この調子だと、完結には二百二十くらい必要ですかね(笑)
ではどうぞ。
「はぁ? UFOが飛んでる?」
「そうなんです! そこら中にですよ!?」
若々しい木の葉と共に、爽やかな風が流れている。
ふわりと暖かい風は、幻想郷に春の到来を告げていた。
ここ、魔法の森も例外ではない。
常にジメッとしている空気も、吹き抜ける風を感じるには程良いファクターと化している。
そんな春先、魔法の森に居を構える双也の家では、ある問答が繰り広げられていた。
「あのなぁ、いくら漫画が好きだからって現実に投影しちゃいけないだろ。
それじゃお前、ホントにオタクって言われるぞ?」
「そんな事してませんよ! そもそも現実に投影なんて低レベルな事この私がするワケーーって何言わせるんですかっ!」
「……わぁお、酷いカミングアウトを見た……」
顔を真っ赤にする早苗を前に、双也は呆れた様な苦笑いを零す。
それは何も、早苗が予想以上の
今はまだ春になったばかりーー日付的にも卯月の初め。
外の世界では学校で新年が明けるめでたい時期だというのに、双也の耳に最初に入ってきた話題が、まさかの"UFOを見た!"なのだ。
そりゃ、双也だって嘆きたくもなる。
何故こんな時期にそんなゴシップを聞かなければならないのかと。
「大体UFOを本当に見たとして、それをどうしようってんだ?」
「どうも何も、異変ですよコレは!
異変ならば解決して然るべきです! 同じ巫女の霊夢さんだってきっと動くはずですよ!」
「……まぁ霊夢がUFOだって分かってるならそうかもしれないけど……」
参ったなぁ……。
双也はカリカリと頭を掻いた。
早苗の剣幕は中々激しいものである。
それが異変に対して多少なりとも怒っているからなのか、はたまたUFOという未知との出会いに興奮しているだけなのかは定かでないが、少なくとも面倒事に巻き込まれかけているのは確かだった。
「そういう訳で、私と同じ元外来人で現人神の双也さんに協力してもらいたいんです!
他の人にUFOがぁ〜って言ってもよく分からないんですよ!」
ーーおまけにこの始末である。
この時点で、双也は若干の気疲れを起こしていた。
「……なぁ紫、どう思う?」
考える事を億劫に感じた双也は、茶の間でお茶を啜っている紫に判断を仰いだ。
彼女もそれを予想していたのか、静かに湯呑みを卓袱台に置くと、少し微笑んでこう言った。
「良いんじゃないかしら?
こう言っては何だけど、あなたが解決に向かってくれるなら余計な心配をせずに済むわ」
「……マジか」
「じゃあ決まりです! 早速行きましょう!」
紫の返答に、早苗の勢いは更に増した。
満面の笑みでグイッと彼の手を掴むと、引っ張る形で足を進める。
半ば引き摺られる様に玄関へ向かう双也には、柔和に微笑む紫の姿が見えた。
「い、行ってきま〜す……」
「行ってらっしゃい。 困ったら呼んで頂戴ね」
はぁ、今日は紫とのんびりしようと
思ってたのに……。
そんな心の呟きは、溜息となって外へと放たれた。
そんな経緯を経て、二人は上空を飛んでいた。
異変の影響は毎度の如く、既に妖精達は何かしらの興奮を得て二人を攻撃してきていた。
だがしかし、正直に言って、今更そんな攻撃は何の妨害にもなりはしない。
半分と言えど神に類する二人である。 妖精の攻撃など、埃を払う様にあしらえるのだ。
そうして難なく妖精の波を退けると、双也は一息を吐いて立ち止まった。
「で、どうするんだ? 手掛かりとかは?」
「う〜ん、そんなのはありませんが取り敢えず……あ、ありました!」
何かを見つけた様に早苗はふわりと上昇すると、その"何か"を掴んで双也の下へと戻って来た。
訝しげな表情をする双也に、早苗は笑って両手を開く。
「先ずは実物から見てみましょう!
これが件のUFOです!」
「……??」
早苗が捕らえてきたのは、緑色をした小さなUFOだった。
正確に言うと、黄緑色をした小さな円盤の様なもの。
確かにそれは、外界人で言うところのUFOに近い形状であり、また時代の遅れた幻想郷に住む者達には中々分かり得ない物である。
ーーしかし、実物確認のつもりで見せたUFOを目にしても、双也の表情は釈然としていない様だった。
その光景に不思議そうな表情をする早苗をちらと見やり、双也は首を傾げながら口を開く。
「コレが……UFO?
少なくとも俺の知ってるUFOとは全然違うな……」
「……え?」
「だってコレ……
早苗は一瞬、口を開けたまま硬直した。
いやだって、こんなにUFOの形をしているのに?
これをUFOと呼ばずにどう呼ぶというのか?
予想外な意見の相違に早苗が目をパチクリさせる中、双也は再度深く考え始めていた。
「ん……? こんな現象、前に何処かで……」
古い記憶の中で、何処かに引っ掛かりがある。
それは漠然としながらも、確定付けるには十分な違和感だった。
"俺は何処かでこんな現象を見たことがある"
深い記憶の中を探っている内、双也はいつの間にか、周囲を妖精達に囲まれていることに気が付いた。
「双也さん、とりあえず考えるのは後にしましょう」
「……そうだな」
考える事を一先ず止め、刀を引き抜いた。
残る剣跡が蒼く煌めき、同時に霊力が溢れ出す。
「チャチャッと、ケリをつけよう」
「はいっ!」
二人それぞれの指の間で、スペルカードが輝いた。
「(はぁ〜……綺麗なのは良いけれど……)」
桜の舞い散る博麗神社。
毎年の如く吹雪となって降り注ぐ花びらは、当然霊夢に掃除という職務を押し付けている。
現在は誰もいない神社では、一人それを嘆くのも逆に寂しくなるというものである。
内心では面倒だ面倒だと喚きながら、霊夢は黙々と職務に勤しんでいた。
ーーそんな折。
「……ん? この霊力……双也にぃ?」
ふと、流れる風に乗って霊力を感じ取った。
最早感じ慣れ果てた霊力ではあったが、それは普段とは少しだけ感覚が違った。
そう、これはーー
「双也にぃ……戦ってるの?」
優しいふわりとした霊力ではなく、何処かピリリとした尖った霊力。
彼に限らず、誰であろうと敵意を表せば力はそうなる。
双也もその例に漏れず、たった今彼の霊力は尖っていた。
ーー当然、全力には程遠い様だったが。
「珍しいわね……」
何がってそりゃ、大勢で双也に挑む輩がいた事が、だ。
双也が戦う事自体は特に珍しくはない。
彼から挑む事は滅多にないが、彼が能力の制御に成功してからは、氷の妖精とか魔理沙とか、主に力試し感覚で彼に挑む者は多少居るし、彼もそれを拒まない。
かく言う霊夢も、紫に修行がどうのと言われた際には相手をしてもらったりしていた。
ーーまぁ当然、惨敗だった訳だが。
しかし、今回はどうやら違う。
相手が数人……いや、数十人単位で戦っているらしいのだ。
まるで、
「……少し、警戒はしておいた方が良いかもね……」
呟き、暗示の様にして気を少しばかり引き締めた。
異変なのか分からない以上、下手に動く事はできないのだ。
勿論、異変と分かっていれば急いで解決に向かうべきなのだが、何事も無いのに博麗の巫女が動くという事は、無用な不安と混乱を招く可能性もあるという事と同義だ。
それを幻想郷はーー紫は望まない。
少なくとも、何の理由も無しに乗り出す事は。
「(はぁ……お茶、飲んでいたいんだけどなぁ……)」
彼女が魔理沙によって異変を確信するのは、もう少しだけ後の事ーー。
「はぁ、はぁ……あ、相変わらずの規格外さですね、双也さん……」
「言ったろ? チャチャッと終わらせようってさ」
上空。
先程まで
妖精の大群は波の様に押し寄せてきたが、二人ーー主に双也ーーの弾幕と剣戟の前に軽く捻り潰され、呆気なく落ちて行ったのだった。
弾幕勝負に少々不慣れなだけあり、また先程よりも大分量が多かった為、早苗はかなり苦しそうである。
「お、同じ現人神なのにここまで違うなんて……ちょっと悔しいです……」
「……いや、悔やむ事じゃなくね……?」
俺が異常なだけじゃないか?
ゼェゼェと息をする早苗をの言葉に、双也はふとそう思った。
むしろ、早苗の方が現人神としては正しい姿なのだ。
"神として力は強く、しかし人間の範疇を超えない領域"
双也が他を超越しすぎてしまったのは、成る程、そう考えれば確かに
勿論、それは今更過ぎる話ではあるが。
「……さて、じゃあこれからどうするか……」
「そうですね……」
早苗の息が整ったのを見計らい、周囲を見回しながら双也は独り言の様に呟いた。
最早手掛かりは無し。
先程双也の感じた違和感の正体も、結局思い出せず終いである。
ーーそう都合よく記憶が蘇ったりはしないしなぁ。
内心で、湧き上がってこない自身の原作知識に悪態付く。
仕方のない事、と割り切っていても、やはり"覚えていればどれだけ楽だったか"なんて無意味な想像はしてしまう。
双也は、他でもない自分自身に対して、小さく溜め息を零した。
ーーその、直後の事だった。
「……? 辺りが暗く……っ!?」
「な、何ですか……これ!?」
不意に辺りが暗くなる。
それは、太陽が雲に隠れるのと同じ様に何の音も前触れもなく、ごく自然に落とされた影だった。
しかし、どうもおかしい。
何せ影は、一部にしか落ちていないのだ。
雲に隠れたならば、少なくとも今の十倍は広く影になるだろう。
森なんてすっぽり入るだろうし、人里なんかは言わずもがな。
ーーならば、なんだ?
見上げた二人は、その影の主を視界に捉えた。
「こりゃあ……船か!?」
「船が……飛んでるっ!?」
驚愕する二人の頭上には、一隻の大きな船が悠々と空を飛んでいた。
というわけで、今回のお供は早苗さん!
ここを逃したら彼女の出番なくなってしまいますからね……。
ではでは。