あ、あと視点がコロコロ変わります。ご注意下さい。
ではどうぞ!
「ふぅ…とりあえずなんか飲もうかな」
輝夜の屋敷へ答え合わせの為に出向き、今宿へ帰ってきたところだ。宿は八畳間の一部屋で、真ん中にちゃぶ台が置いてある。そこに台所で入れたお茶を置いて座る。
「ズズズ…ほっ…うまい……」
とりあえず一口飲み、その暖かさを身で感じる。やっぱり疲れたあとの熱々のお茶は格段に上手い。団子が欲しくなる。
「ズズ……ふうぅぅ〜……身に染みる…」
「あら、それなら私にも一杯戴けないかしら?」
「おう、ちょっと待ってな…」
俺は再び台所に行ってお茶を持ってくる。どうせだからミカンも一緒に持ってきた。
「ほれ、ミカンもあるぞ」
「ええ、戴くわ。………全く、驚かせようと思って前触れなく現れたのに何よその反応…つまらないわね」
「驚かそうって言ったってお前が現れる時は大抵いつも突然だろうよ。いい加減慣れたわ。もう少し頭捻ったらどうだ
前触れなく俺の隣に現れたのは紫だった。実を言うと旅をしていた十年間、紫が普通に現れた事は一度もなかった。いつも独り言にサラリと入ってくるとか振り向きざまに出てくるとか、そんな事ばかりだった。嫌でも慣れる。
「それとも俺に構って欲しいのか?俺以外にも友達作った方が痛いっ!!」
「余計なお世話よ! 友達くらい私にだっているわ!」
俺の言葉の途中に扇子で思いっきり頭を叩かれた。あの扇子どんな強度してんだよ、スゲー痛い。
怒りを完全に押さえ込んだらしい紫は一息ついて新たに話し始めた。
「双也、あなたが旅を続けるのは会いたい人たちがいるからだとは何度も聞いたけど、まだ残ってるの?」
「ああ、あと数人だな。その人達に会うまで旅は続ける。ズズズズ…」
旅をする理由って言うとそれだけじゃ無いんだけど……。
「ふ〜ん、でも……迷ったわよね?輝夜に抱き着かれた時」
「ぶうぅぅううーーーっ!!!」
吹き出したお茶は襖をビッシャリと汚してしまった。いや反射だからしょうがない。って言うか!
「お前見てたのかよっ!!」
「ええ見ていたわ♪輝夜に抱き着かれて耳元で囁かれて、真っ赤になった双也の顔なんて傑作だったわ♪クスクス」
「〜〜〜〜っ!!」
紫はとてもにやけた顔で俺を見て笑っている。
くそっ そんなに赤くなってたか!?夜風の冷たさで気づかなかったのか!?あーー恥ずかしいっ!
「因みに部屋の外にいた貴族たち、
「……さいですか」
なんだ、帰ったんじゃなくて被害にあってたのか。ちょっとかわいそうだ、人間の身でスキマ落としを体感するなんてトラウマものだろうに…。
…話がずれた。えっと…迷っただろって?
「はぁ…で、迷ったかどうかだろ?確かにキョドりはしたけど迷ってはいない。月に戻るつもりなんてないよ」
「ふ〜ん……ねぇ双也、聴きたいことがあるんだけど良いかしら?」
「ん?なに?」
紫はさっきまでと違い、少々目つきを真面目にして聞いてきた。
「どうしてその人達に会いたいって思ったのかしら?」
「……う〜ん」
ちょっと予想外だった。会いたい理由なんて考えた事なかったな。ただ漠然と会わなきゃいけない気がして…。でも強いて言うなら
「この世界を楽しむ為、だな」
「楽しむ為? 会わなければつまらないとでも言いたいの?」
「そう…だな。多分、会わなかったらこの世界はつまらないものになるだろうな」
紫は不思議なものを見るような目で俺を見ていた。まぁ分からないだろうな、紫からすればこの世界は一度目なんだから。
……紫は一度目がここで羨ましいな……。
俺は紫の肩にポンッと手を置いて言った。
「この世界が面白くなるかどうかは…紫、お前にかかってると言って過言じゃあ無い。よろしくな!」
「よろしくって……」
「大丈夫、死ななければ自然と面白くなる。お前の行動も自然に流れていくさ」
俺は紫に笑いかけた。さて、創造はいつになることやら。もしかしたら俺が気付いてないだけって事もあるかも…ふふふ、やっぱりおもしろいなぁ。
「……まぁいいわ。 さて、じゃあそろそろお暇するわ。お休みなさい双也」
「ああ、おやすみ紫…っとちょっと待った!」
紫はスキマに入る直前で立ち止まり、こちらに振り向いた。
「何かしら?」
「輝夜との話を聞いてたなら知ってるだろ?お迎えの話。その日に少し手伝ってもらう事があるかもしれないから、そのつもりでいてくれ」
「…ええ、分かったわ。じゃあね双也」
「またな〜」
俺はスキマの中に消えていく紫を手を振って見送った。
「……何かしら、何故か引っかかりが取れないのよね…。……双也…一体あなたは…」
〜一ヶ月後 輝夜side〜
「………いよいよなのね…」
伝説の英雄様、双也とお話をしてから一ヶ月経った。満月の夜…お迎えの来る日だ。
私は月を見上げながら双也の言葉を思い出していた。
大丈夫、全部上手くいく。
「…まさか本当に願った通りになるなんてね…」
答え合わせをしてから数日経った頃、私の元にたくさんの人たちが押し寄せてきた。私には身に覚えがなかったから話を聞いてみたところ、"苦労して作ったのに報酬を貰ってない!"との事だった。その人たちが見せつけてきた紙には
「ホント、あの時は驚いたものだわ…」
双也が上手くいくって言ったのはこの事だったのね!…と内心かなり歓喜しながらも顔には出さないようにして、この事を口実に藤原不比等との結婚は取り下げとすることができた。本物ではなかったんだもの、当然の事。
「双也は一体どこまで見抜いているのかしら…?」
まるで未来を知っているかの様な言動を取る双也。神だから、と本人は言っていたけれど、果たして天罰神にそんな事が出来るのだろうか?違和感が無いわけではない。
「でも…もう今日まで来てしまったわよ双也。ここからどう事が動くというの…?」
私が目を向けた先には、竹林の土を占領するかのような人数の兵達、帝直属の兵達が居る。
実は私が知らないうちに都の帝に惚れられていたらしく、今晩私が月に帰ると噂が広まったからと言って大量の兵を屋敷に送り込んできたのだ。
……月の技術の前では意味が無いのに……。
月に戻りたくない、それが願いならきっと叶う。俺を信じろ輝夜!
「…………………」
小さい頃から聞かされ続け、ずっと憧れていた英雄様。その人が言った言葉なら……双也が言ってくれた言葉なら、信じてみる価値は十二分にある。
(私は…あんな退屈な日々に戻りたくない、月になんか…帰りたくない!)
そう願った刹那、庭の方から大きな声が聞こえた。
「来たぞー!!迎え撃てーー!!」
輝夜の屋敷にある大きな庭。そこに集められた兵の一人があげた叫びは、そこに居る全ての者の耳に届いた。
兵達が見上げた先にあるのは、光に包まれながら雲に乗って降りてくる神々しき月人達………ではなく、大きな照明で屋敷を包むように照らす、巨大な宇宙艦だった。
「弓矢隊!放てー!!」
兵達は宇宙艦に向かって火のついた矢を放つ。しかし当然の事ながら矢は宇宙艦の外壁を貫く事は無く、傷一つ付ける事も出来ずに弾かれていく。
その様子を窓から見ていた輝夜は、勢いよく庭に出た。
「やめて!アレには敵わない!逃げて!」
「ご冗談をかぐや姫!我らは命を捨ててあなたを守る為にここに居るのです。今更引くわけには行きません!」
「そんな----」
輝夜の言葉を遮るように、突然周囲が光に包まれた。目を開いた輝夜の視界には、胸に大きな風穴を開けられたたくさんの兵たちが次々と倒れていく様子が映っていた。
目の前で死んでいく兵達を目の当たりにした輝夜はショックで動けなくなっている。
そこに宇宙艦はハッチが開いた。中からは武装を施した月の住人たちが降りてくる。
「くっ!怯むな!斬りかかれー!!」
閃光に運良く当たらなかった兵達は、逃げることもせずに刀を抜いて斬りかかる。月人達は無言で銃を構え…………一瞬の内に斬りかかるすべての兵を撃ち殺した。庭はすでに血に染まり、池となりつつあった。
そして完全に地に降り立った宇宙艦のハッチの中からは、輝夜にとってとても大切な人の姿が現れた。
「姫様」
「…え、永琳…」
ハッチの中から現れた月人、八意永琳は弓を持ったまま輝夜に近づいてきた。
「永琳!この人達を殺すのは止めて!こんなの----」
「姫様、まだ…地上に居たいとお思いですか?」
「え…?」
永琳は輝夜の言葉に割り込み、確認するように声をかけた。
「私は姫様が地上に行きたいと願った理由を知っています。ですから…まだ地上に居たいですか?」
他の月人には聞こえぬよう、永琳は小さな声で問いかけたが、輝夜には永琳の覚悟がしっかり伝わっていた。
ゆえに輝夜は、しっかりした意思でハッキリと答える。
「……ええ!私、地上に居たい!月には…戻りたくないわ!!」
「…分かりました」
永琳は簡潔にそう返事をすると弓を構え……
「!? 八意永琳!我らを裏切るつもりか!?」
「私は裏切ってなどいないわ。…元々姫様の味方よ!」
永琳は次々と矢を放つ。しかし相手は屈強に鍛えられた月の兵、月人達は光線銃でそれを迎え撃った。矢は何人かの月人には当たるが、ベテランの兵には避けられ、放たれる光線は次第に永琳でも捌けなくなってきた。
「ぐっ!」
「永琳!」
遂に月人の光線は永琳の肩を貫き、痛みで弓を落としてしまった。永琳はすぐに拾おうとするが……
次の光線は既に放たれていた。
(もうダメ…!)
輝夜はそう思い、目を瞑った瞬間…バチィィンッ!と何かが弾ける音がした。
ゆっくり目を開けると、輝夜の視界には……
「悪い輝夜。ちょっと遅れた」
「双…也……」
刀を抜き、背を向けて立っている双也の姿が映っていた。
ありがちです、はい。ありがちな展開です。
大事な事なので(ry
ではでは。