そしてクロスアンジュ見逃した!?
ろ、録画は!………OTL
取りあえずヒルダの帰省は終了
後半部はなんかやっつけになっているようで内容が薄いです
それがスランプ……言い回しや言葉の使い方が上手くできていない様に感じます
人智の象徴である高層ビルが立ち並ぶ都市と正反対で見渡す限り田畑が広がった大地、コンクリートと言った人工物で整備された道ではなく大地がありのままで現れている茶色い道がまっすぐと伸びていた農道や小道
林檎の木に挟まれた小道にバイクを止めて、町から少し離れた森へと歩みを進めた。
幾年も人が通らなかったせいか、雑草や伸びきった木々が行く手を遮るが、数年前まで人が通っていた痕跡が残っており獣道として目的の場所へと続いている。木々を掻き分けながら獣道を踏み行く事に博士と共に暮らし、幼年期にヒルダと共に過ごした記憶の一片が蘇ってくる様であったが、茂みを抜けた先に佇む燃え崩れた廃墟を目にして俺には故郷が無い事を再確認した
「ただいま博士…ヒルダを連れて来たよ」
廃墟の隅に積まれた小山に俺はそっと手を合わせる
そう、今日この日に俺は捨てた筈の故郷へと帰ってきたのであった
◆
クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~
第十八話 決意
◆
「随分と変わっちまったな、ここは……」
「あぁ…」
俺に続くようにヒルダは、小山……博士が眠る墓に紅白の花と林檎を添えて手を合わした
燃え尽きた廃屋では想像するのは難しいが、博士と共に過ごした家は、細かい所まで細工され住み心地と利便性が会い合わさった2人で住むには立派過ぎるほどのログハウス
それが今では、焼き崩れて炭や木片しか残っていない
……あの雪の日に全てを失ったんだ
「花、ありがとうな。……博士も女だ、自分の寝床ぐらいは綺麗でありたいだろう」
「ふふ、博士の寝床って書類と怪しげな薬品、油まみれの機械が混雑していたと私は覚えているよ?」
「……否定できないな」
思い返せば博士の部屋には花や化粧品といった女の必需品は置いてなかったと思いだし肩を竦めて同意するしかなかった。
「でも、土産があるだけマシさ……俺なんか一度も供えをしたことがない」
「……アンタの親だろ?せめて花ぐらい添えろよ」
「根を植える訳でも無いのに供えたって枯れるか風で吹き飛ぶかのどちらか、労力の無駄さ。……博士ならそう言うと思う」
「はは、なんだよそれ?…でも博士だもんね」
科学者と言う職業柄なのだろう、時間の無駄や労力の無駄を嫌った彼女らしい言い分にヒルダは、口に手を添えて笑った。本当なら直接聞きたかったが、博士はもういない、会う事は出来ないと、この場で改めて理解しアキトに気づかれぬようにヒルダは眼に薄らと溜まった涙を拭き取り、立ち上がった
「私は、ママに会いに行くよ」
「……本当に行くのか?」
「あぁ、私はママを信じているから」
信じている、か……俺も7年前までは信じていたさ
自暴自棄になっていたおばさんが、新たな生命を宿す前までは………
「……ヒルダ」
「言うなって!……私だって薄々と気付いているんだから」
傷つく事実がわかっていると言うのに送り出すなんてどうにかしている。俺は傷ついたヒルダを見たくない!しかし、彼女は頑として帰える事を主張するばかり……いくら好き合っている間柄だとしても俺にはヒルダの行動を制限する権利も権限もない。だから、俺は彼女を送り出すしかないのだ
そして懸念している事はもう一つある。それは……
「……もし、だ。おばさんがヒルダを迎え入れてくれたとしたら……君は残るのか?」
万が一、あの女がヒルダの帰還を祝福し、また家族の一員として迎えるのであれば無理に俺に付いてくることはない。
折角、救い出したのに…と不満があるとは言わないが、ヒルダの幸せを第一に考えると危険と隣り合わせである俺に付いてくるよりはよっぽど安全だ
俺の表情でヒルダの心境が変わらない様に必死にポーカーフェイスを貫き通す……くそ、なんでバイザーを付けてこなかったんだ!
しかし、俺の決死の努力は無駄であった様で彼女には俺の表情は丸判りであった
「なに不安そうな顔をしているんだい。言っただろ?……私はアンタを待っているって」
「……だが、ここで待っている事も出来る」
今を尚、俺の事を待っていてくれると言ってくれる事を嬉しく思うが、待つ場所は俺の隣じゃなくても良い。むしろ、長年離れていた親と暮らす方がいいに決まっている
そう言葉で告げようとしたが、ヒルダは表情を一転させ不機嫌そうに俺に詰め寄ると襟元を掴み上げた
「~~ッ!じれったい!あんな事をしようとしていたのに口にしなくちゃわからねぇのかよ!」
「なっ!?未遂だ、ヤッてはいない!」
「ヤるって!…表現直接的過ぎるだろ!」
あの時は、場の雰囲気もあって俺とした事が少し情熱的になってしまったのは否定しないが……決してヤッてはいない!ヒルダは寝ていたし俺自身も経験がないから寝ているのを起してまでヤろうとは考えも着かないでいたんだ!
……え、寝こみを襲う?……チェリーにはハードル高いよ?
一瞬、頬を赤くさせたと思うと今度は、襟元から手を放し俺の胸板に顔を埋めた
「……私は、好きでもない男に肌を見せるほど軽くはねぇ……ママになんて言われようが私はアキトについて行くさ」
照れ隠しなのかどうかはわからないが、表情を隠しながら俺と一緒にいる事を希望する彼女の口振りから母親と再会を願う事と同じ位の思いが伝わってきた
……ココで断ったらヒルダの男としてメンツが立たないな?
俺は、そっと彼女を抱きしめた
「……わかった、挨拶を終えたら俺と一緒に来い。」
「ッ!……うん」
「それと何があるかわからないからな?危険だと思ったら直ぐに逃げて来い」
「過保護なんだよ……なんなら一緒に行くか?ご両親にご挨拶って」
「馬鹿言え。俺が行くと危険が増すだろ?」
デミウルダスの加護を得ていない私服だと認識を誤魔化す事が出来ないし、例え『黒百合の悪魔』スタイルであっても同行人がいる今は効力を期待する事は出来ない
……不服だが、この町の住人は俺の事を良い意味でも悪い意味でも知り過ぎてしまっている。テロリストになった今、加護無しで町を出歩く事は出来ないのだ
「はは、そうだね……いい子で待っているんだよ?」
「俺は子供か」
胸板から顔を上げて笑みを浮かべるヒルダの顔を見ると愛おしく思い、軽く唇を合わせる
少し名残惜しいが、彼女を解放し見送る事を決心した
だが、見送る事を決めたと言うのに俺から遠ざかっていくヒルダの後姿に一種の不安がよぎってしまう
「ヒルダ!」
足場が崩れる様な大切な何かが無くなってしまうかのような曖昧な感覚が襲い掛かり、思わず声を上げてしまった
「俺は何があっても君を守る!君が好きだから!」
「私もだよ」
ヒルダは振り返る事もせずに片手だけを上げて森に入っていくのであった
ヒルダの返事は嬉しかったけど、胸に抱いた不安は払拭出来なかった…………
◆
「………」
特に何かをする訳ではなく、焼き崩れた廃墟に腰を下ろしてヒルダの帰りを待つ
多少の危険を承知の上でヒルダに付いていく事も考えなかった訳ではないが、そんな事はヒルダは望んでいない
今度の生活も考え、なるべく人目に付かない方がいいと彼女も理解しているし、ここで大事を起きてしまって俺の事を…如いては『ノーマ』であるヒルダの事を知れては困る
今や歩く爆弾の様な扱いを受ける身としては行動は起こさずにヒルダの帰りを待つしかないのだ。それに……
「……ヒルダを信じているって事か」
我ながら甘くなったモノだ
自分以外は全て敵。隙を見せれば自分がやられると思って生きて来た中で唯一、心を許せる存在に出会ったのだからな………まぁ、
なんとも頼りになる
「……ッ!………雨か?」
朝方は日差しが照らし陽気な天気だったと言うのに空は厚い雲に覆われポツポツと雨が降りだして来ていた
幸い、バイクに雨具を積んで置いたので取りに戻ろうと森へ踏み込もうとしたが、一陣の風が吹き荒れた
突然の突風にサングラスが吹き飛ばされ地に落ちる。髪もボサボサになり、ため息を吐き手櫛で髪を整えながらサングラスを拾おうとして………目の前で花びらが舞った
風によって舞い上げられた花びらは、サングラスに掛るように舞い落ち、共に拾い上げて花びらを観察していると………見覚えがある花びらだった事に衝撃を受けた
「………、ッ!」
思わず俺は、博士の墓に目をやった
博士の墓前に供えられていた紅白の花は、赤色の花だけが散っており、白い花束しか残っていない
何故赤い花だけなのかと唖然とする俺の背中を押す様に、もう一度突風が吹き荒れる
まるで博士が何かを伝えてきているように………
知らない間に俺は、走り出していた
村へ続く道筋は何年経っても忘れる事はなく、一心不乱に駆け抜けていた
伸びきった枝で擦り傷が出来るのもお構いなしに、降り注ぐ雨が衣服に染み込み不快感を与えるのにも気にせずに一心不乱に走り続けた
気づけば森を抜けて、農道に出ていた。広く見渡しの良い景色が広がっている筈なのだが生憎、悪天候な為に遠くを見渡す事が出来ないでいた。しかし、暗く淀んだ明るさに反比例するかの如く、赤い光が一カ所に集まり光輝いているのを直ぐに見つけ出した
嫌な予感が走った
赤い光を見て連想されるモノなど一つしかなく、あの道はログハウスとヒルダの家を繋ぐ道だと言う事が俺の不安を更に駆りたてた
赤い光が集まる場所へと走り出す。幸い、雨が足音や気配を消してくれるおかげで全力で近づく事が出来き、ある程度の接近が成功したら、ゆっくりと悟られない様に近づき様子を窺った
木の影から様子を窺うに検疫官が何かに群がっている事がわかる。そして――――
「ッ!」
俺の目に写ったモノは、ヒルダに過剰な暴行を加え、更には動けなくなった事を良い事に服に手をかけ、剥ぎ取ろうとする検疫官達の姿であった
ドクンっと心臓が大きく波打った。『ノーマ』を同じ人間だとは思わない行為に吐き気が起り、同時に強姦されそうになっているヒルダの姿が博士の最後と被って体中の血を煮えぎらせた
「ふ…ざ……けるな……!」
無意識に歯を喰いしばり、握りしめた拳から血がしたたり落ちる
「おい!はやく脱がせよ!」
「慌てるなよ!なんなら服着たままヤルか?ひゃはははは!」
速く助けなくては……誰を?……ヒルダに決まっている
助け出してどうする?……安全な場所へ連れて行く
安全な場所ってどこ?……安全な場所ってどこにあるんだよ?
それは………
男達に近づきながらも自問自答を繰り返す。彼女を助けるのは絶対だ!しかし、助けて今度は何処へ行く?訪れた場所でまた同じ事にあったらどうする?今回は近くに俺が居たから助けられるが俺の帰りを待っている頃合いだったら……今度はどこに逃げれば………ッ!そうか……
「逃げる、か………本当に弱くなったモンだな、俺も!」
言葉尻を強めながら俺は、気色悪い笑い声をあげる男の側頭部を銃で殴りつけた
突然、襲い掛かった衝撃に男は頭を抱えながら声を上げる事も出来ずにのた打ち回り、残りの2人は何が起きたのか判断が出来なくその場で固まっていた
「汚い手をどけろ、豚。言葉の通じる”人間”でさえなさそうだがな」
「「!?」」
男達はヒルダの服に手をかけながら俺の方へと顔を向けるが、動こうとはしなかった。
男達の手の間から見えるヒルダの様子は、顔や腕には夥しい程の痣が浮かび上がっているが、犯されていない事がわかった
――――私は、好きでもない男に肌を見せるほど軽くはねぇ!
だが、彼女の誇りを傷つけてしまった事に変わりない
「不愉快極まりないが・・・デミウルダスの言葉は、本当の様だ」
思い出すのはデミウルゴスが俺に告げた言葉
「やはり俺には、『幸福』は許されないらしい」
「て、テメェは――バァァン!―――ガヒュ……」
「忠告した筈だ。……手をどけろ、と」
事態の変に逸早く気づき声を上げた男の言葉を命諸共、銃声で掻き消した
俺の忠告を無視しヒルダの服に手をかけていた奴が悪い
風穴を開けた男の頭部からは噴水の様に血液が溢れ出て大地を赤土へと変えていく
「ひっ!?て、て、テメェは何をしているのかわかっているのか!」
「……今度は貴様の番だ」
「なッ!ま、マナの光よ!『障壁』――バァァン!―――な、んで…」
仲間が殺され正気に戻った残りの一人に銃口を向け引き金を引く。検疫官殿の装備は警棒のみ……最たる脅威ではない。相手もそれを理解しているのか『マナ』の力で盾を創り上げたが生憎と俺の銃弾は特別性だ
硝子の割れる音と共に銃声が鳴り響き、男の命を容易に狩り取った
「元はアンジュリーゼ暗殺の為に用意した弾丸だ。…喜べ、一発で家一件分の価値がある弾だぞ?さて…」
振り返った先には頭を抱え耳から血を流す男がいた。あぁ…鼓膜を切ったか、お気の毒に
「な、なぜだ!コイツは『ノーマ』なんだぞ!わ、我々の…世界の敵だ」
貴様は生まれたての小鹿かと突っ込みたいほどプルプルと足を震えさせながら立ち上がった男が何を口にするかと思えば、まだ『マナ』主義の考えを言葉にするんだな?
「関係ない……俺は『黒百合』。俺の前には『ノーマ』などといった事実は意味を成さない」
「『黒百合』?……『黒百合の悪魔』ッ!?あ、あ、あ、あ……助けてくれぇぇぇ!」
男は俺の正体に気づいた男は完全に戦意を失い、後ずさりをしながら命乞いをし始めた
大方、ヒルダが『ノーマ』だと俺が知れば此方の正当性に気づくと思っていたのだろうが、宛てが外れたな?
俺は命乞いをする男などには目もくれず、大地に横たわったヒルダを優しく抱きかかえ、柄を返し男に背を向けた
後からは安堵の息を吐くのが聞こえる…………人間は、自分が真意に心から守りたいと思っていた人を、共に生きようと誓ってくれた人を傷つけた者を許す事は出来るだろうか?
遥か昔に存在した聖人なら兎も角、一般市民には中々出来ない事であり、一般市民でも聖人でもない俺には最早『許す』と言う言葉さえ存在はしない
「ブラック・サレナ」
俺の呼びかけに、漆黒の悪魔が空間を侵食し現れる
「ひぃっ!?あ、あ、あ、悪魔!!??」
……げせぬ
確かに突然現れた事といい、その姿から悪魔に見えてしまうのは仕方がない事だが、俺の相棒は意外に可愛い場所もあるのだぞ………眼とか?
まぁ、これから行う行為は悪魔だと言われても仕方がない、がな
仕事熱心は実に良い事だが、貴様は手を出して行けないモノに手を出してしまった
……その酬いは『命』で払ってもらう
「殺れ」
「ッ!!!いぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
男の断末魔は銃声で掻き消されて俺の耳には届かないが状況は判り得る……ブラック・サレナの腕に装備されたハンドガンが検疫官をハチの巣にしている、ただそれだけなのだ
ハンドガンが生み出す騒音は、雨音程度で隠す事が出来ない………暫くしたら何事だと住民や応援の検疫官が駆けつけるだろうが、その時には俺達はここにはいない。……もはや帰ってくることもないだろう
ハンドガンの弾雨が止まったのを気に操縦席へと乗り込む
男の生死など最早、確認するまでもない。ブラック・サレナのモニターには弾丸を撃ち込まれ抉られた大地しか写されていないのだから
「博士……墓参りはこれで最後になりそうだ」
俺は、やるせない気持ちと新たな決意を抱き、信頼に値する人物へと通信を入れ跳躍するのであった
◆
搭乗者が増えると跳躍するイメージにズレが応じる様で、目的の場所へとたどり着くまでに十を超える跳躍が必要であった。その為、目的の場所である『アルゼナル』に辿り付いたのは早朝、海から日が昇るころであった
しかし、早朝だと言うのに滑走路には三つの人影と蒼の『パラメイル』がいつでも俺を撃墜できるように待機している。そんな中、一番小さい影だけが俺を歓迎するかのように手を大きく振って此方に降りる様に指示を出して来ていた
少女は手を大きく振りながら担架を持った女性を引き連れながら着艦したブラック・サレナに近づいてくる、俺も彼女は信頼に値する人物だと認識しているので躊躇することなくブラック・サレナのハッチを開け、顔を曝した
「お兄ッ!ヒルダは!?」
「深い傷はない。だが、全身に渡り強く殴打されている。……治療を頼む」
「うん!」
俺は未だに意識が戻らないヒルダを抱きかかえブラック・サレナから降り、メイが用意してくれた担架に彼女を乗せた
見た目は酷いが内部器官に支障が出ていないので、治療をすれば直ぐに良くはなるだろう
だが、心に出来た傷は早々に治る事はない。……直接話す事が出来なかったのは気に病むが仕方がない、か
「メイ……ヒルダの処遇は?」
「……財産・資産の没収、あとは反省房での謹慎だと思うよ」
「………『パラメイル』もか?」
「うん」
『アルゼナル』においてヒルダにどの位の資産があったのかは知れないが、『パラメイル』が没収されるのは―――いや、好都合なのかも知れないな
まだ和解が出来ていない『ノーマ』とドラゴンの戦いにおいては『パラメイル』が無い方が戦場に出る機会はなくなり安全でいられる
「アンタはこれからどうするつもりだい?」
「………ジャスミン」
ヒルダをメイに預け、要件は済んだとブラック・サレナへ足を進めようとしたがジャスミンが俺を引きとめた
「………回線は
「ん?あぁ…切らせておくかね……悪いが映像までは切れないよ?」
「かまわない」
ジャスミンがハンドサインで『パラメイル』に指示を出し通信を切らせているのを確認しながら俺は、
「……なんだ?」
「いや」
本当なら司令官殿にも退席してほしいのだが、立場上そう言う訳にもいかないだろう
それに言い出したら止まりそうにない、何倍にもなって言い負かしてくる事は、吊り上った眼と体からにじみ出る雰囲気が物語っている
「
俺は、合意の意味を込めて一度頷き、重々しく口を開き心境を語った
「俺は……この世界を破壊する。」
「破壊、か…」
「あぁ……俺は心のどこかで逃げていたのかも知れない。ヒルダと共に過ごす為には現状を上手くやり過ごす事が一番の手だと……だが、逃げてばかりでは駄目だった。本当にヒルダと共に生きる為には世界を壊すしか手がないと知った………だから、ヒルダが安らかに過ごせる世界を創る為に俺は戦う」
メイは、俺とヒルダの関係に年相応に反応していたが、メイより人生経験の豊富なジャスミンは、苦虫を潰したかのような表情で口を開いた
「……そこにアンタはいないのかい?」
「………」
「アンタの言い分だと自分が死んでもヒルダが生きていればいいって聞こえるよ。・・・・・どうなんだい?」
「………」
ジャスミンの問いかけに対して俺は沈黙を貫いた。はやり、俺は身内の女性には弱いようで祖母だと認識しているジャスミンには気づかれてしまったようだ
黙秘を続ける俺にジャスミンは「反抗期」と呟いた後、大きくタメ息を付いた
「わかったよ………ヒルダに何か伝える事はあるかい?」
「……待っていてほしい、と」
「わかった「いや、伝えなくていい」……ジル?」
今度こそ話は終わりだと柄を返そうとしたが、今度はずっと沈黙を保っていた
「……次から次へと、俺は忙しい身なのだが?」
「そう邪見視するな、貴様にとっても利がある話だ。……アキト・ミルキーウェイ。貴様の目的が世界を壊し『ノーマ』を解放する事なら私達と共に来い。」
……通信をすんなりと切らせた理由はこれか。
恐らく俺の声を聴耳できる者は全員が
これを気に『アルゼナル』全体へと声明を出せば一石二鳥にも感じるが、まだ時期早々、地盤が出来上がっていないと言った所だな?
「……俺に『リベルタス』に参加しろと?」
「あぁ、エンブリヲを殺せるのは『ヴィルキス』だけだ。……しかし、お前なら『ヴィルキスの盾』として申し分ない。共にツキヨが見た世界を創ろう」
「『盾』、か……」
俺は懐から煙管を取り出し、
両者の間には煙だけが交じり合い、言葉を交わす事は無かったが、
「エンブリヲ……この世界を創った神様、か……」
「あぁ、神を殺し世界を壊すのだ」
同意が得られたとばかりに手を差し伸べてくるが、判断が早くないか?
俺は、差し出された手を払い退けた
「ッ!」
「拒否する。俺の道を貴様に決められる筋合いはない」
「……なぜだ?目的が同じなら協力した方が合理的だと気付かない貴様ではあるまい」
まるで親の仇を見る様に俺を睨みつけて来るが、俺の意思は変わる事はない
確かに世界に戦争を仕掛けるのであれば戦力は多いに越したことはない。……だが、貴様だけは信用してはならないと確信が持てる。なぜなら―――
「……貴様がエンブリヲにご執心だと言う事は貴様の眼が語っている。その眼は……後悔と償い、そして欲念だ。貴様は心の何処かでエンブ「黙れッ!」……」
「これ以上口を開くな……貴様に私の何がわかる!」
「わかりたくもなにさ。だが確信した……俺は貴様と組む事はない」
「そうか……残念だよ」
バァァァァンッ――――!
話は終わりだと、今度こそブラック・サレナに戻ろうとしたが、甲高い発砲音と共に俺の足元に銃痕が刻み込まれた
振り返ると司令官殿が猟奇的な笑みを浮かべながらナイフの代わりに拳銃を取り出し発泡してきたのだ
「……どういうつもりだ?」
「貴様には最初から選択肢はない。我々と共にエンブリヲと戦え。ツキヨがそうしたようにお前も『ヴィルキスの甲冑師』として『ヴィルキスの盾』として戦うのだ!それがツキヨの望んだ願いでもある!」
何をトチ狂ったのか銃口を俺に向けながら『リベリタス』への参加を強制してきた……全く、俺も甘く見られたモノだ
「博士の名を出せば俺を操れるとでも思ったのか?……浅はかだ。ジャスミン、メイ!ヒルダを頼んだ」
「あぁ」「えっ?う、うん」
さも当然かのように、俺はブラック・サレナの下へと歩み始める
「止まれ、貴様の命は私の手の内にあるのだぞ?」
立場を理解していないのかと吼える
相手からしてみれば俺がブラック・サレナに搭乗する前に片を付けるつもりでいるのだろうが……認識が甘い
「そうか…ならば死んでッ!――ズガァァァンッ!!―――なに!?」
………護衛に付いていた『パラメイル』の腕が撃ち抜かれているのだ
銃器で撃ち貫ぬかれたかのように穴だらけになり、支えきれなくなった腕が捥ぎ切れていく
どこから攻撃を受けたのか唖然となる中、今度は熱をおびた風が彼女達に襲い掛かる
今度は何事だとアキトの方へと顔を向けると無人だった筈のブラック・サレナがハンドガンを構えながら浮遊し主人を迎える為にハッチを開いていた
「貴様にはヒルダの件で借りがある。今回は見逃してやるが…………三人に手を出してみろ、エンブリヲと共に殺してやる」
「ッ!」
驚く周囲を一掃し、アキトはブラック・サレナに乗り込むと跳躍システムを起動させその場を離脱を計った。周囲を湾曲させながらブラック・サレナは空間を侵食していく……消える
「各部隊へ通達!奴を…ブラック・サレナを撃墜しろ!」
「無駄だよ」
「ジャスミン!?」
「うん、次元跳躍システムで完全にロスト……」
「ッツ!アキト・ミルキーウェイ!!!!」
『アルゼナル』にアレクトラの憤怒に満ちた叫びだけが響くのであった
次回は、エロリストとテロリストの共演です