では竹取物語最終話、どーぞー!
輝夜達の逃走に成功し、天御雷を鞘に収めたところで近くにスキマが開いた。
「おお紫、迎えに来てくれたのか?」
「…ええ。輝夜達も向こうで待ってるわ」
「そうか。さて、こいつらどうするか…」
本来ならここで傷を治して月に帰すところだけど、このまま帰すと俺が生きてるって知れ渡って…多分パニックになるよな。つーかツクヨミ、俺が生きてる事伝えなかったのかよ。おかげで疑われたし。
あ、いいこと思いついた。
「紫、記憶の操作できるか?」
「? 一応出来るけど……ああそういう事ね。待ってなさい」
紫は俺の言いたいことを察したのか、倒れている月人たちの頭に手をかざして能力を使っていく。後には安らかに眠っている月人の姿があった。…一応言っておくけど死んだ訳じゃないよ?
「よし、そしたら行くぞ。そのうち誰かが見つけるだろ」
「そうね。ここに入って」
紫の能力で記憶を操り、月に関しての記憶を削ぎ落として貰ったのだ。俺がつけた切り傷も動けなくなる程度に加減したものだし、月に帰さなくてもいい、ここに残しても月の情報が漏れることはない。一石二鳥の策だと考えた。
俺達がスキマの中を歩いていると、少し不機嫌な声で紫が俺に問いかけてきた。
「…双也、永琳から聞いたわ。私を戦わせなかった理由」
「……そうか」
「私はやっぱり納得できない。確かに双也と会ったばかりの頃なら簡単に殺されるかもしれない。でもこの十年で私は強くなったでしょう!? 能力の扱いも覚えたし妖力も増した!!それでもあんな連中に勝てないっていうの!?」
「………………」
紫の気持ちが分からない訳じゃない。確かに紫は格段に強くなった。もう大妖怪と呼んでも良いくらいに。でもそれでも足りない。妖怪で有る限り、マイナスからプラスに傾くことは無い。
……言ってもわからないか。
「紫」
「何よ……!?」
俺は穢れを遮断する能力を乗せた天御雷を紫の首元に突きつけた。口で分からないならその身で感じるしかない。
「よく感じろ。これが
「っ!?くっ…」
「怖いだろ?それが本能的な恐怖、妖怪が月に勝てない理由だ」
紫の顔が少々険しくなってきた様だったので能力を解いて天御雷を引いた。ちょっと厳しかったかな。
「まぁ俺の力と月の技術は別物だから、穢れを祓うって一区切りで言うのも少し違うんだけどな」
俺は振り返ってまた歩き出した。
……その結果、紫の一言を聞き逃す事になってしまった。
「絶対に…認めさせてやるわ…」
〜スキマの先〜
「お、やっと出口か」
スキマの中を歩いているとやっと出口が見えてきた。そこから出ると真正面に輝夜達がいた。
「ふう、無事でよかったよ二人とも」
「ええ、お陰様でね。でも永琳が…」
「ん?」
俺の言葉に輝夜がそう答えると、無言で永琳が近寄ってきた。…凄い威圧感を感じる。
「え、永琳…?」
永琳は俺のそばまで来ると
バチィィィイン!!
強烈な平手打ちをかました。その後すぐに俺は抱きしめられた。
「全く!どれだけ…心配したと、思ってるの…双也ぁ…」
「……ホントにごめんな永琳。勝手にいなくなって…」
「本当よ…ばか…」
永琳は泣いていた。さっきよりも多くの涙を流して。さっき無理やり押し留めた涙とかが、安心して一気に溢れ出たんだろう。俺は優しく頭を撫でてやった。
(いいなぁ永琳…頭撫でてもらって…)
「どうした輝夜?」
「…何でもないわ」
「?」
輝夜がなんか俺の方を見つめていたので聞いてみたが、なんかはぐらかされてしまった。なんだ一体?
そう思っていると、ずっと蚊帳の外にいた紫が声を上げた。
「はいはい、そこまでにして…二人はこれからどうするか決めないといけないわよ」
紫は輝夜と永琳に向けて言った。それを聞くと、輝夜と永琳は顔を見合わせて答えた。
「それもそうよねぇ…正直双也についていくって言うのも私的にはありなんだけど…」
「輝夜、悪いけど俺一箇所にはあんまり留まらないから無理」
「だそうですよ姫。どうします?」
「う〜ん…」
輝夜は困った顔で考え込んでいる。俺も考えてはいるが…良い案は思いつかない。どうしたもんか…。
「あ、姫?都を転々と旅するというのはどうです?」
「「…………は?」」
「あー案外いいかも」
「いや良くねぇだろっ!」
その案を考えついたのは永琳だった。予想外で紫と共にアホな声を上げてしまった。しかも輝夜は同調してるし…仮にも姫なんだぞ?大丈夫がこいつら。
「大丈夫よ。私たちも能力持ちだし、最悪姫がちょっと色気使えば宿くらいはどうとでもなるわ」
「うわぁ…仮にも姫様をそうやって使うんだぁ…」
永琳の輝夜への扱いにちょっと…いや結構引いた。まぁそんな口がきけるくらい仲が良いとも取れるが。
……二人でいればどうにかなるか。輝夜なんて不死だし。
「はぁ、まぁ二人の好きにすると良いさ。
…そう言えば永琳、お前穢れが充満してるここに来ちゃったけど…どうすんの?」
ふと気になったことだ。月は穢れが無いから寿命も無いが、ここは地上。穢れが満ちている。
原作通りならもう服用済みって事になるけど…
永琳は懐から小瓶を出しながら言った。
「私がそこまで考えてないと思う?姫様が屋敷に置いていった壺から少し貰ったわ」
「一体いつの間に…」
「私はずっと姫様の味方。先に死んでは意味が無いでしょう?」
永琳はそう言って蓬莱の薬を飲み干した。…蓬莱の薬って見た目の変化無いんだな。
っと壺で思い出した。まだやる事があったな。
「さて、俺そろそろ行くな。輝夜も永琳も元気でな」
「ええ、またいつか」
「双也…いつかまた…会いに来てね?」
永琳は案外素っ気ない感じだったが、輝夜はなんか名残惜しそうな返事だった。多分アレの所為だと思うけど…。
俺は輝夜の頭にポンと手を乗せて言った。
「ああ、必ずまた会える。だからそんな顔すんな。な?」
「うん…」
輝夜が返事するのを見てから紫の方に向き直った。
「紫、こいつらの後の世話頼む」
「もう…どこか都の近くに送ればいいんでしょ?仕方ないわね…」
「さすが理解が早い。ありがとな」
俺はそう言って瞬間移動でその場を去った。
……どうでもいいけど、瞬間移動ってなんかかっこ悪いし、某死神漫画の
俺はそんなことを考えながら都に戻った。
都の中を歩いていると、向かい側に焔華を見つけた。不比等さんは一緒では無いようだ。
「おーい焔華ー!」
手を軽く振って声をかけてみるが、なぜか反応がない。聞こえてないのか?
「おーいほの……!?」
「……………………」
歩いてくる焔華はチラと俺を見たが、無言のままトボトボと去って行ってしまった。その時見た焔華の目は………光の無い殺意に溢れた目だった。
…やっぱりアイツだったか。
俺は"認識を遮断"して焔華についていった。
「ここは……輝夜の屋敷?」
焔華は輝夜の屋敷に来た。なんで場所を知ってるのかちょっと不思議だったが、多分不比等さんが言ってたんだろう。
そう思っていると、誰もいない屋敷に焔華の声が響いた。
「ここにはいないか……本当に月に帰ったみたいだな……逃げられた…!」
「なるほど…不比等さんが恥じかかされたから復讐、ってとこか」
どうやら輝夜がまだここにいるかもしれないと思ってここに来たらしい。本当はまだこの星にいるんだけどな。
因みに普通に声に出しちゃってるが、認識を遮断してるので焔華は俺がいることに気付いていない。て言うか気づけない。
「なら何か… そう言えば帝様に…」
焔華がブツブツと何かをつぶやいている。聞く限りだと…やっぱり邪魔をしに行く様だ。
そうやって眺めていると、焔華はまた歩き出した。
「やっぱりこうなったか…」
今、現代では富士山に当たる山にきている。…先に言っとくけどかなり話を端折った。だってさ、"焔華が倒れて連れてかれ、岩笠たちが神様に拒否られて焔華に殺される"なんて過程見たい人いる?つまりそういうことだよ。
という訳で今焔華が蓬莱の薬を飲もうとしている。ちょっと話をしようかな。
俺は認識遮断を解除した。
「焔華」
「…何双也?なんでここにいるの?」
「神様だから」
「そ。邪魔しないでね」
焔華は俺の事などどうでも良いと言う様な態度で今まさに口をつけようとしていた。俺はそれを焔華の手から奪い取った。
「……邪魔しないでって言ってんでしょ!?」
焔華は俺に怒鳴って殴りかかってきた。やすやすと当たるわけにもいかないのでスルッと避ける。
「焔華、お前不老不死の意味を分かってこれを飲もうとしてんのか?」
「どうでもいいよそんな事!!」
「…………………」
分からなそうだな。この分じゃ言っても聞かないだろう
……ごめんな焔華。
「っ!? あ"ぁぁあ"あ"あ"!!双也っ!なんで!?」
「……焔華、痛いだろそれ?とっっても」
俺は天御雷で
「痛すぎて、"いっそ死んでしまいたい"とか思うだろ?……不老不死ってのはそれが許されないんだよ」
「ぐ、ぐぅううううっ!」
俺はそう言いながら、斬り飛ばした腕を持ってきて焔華に繋げた。傷を負う痛みが分かればそれでいいのだ。焔華はゆっくり立ち上がって俺を見た。
「死ぬこともできないし、変わることもできない。痛みはどれだけ襲ってこようと受け入れなけばいけないし……いつか、誰もいない世界で生きていかなきゃいけなくなるかもしれない。……蓬莱の薬ってのはそういう薬なんだよ」
「…………………」
焔華は黙ったままで俯いている。凄い葛藤をしてるんだろう。
この薬は簡単に飲んでいいものじゃない。永琳はスッと飲んだが、あれは長い年月を生きて考え方が人間と違っただけだ。どう考えているのかまでは知らないが。
暫くすると、焔華は覚悟を決めた目で俺を見て言った。
「それでも…それでも私は、何かしてやらないと気が済まない!お父様だけじゃなく、私の家そのものをぶち壊したのに!月に逃げられて何も無しなんて耐えられないよ!」
「……………そうか、覚悟があるなら構わない。ほら」
俺はその目に強い意思を感じた。どれだけ言おうと変わりそうもない。俺は薬の瓶を焔華に渡した。
まぁ本音を言うと、俺がどう言おうと結末は変わらなかった気もする。俺はもうこの世界の住人。"世界の一部"が"世界の決まり"に口を出しても変わるとは思えない。
俺が手渡すと、焔華は心の準備も無しにすべて飲み干した。
瞬間、
「え!?何コレ!?なんで…」
「ふーん、人間が飲むと変化があるのか」
焔華の髪が真っ白に染まり、目は炎の様な赤色になった。
やっぱり、コイツが妹紅だったか。
「双也!都の前まで送ってくれない!?」
「…分かった」
俺は焔華を抱えて、言われた通り都の前まで瞬歩で移動した。するとすぐに焔華は駆け出した。多分家だと思うけど……焔華は気付いていない様だ、自分を見た民たちが
「ここから出て行け!!」
「うわぁ!」
バタンッ!
「…………………」
俺が不比等さんの家の前で待っていると、大声で怒鳴られて外に投げ出された焔華が出てきた。焔華は無言で立ち上がり、埃を払って俯いたまま出ようとしていた。
「どうだった焔華?」
「双也……はは、私追い出されちゃったよ…"醜い化け物め、どっか行け!"ってさ…」
「しょうがないさ、人間ってのは自分たちと違うものを恐る。そうじゃなくても、不比等さん破綻してイライラしてるのかもよ」
俺の問いに、焔華は力なく答えた。都に入った時の覇気はもう欠片も無かった。
「取り敢えずここ離れるか。人目につく」
「うん…」
俺たちは少し森に入ったところで立ち止まった。傷心には緑が良いかなと思ったからだ。図太く土からはみ出ていた木の根に二人で腰掛ける。
「落ち着いたか?」
「うん。ありがと双也」
焔華はそう言ってしばらく黙り、今度は問いかけてきた。
「ねぇ双也。私と初めて会った時…何て呼んでたっけ?」
「え?ああ…"妹紅"って呼んだな」
「それ貰っていい?」
「……いいぞ」
どうやら焔華は名前を変えるらしい。まぁ家も追い出されたし、新しい人生を歩むならそれもありか。って言うか、なぜか俺が名付け親になっちゃったな。
……あれ?コレって俺…原作歪ませたんじゃね?
ほの…妹紅は立ち上がって宣言した。
「私はこれから
そう宣言した妹紅の顔はスッキリしていた。名前を変え、声に出して宣言した事でいろいろ吹っ切れたんだろう。
いつかは輝夜と出会って復讐を再開するんだろうが……本当は二人に殺し合って欲しくないな。まぁこればっかりはしょうがないと思っている。
「じゃ、俺もそろそろ行くかな」
俺も立ち上がって歩き出そうとする。コレでまた一つ終わりか…次は誰だろーなー?
歩き出す前に妹紅が俺に言った。
「双也!! 私、強く生きるから!!また会えるように!!」
「…ああ、待ってるよ。じゃあな妹紅」
妹紅の声は森に響いていた。妹紅のこれからを考えると心苦しいモノもあるが、今はどうにも出来ない。
俺は妹紅に軽く手を振ってこの場を去った。
\☆祝!5000文字突発おめでとう!☆/
…全然嬉しくねーです…。超疲れちまったです…。
ではでは。