護者Aそして栗毛の長髪の女。……隊長と唾吐き女、裸エプロンからは殺意が込められた視線を送られた。

………俺の味方は保護者、いやエルシャとイルマだけの様だ

その様子を微笑みながら見ていたエンブリヲに殺意を沸くが、後で殺せば良い事……効率性を求め基本的にはスリーマンセルで行動する事を提案し隊長と副隊長である俺を軸に編成した。

俺のチームはエルシャとイルマになったのはエンブリヲの所に来て初めて感じた喜びであったが、近衛騎士団の名前が『ダイアモンドローズ騎士団』か『ホワイト・リリウム騎士団』の二択になった時、俺は全力で『ダイアモンドローズ騎士団』を推薦した

ネーミングセンスが無い!とか、乙女か!と色々と突っ込みたかったが、ブラック・サレナが泣いている気がしてそれ頃ではなかった

おかげで隊長と少し仲良くなれた気がした………他の団員からは同族を見る視線を送られていたが……

 

追伸:エルシャはエンブリヲの屋敷の一角で幼稚園の園長をしているらしい。昨日出会った子供には世話になったので今度遊びに行くと告げたが、『ロリコンは近づかないでください』と答えられた……俺のライフはゼロになった

 

追伸2:俺をロリコンだとデマを流したのは、エンブリヲだと判明。速攻、首を折ってやったが、次の瞬間には『素直になりたまえ、私は好きだよ』と肩を叩かれた

 

〇月☆日 晴れ

 

今日は、『ダイアモンドローズ騎士団』初任務が言い渡される日である。と同時に団員に専用パラメイルが配られるらしい。任務事態は気乗りしないが、此方の戦力が増えるとなれば話は別である。俺はエンブリヲ様の騎士として―――

 

「副隊長、エンブリヲさんがお呼びです」

「了解した。先に行ってくれ」

 

規則正しくノックされた後に、イルマの声が聞こえてくる

エンブリヲの呼び出し、か……十中八九、要件は新戦力に関してだろうな?

俺にはブラック・サレナがあるし、俺には然程関係のない話だ。少しぐらい遅れてもいいだろう………日記も中途半端だしな?

 

「いえ、ここで待っています」

「……わかった、30秒待ってろ」

 

規則を準じ己が指名を完遂する部下の忠実さにタメ息がこぼれてしまうが、いつもでもイルマを扉の前で待たせておく訳にも行かないので、俺は趣味の悪い上着を羽織り、日記を閉じる

 

さぁ、今日もエンブリヲの騎士として己が指名を果してくるか!

 

 

 

――――――――――――ズキリ

 

 

クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~

 

第二十二話 傀儡

 

 

イルマと他愛も無い話をしながら進む事、数十分……

エンブリヲの私設である格納庫に付いた俺達の目の前には既に他の団員たちは揃っており、俺達が到着したのに気づくやいなや私語をやめて姿勢を正した

 

「やぁ、来てくれたかね」

「貴様が呼び出したのだろ?……こんな所に呼びやがって」

「アキト!口の利き方を直しなさい!」

 

本当にこの国のトップなのか疑いたくなるような軽い口調で俺に話しかけてくるエンブリヲに対して俺はいつも通りキザらない言葉で返すとサリアが眉間に皺を寄せて俺に忠告してくる

 

このやり取りも最早、恒例となってしまっているのかエンブリヲの後ろに控える三人からも俺の隣にいるイルマからも呆れた視線を送られてくる

 

「構わないよ、サリア」

 

そして、俺とサリアのやり取りを止めるのはいつだってエンブリヲであり、エンブリヲが止めると決まってサリアは「しかし…」とこぼした後に押し止まるのだ

 

おふざけもほどほどにし、隊長であるサリアの隣に並んだ俺は、首を動かしエンブリヲに先を促した

 

「さて、みな知っての通り君たちは今日から正式に私の騎士として共に歩んでいく事になる。新世界を共に創造する仲間として」

 

――――――――ズキリ

 

エンブリヲが口にした『仲間』と言う言葉に軽く頭が痛むが、常務に支障はでないだろう

最近、増えてきた変頭痛を押さえる為にこの後、薬局にでも通うと思いながらもエンブリヲの話に耳を傾けた

 

「そんな同志であり愛すべき君たちにささやかではあるが、私から贈り物がある。見たまえ」

 

芝居掛った仕草にはイケメンにしか許されない魅力を感じてしまう。実際にエンブリヲにお熱なサリアは奴の行動に酔いしれているのだろうなと思っていたが、そうでもなかったようだ

 

「ヴィルキス……」

 

エンブリヲの後ろに隠されていた機体が披露された瞬間、サリアは眼を開くほどに驚きを露わにしていた。……悪戯が成功したとばかりにドヤ顔を決めるエンブリヲに多少だが、いや、大いに苛立ちを覚えてしまった

 

「ふふ、左からEM-CBX002 クレオパトラ 、EM-CBX003レイジア、EM-CBX004 テオドーラ、 EM-CBX005 ヴィクトリア、EM-CBX006 エイレーネだ。……全ての機体が、君たちの乗っていたパラメイルより優れた性能を有しているラグナメイルと呼ばれるモノさ」

 

そう告げると俺とサリアに機体のスペックが記入されているファイルを手渡してきた

後で確認するのもいいが、折角なのでこの場で軽く流れ読みしてみるが……確かにパラメイルより優れた性能を有していると一目瞭然であった。……が、俺が最も気になった事は―――

 

「全ての名が女王を由来するとか……女好きにも程があるだろう」

「ん?なにかね?」

「………気にするな」

 

小言が聞こえてきたようで此方に鋭い視線を送ってくるエンブリヲの視線から逃れる様にバイザーを深くかぶり直した

 

「……まぁいい、では最初の任務を言い渡そう。隊長、副隊長はミーティング後に各機体の専属パイロットを通達。その後、サリア班は、ラグナメイルに乗り込み〈アウローラ〉の捜索、アキト班は反乱分子に備えて待機してもらいたい」

「「「「「YES Your Majesty」」」」」

「………了解した」

 

声を揃えて答える団員達を横目に収めながらラグナメイルと呼ばれる各機体のスペックを確認していくが、どうやら既にパイロットに合わせたチューイングは終わっているようで後方支援を担当するエルシャにはレイジア、接近戦を得意とするイルマにはエイネーレと言った所か………

 

サリアに視線を送ると彼女も理解していた様で、ターニャとクリスに担当するラグナメイルを通達していた

 

「……わかっていると思うが、エルシャがレイジア、イルマがエイレーネだ。………以前搭乗していたパラメイルとは大きくスペックが違う。機体に振り回されないよう精進しろ」

「「YES ナイトリーダー!!」」

「……その呼び方はアイツだけで十分だ」

 

思い出すのは初めて「ナイトリーダー」と呼ばれて頬を染めながら喜ぶ魔法少女の笑み

17にもなって魔法少女やら厨二臭い名称に憧れると痛すぎだろう?

我らが〈ダイアモンドローズ騎士団〉の隊長が厨二乙女なのは仕方がないが、コッチまで飛び火してもらっては困る

 

「あ、あの…ナイト、いえ、副隊長」

「……なんだ」

 

うちの隊長が末期だと諦めていた時、ラグナメイルの調整を終えたイルマが俺に話しかけてきた

 

「副隊長はエンブリヲ様から何も受け取っていないのですか?」

 

確かに部隊の副隊長を任せられている俺にラグナメイルが任せられないのは不思議だろうが、それには理由があると自身で理解している

 

「いつ裏切るかもしれない奴に戦力を与える程、奴は馬鹿でもないさ。……それに俺にはコイツがいる」

 

そう言いながら見上げたのは俺の相棒であり、漆黒の機体ブラック・サレナ。いつも通りの面持ちで此方を……

 

 

―――――――――ズキリッ

 

いつもと変わって俺を哀れに思うかのような視線を送っていた

機械に表情など生れないのは理解しているし、子供でもわかる事だがどういても今はこの表現がピッタリとハマっている感じがした

 

普段と違う雰囲気を纏うブラック・サレナを不思議に思っているとイルマと同じく調整を終えたエルシャが会話に加わってきた

 

「ブラック・サレナ、でしたよね?……パラメイルとラグナメイルとも違う機体。副隊長は何処でその機体を貰ったんですか?」

「悪いが企業「彼の養母が作ったさの」……エンブリヲ」

 

サリア達にラグナメイルの操縦を指南していた筈のエンブリヲが何故か此方に存在しており、俺達の輪に加わってきた

 

「この機体はツキヨ・ミルキーウェイの遺作。……義息子のアキトが引き継いでいても可笑しくはないだろう」

 

―――――――――ズキリッ

 

「すべて筒抜けか……あぁ、独自の発展はしているが、コイツは養母が〈アルゼナル〉から持ち出したヴィルキスのデータを元に作った機体。言わばヴィルキスはコイツの母親だ」

 

ヴィルキスの子供だと言われヴィルキスと似た形状をするラグナメイルとブラック・サレナを見比べる二人に苦笑しながらも俺は、先程から疼いていた技術者としての血を押さえられなくエンブリヲに笑みを浮かべながら近づいて行った

 

「コイツの事も教えたのだ。今度は俺の質問に答えて貰うぞ?」

「ふむ、よかろう……悪いのだが、エルシャとイルマは席を外してくれないかい?」

「「YES Your Majesty」」

 

エンブリヲに敬礼してその場を離れる二人を見送りながらも俺は、懐から煙管を取り出し火を入れた

 

「それで……ラグナメイルってなんだ?」

 

大きく吸い込んだ煙をゆっくり吐き出し、エンブリヲに問いかける

正直、技術屋としてエンブリヲは人の一歩も二歩も先に進む存在であり、彼が生み出す技術は俺にとって最高の玩具へとなっている

 

「君も薄々気づいているとは思うが、ラグナメイルとはパラメイルの原型となった最初に私が作り出した機動兵器だよ」

「……やはり、な」

 

鶏が先か卵が先か……そんな発想をしていたが、スペックがパラメイルより優れているラグナメイルが原型となっていたのは容易に容易に想像できた

 

「そもそもパラメイルとは、ドラゴンを殲滅する為に私がアルゼナルにデータを流し作らせたデッドコピー、量産機なのだよ。コスト面でもラグナメイルを量産するには骨がいる。そんな高価なモノを害虫に与えるのは忍びないと言うモノだよ」

「だろうな……」

 

―――――――――ズキリッ

 

………なぜ、いま俺はエンブリヲに同意したんだ?

 

「………ヴィルキスもラグナメイルと言う訳か」

 

先の疑問より好奇心の方が勝ってしまい、知識力を満たしたいとばかりに自身の仮説をエンブリヲに問いかけた

 

「その通り、ヴィルキス……いや、ザ・プリミティブは古の民に強奪された八番目の機体なのだよ」

「そうか……」

 

徐にラグナメイルを見上げる

エンブリヲの技術がふんだんと使われた機動兵器……ばらしてみたいと思うのは技術屋の性と言うモノか?先程からラグナメイルをばらしたくてウズウズとしてしまっている

 

そんな俺の様子を面白く思ったのか、エンブリヲは笑みを浮かべながら俺に告げて来た

 

「アンジュを拘束したあかつきには、ザ・プリミティブを君の玩具にするかい?」

「それも一興だな……」

 

―――――――――ズキリッ

 

 

………俺の答えにブラック・サレナが泣いている様に感じた

 

 

 

エンブリヲにラグナメイルに使われた技術について聞き出し終わり、格納庫を後にした俺は、俺の班員がよく集まる場所へと足を向けていた

 

エンブリヲの屋敷の一角に存在する『エンブリヲ幼稚園』。

奴が完全出資の幼稚園だが、園長はエンブリヲではなくエルシャと言う変わった体制をとっている幼稚園

 

エルシャは勿論だが、俺やイルマもよく此処に訪れては子供たちと遊んでおり、用も無いのに此処へ足が行ってしまう程、馴染んでしまっている

案の上、お目当ての人物は、既に指定席となったベンチに座りながらエルシャと子供達の絵を描いていた

 

「……ほれ」

「あ、…ありがとうございます、副隊長」

「エルシャは……いらないな」

 

持ってきた缶珈琲をイルマに渡し、エルシャにも渡そうとしたが、聖母の様な笑みを浮かべながら子供たちと遊んでいるエルシャを見ると呼び止めるのは気の毒だと思い、エルシャにあげる予定だった缶珈琲のタブを開け一口飲むとイルマの隣に腰を下ろした

 

「あ、あの…副隊長」

 

スケッチする手を止めていたイルマはタイミングを見計らった様に俺に話しかけてきた

 

「副隊長は、エンブリヲ様を裏切るのですか?」

「……君のそういう所は好感が持てる」

「ふざけないでください!」

 

いきなりのブラック過ぎる質問に危うく口に含んだ珈琲を吐き出しそうになったが、副隊長の意地として耐えたが、その反応がイケなかったらしい。……怒涛の如く、俺に喰ってかかって来た

 

「エンブリヲ様は、私の様なノーマでも自由に過ごせる世界を創ろうと、差別のない平和な世界を創ろうとしているお方なのですよ!それなのにッ!冗談でも口にしないでください!」

「………冗談ではない」

「な、なにを!」

「エンブリヲが作った世界などに興味などない。そんな世界になってしまったら俺の欲しいモノは手に入らないからな」

 

俺が欲しいモノ、それは――――――ヒ―――――――イ―――――――――ル―――――――ル―――――――――――ダ―――――――――――――――――マ―――――――――――――――――――――――――――――……ズキリ

 

「ッ!なぜ、エンブリヲ様が描く未来を理解しようとしないのですか!副隊長が「君がエンブリヲしか見ない世界になんの興味がある?」ッ!」

 

俺は突如、湧き上がった気持ちを抑えきれずにイルマの手を掴み身を寄せていた

 

「君がエンブリヲに魅入いっている事は承知している。しかし心にある気持ちだけは奴に向けないで欲しい」

「そ、それって……」

「俺は君に魅入られているって事だ」

「ッ!」

 

イルマの綺麗な瞳が大きく、開いた。それだけではない

緊張しているのか、照れているのかわからないが頬に赤みを帯びてきるのが見て取れた

 

……………ここは攻める時か!

片手をイルマの顎に添え、彼女の顔が見える様に軽く上げる。イルマの唇は軽く濡れており魔性の魅力を感じ……俺は―――

 

「あらあら、どうしましたか、お二人さん?」

「ッ!………失礼します」

 

周りが見えていなかった俺達は、エルシャが近づいて来ている事に気づかなず、いきなり話しかけられた事によりビクリと体を固まらせた。その隙を付かれてイルマに逃げられてしまった

 

なんとも情けない状況であるが、感情に流されずに済んだ事に安堵しながらもエルシャにやるせない視線を送る

 

「………なぁ、エルシャ」

「はい」

「わかっていて声かけてきただろう?」

「時と場所を考えてくだされば私は特に口にだしませんわ。…それに些か強引だったと感じましたので」

 

あ―…確かにこの場所でする事ではなかったな

それに強引だったか……行けると思っていたのは俺だけで第三者から見れば急すぎたことだったのか……

 

「女心っていうのは複雑だ」

「精進がたりませんよ、副隊長?よかったら私が教鞭してさしあげますが?」

「……あぁ、よろしく頼む」

「はい!」

 

自分が仕出かした事を反省し頭を掻きながらエルシャの後を続くのであった

 

 

―――――――――ズキリッ

 

 

 

 

〇月Д日 晴れ

 

……どうも俺は好意を抱く相手との距離の取り方が苦手らしい

昨日の一件以来、イルマに距離を置かれてしまった。………仕事は恙なくしてくれるが、これ以外は口も聴いてくれない。それどころか、昨日エルシャとお茶をしている所を見られたのか、今日の演習で何度かエレノーネにロックオンを掛けられた。

ラグナメイルの主武装はビームライフル。いくら装甲の厚いブラック・サレナであっても直撃すれば大きなダメージを負ってしまう。今はまだ撃たれてはいないがいつ撃たれるかと思うと冷や冷やする

いつもでもこのままではいけない、俺は知らず知らずにエンブリヲの部屋の扉を叩き、彼に相談していた『部下との関係に…イルマとの関係に悩んでいる』と…

すると彼は微笑みながら『私に任せたまえ。イルマを君の部屋へと呼び出しておいた。……夜には来るだろう。二人でよく話し合うがいいさ。……優しくしてあげるのだよ』と肩を叩いてくれた

…………なぜか心が安らいだ自分がいる。本当に何故なんだろう?

いや今はそれ頃じゃない……イルマがもう直ぐやってくる。彼女に俺の気持ちを伝えなくては………

 

キセルに火を入れ気持ちを落ち着かせるために大きく煙を吸い込んだ

不思議な事にイルマは煙管の臭いが苦手だと言っていたのにどうしてもやめる気が起きなかった……遠い昔にこの臭いが好きだと言ってくれた人がいる様な気がしてやめる気になれないでいたのだ

 

しかし、本当に彼女の事を思うのなら喫煙も考えなくてはいけないかもしれない

 

「副隊長、起きてますか?」

「あぁ、少し待て……………いいぞ、入れ」

 

喫煙する機会は思ったより早く訪れたようだ

最後の喫煙になるかもしれないと言うのに半ばで火を消し、窓を開けて煙と臭いを外に逃がした後、イルマを部屋の中に招き入れた

 

招き入れられたイルマはと言うと、腕を抱きながら想うかない表情を浮かべながら俺を見つめていたが、互いに話を切り出せないこの状況に痺れを切らしたのか俺から視線を外して話しかけていた

 

「エンブリヲ様から副隊長が私と話がしたいと教えられました。……お話とは?」

「……昨日の話だ」

「………」

 

淡々に返事をしてしまい、再び言葉を詰まらせてしまう

いや、話を切り出してくれたのはイルマだ……今度は俺から前に進まなければならない

 

「最初に言っておく……お前にはエンブリヲではなく俺だけを見ていて欲しい。……それが自分勝手なことであり、俺のお前を拘束してしまう事だとわかっている。だが……俺は君が愛しているんだ」

 

――――――ズキリッ!

 

今までにない程の大きな頭痛に襲われるが、今は大切な時。………表情に出ない様に必死に堪えながらイルマの答えを待つ

 

「エンブリヲ様に……言われました。本当に裏切っているのは副隊長ではなく私だと……」

 

イルマは部屋に供えられた机を指でなぞりながら、ゆっくりと語り出す

 

「なんで副隊長がエンブリヲ様を裏切ると口にする度に心が締め付けられるようになるのか……途轍もなく不安になるのか……自分なりに見つめ返してみろと言っていました」

 

おぼろげに窓から顔を覗かせる月を見るイルマの横顔はとても美しく思えた

 

「エンブリヲ様も世界の事も全て真っ白にして、考えて考えて考え抜いて……私の心に何が残るんだろうって?そしたら……最後に残っていたのは貴方でした。……裏切っていたのは私の方でした。……私の本当の気持ちを裏切って強がって……でも貴方がエンブリヲ様を裏切ってココから、いいえ、私の前からいなくなるのを恐れて強く突っかかっていたんだなぁって気づいたんです」

 

外に視線を送っていた瞳は、今度は俺の方を真っ直ぐにと見つめてきた

 

「都合の良い事を言っているのは十分に承知です!でも……私はずっと貴方を見ていました。私も貴方をッ!」

 

声を震わせ顔に涙を浮かべるイルマを俺は優しく抱き寄せた

 

「……副隊長」

「……名前で呼べ」

「ッ!……はい、アキト」

 

互いに見つめ合いながら段々と顔が近づいて行き……俺達は唇を合わせるだけの軽いキスをした

 

―――――――――――ズキリッ!!

 

一旦、唇を放しイルマの顔を見つめる。……彼女の瞳はもっと俺を欲しているかのように潤んでいた

 

―――――――――ズキリッ!!!

 

俺は自身の欲望と彼女の期待に答える為に、イルマの綺麗で小さい唇めがけ自身の唇をあてがい抱きしめあった。そして、彼女の口内を蹂躙をする為に自身の舌を彼女の口内に入れようと瞬間―――――――――――気が飛ぶような頭痛と……

 

――――――……待ってるよ、アキト

 

零れ落ちそうになる涙を必死に堪えながら俺に笑みを浮かべる最愛の人の顔が浮かんだ

 

「ッ!」

「ど、どうしたのアキト?」

 

俺はイルマを突き飛ばし、頭を抱え込んだ

 

俺は何をしていたんだ?俺は誰を愛そうとしていたんだ?俺は何故ヒルダを裏切るような真似をしてしまったのだ!

 

激しい湧き上がる罪悪感と後悔、途方もない怒りが渦巻く中、俺は思い出した。全ての元凶である奴が言っていた言葉を……

 

―――『君の精神には、何故か遠隔のアクセスが利かないようだが……所詮は私の手で生まれたホムンクルスの子。直接触れていればアクセスなど動作もない』

 

何時触れられた?いや、奴は俺が此方側に来てから毎日の様に俺の一部に触れていた。アクセスされる機会は驚くほどに多かった。………だが、、その前に何故エンブリヲは、こんな茶番を俺に仕掛けたんだ?

まるで俺の気持ちを弄び、様子を窺うような……―――

 

―――人間の底力と言うモノが窺えてとても愉快だったさ。……もっと見てみたいと思うほど

 

まさか……俺と言う人間を観察するが為に、俺の精神を……俺の感情を……踏み荒らしたと言う訳かぁ!!!

 

握りしめた拳に爪が、突き刺さり血が垂れてベットに染みわたる

これは俺の油断が生み出した結果、俺が隙を見せたばかりにヒルダを裏切るばかりか、奴の手の平で踊らされる結果になってしまったのだ

 

薄々と不思議には思っていた、日に日に奴に対して湧く殺意が無くなっていく事や大切な何かを忘れていく喪失感。なにより俺と言う個人に蓋を閉じられていく危機感を……!

 

「アキト…血、出てるよ?貸して」

 

エンブリヲから受けた屈辱とヒルダに対する罪悪感に打ち振るえていると、いまだに頬を赤く染めたイルマが、激しく抱き合った際にずれた服装を直そうともせずに俺の手を取り……血を舐めとってきたのだ

 

「ッ!」

「ッ!」

 

思わず俺は、イルマを払い退けた

口が手に接直していた為、彼女を叩く感じになってしまったが、今の俺はそんな事を気にしてはいられなかった。まだ、ほのかに残る彼女の唾液の温かさが俺の苛立ちを加速させたのだ

 

もう呪縛は解けた筈なのに……少しでも気を許せば元に戻りそうな俺がいてどうしようもなく悔しかった

 

「なにするのアキト?あっ!そういうのが好きなんだ。大丈夫、私は「……せろ」えっ?」

「ここから失せろッ!」

「え、えっ!?ちょ、ちょっとアキト!」

 

納得がいかないのか、いまだに部屋に残ろうとするイルマを部屋から追い出し鍵を掛ける

扉越しに俺を呼ぶ声と扉を叩く音が聞こえるが、いま彼女と会ってはいけないのだ

 

彼女を受け止めようとする自分とヒルダを愛している自分が激しく攻め合い、小さな波(イルマ)でもそのバランスを崩しかねないのだから……

 

暫くして彼女の声も扉を叩く音も聞こえなくなり、小さな波(イルマ)が過ぎて行った事を理解した俺は、引き出しからナイフを取り出した

 

「この屈辱は必ず返す!……俺の心に手を出した罪……必ず償って貰うぞッ!」

 

俺はエンブリヲによって産み付けられた偽りの感情を殺す為にも、勢いよくナイフを振りかぶり自身の太腿に突き刺した

 

「ッッッ!アァァァァァァァッ!エンブリィィヲォォォッォッ!!!」

 

俺は初めて自分の気持ちを殺した

それが他人によって産み付けられたモノだとしても、その痛みは身を割くほどの痛みであり、………血涙(なみだ)を流した

 




はい、綺麗なアキトさんでしたw

アニメで市民を洗脳するエンブリヲに衝撃を受けたので書きたくなった話です
エンブリヲの洗脳は強力ですが、モモカの様に打ち勝つ事も出来るのでこのような終わり方になっています

綺麗なアキトさんのイメージは、テロリストになっていなくヒルダと共に成長したらこのような感じになのではないか?と考えて書きました

次話からはテロリストのアキトさんが帰ってきます

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