ではどうぞ〜!
「ん…ぅう…ムニャムニャ」
日の光が目に入る。早起きには絶好のシチュエーションだが、昨日の戦闘で意外と疲れた今回だけはもっと寝てたい。何よりベッドがふっかふかだ。宿屋よりも気持ちいいし、なんかすごくあったかい。
俺は寝返りをうって布団の中に縮こまろうとした。しかし
ムニュ
「…ん?…何だこれ…」
ムニュムニュ
寝返りをうった瞬間、何か柔らかくてあったかいものに当たった。気になったので、眠い目をこすりながら何かを確認しようと目を開けた。すると
「スー…スー…」
…目の前に寝ている幽香の顔があった。しばらく思考停止。
「……………………え?…えぇぇぇえええええ!?!?」
状況に気づいた途端飛び上がってしまった。
え、何?じゃあさっきの柔らかいのって…幽香の…む、むむむ----
「もう…何ようるさいわね…」
柔らかいモノの正体に気付いて顔がすごい熱くなった。
そして俺が騒いだから幽香が目を覚ました様だ。何平然と起きてきてんですかねこの人!
「お、おい幽香!なんでベッドに入り込んでんだよ!」
狼狽した俺の言葉に、幽香はキョトンとした顔で答えた。
「このベッドが私の物だからよ?あなた、私が言った部屋を間違えてるわ。ここは
「…………は?」
「私が寝ようと思ったら既に双也が寝ていたんだもの。てっきり私と寝たいのかと思ったのだけど?」
幽香は少し頬を赤く染めて言った。お、俺が間違えてたのか?確かに疲れで頭が回ってなかったのかもしれないけど…イヤイヤそれでもさ!
「だからって一緒に寝ることないだろ!?俺地味に初体験なんだぞ!?」
「あら、それは光栄ね。大丈夫よ、私は花を大事にしてくれる人なら別に一緒に寝たって構わないから」
「そういう問題じゃ----」
そうして幽香と討論していると、言葉の途中でガチャッと扉の音がした。俺たちが振り向いた時には扉が開く途中だった。
「神薙さん〜?朝から騒がしいですよ〜。もう少し静かに…………」
「「………………………」」
扉を開けた士郎と目が合った。あコレお決まりのやつだ。
「へ、部屋間違えました……」
「待ってくれ士郎ーーー!!!」
俺は全力で士郎を捕まえに飛び出した。両手で肩を掴んでコッチを向けさせる。
「士郎!聞いてくれ!コレは事故なんだ!」
「そう照れなくてもいいですよ。誰にも言いませんから」
「ちがーーーう!!!」
完全にお決まりの展開と文句だが言わないよりマシだ!
俺は必死で説明を続け、三十分くらいかかってやっと誤解を解いた。途中幽香が着替えを済ませて茶化しに来たが、決して屈しはしなかった。屈してはいけなかった。
そうして騒がしい朝を迎え、朝食を貰い、幽香の屋敷の前にいる。
「それじゃそろそろ行くよ。泊めてくれてありがとな幽香」
「あ、ありがとう…ございました…」
扉の前で幽香に礼を言う。士郎は相変わらず幽香が怖い様だ。まぁ仕方ないとは思うけど。
そんな様子は気にもせず、幽香は俺に話しかけてきた。
「双也、これを持っていきなさい」
幽香が手渡してきたのは花と種十ずつ。目的の物だ。てっきりくれないものかと思っていたが。
「え、くれるのか?」
「ええ、勝負で負けたら素直にあげようと思っていたのよ。勝負に決着は付いていないけど、恐らく…負けていただろうし。だからあげるわ」
幽香は少し悔しそうな表情をしながらも花と種を渡してくれた。俺は持ってきた花の包み紙で花を包んだ。
次に会えるとすれば…あの世界かな。
「じゃあな幽香。またそのうちに会おう」
「ええ。待ってるわ」
そう言って俺たちは幽香の屋敷を後にした。まだ朝も早い内だし、正午までには都に着くだろう。
気づけば、士郎が俺の隣でなにやら難しそうな、憂鬱そうな表情をしていた。
「どうした士郎?何か悩んで……あ、俺の邪魔を出来なかったからその主ってのに会うのが気まずいのか?」
言葉の途中で理由を察した事に驚いたのか、士郎は少し目を見開いた。そしてゆっくり口を開いた。
「…はい、その通りです。そのことで少し悩んでいました」
「ふ〜ん…あのさ」
俺の言葉の繋ぎが気になったのか、士郎は顔をこっちを向けた。俺は横目でそれを確認し、続ける。
「気まずいのは分かる。悩んでる事については知らないが、"人の邪魔をしろ"なんて命令する様な主人に仕えてて……辛くない?」
「………………」
士郎は俯いてしまった。俺は案外優しいヤツだと士郎を評価している。人の役に立つよう頑張れる覚悟はあるし、間違っていることならちゃんと疑問を持てるような性格をしているからだ。……何となく、あのクズ貴族に仕えさせとくのは勿体無い気がするのだ。あの傲慢な貴族には。
士郎は俯いたまま話し始めた。
「……僕の家は代々貴族に仕えてきたんです。世の流れで主である貴族が滅んでしまう事はあっても、貴族に仕える、これが途切れることはありませんでした」
士郎が話し出したのは家の事だった。多分生い立ちの話だろう。少々予想外だったがそのまま聞き続ける事にした。
「僕は今の家では一番下。ここ数ヶ月の内に
大伴御行? あのクズ貴族の名前か。んー歴史の授業じゃ見なかった名前だな…竹取物語の登場人物なんだろうけど。
士郎は話し続ける。
「今回のこの仕事は、御行様から直々に下さった命だったんです。心の内でどう思っていようと僕に任せてくれた。それが嬉しくてここまで神薙さんの尾行を頑張れたんです。でも…それが正しい事なのかどうか…考えていたんです」
「仕える主に従うのが正しいのか、間違いを正す事が正しいのか、だな。いや、お前の場合は家の事もあるからもう少し複雑か」
「そうですね…少し複雑かもしれません」
士郎は話してスッキリ、ではなく更に俯いてしまった。ちょっと悪い事したかな…。
でも、そうだな…やっぱり勿体無いと思う。
「なぁ士郎、そんなに悩む必要無くないか?」
「え?」
「悪いことしてる奴ってのは大抵自分じゃ気がつかないモンなんだ。でもお前は自分の行動にすら疑問を持てる。コレって意外と凄いことだ。そういう"修正力"をお前自身が持ってるなら、お前が素直な気持ちでパッと思い浮かべたモノが、きっと正しい事なんだと思うけどな」
俺の言う修正力。持ってる人はあまりいない。特に傲慢な人間は絶対に持っていない。これを持つ者が持たない者に振り回されているのはおかしいと思っている。ホントは逆の立場なのに。
「…………………」
士郎は黙っているが、表情をチラ見する限りはもう悩んではいないようだ。少し吹っ切れた顔をしている。
あとは互いにずっと無言だったが、少しして都に着いた。日は高く登ってはいるが真上ではない。
「じゃあな士郎。上手くやれよ」
「はい。ありがとうございました神薙さん。またいつか」
そう言って俺たちは道を分けた。そろそろかぐや姫の屋敷に向かわないとだな。俺は幽香に譲ってもらった花と種を確認し、竹林へ向かった。
「ダメだってお父様!!そんなにお金使っちゃ破綻しちゃうよ!」
「うるさい。少し黙っておれ」
俺が竹林へ向かっていると、道中で何か言い争っている人達を見つけた。
「あ、不比等さんじゃん」
よく見れば、幽香の元へ向かう前に俺を心配してくれた不比等さんだった。そのそばには黒髪の少女がいる。
あれ、あの子って数日前に俺がぶつかっちゃった子じゃね?
「竹取物語………少女………藤原………
あっ!!」
俺が声を上げたのに気がついて、不比等さん、家臣の人たち、そして少女がこちらを向いた。少し涙目になっているその顔を見て確信に変わる。
「あ"ーーーーーーーー!!!」
「ど、どうしたのだ双y----」
「ゴメンなさいゴメンなさいホントに忘れてましたゴメンなさい長生きし過ぎて頭が回ってなかったんです許してください!!!」
ダッシュで少女に近寄り両手を握って必死に謝る。
なんで忘れてたんだよ
妹紅は凄い戸惑った表情をしている。
「お、お父様…知り合い?」
「あ、ああ…一応顔見知りではある…」
「良かった…ホント、妹紅をスルーしなくて良かった…」
俺の言葉を聞いて二人が首をかしげた。
? 俺なんか変なこと言ったか?
「えっと…双也、だっけ?
「…………ゑ?」
「双也、こやつは私の娘、
「………え? え? ほの…か?」
妹紅だと思ってた少女は俺に頷き返す。 いやでもどう見たって……。
そうこうしていると、不比等さんは思い出したような声を上げた。
「おっと、こうはしていられない。双也も向かうところだろう?共に行こうぞ」
「うぇ? あ、ああ…」
突然だったので少し反応が遅れた。未だ納得はできていないが、確かにそろそろ行かないと間に合わない。
そんな折、もこ…焔華は再び切羽詰まった表情で不比等さんに言った。
「お父様! お金を使いすぎだよ! そんな女の為にどうしてそんな必死になるのさ!!」
「焔華、お前には分からん。金は使う為にあるのだ。お前も伴侶が出来ればいずれ分かることだ」
「………………」
違う。焔華はこのままでは生活できなくなると言っているのだろう。不比等さんの言い分も分からなくはないが…正直言って詭弁だ。家族を蔑ろにしてまで使うべき金なんて存在しないと思う。恋は盲目、とはよく言ったものだ。
俺はその様子を静かに見ていた。
不比等さんと歩き、かぐや姫の屋敷についたのは日が真上に登ってしばらくした後だ。そこには既に他の四人は集まっていた。……大伴御行もそこにいる。
「おお
「お陰でね
「もうやめんかお前たち……」
早速突っかかってきたので反撃する。ホンット気に食わない奴!!
その様子を傍観者たちは呆れた目をして見ていた。
全員集まったところで扉が開く。
「皆様、どうぞこちらへ……」
冒頭のハプニング、一度書いて見たかったんですw
ではでは。