ではどうぞっ
「さて、じゃあ自己紹介から始めましょうか」
現在、白玉楼の茶の間にいる。俺、紫、幽々子、妖忌の四人で机を囲み、自己紹介をしようというところだ。
初めは幽々子だった。
「私はこの白玉楼の主、
「あ、俺の事知ってるのか。じゃあ改めて…俺は神薙双也だ。呼び捨てでいい。よろしく幽々子」
「ええ。よろしくね双也♪」
幽々子のフリで流れるように俺も自己紹介すると、今度は妖忌が俺に向き直って自己紹介を始めた。そう言えば初対面なの俺だけだった…。
「ワシはこの白玉楼の庭師兼幽々子様の剣術指南役、魂魄妖忌だ。先程は失礼した。仕方がなかった事ゆえ、許してもらいたい」
「ああいいよ別に。気にすんな。俺も遊ばせてもらったし…」
「遊ぶ?」
「あいや何でもないっ!」
「?」
半霊で遊んでたなんて知ったら怒るかな?念の為バラさない様にしないと…。…ちょっと紫こっち見てニヤけるのやめろっ。
紫の事は全員知っているので、自己紹介は飛ばすらしい。そう話がまとまった時はなんとも言えない表情をしている紫がそこにいた。
暫く談笑していたが、幽々子はどうやら妖忌に剣術を教わっているらしい。それなりの腕で、妖忌から見ても護身としては申し分ないそうだ。"ちょっと斬り合ってみる?"と聞かれて正直困っていたが、焦った様子の妖忌に止められていた。冗談で言った様だが…なんか幽々子とは話していて飽きが来そうにない。良いことだ。
「あら、お菓子が無くなっちゃったわね。取ってくるわ」
談笑の途中、幽々子はそう言って立ち上がり、台所に向かった。どこにあるのかは知らないが、こんなに広い屋敷では少しばかり遠い場所にあってもおかしくはないだろう。タイミングを見計らって、妖忌にずっと気になっていた事を尋ねた。
「なぁ妖忌、幽々子からずっと感じる良くない気配…アレは何だ?」
そう聞くと、妖忌、紫までも表情を暗くした。
少し間を置いて、妖忌は重い口を開いた。
「やはり気になりますか…。アレは幽々子様の能力によるもの…
「死?」
「はい。幽々子様の能力"死を操る程度の能力"。アレは今制御が効かない状態にあり、常に能力が発動してしまっているのです」
死を操る…そう言えばそうだ。原作での西行寺幽々子もそんな能力を持っていたはず。でも…制御が効かない?
「それ…どういう事だ?」
「あちらに大きな木が見えるでしょう?あれは
妖忌はそう言って、この白玉楼であった過去の出来事を話し始めた。
「幽々子様のお父様は、桜をとても愛する歌人でした。よく旅に出かけ、歌を唄い、たまに帰ってきては幽々子様とよく遊んでおりました。それが数年前…」
「だからこんなに桜が…」
「はい。しかしお父様は、旅を続けるうち病にかかり、満開の桜の木の下で生涯を終える事を望んだのです。それが最初…西行妖の下で眠った最初の人間」
「それを幽々子は…」
「…見ておりました。自分の父が望んだ最後を迎えるところを。
父が望んだ事だったからでしょうか、幽々子様はその場では涙を見せませんでしたが、当時幼かった幽々子様は、一人になると時折泣いておられました」
そこまで話すと、妖忌は一口お茶をすすって喉を潤した。
幼い頃に父を亡くす…身内の死に直面した事のない俺では、悲しみの程は計り知れない。
妖忌は再び語り始めた。
「お父様の死を悲しんだのは幽々子様だけではありません。歌人として彼を慕っていた人はたくさん居たのです。そして困った事に、その方々は自らの死をお父様に似せようと、次々と西行妖の下で死んでいき、幽々子様はそのほとんどを看取ってきたのです」
「それは……自殺か?」
「…いえ、初めは寿命で亡くなられる方ばかりでした。ですが、不思議な事にポツポツと自殺する方も出始め、その数はどんどん増えていったのです。
そして、木の下で死んだ人が二桁になった頃でしょうか、幽々子様と西行妖に異変を感じたのです」
「それが死の能力…覚醒か」
「はい。元々幽々子様は死霊を操る事のできる特殊な人間でした。その為普通の人間よりも死と言うものに近い存在だったのです。その幽々子様が、看取るという形で死に接し続けた結果、能力に影響が出て変化したのです」
「新しい上に強大な所為で扱いきれていない、という事か」
「その通りです」
なるほど…"持て余してる"ってのはそういうことか。強すぎる力は、持ち主の力が足りてないと扱えない。なんだか昔の紫を見ているようだ。
「で、西行妖の異変ってのは?」
「西行妖の中に何か力を感じるのです。ワシや双也殿が持つモノとは少し違う…紫様に近い力を」
紫に近い力?て事は妖力か?
見てみると、紫はずっと黙っていたがしっかり話は聞いているようだった。
ついでなので紫にも意見を聞いてみる。
「その事について紫はどう思う?」
「ええ…前に話を聞いて見てみたのだけど…確かに、ほんの少しだけど妖力を感じたわ。推測だけど、能力が変化してしまうほどの死の影響となると、ただの桜が妖怪化してしまってもおかしくは無いと思うの。双也はどう?」
「いや、しっかり見ないと分からないな。大妖怪の紫が少ししか感じれないんじゃ、俺も工夫しないと感じれないかも」
どうやら紫でも少ししか感じられないらしい。まぁ"意識を西行妖に集中"と能力を使えば大丈夫だと思う。俺の能力は便利で助かる。
紫とそう話すと、区切りがいいところで妖忌が言った。
「気付いた異変はもう一つあります。あの桜、どうやら"花が咲く程その妖力とやらが大きくなっていく"のです。花が散ればまた小さくなるのですが…問題なのは、花が咲いて妖力が大きくなるほど、木の下で死ぬ人が増えていく事です」
「じゃあ毎年春はどうしてたんだよ!?」
「…毎年、花は咲いてもなぜか三分咲きや四分咲き程度なので引き止めるなどの対処も少しはできていたのです。ワシや幽々子様の知らない時に死にに来る人が多く居たので全てとはいきませんでしたが」
それを聞いて少し張った気が緩んだ。でも今でも死人は出ているという事か。幸い今の西行妖は花をつけていないので死にに来る人もポツポツだろう。
それにしても…花が咲くほど妖力が大きくなるってなると…恐らくあの桜の妖力は感じるよりも上限は上だろう。どこまでかは知らないが…
この話を聞いていて、紫が"助けてあげて"と言った意味がわかった気がする。早速紫に聞いてみた。
「紫、お前…あの桜を封印するつもりか?」
「……さすがね双也。そうよ。あの桜を封印する為に双也に助けを頼んだの。
あの桜が幽々子に影響を与えるきっかけ。その影響の所為で、あの子は自分が死に誘う存在になってしまっていることをひどく悔やんでいるの。……それを助けてあげないで友達を名乗る資格なんて無いわ」
そう言う紫の目は決意に満ちていた。やっぱりこいつはいい奴だな…。ならば…友達として協力してやろうじゃんか!
「いいぜ紫、協力してやる。友達の頼みだからな」
「ありがとう双也!」
「幽々子様の為ならばワシも協力致しますぞ!」
封印には妖忌も賛成してくれたようだ。計画とかは決まってないが、おいおい話すとしよう。
そう話したところで、ちょうどお盆を手に持った幽々子が戻ってきた。
「あら?三人で何を話していたの?」
「いえ、ただの談笑よ」
「そ。お菓子持ってきたから、また食べましょ!」
「遅かったな幽々子。摘み食いでもしてたのか?」
「そんな事しないわよ。御手洗に寄っていただけ」
幽々子が帰ってきてからはまた元通りの談笑になった。何だろう、場を和ませる雰囲気でも持っているのだろうか?幽々子がいると妙に場が明るくなる気がするのは俺だけか?
(ま、穏やかなのは良いことか)
俺はそう思い直し、三人の輪の中に再び入り込んだ。
懐かし設定、双也は原作の設定が"少し"わかる。
久しぶりに引っ張り出しましたねコレ…。
ではでは。