クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~   作:誤字脱字

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今回は前半はスポーツ漫画ですw

とりあえず原作を齧りました

次から原作をそっていきます




第十話 皇女の秘密

「みなさん、よくここまで一緒に戦ってくださいました。…私、ミスティ・ローゼンブルムはみなさんと一緒に戦えた事を心から誇りに思います」

「「「ミスティ様……」」」

 

試合前の最後のミーティング、お嬢様は選手一人一人の顔を見ながら感謝の言葉を伝えていく、勿論マネージャーとしてこの場に居合わせる俺にも視線を送り、感謝の意を伝えてきた

 

俺は片手をあげ、お嬢様に答え先を促す

 

「ですが、ここが終着点ではありません!私達は母校フロリア学園の為にも鳳凰院エアリア部に勝利し優勝旗を持ち帰りましょう!」

「「「はい!!!」」」

 

気合十分、士気も悪くない。……最後らしくマネージャーらしい事でもしておくか…

 

「……鳳凰院エアリア部は、アンジュリーゼ皇女が立て直した部活だと言っても過言ではない。マークすべきはアンジュリーゼ皇女。過去の試合も決定点は彼女が叩きだしている。………彼女からマークを外すな」

「「「はい!ツキト様!」」」

「………様付けはやめろ」

 

何故か知らんが、一年間マネージャーとして選手をサポートしていただけなのに主務だけでなく作戦参謀のような地位に付けられお嬢様同様、崇められているのは納得いかん

 

チームメイトの返事を満足そうに聞き、笑みを浮かべたお嬢様は先頭をたって競技場に足を踏み入れた

 

「みなさん!練習の成果を出し切り悔いの残らない試合をしましょう!」

「「「はい!ミスティ様!」」」

 

俺は、エアリアに乗り込むお嬢様を見送りながらポケットに忍ばせた一発の弾丸を弄ぶのであった

 

 

 

クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~

 

第十話 皇女の秘密

 

 

 

試合は、2-2の接戦を繰り広げており、本当に廃部の危機に面していた部活なのかと疑いたくなるほど鳳凰院の選手は機敏な動きを見せていた。こちらが先制点を入れたとしても直ぐに取り返し、また引き離しても喰らいついてくる………自分達が上手く相手のマークを引き込んだら決めてくれると信じているんだろうな、アンジュリーゼ皇女の事を……

 

そして、その期待に応えるかのようにアンジュリーゼ皇女は動き、マークを外した瞬間、電光石火の勢いでゴールを決めてくる。現に入れられた2点はアンジュリーゼ皇女があげたものであるから驚きである

 

反射神経、状況判断能力、視野の広さ……どれも選手として一級品であり、その身体能力の高さから本当に温室で育った皇族なのかと疑問に思うぐらいだ

 

試合も後半に差し掛かり、残り時間もあと僅か……このまま試合が行われたら引き分けの延長戦になるだろう。それが導く答えは、こちらにとって不利な状況になると言う事

延長戦は、先にゴールを決めた方が勝利する先取点制………時間制なら新規参入の裏をついてスタミナ切れを狙ったり、時間稼ぎをして敵の虚を突く事もできる……しかし、先取点制では話が変わってくる

 

鳳凰院エアリア部は、アンジュリーゼを除けば一回戦敗退する様な選手の集まり、戦略もスタミナも技術も無いカスの集団だが……アンジュリーゼと言う絶対的なカリスマが入る事によってその力は計りきれなくなる。なによりその爆発力が脅威である

 

選手全員がアンジュリーゼのプレーを支える事に全力を出せば、一点先取などモノの数秒で成してしまうのだからだ

 

……流れで参加してしまったエアリア部だが、この一年で思い入れはある。

彼女達の努力も意気込みも十分に理解している。それを挫くようなら俺はミスルギ皇国を敵と断定し全力でフロリア学園エアリア部マネージャーとしてローゼンブルム王国に肩入れしよう!

 

俺は、タイムアウトを申請した

次々にベンチに戻ってくる選手にドリンクとタオルを渡しながら一人一人に声を掛けていく

 

「ルナとメイリンは、アンジュリーゼのマークを中止しろ」

「え?それだとアンジュリーゼ様のマークが無くなります!」

「せめて私だけでもッ!」

「ルナ、メイリン少し待って……ツキトさん」

 

ミーティング時の意見と全く反対の事を言う俺に、ルナとメイリンは抗議の声を上げるが、お嬢様はそれを手で制して俺にどういうことか追求してくる

 

「前後半を見て判った。…アンジュリーゼが直接ボールを奪いに来ることはない。彼女の役割は本当に点取りだけだ」

「では……」

「あぁ、アンジュリーゼにボールを回さなければいい。ルナはアキホ選手、メイリンはマキ選手にマークをつけ……この二人からのパスは異常な程、アンジュリーゼに回る」

「「わかりました!」」

 

俺の指示を受け、再び空を舞うエアリア

ルナとメイリンも指示通りアンジュリーゼのマークを辞めてアンジュリーゼのノーマーク状態にした

鳳凰院エアリア部は、これを好機と見たのか盛んにボールを回しに掛るが、その判断は悪手である。マークが増えボールを奪われ易くなったと言うのに相手の作戦は変わらずアンジュリーゼの一本頼り、そんな穴だらけの攻め方が通用する事などなく、先程の接戦が嘘だったかの様に容易に点を奪う事が出来た

 

「みなさん!守りに入ってはいけません!攻め続けましょう!」

 

お嬢様の声を受けて更にあがる士気。お嬢様の言う事は間違ってはいない

ここで守りに入ってしまったらアンジュリーゼを自由に泳がせる事になってしまう

攻める事により彼女の移動コースを絞り、対策を練りやすくさせた方が俺にとっても都合が良い!

 

残り時間も3分を切り、鳳凰院サイドは焦りの色を出し始めて来ていた

その事はプレーにも現れており、選手同士の接触プレー…一歩間違えれば反則に入る程のラフプレーが行われている。本人達にその気がないのは重々承知している、焦りからプレーが雑になってきているだけ……ただそれだけなのだ

 

元より、競技場上空でエアバイクをぶつけ合ったり、スティックで相手選手に攻撃しても危険行為と認定されないかなり荒々しいスポーツであるエアリア。反則に対するジャッチが緩いのはココにいる選手観客全てが分かっている事なので野次やブーイングなど飛ばされる事は無い……まぁ、王族と皇家の出場する試合に飛ばす馬鹿はいないけどな

 

俺は、荒ただしくなってきたフィールドに視線を送りながら機材を組み立てていった

他人の眼から見て今の俺は、荒れてきたフィールドにおいて、怪我人がでる事を考慮し応急処置ができる準備をしている様に見えるだろうが……担架の下に隠れる俺の手には一丁の拳銃が握られていた

 

………この時を待っていた

 

このスポーツは不思議なモノで荒々しいスポーツだと言うのにエアバイク搭乗者への安全策は講じられておらず、高度に関する規定も明確な決まりはない。そのため、トラブルやアクシデントで高い位置から落機した場合の死亡例が少なからずあるスポーツなのだ

 

ただアンジュリーゼが落機するのを待ち、不慮の事故で死ぬのを待つのには幾千の偶然が重なり合って起こる出来事……そんな運命の悪戯を待つよりは確実に殺す事ができる方法をこの一年考え続け、答えを出した

 

……握られる拳銃に、事前に用意しておいた弾丸を詰め込む

この弾丸こそが俺の出した答えであり、運命の悪戯を任意的に起させる『耐マナ貫通弾』

……毒を詰めた錠薬をマナで包み込み、弾丸の形まで削り整えただけの只の弾丸

 

だが、この弾の真骨頂はマナによる『障壁』を貫通する事は勿論、相手のマナに干渉し痛みを極限まで抑える事が出来る事だ。撃たれた相手は針が刺さった程度にしか感じなく、本命である錠薬が体内に侵入している事など気付かない内に毒が体内を広がり死に追いやる

殺傷性より付属性を追求した暗殺するには。この上ない最強だと思える弾丸なのだ

 

――――後は、簡単だ

念には念を入れて、僅かな痛みを誤魔化す大きな痛みが起れば……自分の身体に毒が入れられた時に気づく事は無い

俺は、マネージャーとして試合の中止を望まないが……試合後、どうしようが知った事ではないからな

俺は、危険なプレーが多くなってきたフィールドを見ながら虎視眈々とチャンスを窺う

 

 

そして、その時が来た―――

 

 

強引にボールを奪いに来た選手がエアリアからバランスを崩し、宙に投げ捨てられたのだ

あの高度から落機しては重症…下手をすれば死に繋がると誰もが思うが緊迫した状況に一人を除いて誰も動けずにただ眺める事しか出来なかったのだ……そう一人を除いて

 

アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ

彼女は、自分の身を挺して彼女を助ける為に宙に飛び出したのだ

 

器量に空中でチームメイトを抱きかかえる彼女に観客たちは息を飲み見守り、そして俺は――――息を殺して地面と接触する瞬間を狙った

 

彼女の命は今夜中に亡くなる。黒百合は後で送ればいいか……毎度の決まりごとを考えながら撃ちだされる弾丸は―――

 

――――ドサッ!

――――パリンッ!

 

地面に叩きつけられた音と共に砕け散った

そして、何事も無かった様に立ち上がる二人に観客達は安堵し、試合終了を告げるブザーがフロリア学園の勝利を告げた

 

勝利を喜ぶフロリア学園エアリア部、それを祝福する観客達。そしてアンジュリーゼの健闘を労う言葉が、さらなる興奮を生み出した

結果だけ見れば、とても素晴らしくスポーツマンシップに沿うような両者の試合であった

 

この場にいる全員が、拍手を選手に贈る中、俺だけは驚きでその場に立ち尽くしてしまった

 

フロリア学園の優勝?暗殺の失敗?黒百合は枯れていないか?色々な事が頭の中を巡り思考をグチャグチャにかき回すが……一つだけ、ただ一つの事実だけが頭の中にはっきりと残り続けた

 

 

―――――コイツは、『マナ』を無効化した

 

 

その事から導かれる答えは一つ、彼女は『ノーマ』である事……

『ノーマ』だと言う事実自体はたいした事はない、今この場であっても隠れて試合を見ている『ノーマ』がいるかもしれないし、検疫官に確保されるだけの存在だ

 

……だが、彼女の立場が一般的な『ノーマ』である事を否定した

ミスルギ皇国において絶大な人気を誇るロイヤルファミリーの一人であり、皇女でもあるアンジュリーゼが『ノーマ』である事

『マナ』が信仰し、誰よりも『ノーマ』の根絶に希望を抱いていた存在が『ノーマ』であった事実に俺は、激しい怒りと同時に憐れみの感情を抱いた

 

「15、いや明日で16か……よくも誤魔化しきれたモノだな」

 

フィールドに足を踏み入れ、ゆっくりとお嬢様の方へ向かう

マナが破壊され、錠薬が剥き出しになった毒を回収する事も忘れずに……

 

「お嬢様、優勝おめでとうございます」

「ありがとうございます。これもツキトさんのサポートがあったおかげだとチームメイト全員が思っておりますわ」

「素人のサポートでここまで言ってくれるのなら頑張った甲斐があったものだ」

「ふふふ、素人なんてご謙虚を……貴方の笑顔を見れば満足していた事など丸判りですわ」

「……俺は、いま笑っていたのか?」

「えぇ、今までの成果の集大成が優勝と言う名誉を手に入れたのですから、笑みを浮かべても問題はないと存じますわ」

「そうか、笑っていたか……」

 

お嬢様には悪いが、この笑みは優勝に対するモノではないだろう

明日は、ミスルギ皇国でアンジュリーゼの『洗礼の儀』が行われる。その事が茶番過ぎて今から笑いが滲み出ていたんだろうな

 

「なにより、今日は休んだ……いや、祝賀会を開くのか?」

「はい!今日の喜びは今日の内に味合わなくてはいけませんわ!……いけませんか?」

「……今日は何も言わん。楽しめ」

「はいッ!」

 

チームメイトを引き攣れながら会場を後にするお嬢様の後姿を眺めながら俺は―――

 

「明日は、喜んでいる暇など無いからな」

 

と呟くのであった

 

 

 

 

「あぁ…アンジュリーゼ様、素敵ですわ……」

 

昨日の興奮が冷めていないまま、モニターに映るアンジュリーゼを見て微笑むお嬢様

傍から見たら百合に思える発言だ……

 

「紅茶を入れた。少しは落ち着け」

「ありがとうございますわ。ですが、どうも今日は落ち着く事が出来そうにありません!」

「そうか…。お嬢様が、その様子だとミスルギ皇国民はもっと興奮しているんだろうな」

「あぁ…私も行きたかったですわ」

 

興奮する事は許しても行く事は了承できないな。

高確率で暴騰が起きる。……こちらまで飛び火が来ては動きづらくて仕方がない

 

「ツキトさん、どちらへ?」

 

俺は、お嬢様に一礼し、この部屋を出ようとしたが、お嬢様に呼び止められる

 

「結果などわかっている見世物に興味はない。」

「み、見世物だなんて……でも確かに結果はわかりますわね。アンジュリーゼ様の『マナの光』が世界を照らす!想像しただけでも心躍りますわ」

 

あぁ、世界に混乱を呼び起こす光となるだろう

 

「あぁ…それと今日から暫く休暇を貰う。雇い主には話は通しておいた」

「え?休暇、ですの?」

「あぁ、最近エアリア部の練習で写真を取れていなかったのでな?長い期間、世界を周ろうと思う」

「そう、ですの……帰ってきたら写真を見せてもらっても?」

「あぁ、構わない。……夏には戻る。」

「はい、楽しい休暇を……」

「心使い感謝する。…俺からも一つ言っておく」

「なんでしょうか?」

 

今のお嬢様にアンジュリーゼは『ノーマ』だと言う事がわかったらショック死し兼ねないからな……事前に緩和しておくか……

 

「突きつけられた事実をゆっくり理解し、飲み込んでいけ……そして自分のやるべき事を良く考えるんだ」

「……え?」

「でわ、失礼する」

 

俺は今度こそ、部屋を出て屋敷を後にした

俺が屋敷を出てから数時間後、お嬢様の悲鳴が響いた事は俺は知らない

 


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