スランプ突入です、はい
何というか苦手なラブシーンを書く事もそうですが、執筆するテンションが下がったのでただえさえ遅い更新が更に遅くなりました
完結を目標に書いておりますが、更新が遅くなるのはごめんないさい
そしてまさかの9900文字……あれぇ?
基本的に5000~7000を目安にしてますが、キリが悪いと越えますね?
「見えたぞ」
「長かったぁ~」
アンジュ達と別れてバイクを走らせること数時間……日はとうに沈み空には星が光輝いていた
目的地である俺達の故郷に到着するまでには、まだ時間がかかるので、ヒルダの要望も配慮、尚且つ通り道でもあるこの町で一泊する事にしたのだ
先程までの農道とは違い、左右見渡す限りビルや車の光に照らされて都市としての明るさが眼を刺激した
周囲は全て『マナ』の力によって制御されているので、ヒルダが触れる事が無い様に十分に注意し赤信仰で停止、ヒルダと他愛もない会話をしながら色が変わるのを待っていたが、やけに周囲からの視線を集めていた事にヒルダが気付いた
「…なんか凄く見られてない?」
「旧式の乗り物だからな……マナが一般化した世界にとってコイツは骨董人だ。……それで町に来たのはいいが、何をするつもりだ?情報収集か?」
ヒルダの問に簡単に答えつつ、裏稼業に身を置く俺としては、テロを起こす前の情報収集は必然と重要視され、同じく追われる身のヒルダも、検疫官の所在地や規模等と言った危険視すべきモノの情報を故郷に帰る前に調べる必要があると考えた
幸いこの町の検疫場に覚えがあったので、ウインカーを左に切ろうとしたが、直ぐにヒルダの手によってウインカーを戻され、呆れながら否定された
「デカくなったのは体だけか?町でやる事なんて一つしかないだろ?」
街でやる事なんてテロか物資の補給だけだろ?
俺の考えとは裏腹にヒルダはハニカミながら自分と俺を交互に指を差した
「私とアキトでデートしよう」
「……はぁ!?」
「アキト、青」
予想外の返事に思わず声を上げてしまったが、ヒルダに信号が変わった事を指摘されバイクを走りださせる
「……正気か?」
「正気さ、ママに会いに行くのにこんな姿じゃ嫌だからな?…服が欲しいから付き合ってもらうよ」
サイドカーに座るヒルダの格好は脱走時の水着とは違い民家で拝借してきたライダースーツ……アンジュの用意した軽装の上から着ている為、多少のサイズの誤差は誤魔化せているが、やはりブカブカで見栄えが悪い。それにいざとなった時、動きにくい服装は捕まる可能性を引き上げてしまう………なるべく人と関わらないように考えていたが、ヒルダの心情と機能性を配慮すれば仕方がない、か
「……了解した。だが、先に行く場所があるからそれまで我慢してほしい」
「オーケー、んで何処に行くって言うんだよ?」
街に来て最初に行く所なんて決まっている
「ホテルだ」
「え?」
俺の答えに、今度はヒルダが驚きの声を上げるのであった
◆
クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~
第十七話 逢引
◆
ホテル・真琉羅美亜棲―――
俺が、各国でテロリズムを行う際に良く利用する宿泊施設であり、一泊からも気軽に泊まれる高級ホテルの一つ。テロリストが太鼓判を押すのも可笑しい話だが、スタッフサービスから食事まで細かい所まで行き届いた気配りを忘れていない良心的なホテル、なにより個人情報の漏洩が100%無い事が贔屓にされてもらっている理由だ
バイクをホテルの駐車場に止めてホテルに入る
入るやいなや、ボーイが荷物を預かろうと寄ってくる事からサービスが行き届いている事がわかる。しかし、生憎荷物らしいモノは持っていないので、大丈夫だとジェスチャーし下がらせチェックインを済ませた。手続きをしている間にもヒルダが辺りを必要以上に見渡していたので『アルゼナル』からココまで気が休まる事がなかっただろうと判断し彼女が休める様に早々に部屋へと向かう事にした
「へ、へぇ~…良い部屋じゃないか!」
「……すまない、ここしか空いていなかった」
宿泊の出来た部屋は、ソファやバスなどが設置された至って普通の部屋、しかしキングサイズのベッドが部屋に違和感を醸し出していた
本来なら部屋を二つ取りたかった。いや、別々の部屋だと何かあった際に対処が出来ないので同じ部屋でもツインベッドが置かれた部屋にしたかったのだが、流石に予約無しでは人気ホテルのツインは、取れなかったのだ
「あ、『アルゼナル』よりはマシさ。ベットもコンナに柔らかいし大きい……」
俺を気遣って気丈に振る舞っているヒルダも、些か緊張した面を見せている。流石に幼馴染であり、お互いに思い合っている仲だとは言え………恋人と言う訳ではない。恋人でもない男と同室、更には同じベッドで寝るのには抵抗が生まれる年頃だ
「ヒルダ」
「ッ!あ、アキト。その…なんだ…確かに私達はその…っているけど、まだ早い気がするんだ!と言うか順序を考えろよ!もっと雰囲気とか考えてさ!」
「わかっている。俺はソファで寝る。…流石に幼馴染でもこの状況はまずい」
「……え、幼馴染?……あぁ!そうかい!そうだったね!ほら、服を見繕いに行くよ!」
一気に機嫌が悪くなるヒルダ。
先程までの緊張感がどこへ行ったのかと思えるほど、眉間に皺を寄せて俺の腕を引っ張りながら部屋を出て行こうとするが、慌てて俺は停止の声をかけた
「お、おい鍵!『マナ』仕様だ!触れるんじゃないぞ!」
「わかっているよ!早くあけな!…………口で言わなきゃ駄目なのは昔からかよ」
「なにか言ったか?」
「何も言ってない!行くよ!」
扉が開くやいなや俺はヒルダに腕を引かれながら夜の街へと歩み出したのであった
◆
「……女の買い物は長い、か」
真琉羅美亜棲を後にした俺達は閉店時間の前に事を済まさせなきゃいけない為、直ぐにショッピングを始めたのだが……最初の一件目、洋服屋で一時間も滞在してしまっている
生前、博士も自身が着る衣服だけは異常な執着を見ており、一着選ぶだけに途方もない時間を費やしていた。同性であるヒルダも同じようで逃亡中の為、重みにならない様に1着と決めていたがその1着が中々決まらないでいた
『アルゼナル』と言う自由を規制された場所によって抑えられていた欲望があふれ出したのだろう。好きなモノを選び好きに着る事できる『アルゼナル』では想定叶わない自由な買い物が彼女を刺激したのだろう
『アルゼナル』では得る事のできなかった日常をヒルダに与える事が出来て嬉しく思うが………この場で感じたくはなかった
なんか店員の目が、怖いんです。
ヒルダが試着室から出てくる度に俺に意見を求めて来て、俺の返答を参考にしているのかは定かではないが、また気になるモノを探し試着する
そんなやり取りをする俺達を店員達が嫉妬や羨望の視線で見てくるのだ
世間では黒百合の悪魔なんて恐れられているが、俺にだって怖いモノはありますよ
……本当なら外に逃げ出したいところだが、逃げ出す訳にもいかない
なぜ俺が試着室の前に居座り嫉妬や羨望の視線を浴び続けているのかと言うと、ヒルダが『ノーマ』だと疑われない為なのだ
そもそも、マナが根付いた商業社会において試着と言う概念は存在しない。髪を切る事と同じ様に『マナ』の力を借りれば、一瞬で洋服の試着など終わってしまう
当然『ノーマ』であるヒルダには使えない手であり、店員が試着の手伝いになんて来たら一発で『ノーマ』だとバレテしまう。……試着はヒルダにとって鬼門なのだが…………………例外が存在する。
それはカップル専用の店舗。
なんでも恋人が試着室から出て来た時のドキドキ感を味わいたいと言う謎めいたプレイの為に試着室が設けられているのだ
………理解出来なくもないが、条件として恋人が試着室の前で待機していなくてはいけないと言うルールがあり、男のロマンを叶える代償として周りから嫉妬や羨望の視線を向けられると言うオプションが絶対的についてくる
……そんなオプションなど願い下げだが、『マナ』による試着が出来ないのだから仕方がない。それに先程の不機嫌な顔を笑顔に変えて服を選んでいるヒルダの事を考えるとこの位の羞恥心など耐えられる気がしたんだ
…………はい、すみません、限界です。
視線に曝され更に1時間、流石にこれ以上は俺の精神力でも耐えられなく、今後の予定にも支障が出ると思い試着室の中にいるヒルダに声をかけようと立ち上がるが、同じタイミングでカーテンが開かれた
「お待たせ」
「ッ!」
カーテンが開いた先には、清楚なイメージを印象付けるオレンジ色のワンピースを着たヒルダが照れながらポーズを決めていた
一瞬、見惚れてしまい言葉を失ってしまった。ギャップと言えばいいのだろうか?
普段の彼女の言動からは予想できない服装が、彼女の内なる本質を表している様で心が高鳴ったのだ
「その、なんだ………似合っているぞ」
「……ありがとう」
2人だけなら他愛も無いやり取りだが、ギャラリーがいる中だと一種の羞恥プレイだ!
俺は逃げだす様に店を出ようとしたが、ヒルダが俺の腕を取り今度は紳士服置き場へと向かって引っ張り出したのだ
「まさか……俺は、着替えなくていいだろ?」
「はぁ!?アンタ、自分の格好を良く見てみろよ!」
ヒルダに信じられないと強い口調で言われ等身大の鏡に、自身の服装を写してみる
黒いバイザー、黒いマント、衝撃に強い素材が使われている特殊なスーツ……完璧に『黒百合の悪魔』スタイルだ。なにも可笑しい事はない
「私達が町で視線を集めていたのは、ライダースーツと全身黒だらけの奇妙な男女って理由もあるよ」
「………なに?」
ヒルダが口にした事実に俺は内心焦る気持ちと一緒に驚愕の意が生まれた
この格好は、悪魔の加護があるせいなのか、人間の中に溶け込み安い。言い方を変えれば記憶に残りづらい、眼が向かないと言う加護が付属されている。それが、注目を浴び視線を集めたと言う事は、効力が無くなったと推定できる
……考えられる理由は同行者がいるせいだと思うが……人から見たこの格好はコスプレにしか感じない。そう思うと試着室で待たされた時に感じた羞恥心より強いモノが湧き上がってきた
「………着替えよう。と言っても俺には服を選ぶセンスはない。任せていいか?」
「あぁ、任せな!まずは、バイザーはやめな?せめてサングラスにして」
「なん…だと!?」
バイザーは素顔を隠す為に必要なんです!……え?やましい事?えぇ沢山やってますよ?だから素顔を……ぇ?俺の意見は聞いていない?その恰好で私の隣を歩くな?
……あぁ、そうでしたね、昔からヒルダと博士の言う事には逆らえないんでしたね?
悪魔の加護も得られないならバイザーを付けていた方が目立ちますよね?ははは、諦めますよ、最初から俺には選択の自由は存在していないのですからね……
女性には頭が上がらない。いや、博士とヒルダ限定で俺のNOと言える権利が剥奪される事を思い出しながらヒルダの着せ替え人形になる事、30分……黒のジーンズに白のタンクトップ、その上にまたもや黒のジャケットと言う『黒百合の悪魔』スタイルと然程変わらない格好にコーディネートされたのであった
◆
「メシも上手い。『アルゼナル』の糞メシとは大違いだ」
「……個室だとは言え『アルゼナル』の事は口にしない方がいいな」
「そうだったわね、つい……」
洋服屋で受けたダメージを若干引き摺りながら、俺達はホテルに戻った
予定では外食してくる筈だったのだが、洋服屋で思いのほか時間をかけてしまったのでルームサービスで遅め夕食を頼む事にしたのだ
今思えば、ルームサービスで正解だったのではないかと思う
さすがに食事に『マナ』を使う事はないが、ウェイターが使う『マナ』がヒルダに触れてしまう可能性があるので人が行きかう場所は遠慮しなくてはならなかった
彼女と一緒に生きると誓ったのであれば再び送還される可能性があるモノは一つずつ避けていかなくてはいけない
赤貝のパスタをフォークとスプーンで上手に巻きながら、口にするヒルダを見ながら俺は、先程自分で思った『彼女と一緒に生きる』と言うフレーズに引っ掛かりを覚えた
ヒルダと一緒に生きると言う事は、彼女が『ノーマ』だと認定され再び『アルゼナル』へ送還される事が無いようにすることだと考えていたが……ヒルダが追われる立場であるのと同時に俺も追われる立場だと思いだしたのだ
いつものスタイルでは無いせいなのか今世で初めてのデートで舞い上がってしまったのかは知らないが、危機感が薄まってしまったらしい
俺が特別な立場ではなく普通の立場の人間なら周りの眼を気にしながらヒルダと生きればいい、それだけ……しかし俺は『黒百合の悪魔』。……テロリストだ
そしてその事実をヒルダは知らない
お嬢様やアンジュには正体がバレていたので、気にしてはいなかったがヒルダはあの場にはいなく俺の正体を知ってはいない。伝えるタイミングが無かったと言う理由はあるが、共に生きるのであれば伝えた方が良い。しかし……伝える事が怖くなってしまった
もし俺の正体を知りヒルダが俺から離れる事になったら……俺は笑顔で彼女を見送る事が出来るのであろうか?折角、救いだし再会できたと言うのに……
伝えるかどうか悩み食事をする手が止まってしまった
「いいよ、別に言わなくても」
「……え?」
そんな中、俺の様子に気づいたのか一通り食事を終え、グラスに注がれた果実酒を揺らしながらヒルダは、俺を見詰め言葉をかけてきた
「人には話したくない事の一つや二つはあるさ。…私だってアキトには言いたくない事はある。……いいんだよ、私達はこれで。相手の全てを知らなくても信じられる。………それが私達だろ?」
そう言うと笑みを浮かべながらグラスを傾けるのであった
はぁ……俺は何度、彼女の笑顔に救われればいいのだろうか?
彼女の笑みを見るだけで悩んでいた自分が馬鹿らしくなってくる。全てを知らなくても信じられる存在、俺も彼女も何があっても互いに信じられる仲なんだよな
「いや、聞いてくれ」
「……わかった。アンタが話すって言うなら私は聞くよ」
「あぁ……」
ヒルダが俺を信じてくれるように俺も彼女を信じる。それが例え裏切られようと俺は後悔はしない
「最初に確認したい。……黒百合の悪魔』に聞き覚えはないか?」
「いや、知らない。『アルゼナル』には外と完全に隔離する為に外の情報は流れてこないよ」
『黒百合の悪魔』は、知らないか……過去の『アルゼナル』との交戦からブラック・サレナだけが捕獲の対象になっていて操縦者の情報は流されてはいないと言った所か…
「そうか……『黒百合の悪魔』とは現在指名手配犯中のテロリストだ。手口は多数を狙う爆弾テロ。……特定個人を狙う暗殺まで、行ってきた犯行現場には黒百合が添えられている事からその名がついた」
「ふ~ん、過激な奴がいたもんだ」
「あぁ……彼は、復讐の為にテロリズムを起している。復讐の対象は世界。大事な人を奪った世界に対し一人で喧嘩を売っているのさ」
「随分詳しい…あぁ、護衛をする前はフリーのカメラマンで世界を周っていたんだっけ?その時に聞いたのか?」
この町に到着するまで話していた俺の経緯、フリーカメラマンだと言う事を考えればその結論に至るのは自然な事だが……
「……表向きは、な」
「……表向き?」
カメラマンだと言うだけでは片づけられない事実がある
そもそもカメラマンが王女の護衛に付ける程の武力を持っている事に不思議に思わないのか?
「『黒百合の悪魔』は大切な人を殺された……その人は『ノーマ』の社会復帰を目指し『マナ』について研究していた。そして長い年月をかけて『ノーマ』でも使える『疑似マナ』の制作に成功させた」
「え?………それは何時の話だ?」
『疑似マナ』と言う『ノーマ』の地位向上を計れるモノが作られていた事に目を見開いて驚きを露わにするヒルダであったが、直ぐに顔を顰め言葉を問いかけてきた
「5年以上の前の話だ。気づいたと思うが……5年の歳月があれば彼女の研究が世に広まっている」
「あぁ……それが広まっていないとすると」
『そうだ、政府が介入した。……『ノーマ』の社会復帰は危険分子を生み出すと判断され、その人は世界を揺るがす危険を生み出した狂った科学者と言う名で国家反逆罪として、政府に手によって殺され、研究結果も闇に葬られた」
「………」
『ノーマ』の社会復帰が、世界を狂わせるなどどうにかしている。おおかた世界の負の感情の捌け口となっている『ノーマ』が人間と同じ立場に立つと感情の捌け口がなくなり、世界が崩壊すると思っているのだろう……実にくだらない
「その人はな?悪魔にとって実の親だと言っても過言ではない存在だった。幼い頃に両親に『悪魔付き』と呼ばれ捨てられ、村でも厄介者扱い、石を投げられる事なんて日常茶飯事だった」
「……え?ちょっとまてくれ!」
ヒルダは、俺が何を伝えているのか気付いたのか、狼狽えながら俺に停止の声をかけてくるが、俺は表情を歪めながらも話す事を止めない
「幼馴染が送還された時には、前を向けと励まし、幼馴染を救う為の力を教えてくれた。それだけじゃない、自分が殺されるとわかっていながら『悪魔』を逃がし、世界と喧嘩が出来る様に準備もしてくれた………返しても返しきれない恩を貰った人なんだ」
「ま、まさか……」
「あぁ、俺が『黒百合の悪魔』だ………幻滅しただろ?」
全て話した。後はヒルダ次第、だ……
◆
食事を終え、食器をさげて貰った頃には既に日付は変わっており、朝から故郷に帰る予定を立てている俺達は明日に備えて睡眠をとるべきなのだろうが、生憎と眠気が襲ってくることはなかった
ヒルダは、俺の正体を聞いて一度整理したいと申し立て今は、シャワーを浴びている
俺も彼女がどのような判断を下しても受け要られるようベッドに腰をおろし、煙管から煙を吸いながら心を落ち着かせている
……幼馴染が国家指名手配犯のテロリストになっていた。笑いごとではすまない事実。彼女の今後の生活も考えると別れを覚悟しなくてはいけないな
肺に入った煙を大きく吐きだし、直ぐに新しい煙を肺に満たした
「……煙管、吸ってるんだね?」
「あぁ……12になった時に博士から貰ったよ」
「5年前か……ガキに煙管とかセンス良すぎだろ?」
「俺も驚いたさ……でも今なら博士の気持ちがわかるよ」
いつの間にかバスルームから出て来たヒルダは、体にバスローブを着ながら苦笑と共に俺の隣に腰を下ろした
「私も初めてみようかな?」
「最初はキツイぞ?……まぁ、止めはしない。予備の煙管は……今は無いんだった」
予備と言っても、あの煙管は博士のモノだし今は、メイに預けている。そもそも博士の煙管は今まで一度も使った事は無かったけど……ヒルダなら許せる気がしたのだがな
煙管に詰まった葉を灰皿に落とし、まだ肺に煙を入れたいと脳が訴えかけるので新たに葉を煙管に入れようとするが……ヒルダが俺に寄り掛かってきた
「………博士は本当に死んじまったのか?」
「あぁ、五年前だ。雪が降っていたよ」
「そう……」
ヒルダも『アルゼナル』に送還される前まで、博士との交流はあった
女同士と言う事もあり、俺が入り込めないような話もしていたのを今も覚えている
………久しかった人が死んでいた事実を俺に聞く事によって現実として受け入れたいのだろう
「………アンタは、博士を殺した奴等に復讐がしたいからテロリストを続けているのか?」
「復讐は既に終わった。今は、博士の意思を継ぎ、『ノーマ』を解放する為に世界を起している。……手段は違うけどな」
正攻法で『ノーマ』の社会復帰を訴えかけても博士の二の舞になるだけ。……武力でしか訴えかける事が出来ないのであれば俺は迷わずに武力を使う
今はまだ、テロリズムにブラック・サレナは使ってはいないが……必要であれば……
「そうか………」
世界に復讐する為にテロを行っているのか悪魔の契約の為にテロを行っているのか……どちらとも言えないが最初は復讐の為にテロを行っていただろう。そしてその事が根付いてしまった俺には後戻りする事は出来ない。例えヒルダを手放す事になっても……
「ねぇ、アキト」
煙管を机の上に置く。
煙管は臭いが中に残るので掃除は細目にした方が良い。長年使っている相棒を明日も使える様に整備する為にもブラシと拭布を取りだろうとしたが―――
「故郷に帰ったら一緒に博士の墓参りをしていいかい?」
――――ヒルダの言葉に手が止まった
「アンタがテロやってる訳ってのも理解できるよ?私も博士に世話になっていたからアンタの気持ちは痛い程わかる。だけど…」
「……俺はテロを辞めたりはしない。例えヒルダの願いであっても……」
「勘違いするんじゃないよ……別にアンタにテロを辞めろって言うつもりはない。最初は驚いたけど、それよりアキトの秘密を知れて私は嬉しいんだ。テロ?いいじゃないか!思う存分やってやりなよ……私はアキトが帰ってくるを待っていてあげるさ」
笑みを浮かべながら俺の手を取り両手で握ってくれる
「…共に追われる立場になるぞ」
「もともと追われている立場だ。一つくらい理由が増えたって私は気にしないよ」
「そうか」
俺は彼女が、こんな俺でも一緒にいてくれると言ってくれた事が嬉しく思い、ヒルダの気持ちに答える様に手を握り返した
「それはそうと!」
シャワーで湿った髪を揺らしながら目尻をあげて俺の前に経つヒルダは、人差し指を立てて俺に問い詰めてきた
あぁ…前屈みにならないでください、バスローブの隙間から胸が見えてしまいますよ!?
「アンタは、こんな世界に復讐している過程で『アルゼナル』を知ったんだろ?なら……なら私の事は序に助けたのか?」
「ちがッ!?」
そんな事はない!俺は心からヒルダを助けたいと思っていた!その思いを口にしようと声をあげようとしたが、ヒルダに軽く口づけされて言葉が引っ込んでいった
「知ってた。アキトは昔と変わらず一途だからね?」
照れながら笑みを浮かべるヒルダを見た瞬間、俺の中の何かが弾け飛びヒルダの頬に手を添えてゆっくりと己が唇を彼女の唇へと重ね合わせた
互いが求め合うように激しく、時には優しく舌を合わせ、彼女の口内を蹂躙していった
一分も満たない熱い口づけは、お互いに酸素を求めた為に中断する事になる
互いの口から透明な糸が垂れ下がり、その事が甘美に思えヒルダは恥ずかしそうに口元から垂れるモノを手で拭った
「……煙の味がする」
「……悪い、嫌だったか?」
「全然!」
今度は彼女から求められそれに答える
先程より激しく俺達は求め合い、彼女をベッドに押し倒しバスローブに手をかけようとしたが、俺の手をヒルダはそっと止めた
「ま、まって!しゃ、シャワー浴びて来い!」
「俺は構わない」
「ばか!私は構うんだよ!本当に女心を理解してないね!………男とは初めてなんだから心の準備はさせろ」
「……男とは?」
「ッ!いいから早くいきな!」
若干、気にかかるワードはあったが、今更気にする事でもない
彼女がどのように『アルゼナル』を過ごしていようと俺の好きなヒルダは目の前にいて、俺が必要としているのと同じ様に彼女も俺を必要としている……それだけで十分だった
「アキト!」
バスタオルを片手にバスルームへ向かおうとした俺の手をヒルダは引き止めた
なにかあるのか?と思い振り返ると……唇を合わせるだけの軽いキスをされた
「好きだよ、昔も今も……そしてこれからも」
……不意打ちって良くないな~
一度は冷静になった精神を蝕みやがる!ヒルダがバスルームに俺を押し込まなかったらベッドへ戻り続きをしていた所だ
名残惜しく思う!いまヒルダと交える事が出来ない事に!だがそれは一瞬の時、それさえ我慢できれば――――……
やぁってやるぜぇぇぇ!
俺は、訓練や暗殺で学んだ全ての知識を使い込み、人生でもっとも最速の入浴をした
だが、決して身を清める事に手を抜いた訳ではない!足の指の間や爪の中まで念入りに洗い彼女に失望されない為にも全力で体を洗った
そして……いざ決戦!!!
ローブを着こみ、バスルームを出る!
ヒルダは、相変わらずバスローブ一枚で、先程まで俺が腰をかけていたベッドに座っている。焦る気持ちを押さえつけながらゆっくりと近づき、彼女の肩に手をかけた
「待たせな、ヒル…だ?」
……が、彼女はそのまま横にコテンと倒れた。そして聞こえる安らかな寝息
すなわち……NETERU!!!
まさか!と思いながら肩を揺すってみるが起きる気配は見られなく、机の上にはアルコール臭が漂う液体の入ったグラスと半分以上開けられた酒瓶……
恐らく緊張を紛らわせる為にアルコールを摂取したのであろうが、摂取した量が時間の割には早すぎる
「まぁ…それだけじゃないか」
思えば『アルゼナル』から脱走して今までヒルダは、周囲の警戒を止めなかった
バイクで移動中やショッピング中でも表には出していなかったが、ずっと周りの眼を気にしていた……その緊張の糸が切れたんだろうな?
俺はそっと彼女を抱きかかえベッドに寝かし入れ、頬に唇を落とす
「……おやすみ、ヒルダ」
顔に掛る髪を掬い上げ、俺は煙管に火を入れるのであった
断言します!これ以降、ラブは激減すると!