ブラック・サレナが引き起こした不運は、思いも掛けない出会いを与えてくれた
旧世界において、巫女とされる推測されるサラマンディーネ、無人島において『ヴィルキス』と共に世界に喧嘩を売った者の末裔『ヴィルキスの騎士』タスク……
前者は、ドラゴンの史実と世界の真実を教えてくれて、後者は、『リベルタス』や『ヴィルキス』と言ったこの世界で引き起こった事実を教えてくれた
そんな中、浜辺に打ち上げられた機体『ヴィルキス』に乗る少女は俺に何を教えてくれるのだろうな?
「アキト!見ていないで手を貸してくれ」
「断る。女一人ぐらい貴様で持ち上げろ」
最近できた弟分の頼みを一掃し檄を飛ばす。本来なら手を貸してやらん事もないが、相手がコイツだから手を貸す事が出来んのだ
……なにせ俺はお前を知っているのだからな
「『ヴィルキス』の乗り手がまさか……アンジュリーゼだったとは予想外だ」
「なにか言ったかい!?アキトー!」
ヴィルキスから彼女を降ろすタスクを無視しながらタメ息をこぼすのであった
◆
クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~
第14話 騎士と甲冑師と堕ちた皇女
◆
「脈もあるし海水も飲んではいない……他は……」
海岸からアンジュリーゼを運んできたタスクは、自身のベッドへ彼女を寝かせタオルで体を拭きながら外傷があるか確認しているが……そちらの心配もないだろう
「うん、外傷も見当たらない……疲れて眠っているだけみたいだ。後は冷えた体を温めてあげれば大丈夫だね」
「なぜそこまでする必要がある……そいつが、『ヴィルキス』の乗り手だからか?」
「関係ないさ。…例え彼女が『ヴィルキス』の乗り手じゃなくても俺は助けるよ」
「おひとよしめ」
人柄なのか下心があるのか………おそらく前者なのだろうが、タスクがココにアンジュリーゼを供養する事を決めた今、俺にのんびりする時間はない
他国の一学生であったとしても俺はアンジュリーゼと面識がある。それだけではない、今の俺は黒いバイザーに黒マントの面立ちで『黒百合の悪魔』のスタイルだ
……ミスルギ皇国が、俺の顔写真を指名手配として一般公表していないとは言え、皇家であったアンジュリーゼは知っているかもしれん、それにコイツは『アルゼナル』にいた
………ジルやゾーラから何らかの話を聞いているのかも知れない
学生としてバレてもテロリストとしてバレてもいい方向には進まない……俺は、コイツが眼を覚ます前に身を隠さなければいけないのだ
「タスク、俺は……何をしている貴様?」
「へぇ?」
ブラック・サレナの整備を急いだ方が良いと判断しタスクに伝えようとしたが、当の本人はアンジュリーゼの服を脱がし、自身は上半身裸になって彼女が横たわるベッドの中に入り込もうとしていた
「………俺はそう言う行為を強いる人物を弟分だとは思いたくはない」
「………―――ッ!?ち、ち、違うよ!彼女の身体が冷えているから温めてあげようと思っただけだ!」
最初は俺が何をいっているのか理解出来なかったようだが、直ぐに俺が伝えてきた意味を理解し慌てて弁解を計るタスクを呆れに思いながら見つめていたが、バツが悪そうにしながら俺を睨みつけてきた
「アキトみたいに俺は『マナ』が使えない。予備の毛布はアキトが使っている。……一番手っ取り早いのはアキトが『マナ』を使ってくれる事だけど……」
「なぜ俺がそこまでしなくてはいけない」
「……だろ?だから今できる最大限の事で彼女を温めようと思っただけさ」
いま最大限に出来る事が人肌で温める事しか浮かばない弟分に、本当は下心があったのではないかと疑いたくもあるが、俺には時間が無いのも事実……
「なら彼女が眼を覚ますより早くベッドから抜け出すのだな?……それと念の為、手を拘束しておけ、起きて早々殺される事は回避できるだろう」
「あぁ、わかったよ。それでアキトは?」
「ブラック・サレナへ向かう。……彼女が起きた時、男が二人もいたら要らぬ勘違いが起こるかもしれない。整備もしたいから……明日の昼位には戻る」
「了解。…あぁ、それとブラック・サレナは『ヴィルキス』とは反対の海岸、崖の方に隠しておいた方がいい。あそこに隠すには調度いい洞窟がある」
「あぁ、了解だ。…………殺されるなよ、タスク」
「はは、大袈裟な」
ブラック・サレナの異常性を直観的に理解しているのか、タスクもアンジュリーゼに知られるのは良くないと思ったのだろう。
俺は片手をあげながらその場を後にしたのであった
◆
俺はタスクと別れた後、真っ直ぐにはブラック・サレナの元へとは向かわずに『ヴィルキス』が打ち上げられている海岸へと足を運んでいた
ブラック・サレナの修理は至急を要するモノだが、アンジュリーゼに見つからない事を前提に考えれば然程、問題は出てこない
むしろ、今回に限ってはアンジュリーゼではなく、『ヴィルキス』への接触が俺に有益な情報、ないしブラック・サレナの異常性を解明する事に繋がると考えている
ブラック・サレナに備わった異常性―――
DFや次元跳躍システムの特殊兵器は勿論、コイツには他のパラメイルと違い………成長するのだ
機械が成長するなど馬鹿げている事など、重々承知しているがコイツは、デミウルダスの加護を俺と同じ様に受けているせいなのか、『贄』を貢ぐと貢ぐ程、性能を増していき何時の間にか知らない機能まで追加されているのだ
その筆頭が自己修理機能(マシーンセル)
『贄』を5万ほど貢いだ頃合いに付属された原因不明、正体不明の能力だ
カウントを稼ぐと稼ぐほど、修復機能は進化していき別世界から帰還する事には一夜あれば、装甲面では全快の域まで修復する事が出来る便利な機能なのだ
しかし、一人の技術屋として正体不明の機能を使い続けるのは納得がいかない
あらゆる情報を集め、文献を読み漁り、色々な視線から検討してみた結果、幾つかの仮説が浮かび上がってきたのだ
もっとも馬鹿らしくて笑いたくなる物もあるが………
仮説:壱
・デミウルダスの悪魔パワーによる自己再生
………自分で仮説を作っておきながら、頭が痛くなった
そんな悪魔パワーで解決したら技術屋は廃業になってしまう
仮説:弐
・機械細胞による修復機能
この仮説も頭が痛くなった。機械細胞自体は存在する
しかし、元の形に修復するほど高性能なモノは存在していない。考えられる事はDFや次元跳躍システムと同じ様に未完成の機械細胞をデミウルダスが完成に導いたと言う事だ
仮説:参
・次元跳躍の応用
一番可能性の高い仮説だが、解析し説明するには数十年の歳月が必要だろう
次元跳躍システムは、簡単に云うと過去の波に乗ったり未来の波に乗ったりして移動する言わばタイムマシンであり、その技術を距離の短縮に使っているだけ
この仮説は、次元跳躍をフルに使い、壊れたブラック・サレナに未来または過去のブラック・サレナを転移させて壊れた時間帯を無くすと言うモノだが………子供の夢語り程度の確率の過程だ。ただ悪魔パワーと言う謎の現象を排除した仲では一番可能性が高い
しかし、仮説:参は、自己修復の域を超え瞬間修復になってしまうのだ
いまをなお、段々と修復していく装甲を見る限り可能性はコンマ1を切るだろう
今日この日まで、ブラックボックスであり、人智を超えた力を持つブラック・サレナに俺の技術屋としてのプライドはボロボロにされ続けていたが、今日、それに終止符を討つのだ!
博士は生前言っていた――――
『ホワイト・リリウムはヴィルキスに最も近いパラメイル』だと――――
そこから考えられる事は、ブラック・サレナの前身ホワイト・リリウムは『ヴィルキス』に備わっている機能を模写もしくは劣化させて搭載されている可能性がある
だとすれば『ヴィルキス』を調査する事により、ブラック・サレナの謎が解明される筈だ!
そう意気込み、海岸に打ち上げられた『ヴィルキス』へ向かった俺は早速、内部電源を立ち上げようとスイッチを入れるが………一向に起動する様子が見られなかった
「故障か?……機器に異常は見られない。あるとすれば前方主電子配線の断線、もしくはの防熱フィンの故障による緊急遮断だ」
システムを立ち上げない限りは、『ヴィルキス』の性能も兵器水準もわからない、アンジュリーゼの機体を修理するのは些か気に喰わないが、ブラック・サレナの謎を解明する為だ
俺は、清水の舞台から飛び降りたつもりで、故障部だと思われる『ヴィルキス』の前方装甲、フライングモードで言う先端部の装甲を開けると……………下着が入っていた
「――――……はぁ?」
一瞬、放心してしまったが女性物の下着が沢山詰められていた
なにを言っているか俺にも理解は出来ないが、赤や白などの派手な下着が沢山詰められていた、大切な事なので二回言う。そして思った………何故?
「………」
俺は何も言わずに装甲を閉じた
故障の原因はフィンに混入物が侵入し、熱の排気が弱まり着火。小規模だが炎上した結果、電子配線が焼き切れ電子機器がショートしたと思われる。火の手は海に着水した際に沈下したが、海水が焼き切れた配線や機器に入り込み故障の一因になっている
電子配線を繋ぎ直し、海水が浸入したパーツを取りかえれば修理できるレベルであり、修理する機材もパーツも俺は持っているが…………萎えた
技術屋の好奇心よりも『パラメイル』の乗り手として収納してはいけない場所に機材の収納、ましてや下着を収納するアンジュリーゼの無知さに心底萎えた
「………帰るか」
もはや、『ヴィルキス』を調査する気が湧かなく、重い足取りでブラック・サレナの場所へと戻るのであった
◆
あれから俺は、タスクが示した場所へブラック・サレナを移動された後、一心不乱に修理に打ち込んだ
決して『ヴィルキス』で萎えたモチベーションを立ち直らせようと考えている訳ではない
何かを必死に打ち込まなくては、『パラメイル』を雑に扱うアンジュリーゼに対する技術屋の怒りが湧いてきてウッカリと殺してしまう可能性があるだけだ
殺人鬼としては何とも思わないが……弟分が見定めている人物を兄貴分が殺してしまったら元も子もない
作業する手を休め、時計を確認すると時刻は既に昼の時間を指しておりタスクに伝えた時刻になっていた
「どうりで腹が減る筈だ。一旦、返ってアンジュリーゼの様子を…ん?」
機械油だらけになった手を海水で洗い流しアンジュリーゼに気づかれないように戻ろうとしたが、空模様が怪しくなってきている事に気づいた
「今晩は、かなり降るな?……念の為に、予備の非常食とか持っていくか」
タスクの事だ。おそらく、アンジュリーゼに体力をつけてもらう為に捕獲した動物性蛋白質を振る舞うだろう。2人分で用意した食材だから一人増えたら足りなくなる……俺の分がアンジュリーゼに取られるのは癪に障るし、だからと言って弟分を差し置いて俺が食すのも気が引ける
「……帰路の最中に適当に狩るか」
幸い、ここは自然あふれる島だ。野兎や蛇は沢山生息しているだろう
俺は、洞窟から出るとサバイバルナイフを片手に森の中へ足を踏み入れた
適当に歩いていれば動物を見つける事が出来るだろうと思っていたが、そう簡単にはいかなかった
動物たちも雨の気配を感じたのか、雨宿りしているかの如く身を隠していたのだ
追い打ちの様に雲は島の上空まで勢力を伸ばし雨が降りだして来てしまった
いくら防水加工をしてあるマントを羽織っているとは言え、体を冷やして体調を崩すのは本末転倒だ。狩りを諦め、拠点に帰ろうと後ろを振り向いたら……………………簀巻きにされた男が吊るされていた
「――――……はぁ?」
一瞬、放心してしまったが男が吊るされていた
なにを言っているか俺にも理解は出来ないが、見覚えのある男が簀巻きで吊るされていた、大切な事なので二回言う。そして思った………何故?
「あ、アキト!」
「……貴様は何をしている?」
「はは、簀巻きにされて吊るされているよ」
「見ればわかる。…お前なら直ぐに脱出出来る筈だ。……何故しない?」
「ちょっと反省の意味を込めてあの子が許してくれるまでこのままで居ようかな~って」
最初は呆れてモノが言えなかったが、タスクが口にした言葉を思い返し周囲を警戒した
「どうしたんだ、アキト?」
いきなり警戒の色を見せた俺を不思議がり、声を掛けて来るがコイツは俺の招待を忘れているな?
「俺は、指名手配のテロリストだ。正体を見られて発砲されるなどザラにある………それに彼女は『アルゼナル』に所属はしている、射撃の心得はあるだろう」
「え!?彼女はそんな事はしないよ!」
「…お前の服に硝煙の残り香がついている。少なくともお前は撃たれた」
「あ、あれは!「ッ!」あ、アキト!」
「僅かだが小枝を踏み折る音が聞こえた。俺は隠れる」
俺は、タスクをそのまま放置し木の上へと姿を隠した
これで現れたのが猪や熊であれば俺は笑い者になるが、腹いせに今晩の飯になってもらう
懐から拳銃を取り出し、音のする方へ向けると予想通り、青色のライダースーツを着たアンジュリーゼが足取りの覚束ないままフラフラと出て来たのだ
……息を潜めて狙いを定める。幸い、
いつでも発砲出来る体制のまま、様子を伺うがアンジュリーゼは俺の予想を裏切り、その場で倒れ伏せたのだ
「ッ!だ、大丈夫かい!?」
慌てて縄を切り、簀巻きから脱出するタスクを伺いアンジュリーゼが演技ではなく本当に倒れた事を確認してから俺は木の上から降りた
「どうした、タスク」
「……毒蛇だ。毒蛇に噛まれている」
タスクが指差す先は、股間部に近い太もも……二つの出血と肌が青く変色している事から噛まれてそれなりに時間が経っている事が窺えた
「……血清が無い今助かる可能性は低い。『ヴィルキス』だけでもッ!何をしているタスク!?」
アンジュリーゼに見切りをつけ、『ヴィルキス』だけを回収しようと考えていた俺は、タスクの取った行動に驚きを隠せなかった
………アンジュリーゼの股間に顔を埋めていた
しかし、その誤解はタスクが顔をあげ口から血を吐きだした事によって解消される
「毒を吸い出しているのか?……既に毒が体を回っている可能性がある。助かるかどうかはわからんぞ?」
「それでも何もやらないよりはマシだ」
再び顔を埋めて毒を吸い出す、その作業を何回か繰り返し出血が収まった頃合いを見計らってタスクは彼女を抱きかかえた
「アキト、早く戻ろう!」
俺に手伝うように言ってくるが、俺が先程言っていた事を完全に忘れているな?
……だが、俺の手で奪えない命になんの価値が無いのも事実。せめて見極めてから俺が殺してやるか
「武器は俺が預かる。……先に戻って火を熾す」
タスクから拳銃を受け取ると、俺は急いでキャンプ地へと戻った
案の上、人一人を抱えてくる人間より、鞄しか持っていない俺の方が先に辿り着く事ができ、火を熾しお湯を沸かす
そして鞄の中から薬瓶と注射器を取り出し、中に詰めた
これは血清と言う訳ではなく、どこにでもある変哲もない抗生物質だ。
蛇の毒は品種によって全て違う為、その品種にあった血清を使わなくては意味がない。しかし、そんなピンポイントな血清など持っている訳がない
「アキト!」
「戻ったか……そこに寝かせろ」
薬が詰め終ると同時にタスクも到着する
タスクの使っているベッドに寝かせ、針を撃ち込んだ
「アキト、それは……?」
「抗生物質だ。焼け石に水かもしれないが、弱っている彼女には撃っておいた方がいいだろう」
「そ、そうなんだ……」
意外そうに顔を驚かせるタスクを横目で見ながら薬品を片していく
そんなに意外そうにされたら俺だって傷つくぞ?
「…意外か?」
「え!?う、うん。アキトの事だからそのまま、見殺しにするか薬と偽って毒を注射すると思っていたから……」
「心外だな」
タスクの言い分に一瞬、手を止め抗生物質と一緒に空気の入った注射も片した
「後は彼女次第だ。……せめて風邪を引かない様に体を温めてやる事だ」
「うん、ありがとう」
「ふん、お礼はそこの女に言って貰いたいものだな」
雨が降り注ぐ中、島に流れ着いた『ヴィルキス』の乗り手は厄介事しか運んでこなかったのであった
「タスク、俺は食材をって何をしている!?」
「え?風邪が引かないように体を拭いてるだけだよ」
「……なぜ、服を脱がす」
「濡れているじゃないか!乾かしてあげないと!」
「……もういい、勝手にしろ」
登場しているのに一言も話していないアン子(キナコ)
サラの時のだけど彼女達は話した為には一話開ける必要があるのかもしれない