クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~   作:誤字脱字

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メールにてアンケートの結果を前書きで書いた方が良いと指摘されましたので活動報告に書いたモノをそのまま、添付したいと思います


結果報告を含め


多くのご意見を頂きありがとうございます
私自身の不祥事もあり、ハーメルン様にご迷惑をおかけしてまで、決行してしてしまった価値はある結果だと感じています

今後、クロスアンジュのssはヒロインをヒルダに置き考えたいと思います
ただ、2、3の意見も多く頂いたので……

3く2く4くく1

の法則を取りたいと思っています
作者自身がハーレムモノを得意としていないので上手く書けるか判りませんが、具体的にサラ子のポジションは 愛=友の位置で行こうと思っています

皆様のご協力に多大な感謝の意を送らせていただきます

作者:祈願より


第十八話 ココロノコタエ

母親譲りの鮮やかな赤い髪、大きく可愛らしい瞳は少し吊り目気味になっているが、あの頃の面影を残し、身長もだいぶ伸びているが、目の前にいる女性は俺の人生の大半をかけて探し救おうとした存在。なのに………

 

「隣の男は、たらし込んだのか?はっ!元皇女が聞いて呆れるわね!」

 

……彼女は俺には気づかなかった。それどころかあの頃では考えられない程の罵声をアンジュに送りながら俺に銃口を向けて来たのだ

衝撃的な再開に、思考は完全に停止し手に持っていた筈の銃は、既にホルスターへと納められていた

 

「教えなさい!ヒルダ!モモカに何をするつもり!」

「ふふ、コイツは、私が脱走する為に使わせてもらうわ」

「なっ!させない、この船は私が使うから」

 

ヒルダちゃんに銃を向けるアンジュを見た瞬間、納められていた筈の銃が再び手の内に戻り、自然と銃口をアンジュへと向けていた

 

「ツキトさんッ!?」

「な、なんのつもり!?貴方は私に協力するんじゃなかったの!?」

「………」

「何だかよくしらないけど、形勢逆転?仲間に裏切られるなんてアンタらしいね、アンッツ!……てめぇ!」

 

銃を突き付けられ驚きを口にするアンジュを尻目にヒルダちゃんだけが、口元を吊り上げ笑みを浮かべていたが、俺が予備の拳銃を取り出しヒルダちゃんにも銃口を向けると直ぐに表情を変えて此方を睨み付けてきた

 

………心がズキリと痛んだ

俺の事を忘れてしまっているとは言え殺意の籠った眼で守るべき人に睨まれる矛盾した状況にどうしようもない感情の奔流が俺を飲み込んでいくが、今は目前の対処が先になる

 

「……二人とも銃を納めろ。ここでの戦闘行為は、折角の機会を棒に振ることになる」

「………」「………」

 

本音を言うと二人を止めた理由は、俺に考えを纏める時間が欲しかっただけなのかもしれない

僅かな時間でも良い、俺の存在全てが、守るべき存在な筈のヒルダちゃんを……世界への怒りや憎しみで瞳が濁ってしまった彼女を受け入れる時間が欲しかったのだ

2人が互いに牽制しながらだが、銃口を下げた事を確認し、ヒルダに向かい声をかける

 

「動力の確保をしたと言う事は、アレスティング・ギアへの対策はあるな?」

「……あぁ、システムの解除は念入りに調べたから間違いなく出来る」

 

ズギリと心臓が締め付けられているような感覚が再び俺を襲った

真面に話すと俺はこのまま、壊れてしまう。そう感じヒルダの答えを無言のまま聞き流し、今度はヒルダちゃんの後ろに佇むメイドに話しかける

 

「メイド、輸送機の操縦の経験はあるか?」

「え!?えぇっと、一度ならあります」

 

心許ない答えだが、知識はあるようだ。ならばする事はただ一つ

やるべき事が明確に決定したのであれば、林は速いと俺も二人から銃口を降ろす。すると体を震えさせながらアンジュは声を上げた

 

「勝手に話を進めていったいなんだって言うのよ!」

「利害の一致だ……二人の目的が一緒なら手を組め」

「「なっ!」」

 

勝手に話を進めている事が気に喰わないのかアンジュが声を上げるが、俺が共同しろと言うと今度はヒルダと共に驚きの声を上げた

自分で提案しておきながら、俺はこうなる事を望んでいたのかもしれない

契約と守るべき人の両方を取れるこの方法を……

 

 

 

クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~

 

第十八話 ココロノコタエ

 

 

 

「メインエンジン同調終了、サブエンジンも問題ありません」

「了解……こちらも主操縦装置、副操縦装置共に問題なし」

 

手を組む事に不満があるのか当初は文句を垂れていたアンジュであったが、手を組むことを決めてからは、行動は速く早々に脱走の準備に取り掛かっていた

ヒルダちゃんは司令室の制圧兼システムの解除、アンジュは物資の運搬と周囲の警戒、お嬢様はアンジュの手伝い兼人質、メイドは主操縦士、俺は副操縦士としてシステムの最終確認と作業を分担化し脱走の成功率を少しでも上げる為に動き出した

 

「あ、あの!」

「……なんだ」

 

……が、操縦席に座るメイドに話しかけられ作業を中断する事になった

 

「すみません!ですが……私が、主操縦士でいいのでしょうか?経験のある貴方の方が……」

 

彼女の主張は尤もなモノ。普通に考えれば輸送機の操縦経験が少ない彼女に主操縦士を任せる事はしたくないのが、この中でマナが使え操縦経験があるモノは彼女しかいない。

……必然的に彼女に運転を任せるしかないのだ

デミウルダスとの契約でマナが使えなくなった俺は、今まで博士が開発したマナ貯蔵機を使い上手く誤魔化してきたが、車やバイクと違い大量のマナを使う輸送機においては、いついかなる時に貯蔵してあるマナが尽きるか分からない俺が操縦桿を握るより運転技術に不安はあるがマナを常時自在に扱える者を主操縦士に置いて俺がサポートとして副操縦士に座って運転した方が墜落する心配が無いのだ

 

「何かあった際に臨機対応に動ける者が場を離れられる副操縦席に座った方が良い。…貴様だとアンジュに肩入れをして公平な判断が出来ないだろう」

「それは!そうですけど……」

 

話は終わりだと作業に戻ろうとしたが、隣から俺をチラチラと覗き見てくる視線が続いている……疑問を抱いたまま作業を続けられミスでも冒されたらたまったモノではない、タメ息をこぼしながら俺はメイドの質問に答える為に手を止めて煙管に火を入れた

 

「……用件だけを言え、答えたら安全装置と速度計の設定をしろ」

 

はい!と大きな声で返事をしたと思えば今度は、手を顎に添えて思考面で俺の表情を窺いながら口を開く……コロコロと表情が変わる奴だ

 

「……あの方と手を組む必要があったのでしょうか?……少なくとも私達だけでも出来る様に思えますが?」

 

……恍けているようで痛い所を付いてくる。流石は皇女付きのメイドと言う所か

確かに、『マナ』の使える人材が増えた今、ヒルダを仲間にする必要性はなくなる

司令室の制圧もシステムの解除も俺がやれば良いだけの話、副操縦士には不安が残るがお嬢様に俺が戻るまで座って貰えば事はすむ

……ヒルダと言う内部分裂の爆弾となるモノを仲間に加える必要はない。生存も居場所も特定したいま、後から俺が単独で連れ出す事も考えた。だが、彼女の態度からは、言い様の無い必死さが伝わってきて、この脱走に対して尋常ではない焦りを感じたのだ

……いつ如何なる時に命を落とすかもしれない焦りなのかもしれないが、全くそうでない感じもする。俺は、彼女が何を思って今、脱走を企てたのか真意を調べたいのだ

 

と言っても、素直に訳を話さなくて良いのも事実。変に疑われたくないし、適当な言葉を並べて誤魔化すか…

 

「貴様が想像をしているよりも人手が足りない。システムの解除、司令室の制圧、機材・武器の搬入、輸送機の操縦。言葉を並べるだけなら少ないが一つ一つの作業の重大性から一人の負担を減らす為にも使える人間は仲間にした方が良い……ただえさえ見ているだけのお荷物(アンジュリーゼ)を積んでいるのだからな」

「は、はぁ…?」

 

案の上、皮肉を混ぜて伝えたと言うのに首を傾げた彼女に内心チョロイなと思いつつ、話は終わりかと尋ねると首が取れるのではないかと言う程、横に降りだした

 

「……言え」

「貴方は、アンジュリーゼ様とお知り合いなのですか?」

 

俺とアンジュの繋がりを探っているのか?

確かに男である俺と『ノーマ』であるアンジュが知人だと言う事実は、傍から見れば不思議な関係だ。皇女時代の知り合いならお付メイドの彼女は、疑問に思わない。『アルゼナル』で知り合った仲だと考えるのが常識だろう。だが『アルゼナル』に男はいない

 

だから何故?と行った処か……

 

「仕事だ。知人とか関係ない。ミスティお嬢様がアンジュの脱走に手を貸せと命令した。……主の要望に応える。それが従者の役目ではないのか?」

 

今度こそ話は終わりだと風向計の確認をしようとしたが、隣の手が動いておらず、ましてや笑い声が聞こえたので眉間に皺が寄ってしまう

 

「……なんだ」

「い、いえ。自分の身を危険に晒しても主人の令を第一に考える貴方に私と同じ志があると思いますと可笑しくて」

「……俺は、そんな大層な人間ではない。契約を守っているだけだ」

 

契約を結ばれていなかったら、脱走の手伝いなどしない。とっととヒルダだけを連れて脱走している

 

「私、モモカ・荻野目と申します。短い間ですが、よろしくお願いします」

 

そう言って手を差し出してきたが、相手を信用するには早過ぎないか?

俺は差し出された手を払いのけ、風向計を弄りながら荻野目に答えた

 

「……アキト・ミルキーウェイだ。よろしくしなくていい」

「アキト・ミルキーウェイ!?く、く、黒百合の悪魔ッ!」

「………おい」

 

俺の名前を聞いた瞬間に固まる荻野目に思わずタメ息が出てしまう

作業の手は止まるし、先程までの雰囲気もぶち壊し、結局、安全装置と速度計の設定も俺がやる事になり全てが台無しになってしまった

だから、よろしくしなくていいと言ったのに……

 

 

 

機体の最終確認を全て完了した頃には、太陽は沈み辺りを暗闇に変えていた

予定だと『マーメイドフェスタ』も終わりを迎え締めの花火が打ち上げられる予定の筈だ

 

ロックを外すタイミングは花火の破裂音と同時が好ましく、この気を逃せばロックを外した際に出る音で脱走に気づかれる可能性が上がってしまうので逃す事は出来ない

無線でヒルダちゃんに最終確認の連絡を入れた

 

「俺だ。司令室の制圧はどうなっている?」

『今は夢の中だろうね?そっちこそ、大丈夫なのかよ』

「問題ない。……解除のタイミングはそちらに合わせる。解除はなるたけ早くしろよ」

『了解!っと、痛姫は準備いい?』

『……問題ないわ』

 

アンジュの返答に違和感を抱くが概ね準備は整った。後は花火のタイミングに合わせて飛び立つのみ。次々に打ち上げられる花火と破裂音。眼を閉じ何時でも飛び出せるように心を落ち着かせる。そして………合図は送られた

 

『いまだ!』

「初期スロットルを上げろ!次に第二、第三と上げて行け」

「は、はい!ハッチは!?」

「離陸ギリギリまで解放。ハッチ閉鎖後、フルスロットルで『アルゼナル』から離脱」

「はい!」

 

ロックの解放音と花火の破裂音が同じタイミングで響き、不快な音が浜辺まで届く事は無い。全てが順調に進むと思いきや、輸送機は既に走り出していると言うのにアンジュから閉鎖の合図が伝わってくることはなかった

 

「……アンジュからの合図はまだか?」

「ええっと…アンジュリーゼ様がハッチを閉めろと」

「………なに?」

 

事前に何度も確認しておいたと言うのに、人員収納の合図も伝えられないのか、アイツは…!?

荻野目にハンドサインで速度維持と伝え、無線機の電源を入れた

 

「アンジュ聞こえるか?早くヒルダを拾え」

『忘れてないわよ私、下着の件。あの後大変だったのよ?』

『昔の事だろうが!』

「……下着?」

 

アンジュに現状を聞くために通信を繋げたが、此方の声は届いていないようで、アンジュとヒルダの会話しか聞く事が出来なかったが……下着?

 

次の瞬間、俺の頭に電気が走った

下着で思い出す出来事と言えば『ヴィルキス』内部に大量に詰められた下着、あの時はアンジュが自分で詰めたと思っていたが、まさかアレはヒルダちゃんが詰めていた者だったなんて……するとあれか?あの下着はヒルダちゃんの下着と言う事に……

 

衝撃的な事実と鼻に昇ってくる熱に気が散ってしまい二人の会話など耳に入らなくなってしまったが、ヒルダちゃんが口にした言葉によって急激に頭が冷え切っていった

 

『――――の玩具にもなった。危ない奴とも友達になったさ!私はあきらめる訳にはいかないんだ!私は……ママの、ママの所に戻るんだ!』

「ッ!」

 

今なんていった?ママの所に戻るだと?

ヒルダちゃんを捨てて新たに子供に作り、ヒルダちゃんの存在を消したあの女に会うのだと?

 

「ハッチを閉めろ!」

「え、えぇ!?」

 

冷めきった頭は冷酷な指示を飛ばし、俺の罵声に荻野目は驚きながらも閉鎖ボタンを押せないでいた

 

「いいから早くしろ!」

 

自分で何を言っているのかは理解している。ヒルダちゃんを外へ連れ出す為に『アルゼナル』へ来たと言うのに彼女を置いて行くと言っているのだ

矛盾した行動をしている。だが、俺はヒルダちゃんとあの女を会わせる為に解放するのではない、自由を捧げ、安らかに生活できる環境へ導く為に『アルゼナル』へ来た。

だと言うのにヒルダは、あの女に会う為に脱走をすると言っている。そんな事をしてしまえば………………ヒルダちゃんは心に深い傷を負ってしまう。

 

最悪な事態を回避する為、ヒルダを置き去る様にアンジュに伝えようとしたが、一足遅かった……

 

『モモカ、乗員を一人増やすわ、いいわね?』

「は、はい!」

「……糞が!」

 

荻野目の嬉しそうな表情とは逆に俺は、歯が砕けんばかりに奥歯を噛み締め、最悪の事態を回避出来なかった事に対し悪態を付く事しかでき無かった

 

 

 

 

『アルゼナル』を飛び出し、『パラメイル』の追撃も無い事から荻野目は安堵の息をついているが、俺は気が立って表情は一向に険しいままであった

……ヒルダちゃんが、母親を思って脱走したと知った今、俺の心内は荒れていた

ヒルダが望んだ物の先にあるのは絶望と言う事を知ってしまっている……彼女にこの苦しみを味わせてはいけないとずっと心が訴えかけているのだ

 

空旅も安定し後は一人でも操縦できると判断した俺は、ヒルダちゃんを説得する為にも動き出した

 

「……後は自動操縦に任せればいい、休むか?」

「え?あ、はい」

 

慣れない作業で緊張していたのだろう、安堵の息をこぼしていたが本当の意味では緊張感は取れていなかった彼女は二つ返事で返し俺の後を続くように操縦室から退出した

 

輸送機内は、操縦室・格納庫・休憩室と大きく3つに分かれており、流石は王家が使う輸送機と言う事もありアンジュ達も着替えを物色しながら休憩室で羽根を伸ばしていた

 

そんな中、俺は目的の人物へ話かける

 

「ヒルダ」

「……なんだよ」

「二人で話がある、ついて来い」

「あぁ?」

 

いきなりの呼び出しに不思議そうに首を傾げていたヒルダであるが、俺の真剣みが伝わったのか定かではないが黙って俺の後に続き、操縦室へと入って来てくれた

 

俺はヒルダちゃんの入室を確認すると重く閉ざされた口を開いた

 

「貴様は、母親に会いに行く為に故郷へ帰ると言っていた……単刀直入に言う。待っているのは辛い現実だけだ。考え直せ」

 

俺の口にした言葉が余程、衝撃的だったのかヒルダちゃんは、眼を大きく見開いた後、凄まじい剣幕で俺を睨みつけてくる

 

「はっ!アンタに何がわかるっていうんだよ!……居場所の無くなった私だけどママだけは私を受け入れてくれると信じているんだ。アンタに何かを言われる筋合いはないよ!」

「……辞めるつもりはないのだな?」

「あぁ」

 

ヒルダちゃんの意思は固く、折れる事はないだろう

このまま彼女が、母親と再会してしまったら心に深い傷を負ってしまう

……そんな事は駄目なんだ。例え大切な人に恨まれようとそれだけは絶対に避けなければいけない

 

「話はそれだけか?……もう二度とこんな話すんじゃねぇぞ」

 

柄を返し休憩室へ戻ろうとするヒルダちゃんに、俺は気配を消して近づいた

彼女を母親に会わせない為にも気絶させ『アルゼナル』へ送還させる。……俺の本拠地に匿うと言う手もあるが『アルゼナル』からの脱走を企てる程の知識と行動力がある彼女を一つの場所に留める事は難しい。いずれかは、俺の眼を盗んで母親に会いに行ってしまう

心苦しいが『アルゼナル』への送還。それが一番彼女を傷つけないで済む唯一の方法

 

幸い、彼女は無防備に後ろを向いている。……首筋に一発入れれば全てが終わる

震える手に力を込めて、意識を狩り取ろうとした瞬間――――――彼女の足が止まった

 

「……それにママ以外にも会いたい人達もいるんだ」

「……なに?」

「私を守ると言いながら守れなかった馬鹿とマッドサイエンティストさ」

 

心臓が大きく波打った。彼女を守ると約束した男?狂った科学者(マッドサイエンティスト)

 

俺の心情もお構いなしに、ヒルダちゃんは、俺に背を向けながら細く綺麗な指に嵌められた銀色のリングを見せつけてきた

 

「この指輪見てみろ……コレはアイツがくれたモノで屑鉄を形にしただけの指輪だ。だけど、これが私の心の支えになって今まで戦う事が出来たんだ」

 

彼女の指に嵌められたシンプルなシルバーの指輪。綺麗な円を保てず所々歪んでいるのは年期ではなく元からその様に作られていた事が断言できる……なぜならその指輪は俺が送ったモノ。……幸い彼女は背を向けている為、表情を見られる事はないが、俺の顔は酷くグチャグチャになっていた……

 

「アイツは妙に大人ぶっていて責任感が強くて優しくて……きっと私が送還された事をいまでも後悔している。だから、抱きしめてあげてもう気にしなくていいんだよって言ってやるんだ」

 

ヒルダの言葉は俺の心にスッと入っていき得体の知れない暖かさが伝わってきた

なぜ俺はヒルダちゃんを守りたいと思っているのか?なぜ彼女が傷つく事を恐れているのか?今までなら幼い頃に誓った約束を守る為だと断言出来ていたが、彼女の声や思いを感じる程にそんな答えは偽崩れ落ちていった―――俺がヒルダちゃんを救いたい本当の訳は・・・・

 

「もう十年前も昔の話でアイツは忘れているかもしれないけど、これは私のケジメ。……絶対にアイツを見つけ出して言わなくちゃいけない、アイツを…アキトを私から解放してあげなきゃいけないんだよ」

 

俺は、前世で味わう事の出来なかった人の暖かさを一番初めに教えてくれた彼女に憧れ……恋心を抱き、惹かれていたのだ。例え『アルゼナル』の生活で世界に不の感情を抱くようになってしまった彼女であっても、今尚俺に人の暖かさを感じされてくれる言葉をかけてくれる彼女はあの頃の彼女のままだ

 

彼女が母親と再会して傷ついても根本的なモノは変わらない。人を優しく思いやる事の出来るヒルダちゃんのままなんだ!

例え、辛い現実に直面し傷ついて倒れそうになっても今度は俺が傍にいて支えてあげればいい

……それが『守る』と言う事、俺は人を優しく思いやる事の出来る彼女に惚れて守りたいと思ったんだ!

 

「はっ!あんたにこんな話を「俺が傍にいる」ッ!は、放しやがれ!」

 

答えが出た瞬間、俺は心の底から湧く衝動が抑えられなくなり後ろからヒルダちゃんを優しく抱きしめていた

いきなり抱きしめられた事と未だに水着と言う布面積の少ない状態と言う事もあり、彼女は激しく抵抗をした………内心すごくショックを受けたが、俺は彼女の名前を呟き落ち着かせることにした

 

「ヒルデガルト・シュリーフォーク」

「ッ!な、なんで私の名前を!?」

 

ヒルダちゃんが驚くのは当たり前、『アルゼナル』に送還されてからはヒルダとして過ごしてきた彼女のフルネームを知る者など『アルゼナル』上層部か、送還前の知人しかありえない

 

「遅くなったが君を支える為に力を付けた。……今度こそ俺はヒルダちゃんを何事からも守ってみせる。だから……」

 

抱き付いた彼女から少し離れ、正面を向かせ見つめながら俺は再び約束の言葉を口にする

 

「俺に君を守らせてくれ、ヒルダちゃん……」

「ま、まさか…アキト……なのか?」

 

目尻に涙を浮かべながら確認を取ってくるヒルダちゃんに俺は、無言のまま頷きバイザーを外す、すると今度はヒルダちゃんの方から俺の胸に飛び込んできた

 

「…ぉせぇんだよ、馬鹿」

「すまない」

「……待っていたんだぞ」

「すまない」

「………」

「………」

「………会いたかったよ、アキト」

「あぁ、俺もだ」

 

俺は、彼女が泣き止むまで優しく肩を抱いた。今度こそ決して放さない様に優しく………

 

 

 

 

無事にミスルギ皇国とエンデラント連合の国境近くまで飛行できたアンジュ達は、森の中に輸送機を隠し、徒歩で二つの国の国境付近まで進むと廃れた民家で一旦休憩を挟みながら今後の足となる放置されたバイクを弄っていた

 

そんな中、周囲を警戒していたアンジュに話しかけられる

 

「貴方は良かったの?大切なお嬢様を裏切る様な事をして?」

「お嬢様が望んだ事だ。それに……もとより金づるだ。学園に通う前の生活にもどるだけさ」

 

アンジュが話題にあげた人物は、今頃ペロリーナのキグルミの中で助けを待っている

念の為に政府の人間以外の…山賊の様なゴロツキ対策にお嬢様には発信機を付けてある。アフターケアではないが、雇い主に出来る最後の配慮だ……誘拐など起こしはしない

 

「気にする事はペロリーナのキグルミでお嬢様が、倒れていないか、それだけだ」

「……私のせいじゃないわよ?」

「……動いた」

「ちょっと!聴いているの!?」

 

民家のガレージに置かれていたバイクは今時珍しいマナで動くモノではない旧式だった為、手直しが必要だったが『ヴィルキスの甲冑師』である俺にとってバイクを直すことなど朝飯前。エンジンをかけ調子を見るからに問題は無さそうだ

 

サイドカーにヒルダが乗り込み、奇妙な縁であったアンジュともここでお別れだ

アンジュとヒルダは言葉少なく別れの挨拶を交わし、それが終えるとヒルダは首を振って発信を促したが、俺も彼女に送る言葉がある

 

「アンジュ」

「ん?」

 

荻野目と一緒にスメラギ皇国へ足を進めていたアンジュ達は、再び立ち止り俺達の方へ振り返った

 

「貴様の目的など知らんし興味もない。だが、これも何かの縁だ。………貴様がこれから向かうミスルギ皇国は全て敵だと思え!例えそれが肉親であってもな!」

「……えぇ、忠告ありがとう。でもあの子が待っているから、私いくわ」

「……そうか」

 

心に強く誓いを立てた者は決して折れる事はない。アンジュもアンジュなりの思いを抱いてミスルギ皇国へ戻るのだ……それが罠であったとしても

 

その事実を伝えた所でアンジュの決意は変わらない。ならば見て感じるしか現実を知る事は出来ないだろう。……俺はヒルダに視線を向けた

 

「ヒルダ……お前も残酷な真実を突きつけられる。……それでもいくか?」

「あぁ、私はこの時を何年も待っていたんだ!それに……アキトも一緒なら怖くない」

「………」

 

頬を軽く染めながら照れるのは止めてくれませんか?……俺まで恥ずかしくなってくる

ヒルダに悟られまいとアクセルを踏み入れたが――――

 

「アキト……顔、紅いよ?」

「お互い様だ」

 

隣で同じように顔を染める同行者にはバレバレであった

 

「ふふ、あっ!村の前に町へ寄ってよ」

「……なぜ危険な真似をする。直ぐに村へ向かうぞ」

「はぁ~?アキト、成長したのは図体だけで頭ん中は、成長していないね?女心って言うモノを理解しろよな!」

「……酷い言い様だな」

 

お互い成長し、色々と変わってしまったが、二人で交わす会話はあの頃を思い出させるようで…………とても懐かしく心地よかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輸送機内のやり取り1

 

「自動操縦にした。後は、ミスルギとエンデラント連合の国境まで勝手に飛ぶだろう」

「お疲れ、アキト」

「………」

 

ベンチに腰を卸し、煙管に火を入れる俺の隣にヒルダは腰をかけた

それをアンジュは、無言のまま見つめ……爆弾を言い放った

 

「……なんか2人共、いきなり仲良くなっていない?……まさか!?」

「ッ!変な想像してんじゃねぇよ!そ、そんな事はしてない!コイツは遅刻魔だぞ!」

「遅刻魔?ちがうわよ、そいつは覗き魔よ」

「覗き?……アキト、どういう意味だ」

「え、ええっと皆さん、喧嘩は止めましょうよ?ってアキトさん、尋常じゃない汗を書いていますけど大丈夫ですか?」

「問題ない」

 

眼のハイライトが見えたヒルダちゃんは、怖い

まさに蛇に睨まれる蛙の気持ちを思い知ったのであった

 

 

輸送機内のやり取り2

 

「そういえば、あんたも指輪を付けているのよね?」

「これか?……アンタのに比べれば只の鉄くずだよ。まったくこんなモノを買い戻す為に私は5000万キャッシュも払っちまったよ」

「ツキトさん?何をそんなに落ち込まれているのですか?」

「…もんだい、ない」

 

当時、自信作として送った指輪が『鉄くず』や『こんなモノ』扱いをされて地味にへこんだ。が……

 

 

 

 

 

「ヒルダ」

「ん?なんだよ、アキト」

「今度は鉄くずではない指輪を贈る……受け取ってくれるか、ヒルダちゃん?」

「なっ!な、なに言ってんだよ!それにちゃん付けはやめろよな!」

 

今度は、ちゃんとした指輪を贈る事を約束しよう

 




世間から見た黒百合の悪魔

・一般人 
無差別殺人鬼、テロリスト。アキトの名を偽る人物からテロ予告があったら、本物か調べる前にその場所を封鎖・休校するレベルで危険視する人物

・王族、皇家、貴族
過去に位の高い人物が殺されたので、最も危惧している。そのうち、話に尾鰭が着くようになりナマハゲ的な存在になった。
一部の者が直視・直聴したら気絶するレベル

・王族、皇家、貴族(世界の裏を知る人物)
彼の近隣捜索の際に名前に上がったツキヨ・ミルキーウェイの出生・死亡を知る人物達は復讐の為にテロをしていると考え次は自分が狙われると疑心暗鬼中……
ドラゴンより低いが、危険視している


・アルゼナル(パラメイル部隊)
未確認の機体。捕獲した際には「初物」と同レベルの報酬が出るが、誰が操縦しているかは知らない。

・アルゼナル(上層部)
ツキヨの甥っ子であり、世間を賑せているテロリスト
目的が同じなので共闘の為に色々と思考中……



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