東方双神録   作:ぎんがぁ!

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あー、書きたいことが多すぎて収集がつかないー!!

では、どぞ!


第百五十二話 Reliable hope

「理解したかの。双也がどんな想いで前世を終えたのか」

 

竜姫の言葉が、皆の胸を射抜いた。

そしてその一人一人が、そうした双也の生い立ちに想いを馳せた。

 

ーーとても…辛かったでしょうね…。

 

庭師は。

 

ーーつまらない人生、か。分かってやれない事も……いや、無理だな…。

 

魔女は。

 

ーー双也にぃ……。

 

巫女は。

 

それぞれがそれぞれの事を思い、しかしそれらはほぼ、"彼の過去に同情する"という形で纏まっていた。

 

ただーー

 

 

 

「…あの、それなら何で、私は双也さんと出会っていないんですか?」

 

 

 

二人目の現人神だけは、違った。

 

その表情に彼への同情が無いわけではない。ただーーなまじ自分の話すら出てきてしまった為に、疑問の方が強く出たのだろう。

問われた竜姫の表情は、薄く曇っていた。

 

「……それが、私の過ち…じゃよ」

 

"紫ならば、予想はついているだろう?"

竜姫はそう言葉を区切ると、紫へと目配せをした。

対する紫は、頷く事も返事をする事もせず、ジッと竜姫を見つめ返す。

フッと視線を戻すと、竜姫はその唇を重そうに、ゆっくりと開いた。

 

 

 

 

 

「…この世界はの、あやつにとっては、パラレルワールド(・・・・・・・・)なんじゃよ」

 

 

 

 

 

「…パラレル、ワールド…?」

 

早苗は、竜姫の言葉を小さく反復した。その表情は、困惑の意を強く表している。

 

「パラレルワールドって言ったら…平行世界、もしもの世界…だったかしら?」

 

「その通りじゃ」

 

レミリアの言葉を一言肯定する竜姫。

その目を細めながら、言葉を続けていく。

 

「私の能力は、"次元を統べる程度の能力"。あらゆる次元を掌握し、並行世界すら超え(・・・・・・・・)る事ができる(・・・・・・)…私は双也の転生の際、この能力を使って、過去ではなく別の次元へと飛ばしたのじゃ」

 

「…何故そんな事を?」

 

「タイムパラドックスを防ぐという意味合いもあったが…主には、"今までの関係を全て断ち切り、改めて新しい人生を歩んで欲しかったから"じゃ」

 

"じゃが、それが間違いじゃった"

そう付け足すと、竜姫は周囲からでも聞こえる程の歯軋りをした。

前髪で影にはなっているものの、その表情はおそらく、後悔に満ち満ちているのだろう事は、容易に想像できる。

 

 

 

ーー竜姫は、双也の事を息子のように思っている。

その能力によって、双也の元の世界をも統べているーーあくまで違う世界なので名前だけは少し弄っていたがーー竜姫にとって、それはある意味、彼をこの世界へと飛ばした(産み落とした)彼女としては当然の感情だった。ただそれでも、他人には変わりない双也の事を全て理解するには、至っていなかった。

 

転生とはそもそも、死んで肉体から離れた魂を、新しい記憶と身体に入れて現世へ送り出す事である。

例外の転生者として、記憶を引き継いだ状態で転生した双也でも、なるべくならば、その掟とも言える理に則らなければならない。

そういう意味で、竜姫は敢えて、その能力の元に双也を別次元へと飛ばした。

記憶は引き継いでも、過去の生はそれとして、新しい生もまたそれとして、"この世界"を楽しんでもらいたい、と。

 

 

しかし、この時の竜姫は、双也が早苗に依存している事を知らなかった。

 

 

全く関係の無い世界だったならば、問題は無かったろう。

双也だって、死んでしまったからには割り切っていた。早苗から貰えるだけの温かさを既に貰っていた双也は、"自分が早苗の前から消えてしまったのならば、最早どうしようもできない"と考え、ある意味心を独立させる事が出来ていた。

 

ーーだが、彼が転生した世界には、稲穂が存在した。

 

見た目も性格も雰囲気も、全てが早苗と良く似た、正真正銘、早苗の先祖。

そこで、"もしかしたら早苗に会えるかもしれない"と双也に思わせてしまった事を(・・・・・・・・・・・・・)竜姫は酷く悔いていた。

 

それを糧にして生きながらえてきた部分も確かにある。そのお陰で救われた事すらある。しかし、その結末に心が砕けてしまうのでは意味が無い。

 

"このままではマズい"

双也の前世を理解した竜姫は瞬時に思った。

この世界には、双也という存在は元々居ない。ならば、早苗と出会っても、彼女は双也の事を知るはずがない。

…果たして、双也の心はそれに耐えられるだろうか。

最高神と言われる竜姫にとって、答えを出すのは実に容易だった。

 

ならば、双也を転生させた責任として、私があやつを救ってやる他ない。

 

それが過ちを犯した自らの、双也への償いであり、誓いとなった。

 

「…私はあやつに、平和に生きて欲しかった。できる事ならば、双也と早苗を会わせたくはなかった。……じゃが、こうなった以上は、あやつを救う事に専念する」

 

竜姫の言葉は、強い強い決意に満ちていた。

"ああ、本気なんだ"と、皆に思わせるには、十二分の力が篭っていた。

 

「……ええ、やってやろうじゃないの。双也にぃをあんな状態にしておくわけにはいかないわ」

 

「そうだぜ! あいつにはまだ借りがあるし、それを返す時が来たってもんだぜ!」

 

「私達姉妹を救ってくれたのだから、今度は私達が救う番ね」

 

「はい、お嬢様」

 

「きっと救ってみせます! ね、紫様!」

 

「…そうね」

 

皆がそうして意気込む中、紫だけは、少しばかり冷ややかな空気を纏っていた。暗い空気ーーとは少し違う、どこか不安の漂う空気である。

"そんなに上手くいくのだろうか"

そんな、紫らしくもない弱気な気持ち。

ただ、その場の空気を読めないほど沈んでいる訳ではない。

せっかくいいムードになってきたこの場を白けさせない為に、紫は竜姫に一つ、質問をした。

 

「それで、龍神様…双也を救う方法とは…?」

 

すると、竜姫はキョトンとしたように目を見開き、すぐに目を細めて、少しの憤りすら篭ったような視線を紫に向けた。

 

「……お主は…まだ気が付いておらんの(・・・・・・・・・・・)か?()

 

「…え?」

 

「お主が最も、あやつの近くに居たのだろう?」

 

「…………?」

 

全く心当たりの無さそうな紫に、竜姫は更に言葉を投げかけようと歩み出す。

 

ーーその直後、竜姫の瞳が、大きく散大した。

 

 

「チッ…間に合わんかったか…」

 

 

ゴオッ!

 

竜姫の言葉の直後、地響きのような重い音が響き渡り、全員のやる気に満ちた会話を一瞬で断ち切った。

 

そして、その音と共に、真夜中のように真(・・・・・・・・)っ黒な(・・・)影が落とされた(・・・・・・・)

 

「何…これ…」

 

「空が……雲に覆われてる?」

 

見上げた空は、まだ日の出ている時間だというのにも関わらず、ドス黒い雲に覆われて真っ暗になっていた。一部の隙間にすら、太陽の光が差していない。

同じくそんな空を見上げていた紫は、頬に一筋汗を垂らしながら、その瞳を大きく見開いて言った。

 

「違う…あれは…西行妖の力…!…失念していたわ…どうやって操っているのか分からないけれど…西行妖の力で、無理矢理封印を砕いたのね…!」

 

紫のその言葉に、魔理沙、咲夜の表情に驚きが走った。対して霊夢は、その眉間に皺を寄せながらも、驚いた様子は無い。守谷神社で対峙した際に、ある程度予想は出来ていたのだ。即ちーー今の双也が、西行妖をも操っている、と。

 

「まさか…双也は…」

 

「うむ。西行妖の妖力を使って、一度に皆を殺そうとしているの」

 

咲夜の言葉を引き継ぐ形で、竜姫がそう肯定した。

 

「じゃが、まだ少しなら時間はある。西行妖の力は見ての通り拡散しているのじゃ。即ち、一瞬で死ぬような事は無い。寿命が削り取られていくように、だんだんと死に近づいて行くはずじゃ」

 

"危険な事に変わりは無いが…"

そう付け足すと、竜姫は鋭い視線を皆に向け、言い放った。

 

「ひとまず、妖怪達はまだ大丈夫なはずじゃ。問題なのは人間達…お主ら、すぐに人里へ向かうのじゃ!」

 

「言われなくてもだぜ!」

 

「いくわよ咲夜!」

 

「はい、お嬢様!」

 

「私達も行きましょう、妖夢」

 

「はい!」

 

五人はそれぞれ、連れ立って飛び立ったーー紫と妖夢はスキマを使ったーー。

それに釣られ、霊夢も少しばかり恐怖に震えた早苗を促し、神社の庭へと飛び出る。

 

「ほら、行くわよ早苗」

 

「わ、私は…」

 

「………………もう」

 

 

 

パァンッ

 

 

 

震える早苗の目の前で、霊夢は唐突に柏手をした。

 

「……ほら、怖くなくなったでしょ」

 

「……!」

 

「昔お母さんに教えてらったのよ。誰か怖がってたらこうしろってね」

 

霊夢の迫力ある柏手は、早苗から震えと恐怖を一気に吹き飛ばした。

加え、視界に映る霊夢の優しげな微笑みが、早苗の心に戦う決意を溢れさせる。

ーー心は、決まった。

 

「すみませんでした、霊夢さん」

 

「ん、いいのよ。こんな時だし」

 

軽く言葉を交わし、そうして二人は飛び立つーー

 

 

 

 

「悪いが、お主らには残ってもらう」

 

 

 

 

ーー筈だった。

 

その声に二人が振り向くと、神社に一人佇む竜姫が、片手で"こっちへ来い"と合図していた。

 

「あの、龍神様?」

 

「一体何よ、こんな急いでる時に」

 

戻ってくるなり、そんな文句を飛ばす二人。

竜姫だって、二人の焦る気持ちも理解はしていた。だが、何の策もなしに(・・・・・・・)突っ込んでも、自滅あるのみ。特に、人里の混乱に乗じて双也が出て来たとすれば、それが特に顕著である。

 

「何、お主らには秘策(・・)を授けようと思っての」

 

「…何故私達に?」

 

「…お主らにしか、出来んからじゃ」

 

そう語る竜姫の視線は鋭いながらも、口元は薄く微笑んでいた。

 

 

 

 

 

「"目には目を、歯に歯を"。そしてあやつの、"泣きっ面に蜂"じゃ」

 

 

 

 

 

 




質問があれば御遠慮なく。ぶっちゃけそれが一番心配なので。

実は、ちょっと竜姫の能力が無理矢理すぎた気がしなくも……。

ではでは。

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