クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~   作:誤字脱字

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2話連続投稿

本当なら来週、投稿する予定でしたが出張がはいるので急いで書き上げました


※作者はシリアスが苦手です
ログホラみたいにギャグが書きたい…



第十三話 甲冑師と騎士

「座標確認……ネットワーク接続……ミスルギ皇国……ヒット」

 

欝蒼と生い茂った森の中、俺はブラック・サレナで情報端末へ干渉し、情報を集め出していた。便利なモノでブラック・サレナを通してマナ端末へ接続するとマナが使えない俺でもマナ端末お使用する事が出来るのだ

 

「帰ってこれた、か……これでやっと本来の活動が出来るな」

 

端末に写るのは、皇家から『ノーマ』を排出してしまったミスルギ皇国の現状

『ノーマ』であったアンジュリーゼを匿っていた元皇帝ジュライ・飛鳥・ミスルギの失脚と元皇后ソフィア・斑鳩・ミスルギの訃報。そして新しくスメラギ皇国を納める事になった神聖皇帝ジュリオ一世の記事が写し出されていた

 

「皇帝の失態に伴う新皇帝の即位。……これはローゼンブルム王国も忙しいだろうな?」

 

ミスルギ皇国と繋がりが深いローゼンブルム王国にもその影響が出ていると思われ、今頃アンジュリーゼとの交流があった者の見直し、神聖皇帝ジュリオ一世との今後の交流についてなど慌しく会議が行われている筈だ

 

そして俺の読み通りなら、この収拾にミスティ・ローゼンブルムも駆り出され忙しい毎日を送っている。……事態の大きさから休みなく公務で出かけるお嬢様の護衛をしていたら本来の目的であるテロリズムに支障が出てしまうと思い、休暇を頂き事態が落ち着くまでローゼンブルム王家に近づかないようにと心掛けたと言うのに、別世界に跳躍してしまった事からだいぶ予定がズレてしまった

 

「いやドラゴンやアウラ、エンブリヲの事を知れた事は収穫だ」

 

死亡者を稼ぐ事は、直ぐに行えるが情報を得るには『運』の要素が強い。別世界の跳躍はプラスだったと考えた方がいいだろう

 

「なによりドラゴニウムだ。」

 

ドラゴニウム―――

別世界において膨大な力を持つエネルギー体であり、それを含んだ生物の『命』は『贄』として膨大なコストを稼ぐ事のできるモノだと判明した。しかし……

 

「サラマンディーネに協力するといった手前、ドラゴンを殺すのは控えた方がいいかもしれん」

 

殺人鬼に身を落としておきながら、彼女の志に当てられてドラゴンを殺す事に躊躇を抱くようになってしまった。

……人を殺す事に躊躇はない。だが、それは何も考えずに悠長に生きているこの世界の人間だからだ

別世界の人々は目的があって、祈願があって志があって侵略してくる。そんな思いを抱いた人達を殺すのは、痛まれない

 

「……今後、狩り取るドラゴンは大型種だけに絞るか」

 

だからと言ってコストの稼げるドラゴンを殺さないと言ったらそう言う訳にもいかなくなる。デミウルダスの契約を寿命の内に達成するのはドラゴニウムを身に宿す生物の殺害は何よりの近道なのだから

 

「後は、遭遇してから考えるとして今は……現状を打破が先か」

 

端末の電源を落とし辺りを見渡す、空に見える太陽の日差しは眩しく、照らされた木々の深緑が目に染みた。

 

跳躍した後だと言うのに俺は相変わらず、森の中にいたのであった

 

 

 

 

クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~

 

第13話 騎士と甲冑師

 

 

不運は続いていた

ドラゴンの襲撃により齎された別世界への跳躍、ドラゴン及びサラマンディーネとの戦闘、偽りの世界への帰還………思いもしない機体の酷使にブラック・サレナは悲鳴を上げオーバーホールをする必要になったのだ

 

本来なら拠点であるセフティーハウスで行えばいいのだが、飛行ユニットにも不具合が発生している為、無闇に動かす事が出来ない状況に陥ってしまっている

不幸中の幸いと言うべきか?……オーバーホール自体は機体能力と簡易修理で補える。全てをバラす必要もないのでブラック・サレナ自体の休暇と考えればいいのだが、移動手段が無くなったのは痛い

 

「……悲観していても仕方がない。明るいうちに水と食料を確保しよう」

 

重い腰をあげ、サバイバルナイフと拳銃をホルダーに仕舞い込み道無き道を切り進める

生い茂った草木は侵入者の行く手を阻み視界と体力を奪っていく。いくら鍛えているとは言え慣れない道を切り開きながら歩くのは体力をごっそりと削り取られる。

……最中に獣道を発見していなかったら、日が出ている内に川を見つけ出す事も出来なかったであろう

 

獣道の先にあった河原で喉を潤す、環境汚染も毒物も流されていないマナ世界の川は安心して川水を飲めるのが、唯一良い所だな

 

「これで水源に困る事はないな……ん?」

 

水源の確保に一段落していると上流の方からカランと軽い金属の音が聞こえ視線を移せば缶にひもを括りつけただけの簡易的な浮が石とぶつかり音を奏でていた

無人島ならではの放流物かと気になり紐を辿り寄せてみれば中身が入った飲料水が括りつけられ川に沈められていた

 

「これは……天然の冷蔵庫か?懐かしいなぁ~、俺もヒルダちゃんとよく村の川でッ!」

 

言い終える前に体が動き、急いでブラック・サレナの元へと戻る事になった。

この天然の冷蔵庫が示す答えは、ここが無人島ではなく人が住んでいる事実を示しているからだ

もし原住民にブラック・サレナを発見されてみろ、ブラックボックスの塊であるブラック・サレナは、必要外な敵を生み出し、ただえさえ狙われている俺の身柄を更に危険に導く可能性を秘めているのだ

 

歩んだ道である獣道を全力で走りながら、過去を振り返れば思い当たる節はあった。

水源まで続く獣道は、ココに住む現住人が住みやすいように開拓している可能性、灯りや人工物がないからと言って隠れ住んでいる住民の可能性、あげれば多く出てくる可能性に配慮しなかった自分を殴りたくなってきた

 

やっとの思いで草木をかき分け、ブラック・サレナの元へと戻った俺の眼に飛び込んできたのは………ブラック・サレナの操縦席に手をかけようとする一人の青年であった

 

―――パァンッ!

 

乾いた音と共に撃ちだされた弾丸は青年の手を止めた

 

「き、君は…?」

「恨みはないが、その命狩らせてもらう」

 

続けて鉛弾を撃ち放った

青年の急所を狙って撃ち出された弾丸は、男の肩を掠めるだけで全て回避されてしまう。その動きで相手が、対人戦闘に心得があると判断するに値し、更に攻撃の手を強めた

見た目通り身軽に動き回る相手、弾薬は、残り僅かしかないと言うのに次々に、避けられこれ以上撃っても無駄弾になると判断した俺は、ナイフを握りしめ、青年に接近戦闘を試みた

 

相手の力量がわからない状態で接近戦を仕掛けるのは、ある種の賭けだが、今後のサバイバル生活において重量なファクターである拳銃をただの鉄の塊に変えるのは早すぎる

 

大きく斬り付けるのでなく、コンパクトに振るい出血による意識の低下を狙うが相手もナイフを取り出すと応戦し始めた

 

ナイフがぶつかり合う度に火花が散り、見た目の優男からは想像出来ない程の端麗された太刀筋で俺に対抗してきた

 

「くっ!なんでいきなり襲いかかってくる!」

「……目撃者は殺す」

「殺す!?ッ!俺はそう簡単に殺されたりはしない!」

 

幾度なくナイフを合わせ、殺しにかかるが衣類を掠めるだけで決定打を与えられなかった。むしろ、こちらの動きに慣れてきたようで隙あらば俺の手を拘束しようと掴みにかかる程だ

 

「っく!しぶとい!」

「そう簡単に殺されはしなない!うおぉぉぉッ!」

「ッ!?」

 

雄叫びをあげながら捨て身の覚悟で男は接近し、俺のナイフを弾き飛ばした

男は直ぐに俺から距離をおき、飛ばされた俺のナイフがある場所まで後退した

 

「……」

「勝負ありだ……訳を話してくれ」

 

弾き飛ばした俺のナイフを拾い、形勢が逆転したとばかりに此方にナイフを向けて来るが、何もナイフだけが武器だと考えているのは頂けないな?

これは剣や刀で勝者を決める騎士の決闘でも武士の戦でもない。殺し合いなんだよ

 

「距離を空けた貴様の負けだ」

「ッ!」

 

俺は懐から拳銃を取り出した

無駄弾は撃ちたくなかったが、このまま長引く訳にもいかない

 

「貴様は俺の質問に答えろ……いいな?」

「……」

「沈黙は『死』だと思え」

「……タスクだ」

 

沈黙を続ける男に銃口を向けると苦虫を潰した様な顔をしながら口を開き名前を名乗った

……それが普通の反応だよな?間違っても刀を突きつけられたり銃口を向けられたりして笑う方が可笑しいよな?

別世界で出会った少女とは違い、年相応の反応に安堵の息をこぼしながら更なる質問を問いかける事ができた

 

「コイツをどこまで調べた?」

「外装を見ただけ、内部システムは見ていない」

 

ブラック・サレナの外部装甲は現在している素材を使われている為、見られても困る事はない。直ぐに殺さなくても大丈夫か……

 

「その技量はどこで身に着けた?」

「……両親と仲間から」

 

俺も博士から学び、鍛えていたがコイツの技量は相当なモノだ

少なく問も俺と違い、専門家から直接指導を受けていた感じがする

 

「仲間とは誰だ?」

「ッ!」

「言え」

「……パァンッ!――ッ!?」

 

口を閉じ黙秘の姿勢をとった男の足元を撃ち、威嚇する

 

「次は当てる……仲間とは誰だ?」

「……レジスタンスの仲間だ」

「レジスタンス、だと?」

 

思いも寄らない答えに俺は眉間を寄せた

レジスタンスとは、自由と解放を求める政治的抵抗運動の事を言う

マナ世界において自由や解放を求める行動など存在しない、『アウラ』の力により永久的な平和が意図的に作られている今なら尚更だ。すると考えられる事は一つ……

 

「……『ノーマ』を解放する為か」

「ッ!君は『リベルタス』に関わっていたのか!」

 

『リベルタス』の意味は『自由』

『自由』を得る為に抵抗運動を行う集団、男の言葉から察するに活動は過去に行われていたモノ。だが、世界にそのようなニュースは出回っておらず、記事も見た事がない。そこから導き出されるのは隠密に値する情報で、世界が民衆に隠す事柄はドラゴン、『マナの源』、別世界。いやもっと簡単なモノだ。『ノーマ』のその後と『ノーマ』が扱うモノ。

 

「……最後の質問だ。貴様は『パラメイル』を知っているか?」

「ッ!なんでその名前を!」

「殺すのは辞めだ。…その代わりに情報を貰うぞ」

 

俺は銃口を付き付けたまま、男…タスクを拘束したのであった

 

 

 

 

「『ヴィルキスの騎士』……世界に反旗を起こした一族、か…」

「あぁ、彼らは『ヴィルキス』の操縦者アレクトラと一緒に世界と戦い……敗れた」

 

タスクを縄で拘束した後、俺は反撃が出来ないようにしてもなお、銃口を向けたまま彼の持つ情報を聞き出した。……隙をついて脱走もしくは反撃に出ると予想しての行動だが、『ヴィルキス』と言う言葉を出せば先程の態度が嘘のように警戒心を無くし自ら情報を流してくれた

 

そしてタスクのくれた情報を纏めると……

『リベルタス』―――『ノーマ』の解放を目的とした世界に対する反逆行為

『ヴィルキス』―――反逆の際、数多の犠牲の元、敵から奪取する事に成功したパラメイルの原型にして、『ラグナメイル』と呼ばれる最初の機動兵器

そして『古の民』――――世界が『アウラ』の恩恵を得る世界に変わる前に栄えていた『マナ』に適応しない本当の意味での人間。彼らは『ノーマ』と協力し世界に反逆した

 

敵の兵器が、こちらの戦力の要と言うのが些か馬鹿らしく思うが『ノーマ』の抵抗運動が既に行われていた事を知る事が出来たのは、ちょっとした収穫だ

博士が生前『友人を助ける』と言っていた意味が理解出来た。……政治的・技術的に『ノーマ』の社会地位向上を目指す前に『リベルタス』による、『ノーマ』の解放を願い『ヴィルキスの甲冑師』として戦っていた・・・・・・・・それがわかっただけでもタスクを生かしておいてよかったと思える

 

「大凡は理解した……すると貴様も『ヴィルキスの騎士』なのか?」

「俺は……違う。ッ!?銃を向けないでくれよ!」

 

なんとも煮え切らないYESでもないNOでもない返答に俺は銃口をタスクの頭に向けた……男ならしっかり言え!貴様の返答次第では、この後の処遇が変化するのだからな!

 

コイツが『ヴィルキスの騎士』ならば今度、『リベルタス』関係者とコネクトをとる可能性があり、『アルゼナル』に面識のある俺にとっては不味い事態を引き起こる可能性が出ているのだ……だったら始末した方がいい

 

「貴様は『騎士の末裔』。……後を継いでいないのか?」

「……」

 

最終確認も込めて問いかけるが、返答はない

銃口を額に当てて、口を開くように促すが、一向に話す気配はなかった

 

……これ以上、情報を流す事を拒否しているのかと思えばアイツの眼には『抵抗』と言う強い意志ではなく、『困惑』と言う迷いの色が見えていた

 

そこから読み取れるのは、明確な意思もなく自分のすべき使命を拒否し現実から逃げている情けない感情だと理解した

理解した瞬間、俺の興味は一気に無くなり、いつも通りの腐った一般人と同じに見えてしまってどうでも良くなってしまった

 

「……興ざめだ」

「え、どこに?」

「機体の修理だ」

「な、なら縄を解いてッ!…もっと優しくしてくれよ」

「知らん」

 

命の奪われる可能性が無くなった安堵から俺に解放の要求をしてくる奴に向ってナイフを投げ放つ。……拘束されていると言うのにナイフの軌道を読みとり、縄だけが斬るように体を動かしたアイツの技術は一昼一夜で身に着くようなモノではない

 

だからこそ俺にはわかる。……コイツは、『力』を持ちながら踏み出す勇気のない臆病モノだと

 

「……俺は継いだぞ、『ヴィルキスの甲冑師』の名を」

「………え?」

 

それが、昔の自分にダブって見えて知らずの内に口が開いていた

 

 

 

 

あれから俺はブラック・サレナの修理に没頭した

本来であれば別世界にいる間にある程度、整備しておけばこのような事態にはならなかったのだが、焔龍號を弄るのに夢中になってしまったが為に、整備を怠ったツケが今に回ってしまったのだ

 

故障部は、機体能力で治るがOSの変化や武器の調整、スラスターの出力調整など細かい所までは治らず、自らの手で修理、調整しなくてはいけないのだ

 

黙々と作業を続ける俺は、やはり博士の子だな?と思ってしまう

直接、血が繋がってはいない。だけど幼い頃からずっと博士の背中を見て育ったせいか、博士が好きだった事を俺も好きになるのに時間はかからなかった。

 

博士が好きだった物……研究に打ち込む博士はカッコよく俺は憧れ受け継いだ

サラマンディーネと焔龍號を弄った時もそうだが、機体の整備を行うと時間を忘れ作業に没頭し周りが見えなくなる程楽しんでしまう………だから、俺に近づく人影を察知出来なかったのだ

 

「……なにようだ」

「夕飯たべてないだろ?一緒に食べよう」

 

顔をあげた先には、この島に居座る青年タスク

どこから持ってきたのか知らないが、シチューの入った器を二つ持ち俺に声を掛けてきたのだ……………が、俺は応じる事無く作業を続けた

 

「野兎が罠にかかっていたから久しぶりに肉を食べれるよ」

「………」

「隠し味に山ブドウを入れたんだ。酸味が出て美味しいと思うよ?」

「………」

「ははは、はぁ~」

 

暫くの間、俺の気を引こうと色々と話しかけてくるが、まったく応じる事無く放置していたが、乾いた笑い声と共にこぼされたタメ息で彼が纏う空気が変わった事に気づいた

 

「……『甲冑師』と言う事は『ノーマ』の為に戦っているんだよね?」

 

いや、俺は俺の目的の為に戦っている。その結果に『ノーマ』の解放が付いていただけだ

 

「はなし、聞いてもらっていいかな?」

「……」

「俺も『ノーマ』を解放したい、こんな世界間違っていると思っている。だから『ヴィルキスの騎士』として共に戦うのが一番だと思う。だけど……怖いんだ。」

「……」

「どこの誰と知らない人間と共に為に戦って死ぬ事が怖いんだ」

「………」

「だから使命から逃げてここで暮らしている……笑いモノだろ?」

 

確かに今回の『ヴィルキス』の乗り手は、まだ知らない

前の乗り手であるアレクトラは人望もあって『リベルタス』を行えるほどの同士が集まった事は博士が『リベルタス』に参加していた事から判っているが、アレクトラが死んだ今、

誰とも知らないモノの為に命をかけろと言われたら誰だって逃げだす事を選ぶ

しかし……

 

「知ればいい」

「……え?」

 

それを言い訳にするのには些か男が廃ると言うモノだ

俺は作業を辞めて、ブラック・サレナのコックピットの淵に腰をかけ、煙管に火を入れた

 

「知らないのなら知ればいい。そこで命をかけるに価しない人間なら共に戦わない」

「でも、『騎士』の名前を継ぐのなら」

「なぜ『騎士』を名乗る事と戦う事が直結する?」

「そ、それは『騎士』は共に戦う事が 「そこに貴様の意思はあるのか?」 ……どういう意味だ?」

 

若いと言うのに頭硬いなコイツは……

 

「名を継ぐ事と戦う事はイコールにはならない。現に俺は『甲冑師』の名を継いだが『リベルタス』にも『ヴィルキス』にも協力するつもりはない」

「えっ!?」

 

俺は、オマエと出会うまで『ヴィルキス』も『リベルタス』も知らなかった人間だ

今更、『甲冑師』とは『ヴィルキス』と一緒に戦う人達だと言われても納得が出来る筈がない。俺が『ヴィルキスの甲冑師』を名乗っている理由なんて単純なモノ

 

「俺は『ヴィルキスの甲冑師』と言う名前を利用しているだけだ。それに博士が……尊敬していたツキヨ・ミルキーウェイが名乗っていた『ヴィルキスの甲冑師』の名を彼女の子である俺は継ぎたかった。……それだけだ」

 

今では『黒百合の悪魔』と言うテロリストとしての通り名もあるが、博士の生き方を誇りに思う俺が彼女の後姿を追いたくなるのは男として当たり前だ

 

「…貴様は親が名乗っていた『騎士』を継ぎたいとは思った時はないのか?親の生き方に憧れた事はないのか?」

 

俺の言葉を受けてタスクは星空を見上げた

無人島とう事もあり、人工光がないココでは万弁の星空を見る事が出来る

僅か沈黙の後に、タスクの口が動いた

 

「俺は……両親が戦う姿がカッコいいと思ったし、人間の為に戦う二人に憧れもした。・・……俺は『騎士』の名を継ぎたい」

「なら継げばいい。あとは『ヴィルキス』の乗り手が仕えるに相応しいかどうか見定めろ」

「見定める……はは、そんな事考えた事も無かったよ」

「貴様は真面目に考えすぎた」

 

同じ真面目でもサラマンディーネは、要用よく考える事が出来ると言うのに、男と女と云うだけでここまで違うモノなのか?

 

「ははは、そんな事初めて言われたよ!」

 

……それに危機感も感じてはいない

今も俺は、タスクが持ってきた食事には手を出していない。だと言うのに満面の笑みを浮かべながら語りかけてくる。……きっとアドバイスをくれた俺に対し感謝の意が先行しているのだろう

 

「貴様は判りやすい。少しは警戒しろ、俺はお前を殺そうとした人間だぞ?」

「そうだったね……でも、なんだろう。周りに大人しかいない環境で暮らしたせいかな?年の近い友達だと思うと気が休まるよ」

「ふっ……友達とは大きくでたな?」

 

思えば俺も初めて同年代の同性とこんなにも沢山話しているな

気の緩み……世界から狙われている俺には決してあってはならない事だが、張り詰めた風船は直ぐに割れてしまう。だから、いやだからこそ―――

 

「アキトだ」

「え?」

 

気を休める事が出来る弟分の面倒ぐらい見てやるのも一興だな?

 

「『ヴィルキスの甲冑師』アキト・ミルキーウェイだ。よろしくしなくてもいい」

「アキト・ミルキーウェイ、黒百合の悪魔……いや、君は『甲冑師』だったね?……俺は『ヴィルキスの騎士』タスク、よろしく」

 

 

俺達は手を出し合い、握手を交わすのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!……スープに山ブドウを入れるのは止めろ」

「え?口に合わなかったかい?」

「美味いが……俺は好きではない」

「アキト、好き嫌いとかよくないよ?」

 




次回 騎士と甲冑師と痛姫……かな?

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