前半は双也視点。
ではどうぞ!
輝夜達と別れてもう数年経つ。旅の間は、偶々襲われた盗賊たちを罰したり、ルーミア程ではないが強い妖怪に挑まれて返り討ちにしたり…まぁうん。飽きの来ない日々だったと言えば間違ってない。
そして今俺は困っているのだが…
「やべぇ…
目の前に、見覚えのある山が
そう、私神薙双也は……
「日本一周しちゃいましたっ!!」
「一人で何を言っているの双也?」
「おお紫、ただいま」
「いや何の事よ」
サラリと紫が入ってきたから俺の悲しみを込めて"ただいま"って言ってあげた。その気持ちは紫も察してくれたようだ。…いや、俺の顔に出ているだけか…。
「何をそんなに悲しそうな顔してるのよ。旅の間にあなたが悲しむ様な出来事なんて一つも無かったでしょう?」
「旅の間はな…。いやな?俺が旅を続けるのは出会いが欲しかったからなんだけど、あと二組、まだかな〜まだかな〜って思ってるうちにこの島国一周しちゃった訳なんだよ。どうしたらいい?」
「知らないわよそんな事。あなたとはお友達だけど、そんな事まで面倒見れないわ」
「もうちょっとかける言葉あるだろ…?」
「さてね」
紫が案外素っ気ない…。しかも最近胡散臭い空気も出てきたし。コレって俺の扱いを覚えたからなのかな…?
「残ってるのは…あの
俺がボソッと呟いた言葉に紫が反応した。不思議そうな顔で問いかけてくる。
「"幸運"ってどういう事かしら?」
「ん? えっとだな、残った二組の内片方はこの山で出会えるんだよ。もう来てるのかどうかは知らないけど。気付いたのがここならすぐに行動に移せるだろ?そういう意味での"幸運"」
俺の説明で紫はちゃんと納得した様だ。良かった良かった。
俺はこれからどうしようか考え始めた。しかしその思考は紫によって無に帰す事になった。
「なら、暫くここに住めばいいんじゃない?」
俺はその言葉に唖然とした。こいつ本気で言ってんの?ここ入っただけで八つ裂きにされる様な所だよ?
「お前…マジで言ってる?」
「マジよ。ほらほら、そうと決まったらさっさと行く!すぐに行動に移せるから幸運だったんじゃないの!」
俺は紫に背を押されながら山の入山ラインすれすれまで来た。なんかもう、紫の俺に対しての扱いが親と子供なんだけど…俺の方が年上だよね?
そうすれすれのところで考えていると後ろから押された。
「あっ」
しびれを切らしたのか紫に再度背中を押されたのだ。したがって俺の片足はバッチリ入山してしまっている訳で…顔をあげればいつかのように白狼天狗たちが集まってきていた。後ろを振り向けば、紫が笑顔で手を振りながらスキマの中に消えて行く姿が目に映った。
(紫……覚悟しとけよ……)
しばしスキマの閉じた地点を睨んでいると、白狼天狗の一人が怒鳴ってきた。
「おい貴様! 看板を見なかったのか!?ここは入山禁止だぞ!」
「いや見たよ?見たんだけど半ば無理矢理入山させられたと言うか…」
「しかし入った事は事実。看板を見た上で入ったならば我らはお前を処分する!覚悟はいいな!!」
うおい、なんでそこで"今すぐ出るなら見逃してやる"とかって発想が浮かばないんだよ。ハナから殺す気満々じゃん!
って、そう言えばここにゃ知り合いが居るんだから頼れば良くね?
「なぁ、射命丸文っているだろ?アイツなら俺の事分かるから呼んでくれない?神薙双也って言えば良いから」
「何?文様を?…ふざけるのも大概にしろ!!あの文様がお前なんぞのことを知っているわけがなかろう!」
「あらら、こりゃダメだな…」
さすが妖怪の山、聞く耳を持たないってこういう時にも使えるな。聞くだけ聞いて試さないっていう…まぁそれは置いといて、どうするか…あんまり騒ぎたくないな…。騒ぎを起こした上で住まわせてもらうなんて気まず過ぎる。
「もういい!行くぞお前たち!侵入者を排除しろ!」
「「「おおおおおおお!!」」」
「…なんかもう、いいや」
こっちの気も知らずに突っ込んでくる天狗たちを見たら騒ぎがどうのこうのとか考えるのが億劫になってきた。もう…なるようになれ。
いい加減めんどくさくなった俺はそう結論付け、迎え撃つ為に天御雷を抜いた。
〜妖怪の山 屋敷〜
「平和だなぁ……」
山頂にある大きな屋敷。その内の一つの部屋で、机に足を乗せて腕を頭の後ろで組み、天井を見上げてくつろいでいる一人の天狗。彼女は妖怪の山に住む天狗達の頂点である天魔だ。
今日は天魔にとっては珍しい休みの日。日がな一日ダラダラ過ごす事を目的に自室に篭っていた。
「子供達と遊んでくるっていうのも一つの手だが…天狗の子の相手って疲れるんだよなぁ…でも人間の子供なんて滅多に見ないし……もういっそ羽根引き千切って人間になろうか……」
天魔はその体勢のままそんな事を呟いていた。女の身なのに男の様な言葉を使う所為か威厳が出てきてしまい、そういった雰囲気は無いのだが天魔は大の子供好きである。それはもう、天狗の子が生まれたと聞いたやいなやその夫婦のもとに飛んで行って"名前をつけさせてくれ!!"と頼み込むほどである。そういった場合、その夫婦は自分たちの上司の頼みなので断れない。ゆえに今妖怪の山に住んでいる天狗のほとんどは天魔が名付け親なのだ。
「また"華ちゃん"と遊んでみたかったなぁ」
天魔は、かつてこの山に置いていかれて自らが保護した人間の少女の事を思い出していた。結局は迎えに来たとんでもない強さの男に連れて行かれてしまったのだが。
因みにその時のオモチャは押入れに残っているようである。
「なんか面白い事----」
バンッ「天魔様!!侵入者です!!」
「……お?」
天魔が言いかけた所で勢いよく入ってきた天狗の言葉に興味を持った天魔。彼女は席を立ち伸びをした。
「んん〜〜…はぁっ。さて、状況は?」
「そ、それが……」
「なんだ?」
「警護担当の白狼天狗達が総出で事に当たっているのですが……恐ろしい強さで、全く歯が立たないのです…」
「…なんだと?」
天魔はある男の事が頭に過ぎった。今までそんな事態になった事は一度しかない。今まさに思い出していた華という少女の件だ。
「……私が行こう」
「は、はい!」
天魔はまさかな…、と思いながら部屋を出た。廊下で場所を聞き、玄関から出て飛び立とうとした瞬間
「うおあ!?」
天魔の目の前に傷だらけで気絶している白狼天狗が落ちてきた。空を見上げれば、それに続くようにポンッ!ポンッ!と小気味好い音を響かせて白狼天狗たちが落ちてきた。天魔と、その後ろに着いていた天狗は開いた口が閉じなくなっていた。
「え、え?……どういう現象だコレ?」
「て、天狗が山積みに……」
天魔たちが驚いている間に、落ちてくる天狗は山の様に積まれていた。と、最後に天魔よりも少し後ろでもポンッ!っと音がした。
「よし!これで最後だな。ふぃ〜やっと終わった」
天魔が振り向くと、担いだ天狗を下ろしている最中の少年がいた。そして、天魔はその声に聞き覚えがあった。
「はぁ……やっぱりお主か双也」
「おっす天魔。また来たよ」
天狗を担いできたのは、天魔の予想通り、かつて華を迎えに来て山の天狗のほとんどを叩き潰した神薙双也その人だった。
天魔は聞きたいことがあったが、声に出す前に双也が答えを言った。
「この天狗達な、俺は話し合いしたかったんだけど襲ってきたから返り討ちにしといた。一気に治療できるようにここに順番で運んだんだけど…天魔、そういう類の天狗呼んでくれない?」
「…分かった。呼んでおこう。…全く、以前と変わらないなお主は」
「俺としちゃお前ら天狗には変わってほしいんだけど…今度からは俺のことわからせておいてくれよ。毎回戦うなんてめんどくさい」
「そんなのはこっちから願い下げだ。お主が来るたびにこんな量の治療をするなんて正気の沙汰では無いからな」
「俺が悪いみたいに言うのやめてくれよ」
双也は少し悲しみを帯びた声で天魔にそう言った。その様子を見ていた天魔は、双也の後ろで震えて剣を構えている天狗に気が付いた。天魔は近くに行って剣を下ろさせる。
「て、天魔様!?」
「大丈夫だ。こやつは知り合いだ」
天魔がそう言って笑いかけると、天狗は渋々ながら剣を下ろしていく。剣を仕舞うのを見届けると、天魔は双也に向き直って言った。
「さて双也。何か用事があるのだろう?中で話そう」
「あ、ありがとな。 じゃあお邪魔しま〜す」
天魔は双也を連れて屋敷へと入っていった。
因みに、後で呼ばれた救護専門の天狗は、後日全身の筋肉痛で布団から起き上がることもできなかったそうな。
こういう締め方ってオチがある感じで納得しますw
あ、前回書き忘れたので、双也くんの刀の付け方について補足しておきます。
あの説明で分からない!って人は、"志波一心"でググってください。イメージ的にはあんな付け方です。
ではでは。