東方双神録   作:ぎんがぁ!

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ではどーぞー


第五十九話 有って無い判決

……やってしまった。

 

野道の地蔵から成り上がり、閻魔となって幾星霜。今までただ見守る事しかできなかった私は動けるようになり、誰に言うでもない感謝の念を胸に真面目に仕事をこなしてきた。

机に向かって書類を書き、裁判で判決を下し、道を外した者がいれば叱って道を正してきた。もちろん部下にも厳しく指導してきた。

でも、そんな私が…よりによって……

 

(こんな恥ずかしい失態を犯すなんてっ!!)

 

生まれて初めて自分の行いを後悔した。私の目の前にいる神薙双也という人物……浄玻璃の鏡で見てみればただの人ではなかった。特別強い存在だとか、何かとてもすごい人の血縁だとか、そういうのであればまだマシだった。

本人に聞いて確認したらまさかの…………天罰神。

 

(ど、どどどうしよう…謝っただけじゃ足りない気がする。土下座? 土下座する私? いやそれでも許してもらえるの? あ〜なんでこんな人に説教なんか…"悪い癖だ"って言われてるのをもっと気にしていれば…!)

 

この死後の世界…強いて言えばこの裁判所には上下関係が存在する。

まず流れてきた魂。言うまでもなく、この世界ではもっとも権限を持たない。死んで流されてきて、裁かれる身なのだから当たり前の事。

その上が死神達。細かく言えば死神と死獣。悪人の洗礼を含めた裁判所までの案内や寿命狩り、その他の雑務をこなす者達。私達閻魔の直属の部下。

そして閻魔…私達だ。先述の通り私達閻魔は死神達の直属の上司だ。裁判を執り行ったり書類を書いたりするのが主な仕事。まぁ裁判長を勤めているのは私を含めた十人のみではあるが。

そしてそのさらに上……それが天罰神。

"裁く者"として最高の力と権限を持ち、存在的な観点から見ても私達閻魔とは格の違う者。滅多に下界に降りてくる事などないが、存在しているのは確かだ。

 

そんな人に……完全に目上の人に……私は長々と説教を垂れてしまった…!!

 

いくら"半分だけ天罰神"と言っても上司には変わりない。この人の格は私より上なはずなのだ。

 

(事前にちゃんと調べるとかしていればこんな事にはならなかったのに……もう頭の中グチャグチャ……)

 

頭を下げたままあれこれ考えていると、神薙双也…様から声をかけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜双也side〜

 

 

「あの…顔上げてください映姫さん。ていうかイマイチ状況が飲み込めてないんですけど…」

 

ずっと頭を下げたままの映姫に言った。

いやホントになんで謝られてるのかサッパリ分からない。さっきまであんなに高圧的だったのにこの変わりようは少し異常だ。

そして、そう言ったのに中々頭を上げてくれない映姫さん。

 

「いや、だから頭あげてって----」

 

「できません!天罰神である双也様に向かって説教を垂れるなど…この四季映姫、一生の恥です!どうか罰を下してください!」

 

「罰って…」

 

どうやら映姫は俺に説教した事を酷く後悔したらしい。

理由は…言葉を聞く限り俺が天罰神だからだろう。まぁ考えてみれば、裁判長と天罰神って役柄的に似てるよね。

 

とりまこの状況をどうにかしなくては。真面目すぎるのも考えものだ。

えっと、どうすれば…今映姫は俺に怒られると思ってるんだよな?

……よし。

 

「あの映姫さん?俺怒ってませんから、取り敢えず頭あげて話しましょう?」

 

そう言うと映姫はゆっくり顔をあげ、小さな声で言った。

 

「ほ、ほんと…ですか?怒って…らっしゃらないんですか?」

 

「はい、怒ってません。怒ってないから罰も与えません」

 

「で、でも…私は格上である双也様にとんだ失礼な事を…」

 

頭をあげてはくれたが、今度は人差し指どうしをつつき合わせてモジモジし始めた。なんだか目がグルグルになってるように見える。俺は映姫の頭にポンとて置いて言った。

 

「そもそも俺は天罰神であっても半分だけ。ここに来たこともないし、この力は必要な時にだけ使ってきたんです。だから映姫さんの上司とは少し言い切れません。謝る必要なんてありませんよ」

 

できるだけ優しい声で言った。映姫もそれを聞いて落ち着いてきた様だった。

 

「あ、ありがとうございます…それと、お見苦しい所をお見せしてしまい…すいませんでした…」

 

「いや、良いですよ。それじゃあ裁判再開しましょうか」

 

「「「え?」」」

 

そう言ったら何故か疑問符で返された。ついでにずっと頭下げてた裁判官達にも。どうでもいいけどなんであんた達まで謝ってたの?

ってそれは別にいいんだ、今は問題じゃない。

…俺なんか変なこと言った?

 

「あの…双也様、本気で言ってます?」

 

「え、だって裁判の途中だったじゃないですか」

 

至極当然な事を言ってるはずなんだけど…

映姫は仕方なさそうな顔をして言った。

 

「はぁ…双也様、部下が上司を裁けるわけ無いじゃないですか。たとえその上司が流されてきた魂だったとしても。それに……」

 

映姫の目が、無音で流れ続けている映像に向けられる。

 

「なにか事情があるようですしね」

 

映っていたのは、俺達が西行妖を封印する場面だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜〜…なんか面倒な事になってきたなぁ…」

 

地獄の裁判所。ここには閻魔や死神たちの住居もあるらしく、生活スペースが揃っていた。

カクカクシカジカで結局裁判による判決は下されない事になった。"魂として流れては来たけど上司だから裁けない"らしく、蘇らせようと言う事で話がついたらしい。なんでもアリだな閻魔達。代わりにと言うとなんか変だが………仕事する事になった。"霊力が戻り切るまではせめてここで仕事をして貰う"と言われ、仕方なしに引き受けたのだ。その為の部屋も貰い、そこを自室とした。

まぁ住み込みになった上司を遊ばせておく訳無いとは思ってたよ。映姫だし。

因みに今は風呂に入っている。疲れて歩いていたところで見つけたので、許可とかは取ってないけど入らせてもらっている。ま、ちょっとくらいは良いよな。

 

「それにしても意外だったな〜…まさか現世に戻る方法があるとは…」

 

霊力を戻す。それが、俺が現世に戻る方法。"事情"を説明した時に映姫から提案されたのだ。結果仕事をするハメになってしまったが。

因みに霊力を失って死んだ場合のみできる方法らしい。と言っても、自然に戻るまでどれ位かかるかは映姫でも分からないらしい。ただでさえ実体の身体が無い状態なのに、俺の場合は量が多過ぎるのだそうだ。下手したら人間が滅んだ頃でも回復しきらない可能性も……とかなんとかって脅され、言いようのない不安が募ってきたのは想像に難くないだろう。

 

(…紫達大丈夫かな…)

 

ふと気になった。俺が死んだ後、紫達はどうしているだろうか?妖忌は大丈夫だとしても紫は心配だ。いつもはクールに振舞っているが、時折とても感情的になる時がある。喧嘩した時がいい例だ。そんな紫の側から、親しかった俺と幽々子が消えた。寿命とかだったらまだ良かったろうが、あんな別れ方したのでは紫の精神状態が気にかかる。廃人とかにだけはなってて欲しくない。

刀の封印も、緩んでしまう前に戻って抑え続けなければいけないし。…まぁかなり強固に蓋をしたから、よっぽどの事がない限り二千年くらいは保ちそうなモンだが。

 

「今気にしてもしょうがない……か」

 

湯船の手すりに頭を乗せ、今一度リラックス体勢になった。かなり広いし俺一人がどう使おうと影響なんて皆無だ。ザバァァとお湯が湯船から流れ出た。

 

「まぁ、霊力が回復するまでは大人しくしてるか…」

 

それからしばらく湯に浸かり、眠くなってきたので湯から上がって部屋に戻った。別に特別豪華な部屋とかではないが、仕事机やらキッチンやらベッドやら、生活に必要な物が揃った割と過ごしやすい部屋だ。

早速寝ようとベッドを見る

 

「…………………」

 

幽香の屋敷以来のベッド。見るからにフカフカそうで、寝心地はきっと抜群。その何十年ぶりかの安らぎを求めてダイブした。名付けて"ダイナミック就寝"!

…うん、これから毎日これするわ。気持ち良すぎ。

 

フッカフカの布団に包まれて、死後一日目は経過した。

 

 

 

 

 




はい、というわけで、冒頭に死獣が逃げていった理由は"本能的に双也が格上だと察した"からでした。
まぁ獣は危機に敏いと言いますしね。上司ってだけであの映姫様がタジタジになる世界ですからねw

ではでは。

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