東方双神録   作:ぎんがぁ!

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魔人と妖怪の違いィ? 知らんなそんなモンは。

ではどうぞ。


第百八十六話 新たな住人

 ーー法界。

 

 幻想郷にも扉が存在する屈指の危険地帯、"魔界"の一部と言われる、強力な結界に包まれた世界。

 

 人間にとっては毒にもなり兼ねない濃密な瘴気と協力な妖怪ーーいや、魔人達が跋扈する魔界とは異なり、法界は異常な程に空気が澄んでおり、そこに住む妖怪達はとても穏やかな暮らしをしている。

 

 ーーというのは、星 曰くの話である。

 

 俺自身法界なんて所には行った事が無いし、何なら今回初めて聞いた名前だ。

 なら何で星は知っていたのか、という話だが、実は、そもそも白蓮の封印の解き方を一輪達に教えたのは星なのだとか。

 それなら納得だ。

 封印法を知っている者が、その場所の事を知らない訳がない。

 まぁ、もともと星が嘘を吐く奴とは思っていない訳だが。

 

 そんなこんなで何とか霊夢を説得ーー主に今回の件には危険がない事ーーし、飛倉の破片を集めに行っていた一輪とも合流し、総勢八人に及ぶ魔界突入パーティが結成された訳である。

 

「はぁ……なんで私がこんな事……」

 

 甲板にちょっとした椅子を作り出して座っていると、隣でぶつくさと小言を垂れていた霊夢が大きな溜息を零した。

 俺が説得に成功してから、彼女はずっとこうである。

 きっと俺と同じように肩透かし感を食らって気が滅入っているのだろう。

 

「いいじゃんか。 どうせこの船の奴らも幻想郷の住民になるんだ。

 顔は売っといて損しないぞ?」

 

「そうかもしれないけど……。

 そもそも双也にぃが悪いのよ。 異変じゃないって分かったならさっさと帰れば良かったのに 」

 

「あー、なんか紫にも同じ事言われそうだ。

 まぁでも、良いんだよ。 自由に過ごすのが一番さ。 よく知ってるだろ?」

 

 それどういう意味……?

 ジト目で睨まれたが、軽く さぁね? と返した。

 そうしたら、軽く大幣で叩かれた。

 

 ーーそう、自由に過ごすのが一番だ。

 生にとても短い限りのある人間ならば尚の事。

 好きなように食べて、好きな様に寝て、好きな様に運動して、好きな様に恋をして。

 そして好きな様に、死んでいく。

 勿論、怠惰を貪る事が良い事とは思わない。 けど、人生ってそうあるべきなんじゃないかと、最近思う様になったのだ。

 

ポフ「……? 何よ?」

 

「お前は幸せ者だな、霊夢」

 

「はぁ?」

 

 そういう点、霊夢は本当に自由に生きていると思う。

 気が向くままに行動して、気が向くままに気持ちを誰かにぶつけて。

 見ていて本当にこう思う。

 "こいつは誰にも縛られないんだな"と。

 だから霊夢は、本当の意味で幸せな人生を歩んでいるんじゃないだろうか。

 兄貴分として、誇らしい。

 

「(ーーなんて、考え込むのは柄じゃないな)」

 

 霊夢を軽く撫でていた手を止めて、そう思い直すと、無意識のうちに自嘲気味な溜息が漏れた。

 全く、年を取るとどうでも良い事を考えてしまって仕方ない。

 俺の心は、一億年前から十七歳の現役高校生のままだと言うのに。

 

 

 ーーいや、どうでも良い事ではないか……。

 

 

「……さて、そろそろ時間かな」

 

 立ち上がり、グッと背伸びをした。

 星達の準備が終わるまで暇だったのでここに来たが、案外悪くない時間だったと思う。

 すぐ後ろでは、霊夢の立ち上がる音も聞こえた。

 そしてーー。

 

「その通りだよ」

 

 すぐ近くの扉から、そんな声が聞こえた。

 

「準備が終わった。魔界に突入するから、中に入ってくれ」

 

「はいよ。 行くぞ霊夢」

 

「はいはい……」

 

 ナズーリンの後に付いて、ドアを閉めてすぐ後。

 

 魔界に突入したと思わしき、大きな揺れが船を襲った。

 

 

 

 

 

 

 揺れが止むと、八人は揃って甲板に出た。

 船が動き続けているので侵入したことは確実だったが、やはり、この事を悲願としていた一輪達としては、自らの目で確かめたかった様だ。

 扉を開けたその先の光景はーー。

 

「……何もないんだな、法界って」

 

「そりゃそうですよ。 ここは一人の魔法使いを封印する為だけに出来た世界なんですからね」

 

 魔理沙の率直な感想に、星は至極簡潔な説明を施した。

 ーーそう、法界は、ただ一人の魔法使い、聖 白蓮を封じる為だけに生じた世界。

 かつて人間と妖怪を共存させようと願い、そして忌避され、封印されるに至った大魔法使いの為だけに。

 

 同じく魔法使いを名乗る魔理沙からして、それは十分畏怖するに値する事象だった。

 簡潔に説明されただけでも、その壮大なスケールに圧倒されそうだ。

 "一人を封印する為に世界を使うなんて、一体どれだけ凄い奴なんだ?"と。

 畏怖すると同時に、それは魔理沙の興味を強烈に駆り立てた。

 同業者として、興味の湧かない訳がなかった。

 

 "封印された魔法使い"というフレーズに興奮冷めやらない様子の魔理沙とは対照的に、周囲の空気は何処か張り詰めていた。

 元々乗り気ではなかった霊夢も、その周囲の空気に乗って黙ったまま。

 早苗すら、一言も話さない。

 双也を含め、誰もが甲板の先を見据え、目を凝らし、待ち望んだ瞬間の訪れを心待ちにしていた。

 船の突き進むごぅんごぅんという鈍い音の中、空気はますます張り詰めていく。

 

 ーーかくして、想望の瞬間は訪れた。

 

「あ……あれっ!!」

 

 ピンッ!と張った糸を断ち切る様に、水蜜の高い声が全員の鼓膜を刺激した。

 全員が息を合わせた様に、彼女の指差す向こうを見る。

 さてさて、どんな奴なのかーー。

 大魔法使いとは気になるぜ!ーー。

 聖……やっと……っ!ーー。

 それぞれが様々な思いを抱き、見つめるその先。

 彼女らの熱い視線を感じてか、はたまた船の進む音に反応してか。

 一輪達の強い思いの中心は、ゆっくりと、振り返る。

 

「……あなた達……?」

 

 小さく呟いた彼女は、驚愕と期待の綯い交ぜになった表情をしていた。

 上空を飛ぶ皆の目にも映った彼女は、紛れもなく、一輪達が慕って止まない、羨望の中心。

 

 ーー聖 白蓮であった。

 

「聖っ!!」

 

 後ろから弾かれたように叫んだ一輪。

 彼女の声と気持ちに反応したかのように、船は鈍い音を響かせながらゆっくりと降下を始めた。

 ーーしかし、船のそんな動きは、一輪や水蜜、星にとっては焦らされているも同然だった。

 彼女に再び会う事を夢見てきた面々は、船が底を地に着けるまでもなく甲板から飛び出す。

 そして涙すら浮かべながら、地に待つ白蓮へと飛び込んだのだった。

 

「聖……聖! 聖ぃっ!」

 

「やっと……やっとここまで……!!」

 

「……そう、封印を解いてくれたのは、あなた達だったのね……」

 

 感極まり、心が揺れ、その感動と歓喜が涙となって溢れ出る。

 どれだけこの時を待ったか、どれだけこの瞬間を心待ちにしていたか!

 一輪も水蜜も星も、雲山すら、一輪の背後で男泣きしていた。

 唯一ナズーリンだけは、一歩後ろで微笑んでいる。

 しかし、彼女も嬉しくない訳ではないという事を、その表情が示していた。

 泣きじゃくる皆を、聖は聖母のような微笑みで抱きしめている。

 

 その光景を眺めながら、双也を先頭とした霊夢達は、船が着地するのを待ってから飛び降りる。

 霊夢は少し面倒そうに、魔理沙は興味津々そうに、早苗と双也は、手伝った身ということもあって、薄く笑っていた。

 

「いやぁ、封印されてたのにピンピンしてるな。

 衰えててもおかしくなさそうなもんだが」

 

「それだけすごい魔法使いってことだろ!? なぁ!」

 

「魔理沙さん、落ち着いて……」

 

 それぞれの思いを口々にしながら、双也達はゆっくりと歩み寄っていく。

 その声に気が付いた白蓮は当然ながら、静かに警戒を含んだ視線を向けた。

 

「……あなた達は?」

 

「いや、別に怪しい者じゃないんだが……ああいや、この言い回しは無意味だな」

 

 警戒するのは、まぁ当然の事である。

 幾ら身内と同じ船に乗っていたと言っても、白蓮にとっては他人も同然。

 それに加えて馴れ馴れしく話しかけなどすれば、警戒するのは至極当たり前のことだった。

 故に、怪しい者ではない、などと双也が弁明しても、無意味である。

 だが、彼が無意味と言ったのには、もう少し含みがあった。

 

「聖! この人達は昔の人間達とは違うよ! 私達を手伝ってくれたんだよ!」

 

「……え?」

 

「聖を封印した人達の様に、酷い人達じゃありません。

 警戒なんて必要ありませんよ」

 

「そう……なんですか?」

 

 水蜜と星に視線を遮られ、白蓮は戸惑った様に返事をする。

 視線を向けられた双也は、万一にも余計な誤解が生まれぬよう、軽く頷くだけだった。

 

 そう、結局のところ、双也の口からどんな弁明が出てきたとしても、それは白蓮にとって信じるに値しないものである。

 双也も、白蓮が封印された経緯については説明など受けていないーーそもそも手伝うだけの者に深い事情まで説明する理由がないーーのだが、きっと警戒するだろうなぁ、とは薄々思っていた。

 自分の言葉なんかを重ねても、結局怪しまれるよなぁ、と。

 

 なら、余計な口を挟まなければいい。

 自分たちの行動を理解している白蓮の身内に、説明して貰えばいい話である。

 手伝ったのは事実だし、少なくとも双也と早苗には、そこに悪意など微塵もなかった。

 強いて言うなら、これから幻想郷住民となるであろう新入りがどの様な人物なのか、という興味があった程度である。

 双也としては、出合頭から険悪な関係など作りたくないのだった。

 

「(ま、こうして手伝う事で新入りの性質が把握できるなら、手伝った甲斐はきっとあったよな。

 ……紫にも恐らくは、必要な情報だろうし)」

 

 と、不意に虚空を見つめて。

 恐らくは見守ってくれているであろう彼女の事を想う。

 そういえば、今日は紫とゆっくりするつもりでいたんだったか。

 突然出て行ってしまって、内心では寂しく思っていたのだろうか?

 不意に想うと、連鎖的に思い出す。

 双也も本当は、彼女との時間をもっと大切にしたいのに。

 

 ーーさっさと帰ろうかな。

 用事は済んだんだし。

 

 そう思い返し、双也は白蓮達の方へと振り返る。

 どうやら、もう彼女達は船へと乗り込み始めている様だった。

 白蓮にとっても星達にとっても、復活したなら長居は無用である。

 元々魔界は危険区域、もし仮に閉じこめられたりしたら、どうなるのか分かったものではない。

 双也も気持ち急いで、船の方へと駆け出した。

 

 ーーその時。

 

 

 

 ピュンッ!

 

 

 

 一発の弾丸が、双也の眼前を通り抜けた。

 

 それは一瞬感じただけでも身震いする様な、凄まじい妖力と力強さを兼ね備えた、正しく"凶弾"であった。

 その余りにも強い一発の弾丸は、彼の眼の前を通り過ぎた刹那、遥か向こうで大爆発を起こしていた。

 

「グルルルルルゥ……」

 

「……魔人、って奴か?

 法力の結界が解けて、外から入ってきたって感じか」

 

 冷静に推察し、簡単に双也は結論を得た。

 妥当な判断である。

 法界の妖怪達はおとなしい者が多いらしいと聞いていたし、事実ついさっきまで襲っててくる者は一人としていなかった。

 ならきっと、人間の肉を喰らいに外から入って来たのだろう。

 双也は静かに、天御雷を抜刀した。

 

「そ、双也さんっ!?」

 

 爆発に反応したのか、それとも解放された霊力に反応したのか。

 船に乗り込みかけた面々は皆双也の方へと向き直り、焦りの含んだ視線を向けていた。

 

 心配されているのは分かっている。

 だが、優先するべきは皆の帰還。

 双也の取る行動は、初めから決まっていた。

 

「お前ら! 早く乗り込んで出口へ向かえ!

 時間は稼いでやる!」

 

「そ、双也はどうするの! ここに残るつもり!? 」

 

「いいから早くしろ!」

 

 続々と集まってきた魔人達を前に、双也はいつもと変わらない口調で言う。

 叫んだ水蜜は、答えを返さない彼に向けてもう一言叫ぼうと口を開いた。

 ーーが、それを制したのは霊夢であった。

 

「……いいわ、行きましょう。

 私達が出られなかったら意味がないもの」

 

「〜〜ッ、あんた、あいつの妹なんでしょ!? こんな危険地帯に置いておいたまま見捨てて帰るつもりッ!?」

 

「はぁ? そんなつもりないわよ」

 

「……えっ?」

 

 霊夢の言葉は、とても面倒臭そうな声音をしていた。

 

「心配なんてするだけ無駄よ。

 ひょっこり戻ってくるでしょ。

 仮にここに閉じ込められたとしても、空間か何か引き裂いて帰ってくるんじゃないかしら?」

 

「え、えぇ?」

 

「そーそ。 心配なんて無用だぜ」

 

 困惑する水蜜の肩に、魔理沙はいつもの快活な笑みをたたえて手を置いた。

 水蜜に限らず、残ろうとする彼を多少なりとも心配する面々へ向けて、霊夢は何処か誇らしげに、こう言うのだった。

 

「心配無いわ、死にゃしないわよ」

 

 

 ーーだって、双也にぃより強い奴なんてこの世界には存在しないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、なんか魔人達と戦って時間を稼ぐ事になった訳だが。

 いやぁなんつーか……魔人、強そうなんだよね。

 そりゃ俺が倒せないなんて事は万一にも無い訳だが、量が多い。

 一体一体相手にするのはちょっと面倒だ。

 ……まぁ取り敢えず。

 

「紫、船の援護頼めるか?」

 

『……分かったわ。遠慮なく暴れて頂戴』

 

 虚空に向けて呟いてみる。

 すると予想通り……いや、期待通りに紫は答えてくれた。

 暴れてもいいにせよ、船が守れなかったら意味がない。

 だからこういう時には、遠慮なく紫に頼っているのだ。

 ホント、色んな面で頼りにしてる。

 

 さて、これで問題はない。

 後は迫ってくる魔人達をひたすら切り捨てて、様子を見ながら撤退するだけ。

 なんだ、そんなに難しくないかも。

 

「グォォオオオッ!!」

 

「早速です、かっ!!」

 

 飛びかかってきた魔人の爪を刀で受け止める。

 衝撃は強かったが何とか受け止め、弾くと同時に結界刃で斬り飛ばした。

 が、休む暇は無さそうである。

 

 魔人達は必死に俺の肉を喰らおうと牙を剥き出しに、あるいは爪を光らせて襲いかかってくる。

 怒涛の勢いという奴だ。

 受け止め、斬り、隙を見せたら滅多斬りにして、遠くにいる奴は鬼道で焼き尽くす。

 戦闘方法を確立できてはいるんだが、ふともう一度考えてみると……この量、結界刃が使えなかったらしんどかったんじゃないかな? いや、鬼道も使えるからどうにかなるとは思うけども。

 一対多でも問題なく捌くことが出来るのが無限流なので、現状が余りにもキツい訳ではないが……まぁいいや。

 そんなIFを考えたところで意味なんて無い。

 戦闘に雑念は必要ないのだ。

 

 ーーふむ、早速面倒になってきたな。

 

「邪魔だテメェらっ!」

 

 一斉に襲ってきた魔人達に向けて、思わず怒号が飛んだ。

 やっぱ量が多過ぎる。

 ……ちょっと戦闘方法変えようか。

 先ずは、距離を開けよう。

 

 ズザザッ!と目前にいた魔人を斬り刻み、取り敢えず隙間を作る。

 一瞬出来た俺の隙を突こうと大量の魔人が押し寄せてくるーーが、もう遅い。

 

「特式七十八番『万開斬華(ばんかいざんか)』ッ!」

 

 ドッ、と刀を地面に突き立て、宣言。

 俺の霊力を元に、突き立てた地面を中心に無数の斬華輪が花開く。

 邪魔な物を悉く切り捨てながら開く華が、俺の周囲にいた奴らごと大量の魔人を斬り刻んだ。

 

 さて、こうして隙ができたら……

 

「霊力……解放」

 

 放つのに必要な分の霊力を解放し、刀を鞘に納める。

 ただし、鯉口は切ったままだ。

 霊力を納めたままの刀身に込め、目の前を見据える。

 相変わらずな様子で魔人達は迫ってきていた。

 そのまま集中を高めていく。

 敵は目の前にいる。

 放つのは刃だ。

 研ぎ澄まし。

 真っ直ぐに。

 一振り。

 鋭く。

 放つ。

 

 

 

 全てーー叩っ斬るッ!!

 

 

 

「絶刀『地断(ちだち)(ひらめき)』」

 

 

 

 抜刀し、振り抜く瞬間に込めた霊力を使って風刃を放つ。

 放たれた風刃は全部で九つだ。

 刀身と、その背後に並んだ八つの結界刃から一発ずつ。

 そしてそれら全てが全く同じ軌道を描く事で互いに相乗しあい、爆発的に威力を跳ね上げ、一瞬にして前方を剣閃で白く染め上げる。

 地響きを鳴らしながら、魔界の空を衝くかの如く天高く聳え立った風刃が、迫ってくる魔人達を悉く呑み込んだ。

 

 これが、西行妖の妖力を得て成し得た、二つ目の"絶刀"。

 "天月ノ虚断"が旋空の究極系なら、この"地断ノ閃"は風刃の究極系なのだ。

 剣閃の間合いーー遥か彼方まで届く刃ーーに入るもの全てを巻き込んで、断ち切る。

 実戦用の殺傷型となれば、山一つくらいなら簡単に巻き込み、その向こうの大地まで抉り取るほどの威力だ。

 ……基本的に弾幕用で使うから、打ち所が悪くなければ今回は気絶か昏睡にとどまる筈だが。

 

 轟々という重い音を響かせながら、青白い剣閃が消えていく。

 俺はその光景を背に、静かに天御雷を鞘に納めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんですか、コレは……」

 

「言ったでしょ。 魔人如きに負ける訳ないのよ。 分かった?」

 

「………………」

 

 一同はその光景に、絶句していた。

 正確には、双也の事をあまり知らない者達は。

 目の前に広がるのは、白。

 禍々しい瘴気と妖怪、そして魔人に満ちる魔界には、余りにも似つかわしくない、美しく青白い光であった。

 それが、数多の魔人を巻き込んで立ち登り、まさに法界を両断している。

 この地を断ち切っているのだ。

 

「こ、これ程とは……」

 

「とは言っても、あの技はスペルカード用だけどね」

 

 冷汗すら流しながら感嘆するナズーリンの言葉に応えたのは、船の防衛に当たっていた紫であった。

 相も変わらず不気味なスキマから、甲板に姿を現す。

 

「……紫」

 

「あら、霊夢。 残念ね、手柄を奪われてしまって?」

 

「……それはいいけど」

 

 自慢気に出てきた紫が何となく気に入らなくて。

 軽い皮肉を言ってやろうと思った霊夢は、それすらも見透かされているかのように、紫自身によってタイミングを逃してしまったのだった。

 

「(相変わらず、こいつは恋人自慢が好きね……)」

 

 霊夢の思いは、言葉ではなく溜め息として漏れ出るのであった。

 

「新しい幻想郷住民の皆様、改めて。

 私は幻想郷の管理者、妖怪の賢者、八雲 紫と申します。

 歓迎いたしますわ」

 

 白蓮達に向き直り、妙な程に恭しく。

 そしてニッコリ笑って。

 

「そしてあちらが、幻想郷の法を司る天罰神、神薙 双也ですわ。

 ……以後、お見知りおきを」

 

 その笑みは何処か、"勝手な事はしないように"とでも言うような、裏のあるものにも見えたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーその後、双也は船へと搭乗。

 法界に閉じ込められることもなく、無事に全員で幻想郷へ帰還した。

 船を含め、白蓮達は、当然のように幻想郷に住む事を決意。

 人里の近くに船を変形させた寺ーー命蓮寺を建設し、皆そこで暮らすようになる。

 

 

 

 

 

 ーーだがその時既に、新たな異変の火蓋が、切って落とされていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえばあいつの事忘れてたな……。

 まぁ普段何処にいるのか分かんないし、そもそも異変にゃ関係無いし、見つけた時にでもちょっと話すかぁ」

 

 

 

 

 




"地断ノ閃"を想像するなら、"FF零式、アレキサンダーの「聖なる光」"を思い浮かべると良いですよ。
何ならYouTubeに動画もあるので、参照オススメです。

ではでは。

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