クロスアンジュのゲームを参考にメイルライダーのその後を考えていました
言い訳ですね、すみません
『……ブラック……サレナ』
通信越しにタスクが驚きを露わにしている声が聞こえるが、アイツなら直ぐに自分のなすべき事を理解し動き出すだろう
案の上、サブモニターにタスクを映し出すと黒いパラメイルに乗り込み〈アルゼナル〉へと侵入する姿が見て取れた
「敵の狙いはアンジュであり、ジルの狙いもアンジュである。……あの痛姫の事だ、エンブリヲにもジルにも付かず自身の道を進む。ならばアンジュの事を思う奴にアンジュを託した方がアイツの為になる、か………些か頼りないのが玉に瑕だがな?」
俺の参戦に驚き口を開けて呆けるタスクの顔を思い出すと笑みがこぼれてしまうが、今この場に置いて一番頼りになるのはタスクであり、戦局を変える事が出来るのはアンジュである
2人が合流する事により、エンブリヲの企みもジルの計画にも変化を与えられると根拠もなく感じてしまうのは俺も甘くなったと言う事みたいだな
「……アンジュはタスクに任せる。ならば俺のする事はただ一つ。ヒルダの居場所を守るのみだ」
スラスターを吹かせ、俺は黒空へと突撃するのであった
◆
クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~
第二十二話 黒と赤の輪廻
◆
「ピレスロイド……リィザの言う通り、装甲は薄い」
もとより、大質量・大推力であるブラック・サレナが
ピレスロイドも反撃として「銃撃モード」を起動させ遠距離からブラック・サレナを狙い撃ってくるが
全くもって相手にも立たない。実弾を装備した機体にとってブラック・サレナは鬼門でしかなかった。……絶対的な有利性がある戦場。しかし―――
「雑魚だとは言え、数が多い。……弾もエネルギーも限界がある。引き際を見誤る事は避けなければ」
ピレスロイドの数が予想を上回り、膨大な数が空を黒く染めていた
例え雑魚だとは言え数に勝るピレスロイドと持久戦を行うのには些か無理がある
何か策は無いか考えようとした時、一通の通信がブラック・サレナへと届いた
『お兄っ!』
「ッ!」
通信先が〈アルゼナル〉からのモノだったので一瞬身構えてしまったが、直ぐに通信から聞こえてくる声が身内のモノだとわかり安堵の息を零した
「……メイか。怪我はないか?」
『うん!私は大丈夫!でも滑走路を塞がれてパラメイルが出撃出来ないんだ!外からなんとかして!』
「了解した」
操縦桿を傾けて滑走路へ向かう。ブラック・サレナの後に無数のピレスロイドが追い掛けてくるが、いまはたいした障害ではない
進路を塞ぐピレスロイドを
非人道的な殺戮を繰り返し、滑走路に群がるピレスロイドを一掃し進路を確保した瞬間、待っていたとばかりに純白のパラメイルが飛び出してきたのだ
飛び出るや否やフライトモードからアサルトモードへと変形し手に待った機関銃をばら撒きピレスロイドを破壊していく
……些か流れ弾が此方にも当っているが対したダメージも無く、俺の障害にはなっていないので放置していたが、いきなり俺に向って直進し大剣を振り下げて来たのは無視できない!
弾き飛ばされた事により隙が生まれると思ったが、すぐさま機関銃を此方に向け牽制する辺り、パイロットとしての腕は上がっている事が感じられた
「……いくら正体不明機だからと言っていきなり襲いかかってくるとは元皇女の名が泣くぞ?」
『ッ!アンタは!?』
しかし、このまま襲い掛かられてもエネルギーと時間の無駄なのでヴィルキスのパイロット――アンジュに通信を入れる
メイ達には俺の正体が知れ渡っていた事から失念していたが、俺の存在は上層部しか知れ渡っていなく、特別な位置付けされるアンジュとは言え俺の事は知らされていない、か…
通信相手であるアンジュはブラック・サレナに俺が乗っているとわかると、俺達の周りを飛ぶピレスロイドを撃ち落としながら俺に食い掛かってきた
『なんでアンタが捕獲対象の機体に乗っているのよ!それに何で上半身裸なのよ!露出狂なの?ってアンタ酷い怪我じゃない!』
「……うるさい奴だ、今は悠長にしている暇はない。周囲のピレスロイドを一掃する……手を貸せ」
『ッ!後でちゃんと教えなさいよ!』
互いに背合わせピレスロイドを撃ち落としていく。後ろを気にしなくて良い分、正確に撃ち落としていく事が出来るがブラック・サレナの売りである高機動戦が出来ないのはデメリットでしかない
ブラック・サレナの特性を生かす為にも、ここの防衛はアンジュに任せ俺は本元を叩きに行った方が吉だ
「アンジュ、ここを任せるぞ」
『はぁ!?なによそれ!』
「ピレスロイドを操作している母艦を叩く。そうすればピレスロイドの勢いは収まる筈だ」
『ぴ、ピレス、ピレス……母艦を叩けばこの歯車は止まるのね!?』
「恐らく」
『わかった…わ!』
「ッ!」
声を張り上げたと思えばアンジュはいきなりアサルトモードからフライトモードへ変形し母艦の方へ向かい一直線に飛んで行ってしまった。慌てて俺はアンジュに通信を飛ばす
「話を聞いていたのか、アンジュ!」
『聞いていたわよ?…母艦を叩けばコイツ等は止まるのでしょ?私もアッチに用があるし私が行って来てあげる!アンタの不細工な機体よりヴィルキスの方が断然速いし!』
「なっ!?」
よりによってブラック・サレナを不細工だと!?漆黒の重装甲!巨大なスラスター!巨体に反比例した細いテールバインダー!どこに不細工な要素があると言うのだ!って違う!
くっそ!こんな事になるんならアンジュにブラック・サレナの性能を伝えとけばよかった!
背を任せ慣れる相手が居なくなった為、再び
だが、アンジュの加勢のおかげもあって滑走路からは見た事のある水色のパラメイルが飛び出し、続いて赤、黄、黄緑と次々に出撃していった。
各パラメイルは、一色を覗きピレスロイドを迎撃する為、アサルトモードに変形すると機関銃をばら撒き始めた………そう一色を覗いて
「ッ!貴様!何処へ行く!」
『待ちなさい、アンジュ!』
「聞いているのか!」
『アルゼナルへ戻りなさい!アンジュ!』
「糞がッ!」
先頭で出撃した水色のパラメイルは、ピレスロイドには眼もくれずに一直線にヴィルキスを追いかけていったのだ
援軍が来て楽になると思ったが、とんだ間違いだ
苛立ちながらもピレスロイドを追撃する3機のパラメイルを確認する
赤色は装甲と出力を強化し、高い機動性を特化、黄色は背部に大型の連装砲を装備している事から中距離からの火力支援機体、黄緑色の機体は……ノーカスタム機だが、二機を支え援護する臨機対応機と言った所か……ならば!
「三機のパラメイルに告ぐ」
『この機体……それにその声は!?』『え、え?なんだよアイツ!?』『黒い…パラメイル?』
俺の呼びかけに三機は動きを止めて此方にそれぞれの形で応答した
「これよりツーマンセルで〈アルゼナル〉を防衛する。赤い機体は俺と空を、残りの二人は〈アルゼナル〉に接近、侵入した敵を撃て」
『『なっ!?』』
『……』
黄色いパラメイルと組んでも支障はないが、今求められているのは防衛であり攻勢に出る事ではない。ならば、赤いパラメイルと組んで空を蹂躙し撃ちこぼしを黄色に一掃、周囲を飛び回るピレスロイドを黄緑で叩くのがベストだ
「そこの赤い機体、聞こえているか?今は時間がなッ!」
確認も込めてパラメイル達に合図を送るが、固まる二機に対し赤い機体だけはゆっくりと俺に近づき可変斬突槍「パトロクロス」を振り下げて来た
頭部を狙った軌道であったが、速度も遅く、相手も牽制の意味を込めて攻撃してきたのだろう。回避した後に追撃を仕掛ける仕草は見られなかった
「…いきなりの申し出で疑うのは承知だ『てめぇ!よくも置いて行きやがったな!』なっ!?」
聞き覚えのある罵声と共にパラメイルのハッチが開くと中から見覚えのある赤い髪を持った女性が俺に銃を向けて来たのだ
「ヒルダッ!?なぜパラメイルに乗っている!」
「はっ!自分の居場所を壊されて私は黙っていられるかよ!アンタこそ何で賞金首の機体に乗ってんだよ!」
アンジュも言っていたが〈メイルライダー〉にとってブラック・サレナは、賞金が掛けられた捕獲対象と言う事か……じゃなくて!
「……コイツは博士の遺産だ。俺が乗っていて何の問題もない。それよりヒルダ……いまさら安全な所に逃げろと言っても聞かないんだろ?……俺と来い」
「聞きたい事が増えちまったが……まぁいい、今は目の前の事を片付けてからだ。ロザリー!クリス!下は任せたよ!」
『『ヒルダ!?』』
ヒルダは、ハッチを閉めると直ぐに急上昇しビスレロイドへと飛び込んで行った
続くように俺もブラック・サレナのスラスターを吹かし急上昇、直ぐにヒルダのパラメイルに追いつき背を合わせながら揃ってバロールし、鉛玉を打ち込んでいく
アンジュと組んだ時とは違い、機体のコンセプトが似ている分、連携は取りやすい
だが、これは機体の相性だけではなさそうだ
『へぇ~、意外に早い。それに腕もいいじゃないか!アキト?』
「当たり前だ…コイツとは11年の付き合いになるからな?もはや体の一部だ」
『……あの時も私を守ってくれてたんだね』
「何か言ったか、ヒルダ?」
『なんでもない!………飛ばすよ!アキト!』
「あぁ!」
時にヒルダの死角から迫るピレスロイドを撃ち落とし、逆に俺に迫るピレスロイドをヒルダが叩き落としながらも空を黒に染める歯車を撃ち落としていく
赤と黒の機体が通った後には爆発の光が帯となって出来上がり、黒空を引き裂いていった
サブモニターには〈アルゼナル〉へ向かうピレスロイドに対して奮闘する二機を映し出し何か不祥事があれば直ぐに対処できるようにしとくが………黄色のパラメイルは兎も角、黄緑のパラメイルに関しては心配しなくて済みそうだ
予想外に上手く立ち回る黄緑のパラメイルは的確に黄色のパラメイルを援護し、隙を付いて突撃してくるピレスロイドにもいち早く気づき撃ち落としていた
声質から自分に自信が持てない少女だと思っていたが、守るべきモノや成す事を明確に理解していると力を発揮するタイプの様だった………こういうタイプの奴は、敵にするにはやり難い相手であり、味方にすれば心強い奴だ
「あの黄緑のパラメイル……」
『あぁん?クリスの事か?』
「あぁ…いい腕をしている。部隊に一人でもアイツの様な動きが出来る奴がいれば心強いだろう。技量の低さを動きや視野でカバーするタイプは中々いないからな?」
『………』
「だが、ああいったタイプは、一度思い込むと抜け出すのにッ!?なにをするヒルダ!」
『わりぃ、手が滑った』
俺が黄緑のパラメイルに付いて語っていたら何故かヒルダに撃たれた
……絶対に狙って撃ったよな?
『……他の女を私の前で語るなよな』
「すまん!爆発音で上手く聞こえない!もう一度言ってくれ!」
『うるせぇ!アキトの馬鹿!』
「……意味が解らん」
いきなり怒り出し八つ当たりするかのように、ビスレロイドを撃ち落としていくヒルダは、近づきにくいものがある。……実際に先程までは全くなかったと言うのにヒルダが怒りだしてからフレンドリーファイヤが目立ってきた
いくらブラック・サレナにダメージが無いとは言え、フレンドリーファイヤは頂けない
ヒルダに落ち着くように声を掛けようとした時――――――
『全艦隊へ告げる!攻撃を中止し、撤退せよぉ!これは命令である!』
――――なんとも情けない声で撤退の通信が通達された
『な、なんだ?情けねぇ声しやがって』
「撤退命令のようだが……鬼気迫る様に感じるな?」
通信元である艦隊を映し出して見れば、赤く染まったヴィルキスが敵の大将が乗っていると思われる艦隊に機関銃を突き付けていた
「……どうやらアンジュがやってくれたようだな?」
『あの痛姫め……やってくれるよ』
周りを動き回っていたピレスロイドも動きを止め、その場に留まっている事からまだ撤退の準備が整っていないのが理解できるが、総大将が撤退と言ったんだ。……戦闘は終わるだろう
『……〈アルゼナル〉を守れたんだよな?って言ってもボロボロだけどな』
「そのようだ。だが、この撤退は一時的なモノであり、ミスルギ皇国以外の国が攻めて来るかもしれん。……〈アルゼナル〉の防衛機能の復興、もしくは新しい拠点が必要になるだろう」
『それなら指令が〈アウローラ〉に帰投しろってさ』
「〈アウローラ〉?」
『指令たちが昔使っていた潜水艦だとよ』
「
『あぁん?どういう意味だよ』
「敵の総大将に関した名前だ『♪~♪~♪~』ッ!?」
機体を翻し帰投するヒルダに続こうとした瞬間、聞き覚えのある声で破滅の歌が奏でられた
急ぎ歌のする方へとモニターを向けるとヴィルキスに似た黒紫の機体が両肩に目視できる程の高エネルギーを纏いながらアンジュがトドメを刺そうとしていた艦隊へ向けて構えていたのだ
『あ、あれって……アンジュの…』
「ッ!各機ッ!散開!余波に飲み込まれるな!」
俺が叫ぶやいなや黒紫の両肩から破壊の光『収斂時空砲』が放たれた
視界は『収斂時空砲』が引き起こした眩い光で塞がれ、海を蒸発させる音と大地を削る音が聴覚を刺激した
眩い光は直ぐに収まり、回復した視力が最初に捉えたのは海に大穴を開け、一つの艦隊に対しては過剰な惨事を作り出した黒紫の機体のみであった
「……エンブリヲッ!」
俺は、惨事を起こした張本人であり、破壊の歌を歌った人物――エンブリヲが乗っていると確信が持てる機体にハンドガンの標準を合わせ奇襲を掛けようとスラスターに火を灯そうとしたが、俺よりも早くエンブリヲに攻撃を仕掛ける者がいた
『アンジュ!奴から離れるんだ!アイツは危険だ!』
『タスクッ!』
ヴィルキスの騎士であり、アンジュの騎士となった青年が後ろに少女を乗せながらアンジュへと向かっていたのだ
「ッ!あの馬鹿め!」
牽制のつもりで、装備された機関銃を発砲させているのだろうが今は悪手でしかない!
タスクのソレは、機動力も攻撃力も一般的なパラメイルに及ばない出来損ない、ただえさえ重りを載せた今、真正面から突っ込むのは危険すぎる
案の上、敵もタスクの存在に気づき再び両肩にエネルギーをタメ始めた
キーとなる『歌』が奏でられていない分、威力は落ちている様に見えるがチャージ速度が速まっている!タスクのパラメイルでは威力を落してあるとは言え生死にかかわる攻撃に違いは無い!
タスクの盾となるべく踏む出そうとするが、またもや俺の先を行く者が現れた
『タスク!?だ、ダメェェェェェ!』
白い甲冑へと戻ったヴィルキスがタスクの盾となる為に奴の射線上に割り込んできたのだ
しかし、タイミング悪く『収斂時空砲』は放たれアンジュ諸共タスクを海の藻屑に変えようとしたが―――――――――ヴィルキスに変化が起こった
白い甲冑を青く染め、タスク諸共どこかへと飛んだのだ
目標を無くした『収斂時空砲』は海を削るだけに終わった
この場においてアンジュ達に何が起こったか理解できたのは俺と奴のみ
まだ戦域にいる大半のモノ達は何が起きたのか理解出来なく、膨大なエネルギーに呑まれ爆発するはずだった場所をただ眺めるしか出来ないでいた
「……次元跳躍」
『そのようだね?』
「ッ!」
『些かつまらない幕引きになってしまったが仕方がない。君にも話したい事もある………アレクトラ、いるのだろ?』
まだ硬直状態にある状況においてエンブリヲの声は周囲全体へと響き渡った
通信回線も拡張機も使わずになぜ広範囲に響き渡るのか何故でしかないが、所詮エンブリヲの事だ。なんかしらのネタがあるのだろう
辺りがまた静寂に戻ろうとした時、ブラック・サレナが海中から発せられる通信を感じモニターへと映し出した
『……―ゼナル総司令官ジルだ、要件を聞こう』
映し出されたのは黒い髪を一つに纏めた義手の女性アレクトラ――――ジル総司令
戦力がエンブリヲ側に傾いている事から表情は険しかった
『答えてくれて嬉しいよ、アレクトラ?』
『私達は貴様と話す気はない。用件だけを言え』
『冷たいね……此方の要件はただ一つ。〈ノーマ〉の諸君よ、投降し私の元へと来てほしい』
『ッ!』
画面越しでも〈アウローラ〉内に動揺が広がっているのがわかる
先程まで総力戦とも言える戦闘を繰り広げ、袖を別けた状況だったと言うのに未だに降れと勧告を促してきたのだから当たり前だろう
『ご覧の通り、この作戦を指揮していたジュリオ君は戦死した。そもそも私は、〈ノーマ〉の虐殺など望んでいなかったのだよ。……私もジュリオ君を過剰評価していたようだ、しかし私が彼に頼んだばかりにこのような事を起してしまった事は言い逃れの出来ない事実……心から謝罪したい』
画面に映る奴は、深く頭を下げた。第三者から見ればエンブリヲの取った行動は
そもそもジル司令官を名指しで指名し投降を促す理由はあったのか?
代表がyesと言えば全員が付いてくると思ったからか?旧知の仲だから声をかけた?
それとも………
『私の謝罪を受け入れ投降してくれるのであれば命の保証も生活の保障、地位の保障まで約束しよう。……どうか戦闘を止めて私の元へと戻って来てくれないだろうか、アレクトラ?』
………ッ!やられた!
頭を上げ地下室で何度も見せられた奴の笑みを見た瞬間、エンブリヲの狙いに気づき、奴の術中に嵌まってしまった事に気づいてしまった
旧知の仲だから声を掛けたのには違いない!しかし、奴はジル司令官の性格を理解した上で、このタイミングで声を掛けて来たのだ!
『我々は貴様の口車には乗せられない…我々は貴様が与える物は受け取らない……我々は我々の道を進むだけだ!』
「糞が!」
『そうか…残念だ。全軍に告げる戦死したジュリオ一世に代わり私が指揮を執る。全軍……ノーマを拘束せよ』
『ッ!』
エンブリヲの指示が出された瞬間、宙を留まっていたピレスロイドが動き出し再び攻撃を開始した
エンブリヲは最初から〈ノーマ〉が投降する事など望んでいない!力で制圧し自身の手元に連れてくる事が望みだ!
建前上、悪役であるジュリオを討つ事によって正義を演じ、更には弱者に手を差しの出る事で自分の正当性を通した。だが、奴は素直に〈ノーマ〉が投降するのは味気ないとでも感じているのだろう。そこでジル司令官に声を掛け、彼女の性格を利用したのだ
過去にエンブリヲに煮え湯を飲まされたジル司令官が、奴に対して忠らなぬ思いを抱いている事を理解し、誘いを断るように優しく諭したのだ。………殺したいほど憎い相手から優しくされる程、腹ただしく、屈辱的な事はないからな
『きゃー!』
『クリスッ!』
それにエンブリヲが狙ったモノは戦闘に持っていく事だけではない
一度、切らしてしまった集中力は元に戻すのに時間がかかる。そしてそれは、視野の広いモノであればいきなり視野が狭まった為に隙になりやすい
案の上、クリスと言う女は、ピレスロイドに捕獲されまだ生き残っている艦隊へと送られていった
黄色のパラメイルが助け出そうとするが、ピレスロイドに阻まれ救出に行けないでいる。ヒルダも同じチームの仲間を連れられては行くまいと援護に向おうとするが同じくピレスロイドに阻まれてしまっていた
……………ここが引き際か
「…ヒルダ」
『っんだよ!今は手が放せねぇぞ!』
行く手を塞ぐピレスロイドを叩き落としながら此方に応答するヒルダ
声からは先程とは違った怒気が込められていた。
「冷静になれ、戦局は此方が不利だ。……俺が殿をする。この場は引いて体制を整えろ」
『んな!?』
眼を大きく広げ驚きを現すヒルダに更に声を掛ける
「状況を見誤るな。お前はここで捕まる運命ではない」
『だ、だけどクリスが!「ヒルダッ!」ッ!』
「エンブリヲはメイルライダーのパイロットを集めている。酷いようにはしないだろう。それに今捕まったら誰が彼女を助けるんだ?」
「………」
「〈アウローラ〉の戦力的にもパラメイル隊を指揮できる者がいた方が彼女を助けられる確率は上がる。……引き際を考えろ」
「…………」
「ヒルダ……」
いっこうに答えを出さないヒルダであったが、弱弱しく「嫌だ」と零れ始めた
「………嫌だよ、アキト。折角……折角、再会したって言うのにまた別れ離れになんだよ……私は、いつになったらアキトの隣にいれるんだよ。……ねぇ、アキト」
「…………」
……俺が思っていたよりヒルダは、俺を待ち望んでいたのかもしれない
12年も待たせてしまって、更には一方的な別れもしてしまった。幾度の別れで『離れる恐怖』に敏感になってしまったヒルダは、いまの状況で別れる事が今世の別れになってしまうかもしれないと感じてしまっているのかもしれない。だけど――――
「心配…するなとは言わない。だが、俺の隣にはヒルダしか考えられん。……俺達が共に歩む未来の為にも今は引いてくれ」
「………」
「なに、今度の再開はもっと速いさ。これ以上お前を悲しませたくないからな?……絶対に」
俺に背を向けたままであったヒルダのパラメイルは、弾薬が無くなった機関銃をピレスロイドにぶつけて誘爆させると振り返り全機へと通信を飛ばした
「………馬鹿。……全機!〈アウローラ〉が示したポイントまで撤退!捕まった仲間の為にも今は引くよ!邪魔する奴だけ落とし撤退!後ろを振り返んじゃないよ!」
『『yes ma'am!!!』』
擦れ違いざまにヒルダのパラメイルがブラック・サレナの肩を叩いた
「……待ってるよ、アキト」
「あぁ…直ぐに会いに行く」
短いやり取りであったが、俺達二人には大きな意味がある。いつまでも一途に待ち続けた女といつもでも一途に向かいに行った男の代わる事ない大切な思い……
駆逐形態からフライングモードに変形しこの場から去っていくヒルダを見届けながら俺は彼女を追跡する為に動き出したピレスロイドを撃ち落とした
それを気に今まで俺達のやり取りを見守っていたとでも言うのかピレスロイドは一斉に攻撃を再開し各機、メイルライダーの捕獲の為に動き出すがそれも全て撃ち落とす
スラスターに全開まで火を灯し高速移動しながらハンドガンでパラメイルを追跡するピレスロイドを撃ち落とし、空に留まるピレスロイドを
いまブラック・サレナが持てる全ての力を使って〈アウローラ〉の撤退までの時間を……ヒルダが逃げ切るまでの時間を稼ぐのであった
『ふむ……これはこれは……流石は黒百合の悪魔と呼ばれる最恐のテロリストだ。戦力差がこれほどまで付いていたと言うのに〈アウローラ〉には逃げられてしまったよ』
「光栄だ、とでも言えばいいのか?糞が………殺せ」
〈アウローラ〉が戦域を完全に離脱するまでの30分間、俺はピレスロイドを落とし続けた。弾切れになったのであれば
幾度もの戦闘にブラック・サレナの装甲はボロボロになり、終いには飛べなくなるまで戦闘を続けた結果……ブラック・サレナは海に浮かぶ鉄クズへと変わり果ててしまった
「黒百合の悪魔、か………ふふふ」
エンブリヲが例の機体の肩から俺を見下ろしてくるのが、気に喰わないが今の俺はエンブリヲに命を握られているといっても過言ではない。………今世最後の会話がヒルダではなくエンブリヲと言うのは気に喰わないが仕方がない
「……惨めに足掻いた
「いや、
「……なに?」
「『黒百合の悪魔』アキト・ミルキーウェイ……君を私の屋敷へと招待しようじゃないか。むろん、今度は実験動物ではなく一人の人間としてね?」
「なん、だと!?」
身体に侵食する冷たさはエンブリヲから感じる得体の知れない冷たさではなく、海水のモノであってほしいと思う程、衝撃的なものであった
クリスは死んでないよ!でもエンブリヲルートには行ってしまう……
なぜならエルシャ・サリア・クリスの中ではクリスが一番好きだから