東方双神録   作:ぎんがぁ!

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さて、タグの超速展開が本気出してきました!
……まぁ他の作者さんたちは百年とか結構飛ばしちゃってるので私などまだまだ甘っちょろいと思いますが。

では二十八話、どうぞー!


第二十八話 十年の旅の報い

「………なぁ紫」

 

「何かしら?」

 

「コレ何ですか?」

 

「何って…ご飯でしょ?」

 

「ご、ご飯?……あの……」

 

都を旅立ち、紫と出会って約十年経つ。その間はもちろんずっと旅をしていた訳だが、紫の修行の手伝いとかピンチに陥ったときの助けとかもしていた。

ただ俺は相変わらず野宿していた為、さすがにそろそろ危険の無い所で一夜を明かしたいと思い、紫に頼んでみた。すると紫は快くOKしてくれた。紫が住んでるのはスキマの中だがそれまでは良かったのだ。それまでは。

 

「何よ、ちゃんと調理してあるでしょ?」

 

「そーゆう事言ってんじゃねーよ!!コレ人肉(・・)だろうがっ!!食えるかこんなモン!!」

 

俺は机に平手打ちをかまして言った。

そう、紫がご飯まで作ってくれるとか言ったから任せたのが間違いだった。紫は調理したとか言ってるが、正直言って形が整っただけだ。一目でわかる人の肉。おぇ…気持ち悪い…。忘れてたよコイツが人食い妖怪だってこと…。

そう言えば初めてあった時は俺を食おうとしてたような……。さすがに十年前の会話なんか覚えてない。

取り敢えずどう足掻いてもコレは食べられないので、臭いを遮断して紫が食べ終わるのを待った。もちろん様子は見てない。と言うか見れない。

食事を終えた紫は食器をスキマに落として片付け、俺に話しかけてきた。

 

「ところで双也、前々から気になってたけど…双也の会いたい人たちってどんな人なの?」

 

「ん?あー、覚えてたのかそれ」

 

紫の記憶力に少し驚いた。それを話したのは十年前。なんで今更聞いてきたのかはあえて考えない。怒られそうだし。

俺は紫に少し関心して応えた。

 

「えっと、少々特殊な人たちかな」

 

「特殊って?」

 

「んーと…例えば……能力持ち、とか?」

 

「人間にも能力を持ってる人がいるの?」

 

「ああ。ごく稀にだけどね」

 

紫は人間に能力持ちが居ることを知らなかった様だ。ちなみに、俺の種族についてはずいぶん前に説明しておいた。紫の中では俺はもう人間では無いらしい。正直傷付いた。

紫は納得した様な声で言葉を返してくる。

 

「まぁそうよね。能力持ちがそこら中に居たら不味いものね。で、双也はそういう人達に会うために十年も旅をしていると言うわけ」

 

「……まぁ、そうだな」

 

曖昧な返事しか出来ない…。ここ十年ずっと旅してきたが、東方projectに関係する能力持ちには遭遇しなかったのだ。妖怪に遭遇する事なら沢山あったが。

そろそろお話が進んでもいいと思うんだけど…。

少し落ち込んでいると、紫が楽しそうな声で話しかけてきた。

 

「ふふ、そこで双也に面白い話があるわ♪」

 

「面白い話?」

 

なんだ?やけに楽しそうな顔してるけど…。

あ待った。これ俺をからかう時の顔だわ。

 

「ええ♪なんでも、もう少し北へ進んだ所に都があってね。その近くには絶世の美女と言われる姫(・・・・・・・・・・・)がいるそうよ?双也って初心(うぶ)そうだから、会ってくれば?」

 

俺はガタッと立ち上がった。紫は予想外の反応に少し戸惑っているようだ。

 

「な、何よ…やけに食いついたわね…近くに私がいるのに、不満かしら?」

 

「いや違う、そういう事じゃない。……探してた人物だ…!! ありがとう紫!!お前が友達で良かった!!」

 

最早紫のからかいなど耳に入っていない。やっと十年の旅が報われる!

俺の言葉で少し顔を赤くした紫を尻目に、俺はすぐに出ようとした。が、

 

「双也?どうやってココから出るつもりかしら?」

 

「…忘れてた。出してくれ紫」

 

「ダメよ。今外はもう夜。安心して寝たいから私に頼んだのではなかったかしら?」

 

あ…喜びのあまり忘れてた…。俺から頼んだのにすっぽかしてはいけないよな…。

紫も少し不機嫌になってしまったようだ。

 

「悪い紫。ちょっと取り乱した」

 

「いえ、いいわ。十年間がやっと実を結ぶんですもの。はしゃいでも不思議はないわ」

 

紫は仕方なさそうな顔で俺に微笑んだ。案外優しいな紫。

 

「じゃあ明日に備えて早く寝るにするよ。おやすみー」

 

「え、ええ…。……雑魚寝でいいのね…布団あるのに…」

 

俺はその場で寝転がって眠る準備をする。

因みに俺なりの安眠法、"周りの熱を繋げる"という札を俺自身に貼っておく。程よく暖かくなって、野宿していた俺からすると天国の様に安らかに眠ることができる。

俺はそのまま目を瞑った。

 

 

 

 

「ふあぁ〜あ。久々にぐっすり眠れた…」

 

翌日(と言ってもスキマの中だから正確には分からない)、俺はぐっすり眠れてかなりサッパリとした気持ちで起きた。掛け布団をどかして立ち上がろうとする。…ん?掛け布団?

 

「あ、もしかして紫が?」

 

周りを見渡して見ると、しっかり布団を敷いて掛け布団に(くる)まり、スゥスゥと寝息を立てている紫がいた。どうやら俺が寝ている間に布団をかけてくれたらしい。通りで寝心地が良かった訳だ。

気持ち良さそうに寝ているので起こすのにも少々躊躇ったが、体を揺らすと紫はすぐに起きてくれた

 

「紫…紫!」

 

「んぅ……何よ…」

 

「起きてくれ。そろそろ出かけたい」

 

「うぅん…あと少し…すぅ…」

 

「おい寝るなって!」

 

……と言うのはただの願いだ。コイツ…この時代からこんなに睡眠欲強かったのか…。

このまま粘っても無駄な気がするので、強行手段に出る事にした。

 

「紫!起きろ!」

 

「……ん?え!? 眠気が……!」

 

俺は能力で紫から眠気を遮断した。ホント色んな事に使えるな俺の能力…。

紫は仕方無さそうな顔をして起き上がった。

 

「はぁ…双也の能力ね。せっかく気持ちよく寝てたのに…分かったわよ起きるわよ…」

 

「いや、悪いのはお前だと思うんだけど…」

 

紫の言い方だと何だか俺が悪者扱いされてるみたいだったのでツッコミを入れておく。

紫はパッパと食事を済ませ、俺は天御雷を腰に差し、準備が出来たところで外に出た。

外は日が傾き始めているところだった。朝じゃないじゃん。

 

「困ったな…。今から進んでも今日中に着くか?」

 

俺は基本的に旅の間は歩いて進んでいる。走ったりしたら無駄に疲れるだけだし、もしかしたら大事な出会いも見逃してしまうかもしれないと思っているからだ。だがその原理で歩いて行くと、今日中に都に着かないかもしれない。俺が頭を悩ませていると、紫が話しかけてきた。

 

「あら、全然間に合うわよ?」

 

「え?どうやって?」

 

「それは……こうすれば!!」

 

満面の笑みを浮かべた紫が指をパチンッと鳴らすと、足元に浮遊感が生まれた。見てみると、たくさんの目が覗く不気味な空間が。

 

「覚えてろよ紫ぃぃいい!!」

 

当然俺はそこに落ちていく。空間が閉じる間際に見えた紫は心底面白い物を見るような目をしていた。

コレが有名なスキマ落としか!こえぇな!!

俺は衝撃に備えて身を固めた。暫くすると地面が見えてきた。

 

「ガフッ!!」

 

衝撃に備えていたとは言え、結構な時間ダイブしていたのでそれなりの威力になり、思わず声が出てしまった。

俺が落ちたところはどこかの竹林のようだ。

 

「いっってぇぇ…アイツ今度会ったらお仕置きしてやる……ん?」

 

気配がしたので振り返ってみると、御輿を担いだ人たちとなにやら護衛みたいな人たちが驚愕の表情を向けていた。

その内の一人が怒鳴ってくる。

 

「き、貴様何者だ!」

 

「え、えと…人間です」

 

「それくらい見れば分かるわ!何処の者だと聞いているのだ!」

 

護衛の人は更に声を張り上げて怒鳴った。そう言えばここ十年妖怪くらいにしか会わなかったから、取り敢えず人間だと答えるのが癖になってしまっていた。確かに人間からしたら不自然だよね。

俺はそう考え直して改めて名乗った。

 

「えーと、ここらを旅している者です」

 

「嘘をつけ!旅人が空から落ちてくるわけがなかろう!」

 

えぇ〜…じゃあどう答えればいいんだよ…。妖怪って答えたらそれはそれで攻撃させるだろうし…。

俺が頭を悩ませていると、御輿の中に居た人が声をかけてきた。

 

「まぁまぁ、いいだろう。お主もあの方に会いに来たのだろう?今までは見なかった顔だが、共に行こうぞ」

 

「し、しかし!」

 

「黙っておれ。見てわからんのか?こやつに敵意は無いだろう」

 

「………………」

 

護衛の人は黙ってしまった。まぁホントに敵意は無いからありがたいんだけど

…護衛の人、睨むのやめて。

 

「じゃあ…ご一緒させて貰います」

 

「よろしい。では御輿の隣を歩くがいい。旅の話を聞かせてくれぬか?」

 

「はい」

 

そうして俺は御輿の人(御一行)と共に"あの方"なる人がいる屋敷へ歩いて行った。紫が正しい所に落としてくれたならば、あの方ってのは十中八九あの子だろう。

俺は旅の話を御輿の人に話しながら、鬱蒼(うっそう)とした竹林を進んでいった。

 

「………ここですか」

 

「ああそうだ」

 

暫くして目的の屋敷に着いた。背景の竹林によく映える、木造の大きめな家だった。

御輿の人は声を弾ませて少し大きめの声で言った。

 

「さぁ待っておれ!我が愛しのかぐや姫(・・・・)よ!」

 

 

 

 

 




会話が自然に成り立ってるのは久しぶりな気がしますw

今回の投稿と一緒に章名の○○○○のとこを変えておきます。なんの章かはもうわかると思うので。

ではでは。

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