ほとんどは双也視点。最後の方だけ???視点。
はい、またです。どうせすぐに分かります。
ではどうぞー
諏訪の国としての最後の戦、諏訪大戦から早五十年。表面上大和の国に数えられるようになったおかげで、正直大戦前よりもここは平和になった。強いて言うなら、偶に俺が戦の助太刀(と言う名の制圧)を頼まれるくらいで、ここ五十年戦で死んだ者は居ない。
………そう、
「うぅ…ぐすん…稲穂〜…」
「今まで……ありがとな、稲穂。おやすみ」
今から約二十年前、老衰という形で稲穂は亡くなった。稲穂は諏訪の国の最も大変な時期を見守った人物の一人。平和になった国を見られて良かった、と最後に言って眠るように亡くなった。この時代は仏教とか無いので葬式が無い。故に稲穂の知人が囲うように集まってきた。
「ぐすっ…お母、さん……」
「ほら
「ううぅ……はい…」
俺と諏訪子の間で泣いている女の子。この子は
他にも、いつかだか稲穂をストーカーしてた何人かも大泣きして別れを告げていった。やり方はダメだったけど、あいつらも心底稲穂を想ってたんだよな…それだけはわかる。じゃなきゃ年寄りとしてシワシワしなった顔を、あんなにぐしゃぐしゃにするなんてあり得ない。
「…………………」
ということがあり、現在。長らく一緒に暮らしていた稲穂が欠けたことによる心の穴もだんだんと塞がっていき、今は自室の縁側で空を見上げている。
「……永い時を生きる…悲しみ、か…」
そう一人呟き、これからの事に想いを馳せる。
「そろそろ、だな。行かなきゃ」
スッと立ち上がり、諏訪子や神奈子、倉菜の居る居間へ向かう。居間では三人が机を囲んでお茶を啜っていた。
「お、双也やっと起きたか。随分寝坊した様だな」
「だらしないですよ兄さん!早起きは三文の得と言うんですから」
今兄さんと呼んだのは倉菜だ。歳的に俺は爺さんレベルだが、寿命とかが神に沿っている分見た目の歳は取らない。つまり、転生した時の高校二年生の姿のままだ。ゆえに倉菜は俺のことを兄さんと呼ぶ。
「悪いな、倉菜。……少し、三人に話がある」
俺はそう言って話し始めた。
三人の視線が集まる。
「どうしたの双也?改まって…」
「真面目だから改まってるんだ。…あのな、
そろそろ旅に出ようと思ってるんだ」
俺の言葉に三人が目を見開いた。流石に驚くよな、突然だし。
「……何でだ?何かあったのか?」
「いや、特に何かあった訳じゃない。…やる事があるんだ。でも、此処に留まっていたらそれが出来ない。それに…」
三人が押し黙る。心配そうに言葉を待っている。俺は三人の心配を振り払うように、少し冗談じみた口調で言った。
「一定の範囲しか見ない天罰神なんて変だろ?いろんなところを回って、いろんな人を助けてやろうと思うんだよ!」
それを聞いて三人は少しあっけに取られた様な顔をして、笑い出した。
「ふふふっ あはははは! 何だそんな事か! 心配して損したよ!…なら良い。お前がやると決めたなら、そうすればいいさ」
「そうだね!それになんか双也らしいと言うか…うん!好きにやるといいよ!でも偶には帰ってくるよね?」
「んーどうだろうな?顔を見せには来たいと思うけど、旅だからね。どこまで行くかわからないんだ」
嘘だ。本当はどうなるか分かってる。ここは東方projectの世界。正直言ってイレギュラーな存在である俺は、そのうち幻想になってしまうだろう。そしてそうなれば、諏訪子達に会うことはできない。でももう少し別の理由もある。
「行っちゃうんですか……兄さん…」
そう、倉菜の存在。正確に言うなら俺と親しい関係にある人間の存在。稲穂が亡くなった時に思ったのだ、どこかに留まってしまったら、いつか俺が壊れてしまうかもしれない。前世で死んだ時、両親や友達の事はどうにかして割り切った。でも稲穂は、倉菜は………。
「な、何ですか…?兄さん…」
俺は無意識のうちに倉菜を見つめていた。倉菜は少し顔を赤くしている。
「おやおやぁ〜?どうしたのかな双也〜?まさか、身内に…」
「うっさい下世話。その癖直したほうがいいぞ」
俺は何か言いかけた諏訪子に能力を併用してデコピンした。いった〜い!って言ってるけど無視する事にする。
一息つこうとお茶を啜っていると神奈子が話しかけてきた。
「双也、旅とは言ったが、最初の当てはあるのか?まさかそこらをブラブラするわけではないだろう?」
「あ〜っとだな、前に都を見つけたって言ってたよな?とりあえずそこに行ってみようかな」
数日前に神奈子が戦から帰ってきた日の夕飯時、持ち出された話題として、戦場の近くで都を見つけたという話が上がった。東方projectで都と言うと…何人か当てはまるキャラがいる。会っておいた方がいいだろう。
「ああそう言えば、その都について新しい噂を耳にしてな」
「噂?」
「ああ。なんでも、十人の話を同時に聞ける人間がいるそうだ」
「…………………(ニィ)」
ビンゴだ!俺はだんだんと口元が釣り上がっていくのが分かった。そんな人間は東方にも現代にも一人しかいない。
「ほほ〜う?それは面白そうだな…。よし!明日の朝出るにするよ。出来れば見送ってくれると嬉しいけどな」
「もちろん見送りますよ兄さん!家族の旅立ちなんですから!」
真っ先に返事したのは倉菜だった。うん、この子もいい子に育つだろうな。
俺は旅立ちに向けて支度を始めた。
翌日の朝、俺は神社の庭にいた。今から出ようって所だ。
俺の目の前には今まで世話になってきた
「まさか帰ってたとは…思ってなかったよ、
「昨日の夜中に帰ったからな。驚いたよ、突然旅に出るとか言い始めたって諏訪子様から聞いたときはの」
彼は
「じゃあみんなを頼んだぞ。縁があればまた会おう」
「元気でね〜!!」
「無理はするなよ双也!」
「帰りを待ってますよ兄さ〜ん!」
「元気でな〜!」
俺は四人に背を向けて右手をあげながら歩いて行く。
こうして諏訪での日々に別れを告げた。
〜とある屋敷 某室〜
「はぁぁ〜〜… 。今日も疲れましたね…」
時刻は夕方。私は毎日の様に訪れる民の話を聞き、答え、その合間には書類をかたずけると言う大量の仕事を終わらせて自室に来ていた。
「ですが、これも民の為。平和な世にする為には欠かせない事…」
そう独り言ち、自分に言い聞かせていると扉をコンコンと叩く音が聞こえた。
「入りなさい」
「失礼します…。太子様、お疲れ様です。風呂を沸かしておきました。湯浴みでもして疲れを癒すのはいかがですか?」
「ああ、ありがとうございます
「それが…仕事を終わらせたら何処かへ行ってしまった様で…。全く、アイツどこいったんだよ…」
緑を基調とした服に少し巻きのかかった髪、そして時折出てくる少々粗雑な言葉使い。この少女は
「ふぅ、まぁそのうち戻ってくるでしょう。戻らなかったことありませんし」
「ふふふ、そうですね。それでは失礼します。着替えは脱衣所に置いておいたので」
「はい、ありがとうございます」
屠自古は静かに部屋を出て行った。
さて、私も湯浴みをしてきますか。私は少し伸びをしてから風呂へ向かった。
私を見ていた視線には、全く気づかなかった。
風呂の扉を開けると暖かい湯気がフワッと身を包んだ。とても心地いい温度だった。
「はぁ〜、気持ちいいですね」
「そうですな!この湯加減、屠自古のくせに中々やりおる!」
「はい、屠自古は流石……え?」
私が声のした隣を見るとそこには、普段は後ろで縛っている白銀の髪をおろし、今は大きな布巾で体を巻いて両手を腰に当てている少女がいた。
「何を……しているのですか?
「太子さまのお背中を流そうと参上つかまつった次第であります!」
「それにしては狙ったかのような感じで現れましたね。ここにずっといたのですか?」
「いえ!太子さまが風呂場に行く瞬間を太子様の自室にて伺っておりました!」
「………………」
どこに行ったのか分からないと話しておきながら、まさか私の部屋に居たとは……。
この少女は
「ふぅ、まぁ仕方ありませんね。では布都、お願いします」
「承りましたぞ太子様!この物部布都、誠心誠意お背中を流させて頂きますゆえ!」
な、なんか…不安になってきた…。大丈夫でしょうか…。
「いきますぞ太子さま!そぉれぇ!!」
「へっ!? わぁぁああ!?」
………この後あった事は、心の内に仕舞っておくことにする…。
「全くもう……」
「ムフフフフッ いやぁ良い湯加減でしたな太子さま!」
「………っはぁ…」
まだ元気そうな布都を見てもため息しか出せない。どうすればこう…もう少し落ち着いてくれるだろうか…。
私は一日を通してひどく疲れてしまったので、食事もそこそこにしてさっさと布団に入った。
「また…明日も、頑張らないと…いけませんね……すぅ…」
この時の私は知らなかった。
知る由もなかった。
変わらないこの毎日に、変化が訪れることなど…。
双也くんの言葉の意味、分かる人には分かるかもしれません。含みのある展開は慣れてないので感想くれるとありがたいです。
天次の扱いはご容赦下さい。取り敢えず意外とすごい人って事で。
次回から奈良編です。ある意味、少々内容が濃くなるかもです。
ではでは。