ではどうぞー。
鬱蒼とした森。
霧の影響で更に暗く不気味になったその中を、全身で風を切りながら直進する。
向かうは当然、首謀者の居る館だ。
(霊夢はもうとっくに行ってるか…まぁアイツなら負けないだろうし、少しくらい遅れてもいいか)
紫の頼み事に対し、そんな妥協した考えが浮かんでくる。
彼女がこの場にいたらきっと怒りを露わにするだろうが、霊夢の"最強っぷり"は俺が一番よく知っている。
正直見張りとか要らないとも思うが、それは交換条件なので仕方ない。それに友人の頼みだし。
そんなどうでもいいような事を考えて直進していると、前の方から爆発音がした。
「…やってるなぁ」
森の中で壮絶な戦闘を繰り広げているだろう少女たちを思い浮かべ、速度をあげる。
途中バヒュンッと通り過ぎた弾の形は、
やがて、森の開けた場所に出た。
「ほらほらどうしたぁ! そんなもんなのか人食い妖怪!!」
「うぅ〜! うるさい人間っ!」
そこで戦っていたのは、金色の髪に赤いリボンのような飾りを結びつけ、全身を黒い服に包んでいる幼い女の子。
対するは、同じく金色の髪を片方おさげにし、黒い服と白いエプロンのような前掛け、そして深々と大きな黒帽子を被った、箒にまたがる少女だった。
状況はどう見ても、帽子の少女が圧勢だった。
「ああもう! 闇符『ディマーケイション』!!」
小さい子がそう宣言すると、彼女を中心にして交差するような軌道で多数の弾が放たれた。実際弾同士は交差して、どんどん広がっていく。
が、それを目の当たりにしても帽子の少女は軽々と避けていた。
「確かに密度は濃くなったが、まだ私を倒すには足りないぜ!」
「っ、これからだよ!」
少女の言葉に反発した女の子は、両手を前に突き出して新たな弾を追加した。
まるでカマイタチが広がっていくような軌道で新たな弾が放たれていく。
序盤の交差弾も健在であり、弾の密度は更に増した。
「っ、ちぃ!」
軽く舌打ちをしながら、少女は更に速度を上げて弾幕を避けていく。
その動きはまるで…隙を狙っているようだった。
「そこだ!!彗星『ブレイジングスター』!!」
「なっ!?」
遂に弾幕の隙間を見つけたらしい少女は、高らかにそう宣言すると箒にスキーのように立ち、青い光を纏って凄まじい速度で突撃した。
その様子は、一つの流星を彷彿とさせる光景だった。
ズドォォオン!!と激しい音が響き、勝敗が決した。
砂埃の立ち上る地上には、大きな帽子をパタパタと振るう少女の姿が。幼い女の子はどこかに吹っ飛んだようだ。
「へっ、私に勝とうなんて十年早いぜ!」
少女はポスっと帽子を被り直し、箒にまたがって飛び上がるかと思いきや……こちらを向いて話しかけてきた。
「で、誰だか知らないが…お前何してるんだ?」
予想外で戸惑うも、目の前の少女…
「うん? 見物だけど?」
「こんな異変の真っ只中にか? 随分お気楽な人間なこった」
「お前も見た感じ普通の人間っぽいけどな」
皮肉のつもりでそんな言葉を返してやる。
面食らった顔をすると予想していたのだが、魔理沙は口の端を歪ませて言った。
「残念! 人間は人間でも…私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ!!」
そして、同時に弾幕を放ってきた。
「うおあっ!?」
脈絡も何もなく放たれた星の弾幕に辛うじて反応し、横っ飛びに避けた。
魔理沙の方を向くと、彼女は依然として笑顔を崩さずに箒を手元に戻していた。
「いきなり攻撃すんな!! 魔法使いには常識ってもんが無ぇのか!?」
「常識は持ってるさ。…先手必勝っていうな!!」
そう言って今度は箒に乗り、上空から円を描くように飛びながら弾幕を放ってきた。
文字通り四方八方から降り注ぐ弾幕を、必要最低限に避けていく。
っていうか、俺は見物って言ってんのになんで戦闘になってるんだよ。その事をもっと早くに突っ込むべきだった。
「おい魔理沙! 俺みたいな見物人と戦っても面白くないだろ! さっさと止めて異変解決に行けよ!!」
「あ? そりゃ本当にただの見物人だったらこんな事しないさ! ただお前は怪しいんだよ! こんな異変にも関わらず弾幕勝負の見物するような命知らずはな!!」
「そんなの勝手ーー」
「それに、何で私が異変を解決しに来たって知ってる?」
「………………」
あ〜っと、少しやらかしたっぽい。別に見物(という名の監視)しに来たのというのは何処も間違ってないが、魔理沙に余計な不審を与えてしまった。
どう考えても、俺の嫌いな"面倒事"突入まっしぐらである。
「怪しいヤツは、なんか仕出かす前に叩きのめす! 異変防止の最善策だぜ!!」
「理不尽過ぎるだろその理論はっ!!」
魔理沙の相手をしているとなんとなく突っ込みを入れずには居られない。その分話していて面白いって感じもあるが、まぁ悪い事では無いだろう。それを気に入る人も少なからず居るだろうしな。
…って、そんな呑気に性格判断してる場合じゃねぇ!
魔理沙は弾幕を放ちながら、手に持つ物を光らせて宣言した。
「魔符『スターダストレヴァリエ』!」
魔理沙の周囲に大小様々、そしてカラフルな星型の弾幕が形成されていく。その一つ一つが大きな威力を持っていると、放たれる力の感じで分かる。
「弾幕は…パワーだぜっ!!」
大量の星が俺に降り注いだ。
〜魔理沙side〜
「弾幕は…パワーだぜっ!!」
いつもの決め台詞と共にスペルを放った。ズドドドドドー…という音の後には砂埃が舞っている。
スペルはいわば必殺技。霊力も妖力も感じないこの男では立ち上がれない位にはダメージが入っているだろう。
「全く、最近のワカモノは好奇心旺盛過ぎて困るねぇ」
なんて、年柄にもない言葉を言ってみる。意味なんて無い、言ってみたかっただけだ。もしかしたら
変えたら負けた気になってしまう。
「あ、そういえば名前を聞いてなかったな…数ある私の武勇伝の1ページに刻むつもりだったんだが…まぁいいか」
私程になると妖怪相手にでも圧倒する事はザラにある。だから今回のような勝負もまた出来るだろうし、刻み込むのはまた今度でもいいと思った。
と、私は圧倒した快感で完全に油断していた。
勝負は終わったモノだと
「簡単に気ィ抜くなよ魔理沙」
「ッ!?」
突然声が聞こえたかと思うと、舞い上がる砂煙の中からレーザーのような弾幕が向かってきた。
急いで旋回して避ける。
何発か掠ったが被弾には至っていない。
「へぇ…意外とやるじゃんか!」
少し驚いたが、それは未知への恐怖ではなく、久しぶりに強敵と戦える喜びとして湧き上がった。スペルを食らっても平気、そして反撃までしてくる、そんなヤツはここのところ見ていない。
きっと今の私はさっきまで以上に口元が緩んでいるに違いない。
煙が晴れていくと、そこには先ほどと違って片手に青白い刀、もう片手には正方形の青い箱を浮かばせている男の姿があった。
この瞬間、私は先程とは別人の様な圧力を感じ、察した。
コイツ…私より強いかもしれない。
「勝負において、気を抜くのは相手の様子を確かめてからにしろよ。じゃないと今の様に反撃を食らう」
「……ッ ご教授ありがとうよっ!!」
初めと同じように、言葉と同時に弾幕を放つ。
先手必勝とは言ったが、要は"攻撃する前に攻撃する"っていう理論だ。
しかも今度は本気で力を込めた弾幕だ。スピードもあるし、簡単には避けられない。
私自慢の星型の弾幕は、流星のような速度で男に迫る。
対して男は、表情も体勢も崩さないまま、ボソリと言葉を発した。
「アステロイド・
言葉に反応したのは男が浮かべている正方形の箱。
少し光ったかと思うとそれが何分割にもされていき、その一つ一つが弾となって放たれた。それはレーザーの様相を呈している。
おそらく、さっき反撃に使ったのもあのアステロイドって奴なのだろう。
その弾は拡散式に広がっていき、私の方に向かってくるかと思いきや………私自身ではなく、私の弾幕に衝突していった。
「なっ!? 私の弾幕を…全て撃ち落とした!?」
「そういう弾なんでな。…で、名前だったか? ちゃんと聞いとけよ?」
そう、驚愕に心を染められている私に言い、男は名乗った。
「俺は神薙双也。お前は知らないだろうけど、魔法の森に住んでるご近所さんだ。よろしくな魔理沙」
「ご、ご近所さん!?」
し、知らなかった…私の近くにこんな猛者が居たとは…知っていたらすぐにでも弾幕勝負仕掛けに行ったのに。
…まぁそれはこの際良いとしよう。今実際に出来ているわけだし、異変が終われば家も探しに行ける。
魔法の森は、私の庭同然なのだから。
一頻り情報を整理すると、その双也と名乗った男が完全に臨戦態勢な事に気が付いた。
初めとは比べ物にならない力を感じる。
「じゃ、続きを始めるけど…俺もそろそろ急がなきゃいけないっぽいんだ。だからちょっと本気出す」
「は?……ッ!!?」
双也がそう言い、私が気が付いた時にはもう遅かった。
私と双也が戦っている空間のほぼ全てに、
「アステロイド・
「ちぃっ!! こんなんで私を止められると思うなよっ!」
双也が再び弾幕を放ち始めた。
でもこんなたくさん弾幕を撒き散らされたんじゃ、少し動いただけで被弾してしまう。それこそ、箒でスピードを出せばものの数秒で力尽きてしまうだろう。
……だが、打ち消してしまえば問題無い!
「! レーザーで相殺しながら進んでるのか」
「そういう事だ! やられっぱなしは柄じゃ無いんだよ!」
レーザーを放ちながら飛び、双也に向けても大量に弾幕を放つ。
途中で浮遊している弾に当たって消えてしまうものもあるが、大体は双也に届いた。が、アイツもタダではやられてくれないらしい。
「威力は高いけど…直線的過ぎるな」
小言を呟きながら、涼しい顔で刀を振るい、私の弾幕を事も無げに捌いていく。
挑発してるのか? いいぜ…乗ってやるよ!!
「…良いのか止まって? 言っておくけど、スロウトラップは少しずつ動いてるぞ?」
「いいんだよ。こんなちゃっちい弾幕、私のスペルの前では埃同然だからな!」
そう言い、ポケットから一枚のスペルカードを取り出す。
それは私が最も愛用しているスペル。
そして私の代名詞である、超パワー型のスペル。
「いくぜ! 恋符『マスタースパーク』!!!」
ミニ八卦炉を突き出し、その砲門から放たれる極太のレーザー。私の十八番、マスタースパークである。
今まで数々の敵を呑み込んできたこの技なら、最早相殺とかは意味が無い。
潔く負けろ! 双也!
「…なるほど、
……なに? 威力が…下がってる?
そうした疑問も、次の瞬間には掻き消えてしまっていた。
「大霊剣『万象結界刃』」
私の最強の技が、あろう事か両断されていたのだから。
撒き散らされた光の粒が、空に舞った。
「な………え…?」
「悪いな魔理沙。ちょっと本気出すって言ったろ?」
コレが…ちょっと本気…だと?
ーー冗談じゃない。
私の最強の技を、あんな容易く両断する事がちょっと本気だと? 喧嘩売ってるのかよ。
私は、自分の誇りだった技が簡単に破られた事にショックで、なぜか筋違いな怒りが込み上げてきていた。
今すぐにでも怒鳴って殴りかかりたい気持ちになったが、それは私をそうさせた張本人、双也の言葉で打ち消された。
「技の完成度は高いな。普通の妖怪だったら一撃で沈みそうだ。ただ、俺は似たような技に出くわした事があるんでね、そんなに落ち込むなよ。悔しかったら、もっと研鑽するんだな」
双也はそう言うと、箱を前に掲げ、言った。
「アステロイド・
気が付けば私は大量の弾幕に周囲を囲われていて、逃げ場がなくなった私はそのまま、ほぼ全ての弾幕を一身に受けたのだった。
私の…負けかよ。………ちくしょう…。
やっとアステロイド登場ですね。いつになったら出そうか迷ってました。
因みに、アステロイド系統は双也の通常弾幕って扱いになります。ただの霊力弾や神力弾もあるにはありますがね。
ではでは。