ではどうぞ〜!
翌日、俺は白玉楼の自室で目を覚ました。ここの布団はふかふかでとてもよく眠れた。まぁ昨日はあれこれあったし、疲れが溜まってたってのもあるとは思うが。
「…ん?」
布団をめくろうと手をつく。すると左腕に重みを感じた。
あれ、前にも似たようなこと……
「い、いやいや…まさか…」
ギギギギギ、と音が出そうな感じで隣を見る。すると俺の腕に絡まってなぜか幽々子が寝ていた。
「ぎゃ…っと、大声出したらマズイよな……落ち着け俺ェ…なんでこんな事に…」
反射で叫びそうになったが、どうにか押し留めた。幽香の時の教訓はしっかり生きているようだ。
とは言ってもこの状況は変わらない。
俺昨日何かしたっけ……
「ま、まさか乱暴な事とか…いや酒飲んだ覚えないし、ありえないよな…」
念のため幽々子の表情を見てみる。
何とも気持ち良さそうにスヤスヤ寝ていた。アザとか傷とかは見つからない。大丈夫そうだ。
………なんか、自分の腕に抱き着いた状態でこういう表情されると………
ガンッ「……いや何考えてんだよ俺っ」
すこしイケない想像に走りそうだったのを理性(という名の拳)で振り切る。俺は誰とも悪質な関係にはなりたくないんだ。
…御行?誰ソレ。
「取り敢えず幽々子起こさないと…こんな状態見られでもしたら----」
「そ、双也ぁ…?そろそろ起きて………」
「「…………………」」
少し挙動不審な様子で入ってきた紫と目が合う。状況的には幽香の時と大体同じ。
…ああしまった、さっきのフラグになってたわ。
「二度あることは三度あるって…よくできた言葉だな…」
「〜〜〜〜ッ!! 境符『四重結界』!!」
後から聞いた話では、幽々子が勝手に布団に潜り込んだのだそうだ。なんでそんな奇行に走ったのかは知らないが、幽々子はやけに満足そうな表情をしてから、まぁいいかと思った。
紫にはしっかり謝ってもらったけどなっ
「はぁ〜…する事ないなぁ」
今俺は廊下を歩きながら今日の予定を考えていた。
朝少し話し合って"少し休みを取ろう"という事になったのだ。まぁどの道封印は満開になった直後でないとできないし、休息は必要なものだ。正しい判断だと思う。
……あ、朝食の時に紫が挙動不審だった事について聞いてみた。どうやら、どうやって俺に謝ればいいかを悩んでいたらしく、それに見かねた妖忌が取り敢えず俺を起こしに行かせたそうだ。まぁ、朝の騒動のお陰か俺と紫の間にある雰囲気も普段通り?になり、その朝食の時に謝られた。
……気持ちをよく理解してくれたようで何よりだった。
「ん、この声…」
白玉楼の道場近くを通りかかると、せいっ、はぁっ!という声が聞こえてきた。
まぁ考えられる限り一人しかいない訳だけど。
「頑張ってるなー妖忌」
「双也殿。…ワシは稽古を日課にしているのです。今日は時間も出来たのでいつもより多く稽古しようかと」
道場に響く声の主は予想通り妖忌だった。短い木刀と長い木刀を振るっているようだ。
えーっとなんだっけ、白楼剣と楼観剣?を模しているのだと思う。
暇なので稽古の様子を見学する事にした。妖忌が"気が散る"って言うなら別のところに行くけど、そうでもないらしいので継続。
妖忌は木刀を構え、目を瞑った。
(…! 空気が変わった…)
目をカッと開き、木刀を振るう。鋭くも流麗な太刀筋は、まるで舞っているように見える。見事の一言だった。
「ふっ…」
舞の最中、突然足を止めて木刀を構えた。目は恐らく仮想上の敵に向けられている。
一瞬の間を開け、妖忌は静かに一言宣言した。
「……現世斬」
瞬間、妖忌はその場より数歩先の場所に現れた。否、高速移動した。それにも驚いたが、もう一つ
(空気の爆ぜる音がした…)
高速移動の瞬間、ズバンッという音を確かに捉えたのだ。
俺の動体視力で辛うじて見た限りでは、妖忌は移動の最中に長木刀を振るっていた。多分その剣速に空気の流動が追いつかなかった結果だと思う。
……たしか原作だと孫である
その後も、妖忌は舞に技を組み込みながら稽古していた。
終わったのを見計らって話しかける。
「なぁ妖忌、終わった直後で悪いんだけどさ」
「何ですかな?」
「…俺に剣の稽古つけてくれない?」
「……は?」
ん?そんなに変な事言ったかな。妖忌は目を見開いてあり得ないものを見るような目をしている。
「双也殿は十分強いではありませんか。今更ワシが教える事など----」
「あるから言ってるんだろ。昔友人にも言われたんだけど、どうやら俺の剣術は綺麗と言うよりは野性味に溢れた実践型らしいんだ。見た所妖忌の剣術はどう考えても"綺麗"なヤツだし、そういう基礎は知っていた方がいいと思ってな?」
多分、俺にそう言った友達…神子も独学だって言ってたから"実践型"の方だと思うけど、基礎は習っておいて損は無い。ここまですごい人が目の前にいるのだ、師事しない手は無い。
「ふぅ…分かりました。この魂魄妖忌、力不足ながら剣術指南をさせて頂きます」
「お、おう。よろしく」
まさかこんな丁寧に了承されると思ってなかったので少し言葉が詰まってしまった。白玉楼じゃ俺の扱いなんて良いとこ"客"なんだからそんなにかしこまらなくてもいいのに。まぁ言ったところで変わりそうもないけど。
という訳で稽古開始。ちょうど天御雷くらいの長さの木刀を持って妖忌と向き合う。
……ん?
「あれ、これから素振りとかするんじゃないの?」
「双也殿には実践感覚で打ち合いながらの方が覚えやすいかと思いまして」
「それって元の俺の型に戻らない?」
「大丈夫です。振るい方や扱い方はその度指示いたしますので」
「そ、そうか」
行きますぞ!と言って稽古が始まった。妖忌が突っ込んでくる。
「双也殿!常に六十度以上の角度をつけてワシの剣を受けて下され!」
「う、おう!」
妖忌の木刀が振り下ろされる。それに合わせて六十度以上で受け続ける…妖忌も剣速は加減してくれている様だが難しい、これは慣れるしか無さそうだ。
少し離れて構える。
「…何度か六十度以内になっていましたぞ。それでは受け太刀の状態でも切り落とされる事があります」
「了解!」
妖忌の説明に納得すると、今度は俺から攻めに行った。妖忌は静かに剣を構えている。
…腹の辺りが空いてるな!
「駆け出しからの横斬り、ですか」
妖忌は腹を狙った俺の斬撃を、構えた剣を少しズラす事で防いだ。俺はどんどん攻めていくが、妖忌はどれも最小限の動きで防いで行く。
「そこだぁ!!」
「…甘い!」
俺の袈裟斬りを、妖忌は本来鍔のある辺りの刀身で弾き、そのまま突きを放った。それは俺の喉元で止められている。
「駆け出しからの横斬り、これは自然体の相手に使うには得策ではありません。刀身をそのまま動かすだけで止められ、反撃されます」
「…妖忌はそうやってたな」
「はい。そして太刀筋、左手で柄頭を操作して角度を変えるのです。右手は振るう事に集中、いいですか?」
「ああ、分かった」
妖忌は頷いて木刀の刀身を引き、少し離れてまた構える。
あ、一つ聞きたいことがあった。
「なぁ妖忌、俺の猛攻中は最小限の動きで受けてたよな?あれコツとかってある?」
妖忌はああ、と思い出したように返事し、話し始めた。
「アレは腕の使い方です。刀の中心を軸に円を描くように腕を使う。すると最小限の動きと力で受け太刀ができます。応用としては、ワシが最後に放った突きのように、刀身の根元で剣を弾いて反撃…そんな感じです」
「なるほど…」
思ってた以上に学ぶ事が多い。どれだけ未熟だったのか思い知らされる。だがまぁ、力の節約とかができれば戦闘にもかなり役立つ。今から教わっても全然遅くない。…今更ながらとても良い人を師事したものだ。
……ふと思ったが、幽々子はこんな感じの剣術を使うんだよな?それってもしかして…単純に剣術勝負したら俺幽々子に負けるってことじゃね?
……あの時斬り合わなくて良かったと思った。
「さぁ、次はワシの動きを見切って避けてくだされ!」
「来いや!」
そうして稽古は、日が沈むまで続いた。
バンッ!ズバンッ「うおらぁ!」
カンッ ヒュボッ「まだ甘いですぞ!」
「………やってるわねぇあの二人」
「そうねぇ。せっかくお休みになったんだから稽古なんてしなければいいのに」
居間。私と幽々子はそこに座ってのんびりしていた。もちろんお茶と饅頭付き。
道場からは割と離れてるはずなのにここまで声が響いてくる。せっかく休暇にしたのに…二人とも意味分かってるのかしら?
遠目で道場を見ながら饅頭を取ろうとすると、山積みだった筈の饅頭はもう無くなっていた。
……幽々子はせっせと口を動かしている。
「あ、お饅頭無くなっちゃったわ。新しいの持ってくるわね。あと新しいお菓子」
「幽々子……今のがもう四箱目だって事分かってる?しかも私五個くらいしか食べてないし」
幽々子は飲み込み終わると、わざとらしい口調でまたお菓子を取りに行こうとしたのでやんわりと止める。
「紫が食べるの遅いだけじゃない」
「………太るわよ?」
「うっ……」
幽々子は少し葛藤している様だったが、結局はションボリした表情で座り直した。
全く、大食漢にも程がある。これで夕飯でもご飯五、六杯は普通に食べるのだから驚きである。幽々子のお腹には宇宙でも広がっているのだろうか?
「なんだか…お腹が満たされると眠くなってくるわね〜…」
幽々子はそう言いながら頭をクラクラさせている。それは"眠い"じゃなくて"半分寝てる"って言うと思う。
そう突っ込もうとすると幽々子はパタンと倒れて眠ってしまった。
「もう…世話の焼ける子ね」
掛け布団を持ってきて幽々子にかけてやる。
すると幽々子の口がかすかに動いた。
「んん……そう…や……スゥ…スゥ…」
「………………」
朝のくだりで、幽々子の気持ちの変化には薄々気が付いていた。寝言にまで出てくるなんて……。
私はそれを微笑ましく思いながら、冷めてしまったお茶をすすった。
「頑張ってね、幽々子」
私たちの休息は、こうして終わったのだった。
冒頭はお決まりw
ではでは。