東方双神録   作:ぎんがぁ!

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短いですが、妖怪の山編はこれでお終いです。

ではどうぞー!


第四十四話 紫の覚悟

「ふぁぁあぁあ〜…ふぅ、朝か…」

 

鬼たちとの宴会から数日。俺は嵐の屋敷の一室で目を覚ました。丁度日の当たる部屋を貰ったので、毎日朝が気持ちいい。

宴会の帰り道、予想よりも大幅に早く四天王と会えてしまった為、俺の頼み事(宿云々のアレ)をどうするか嵐に聞いたところ

 

「別に早く会えたからと言って出ていかなければいけない訳でも無いだろう。頼まれた側としても、このまま出て行かれては何となく良い気持ちでは無いし、好きなだけ泊まるといい」

 

と返された。嵐の優しさに当てられて抱きつきそうになった。いやマジで。

 

起き上がり、食堂へ行くために着替えをしていると、ちょうど終わったところで布団の所にスキマが開いた。

 

「おはよう双也。今日もいい朝ね」

 

そこからは案の定、と言うか他にはあり得ないが、紫が現れた。紫はスキマから出ては布団の上に座った。

 

「ああおはよう紫。ちょっとそこ動くなよ」

 

「え?」

 

俺はそう言ってゆっくり紫に近づいていき、真っ直ぐ目を見て紫の両頬に手を当てる。

 

「え、ちょっと双也!?待ってまだ心の準備が…」

 

「そんなの後回しだ」

 

紫は俺の言葉を聞くと少し躊躇った様に目を瞑った。

俺は紫を引き寄せて…

 

グニッ

 

「へ?」

 

グニグニグニィィ〜

 

「や、ひょ、ひょうや!?いひゃいいひゃいいひゃい!!

(や、ちょ、双也!?痛い痛い痛い!!)」

 

…両頬をつねった。それはもう、呂律が回らないくらいに。

こいつなんで目瞑ったんだ?俺がこんな突然キスなんかする訳ねーだろ。何を勘違いしてるんだか。

 

グニ〜〜〜〜

 

「ひょっと!もうやめにゃひゃいよ!

(ちょっと!もうやめなさいよ!)」

 

「だーめ、まだだ。俺の苦労がこんなもので晴らせると思ってんのか?」

 

「へ!?もひかひてまひゃおほっひぇるひょ!?

(へ!?もしかしてまだ怒ってるの!?)」

 

「当たり前だ。この山登る時に俺がどれだけ面倒な事してたか…。お前の所為なんだからな〜覚悟しろ〜」

 

グニ〜グニッグニ〜〜

 

「ひゃ〜!いひゃいわひょ!!もうひゅるひひぇぇ!!

(や〜!痛いわよ!!もう許してぇ!!)」

 

そう、なんで俺がこんな事してるのかというと、この山を登った時の事をまだ根に持ってるからだ。

あの時もう少し考えりゃまだマシな方法も見つかっただろうに。最悪紫がスキマで送ってくれれば済む話だったし。その時の仕返しとして頰をつねっている。ていうか紫って頰柔らかいな。すげぇ伸びるんだけど。

…まぁでも、もう気は済んだし何より紫が泣きそうだからそろそろやめることにする。

パッと手を離した。

 

「うぅぅぅ〜…絶対(あと)になるわ…」

 

「懲りたらもうしない事だ。そうだな…次やったら全力でくすぐって笑い死なせてやるからな」

 

「……もうしません…」

 

紫は両頬に手を当てて、悲しみを孕んだ声で言った。

 

「それで?今日は何があって来たんだ?」

 

「ああそうだったわ。実は双也に話があって----」

 

「長くなりそうなら飯食ってからにしてくれ。朝ごはん無しはさすがに辛い」

 

「…そうね。じゃあそうしましょう」

 

俺はそう紫と話して食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ双也」

 

「ん?なんだ嵐」

 

「成り行きで朝飯を出してしまったが…彼女は誰だ?」

 

嵐は俺の対面に座って、ご飯を食べる手を止めて聞いてきた。そういえば初対面だったか。

…初対面の相手に成り行きでご飯出すとか、こりゃ優しいじゃなくてお人好しだな。

俺は軽く紫の説明をした。

 

「名前は八雲紫。スキマ妖怪。実力は嵐以上俺以下。ついでに胡散臭い」

 

「ついででしかも胡散臭いって何よ」

 

紫が静かなツッコミを入れてきた。間違ったことは言ってないと思う。胡散臭くなってきたのは俺の所為かも知れないけどさ。

嵐は紫を見て更に質問を重ねた。

 

「…なんで頰が赤くなってるんだ?」

 

「それは気にしないで……」

 

まぁ…気にはなるよな。

結構力を込めてつねったので紫の両頬はすごい赤くなっていた。紫は嵐の質問で再び思い出してしょげてしまったようだ。まぁそのうち復活するだろう。

そうして俺たちは(紫にとって)印象的な朝を迎え、今自室に戻ってきていた。布団を片付け、代わりに座布団を敷く。

紫はその一つを受け取って座った。

 

「で、話ってのは?」

 

俺はそう言って切り出した。紫は真剣な目付きになって話し始める。

 

「双也、あなたは……妖怪と人間が共存って…出来ると思うかしら?」

 

「………妖怪と人間が…」

 

…遂にそれを考えるようになったか。

前世では妖怪なんていなかったし、唯の絵空事だったから想像も自由。当時にその質問をされていたら多分"出来るんじゃない?"と軽く答えていただろうが…

 

「普通に考えれば……無理だろ」

 

「…………………」

 

「数年前、あの闇の妖怪も言っていたけど、"妖怪は人を襲い、人は妖怪を恐る"。これは変わりようのない摂理だ。例えどんな場所に居ようとも、そこに妖怪と人間がいれば必ず上下関係は存在する」

 

俺が思い出すのは人妖大戦。あれこそ完全な人と妖怪の構図。妖怪は人を食う為に襲いかかり、人は妖怪という穢れから逃れるために月に逃げた。時たま強い人間が生まれることはあっても、それは全体のほんの一部。雀の涙ほどでしかない。普通に考えれば夢物語でしかない訳だが、紫はきっとこれだけじゃ諦めない。

さて、覚悟を見せてもらおうか。

 

「なんで紫はそんな事を考える様になったんだ?」

 

そう聞くと紫は少し黙り、俺の目を真っ直ぐに見て言った。

 

「人間の優しい心と出会ったからよ」

 

「……なに?」

 

「言ってなかったけどね、あなたとは別の私の友達…人間なのよ。その子と出会ったのは、私が双也を呼ぶ力も残らない程傷ついて、その子の家の近くに迷い込んだ時」

 

紫は懐かしむように語り始めた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「はぁ…はぁ…くっ、うぅ……」

 

それは双也と出会って少し経った頃。ある妖怪との争いに負け、死に物狂いでスキマを開いて来た場所。私はそこで力尽き、倒れた。

 

「え、今のは……もしかして妖怪…?

っ!? 大変!ひどい怪我! 誰か!ちょっと来て!」

 

そこで完全に気を失ってしまい、次に目を覚ましたのはどこかの家の中。布団に寝かされていた。

 

「ん…ここは…」

 

「あら、起きた?調子はどう?」

 

その子は私の布団の横で何か本を読んでいた。どうやら看病していてくれた様だった。私が起き上がると、チラと本の題名が見えた。題名は"妖怪絵巻"

 

「あなた…それ…」

 

「ああこれ?ふふ、あなたはなんて妖怪さんなのかなって思って調べてたの。見つからなかったんだけどね」

 

「!? あなた、私が妖怪だって分かってて看病してたの!?」

 

「ええ。ひどい怪我だったし……なぁに?何か悪かった?」

 

「………………」

 

あの時は本当に驚いた。妖怪だと分かってて相手をする人間なんて聞いたことも無かった。そんなのは知っている限り強者である双也だけ。でもその子からは強い力は感じない。本当に不思議だった。

 

「あなた…私が怖くないの?」

 

「? 怖くはないわ。だって、こうしてお話しできるじゃない。それにあなたが怖い妖怪さんだったら、とっくに私は殺されてるわ」

 

そう言ってその子は私に笑いかけた。とても澄み切った笑顔で、思わず見惚れてたのを覚えている。

 

「ねぇ妖怪さん。私、あんまり外に出なかったから親しい人が少ないの。だから…良かったらお友達になってくださらない?」

 

その子はそう言って手を差し出してきた。本当は理解できなかった。人間が、妖怪に友達になろうと言うなんて。考えたこともなかったし、想像もできなかった。でも…私はその手を受け入れた。多分、どこか期待していたのだと思う。その人間の少女と仲良くなれるかも知れない妖怪の私。"共存"という願いが芽生えたのはその時だった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「そう…か。そんな事が…」

 

「今でもちょくちょくと会いに行ってるわ。変わらず優しい子よ」

 

「つまり、妖怪が襲うことを抑制さえすれば共存できる、って考えてるんだな?」

 

「…そういう事になるわ」

 

「ふむ…」

 

紫の言い分も分かるには分かる。俺の場合は少し違うが、人間は自分の害になるモノに容赦しない。ならば害にならない事を示せば共存は可能、という事になる。でも………そんなに上手くいくか?

 

「確かにそれなら可能性はあるだろうが…全員が全員賛成すると思ってるのか?」

 

「! いえ、そんな事は思ってないわ。でも根気よく説得すればいつか----」

 

「それは唯の"夢"だ。一人の妖怪を説得する間に、反対派の妖怪はさらに増える。簡単な計算だよ。それじゃあ共存なんて実現できない」

 

「でもこちらの誠意を示せばきっと分かってくれるわ!」

 

「忘れるなよ紫。この世界は善人だけで作られてる訳じゃないんだ。良い人もいれば悪い人も居る。更にその質にも優劣がある。お前だけ誠意を示したってダメなことくらい分かるだろ?」

 

「〜〜っ!じゃあどうすればいいのよっ!!」

 

紫は俺を睨んで怒鳴った。膝の上の拳は固く握られている。ちょっといじめすぎたかも知れない。まぁでも紫の覚悟は分かった。最初の一問くらいで悩んで諦めるようだったらどうしようかと思っていたが、どうやら杞憂に終わってくれた様だ。

俺は紫の頭に手を乗せて言った。

 

「俺が手伝ってやるよ」

 

「え…?」

 

「お前が作った決まりから外れる奴は、俺がどうにかしてやる。俺は天罰神だからな、罰して更生させるのは得意分野なんだ」

 

紫はゆっくり顔を上げて俺を見た。目尻に涙が残っているので多分泣いていたんだろう。

 

「それに、こうなるのをずっと待ってたんだしな…」

 

「え、なに?」

 

「何でもないよ。話はそれだけか?」

 

念の為聞いておく。また長話を後日に回されるのも嫌だし。紫は涙を拭き、再び真剣な目つきになって言った。

 

「いえ、もう一つあるわ。…さっき言った友達に会って欲しいの」

 

「は?」

 

「お願い、双也…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの子を助けてあげて」

 

 

 

 

 




もう次章はお分りですね。
そうです、あの人です。

ではでは。

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