東方双神録   作:ぎんがぁ!

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お待たせしました。

ではどうぞ!


第百七十三話 満ちる声二つ

轟、轟。

気温の上がった地獄跡。 ぽっかりとだだっ広く開いた空間に、光と音が駆け抜ける。

 

弾けたような大量の弾の打ち出される音や、大気を引き裂く光線の音。

ガラスの割れた様な、結界の砕かれる音なんかも響いていた。

 

他にも抉られた地面などがこの現状を物語っていたが、兎角、それらの音が表しているのはたった一つの事柄のみ。

 

それはこの空間内で、凄絶な弾幕勝負が繰り広げられているという事ーー。

 

 

 

「っ…くっ!」

 

ピッ 炎の燃え盛る空間に、小さく血液が飛んだ。

飛び散った血は更なる熱の奔流に巻き込まれ、地に落ちる事もなく蒸発する。

 

熱の奔流ーーそれは、異変の犯人たる霊烏路 空の放つ灼熱の光線だった。

彼女の光線は、腕に取り付けられた棒の様な砲台から、敵対する霊夢を撃ち墜とさんと絶え間無く殺到している。

 

「ったく熱いっての! 火傷するじゃない!」

 

『火傷で済めば良いけどね。 あれに直撃してはダメよ霊夢』

 

「んな事分かってるわよッ!」

 

 

夢符『二重結界』ーー!

 

 

バッと振り向き、瞬時に展開された結界が光線と衝突する。

ギシギシと鈍く鳴り響く音は、霊夢に"結界では長く防御する事が出来ない"という事実を無慈悲に悟らせた。

 

「ちっ…」

 

このままでは即座に破られる。

勘に頼るまでもなく辿り着いた結論に、霊夢の脳は高速で回転した。

この場、この状況、それに於いての最善手とは何か。

戦闘の中にも冷静さを失わない彼女の脳は、コンマ数秒の内に答えを弾き出した。

即ちーー。

 

「やられる前にやるッ」

 

即座に弾幕を射出。

結界と光線の外側を囲う様に打ち出された弾幕は、霊夢お得意のホーミングアミュレット。

但しその量は、尋常なものでは無かった。

 

ありったけ放たれた弾幕は、光線の余波に打ち消されるものもありながら、大多数がお空へと殺到する。

 

威力は控えめなホーミングアミュレットではあるが、質より量というべきか甲斐はあり、霊夢に向けられていた光線はフッと消え失せた。

 

が、それで終わる程霊夢は甘くない。

 

「次いでっ!」

 

追撃は基本とばかりに、霊夢は素早く上空に上がり、更なるお札をばら撒いた。

一瞬はらはらと舞ったお札は、突然意思を持ったかの様に急激なカーブを付け、次々とお空目掛けて急降下していく。

 

曰く、"とっておきのお札"

彼女の祖母に当たる先々代の巫女、柊華の開発したホーミング炸裂弾ーー今ではブレイクアミュレットと呼ばれるーーである。

 

 

ドドドドドッーー…!!

 

 

胸に轟く炸裂音が、一瞬にして空間に響き渡った。

並の妖怪なら涙目で降参しかねない威力の弾幕、その直撃を目にし、霊夢は僅かに口の端を上げる。

 

ーーが、分かっていた。

こんな呆気ない終わりはあり得ないと。

こんな楽な筈がないと。

 

だってお空は、悲鳴すら上げていない。

どころかーー

 

 

 

 

「う〜なんかあんたうざったいっ!」

 

 

 

なんて、軽い怒りを覚えた様に文句を飛ばすだけだった。

 

彼女の文句と共に、立ち昇る煙を切り裂いて飛来した光線を、霊夢は紙一重で回避する。

そのまま飛び回り、飛来する光線を避けながら再び隙を伺い始めた。

 

「ちょっと! 倒せるとは思ってなかったけど、なんであんなピンピンしてるワケッ!?」

 

『…神力が微かに残ってるわ。 恐らくは、霊撃の様に神力を放出して搔き消したんでしょう』

 

「そんな双也にぃじゃあるまいしッ!」

 

ゴオッ

太い光線が眼前を通り抜ける。

辛うじて避けたものの、その頰には一筋汗が伝った。

霊夢は、半ば反射的に弾幕をお空へと放ち、回避後の牽制とした。

 

「あの光線が厄介ね…! 紫、スキマで飛ばせたりしない!?」

 

弾幕の雨の中、霊夢の問いは怒鳴るかの様な勢いを持っていた。

 

当然だ。

当たればタダでは済まない一発一発に加え、こちらは有効な攻撃手段を確立出来ていない。

ただそれでも、あの光線をどうにか出来るのならば状況はグッと好転するのだ。

 

ーーだが、望んだ事がそう容易に出来てしまう程、世の中は甘く出来ていない。

 

『……この陰陽玉を介して展開できるスキマは限定的なものよ。 ただの弾幕なら簡単に通過させられたでしょうけど……あの光線は、質量が大き過ぎる』

 

「つまりッ!?」

 

お空へと弾幕を飛ばす。

向こうも機動力はある様で、霊夢の苦し紛れの弾幕はひらりひらりと避けられた。

そして次の瞬間飛んでくるのは、やっぱりやはり、強烈な光線である。

 

そんな中で、紫の声は霊夢にとって、とてもよく耳に入る吉報(・・)であった。

 

『ーーあなた自身の瞬間移動程度なら、幾らでも出来るわ』

 

「……よしっ!」

 

心なしか、紫の声も僅かながらに笑っている気がした。

 

「スキマ展開!」

 

霊夢の飛翔方向、そしてお空の周囲に、人一人以下の大きさの小さなスキマが幾つも展開された。

 

その事象に、頭の残念なお空も少しばかり焦りを感じた。

だってこれはどう見たって……

 

「囲まれてるっ!?」

 

気が付いた時には、既に遅かった。

光線でスキマをなぎ払おうとするも、至近距離で空間移動し続けながら放たれるお札によって砲台を弾かれてしまう。

 

ーーいや、霊夢だって、それを狙ってやっている訳ではないのだろう。

結果的に有利な状況にはなったが、砲台が弾かれて光線が打てない状況にまで持ち込めたのは、運だという他ない。

 

まぁ……夢想天生(・・・・)を使ってお札をばら撒いていれば、運もくそもないという話だが。

 

 

ガガガガガッ!!

 

 

スキマでの空間移動を用い、お空の周囲を絶えず飛び回りながら、霊夢は最高威力を彼女へとぶつけた。

 

夢想天生ーーその範囲型である。

 

スキマとスキマを通る一瞬にだって、夢想天生による弾幕は数えきれない量でお空を襲った。

 

一撃一撃は高威力ではないーー但し並の弾幕よりは上ーーだが、それが砂嵐に踏み込んだかの如く殺到すれば、それは最早どうしようもないくらいの威力となるのだ。

砂は岩をも断ち切れる。

塵も積もれば山となる。

 

四方八方からの嵐に、お空は完全に成す術を無くしていた。

 

ーーが、次の瞬間の事である。

 

 

 

 

『僕の空を、虐めないで貰えますか?』

 

 

 

 

轟音の中にも響く不思議な声が、霊夢達の鼓膜を震わせた。

そしてその事に考えを巡らせる隙など無く、お空からは強烈な神力の衝撃波が放たれ、殺到していたお札の全て(・・)を一息に吹き飛ばした。

 

「何ッ!? ーーッ!!」

 

突然の衝撃波には踏ん張りを効かせた霊夢。

しかし、その直後に放たれた"大量の"熱線は、無慈悲な程の熱を秘めて彼女を襲った。

 

「夢境『二重大結界』ッ!!」

 

辛うじて結界でガードするも、その熱線は今までの比ではないくらいに強く、重い攻撃だった。

 

ーーそれを結界で止めようとしても、一瞬で破れてしまうのは当然の事で。

 

『ッ!! 霊夢、ジッとしてなさいッ!』

 

霊夢の結界が壊れてしまう様を察知した紫は、焦りを感じながらも遠隔で即座にスキマを開いた。

 

「っ!」

 

驚きの表情ではあるものの、霊夢はその意図をしっかり理解した様にストンと落とされる。

 

スキマから出ると、そこはお空の居る位置からもう少し下の場所。

必然的に彼女を見上げる形になる場所であった。

 

「………助かったわ、紫」

 

『…ええ』

 

言う側も答える側も、その額には冷や汗が流れていた。

何せ、何が起こったのかよく理解が出来ない。

紫ですら、今聞こえた声の事もあの力の事も理解が追いついていないのだ。

 

ただ一つ分かるのはーー今の攻防が、お空の意思によって起きたものではないという事。

"何か"が、彼女の近くに居ると言う事だ。

 

「…どうするの紫。あんな攻撃続けられたら、いくら何でもキツイわよ」

 

『分かってるわ。私もあなたに無理はさせたくない。 でもこれは……』

 

先程のお札の嵐によって、お空は疲弊した様子で宙に浮いている。

ただ、その眼にはしっかりと、まだ戦う意思を宿していた。

 

 

ーーやるしか、ないか。

 

 

彼女の瞳を見、霊夢は覚悟を決めて再び大幣を構えた。

ここまで来たからには、きっちり倒して帰る。

異変も解決して、堂々と帰る。

彼女の雰囲気に、紫もまた、内心で覚悟を決めた。

 

ーーその時。

 

 

 

 

「おーおー、派手にやってるな」

 

 

 

 

また別の声が、空間に響き渡った。

 

ただそれは、霊夢にとって"理解不能な声"では決してない。

むしろ…心から安心のできる優しくて強い、そんな声だった。

 

 

 

「そ、双也にぃっ!?」

 

 

 

「久しぶり、霊夢。 妹のピンチに、お兄ちゃんはちょっと助けに来てみた」

 

 

 

 

 




ちょっと短かったですね。

ーーって思う様になったのは、きっと私が執筆に慣れを感じているって事なんでしょうね…。

ではでは。

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