と同時に今章最終話です。
なんだかんだ言って前章と同じくらいの長さという…。
あと、お気に入り件数ついに500件突破っ!!!
ホントに有り難うございます!! 感謝感激でございますです私っ!!
ではどうぞ!
「…思わぬヒントを貰ったな」
太陽の畑を離れ、俺は次なる目的地に向かって飛んでいた。 幽香との戦闘が終わった時点では、むしろ次にどうすれば良いのか迷ってたくらいだったのだが、彼女との会話の中で、思い当たる場所を見つけたのだ。
ーー時は十数分前に遡る。
『……え? 今なんて?』
『だから、私は何にもしていないって言ってるのよ』
『こんなに花が咲いてるのに?』
『花は私が何かしなくても咲くでしょう?』
『ぐ…』
幽香との会話は、こんな感じで始まった。
回りくどく問い詰めるのも野暮……と言うより俺が苦手なので、単刀直入に訊いたのだ。
"この異変を起こしてるのお前か?"
ーー答えはあの通り。
実にサラッと、空振りしてしまった。
俺は多分、無意識に溜息を吐いていたと思う。面倒な戦闘をしてまで問いかけたというのに、こんな報われないオチでは気も滅入るというもの。
ふむ、こんな時は花でも見て落ち着こう。幸いここには綺麗な花たちが沢山あるんだ。
『本当に、ここの花達は綺麗に育ってるな』
『あら、この私が育てているんだから当たり前よ。伊達にフラワーマスターなんて呼ばれていないわ』
『ふっ、それもそうか。流石は幽香だ』
本当に、流石だと思う。
能力による補助はあるとは言え、数万本はあるかと思われるこの向日葵達を一人で管理していると思うと、彼女の花達への愛情が手に取るように分かる。
……せめて、普段の怖い一面さえ無ければ、幽香は普通の、"花の似合う美人"という事で落ち着きそうなのだが。
まぁそれは願っても仕方がない事か。
心の中でそう結論を出した俺は、ふと、気になることを思い付いた。
『なぁ幽香、他の種類の花はどこに植えてあるんだ? まさか向日葵だけって事もないだろ?』
『勿論よ。向こうの花壇に植えてあるわ。普段はまだ花を咲かせてはいない時期なのだけど、この通り異変のお陰で珍しい光景を楽しませてもらってるわ』
『……お前にとっては嬉しい限りか』
軽く会話を交わしながら、その花壇の方へ歩いて行った。
とても先程戦ったばかりとは思えない空気だが、そもそも俺は、幽香の事は怖いだけで嫌いではないし、多分向こうも俺の事は嫌いな訳ではないはず。
となれば、言わばもう仲直りしてしまった俺たちが普通に話して歩いているのも別段不思議ではない。
まぁ、不思議に思う第三者が、そもそも居ない訳だが。
『さ、ここよ。綺麗でしょう?』
『………こりゃ凄いな』
俺の視界に映ったのは、赤、青、黄に始まり、橙、紫など、とてもこの世の物とは思えない程美しい光景だった。
季節を問わずに花が咲く異変の為、いつでも何種類もの花を育てている幽香の畑は、"美しい"という意味ではとんでもない事になっていたのだ。
『ほ、ほんとにすごいなコレは。こんな光景見たことないぞ』
『そりゃ、普通ならありえない光景ですもの。この光景をとっておけるような道具が存在するなら、どんな事をしてでも手に入れるところだわ』
『そ、そうだな…』
"実は外の世界にはある"なんて、言ってはいけない気がした。そんな事を言えば、きっと彼女は紫を脅してでも外の世界へ行き、そして強盗でもして帰ってくるのだろう。
……それぐらい、本気の目をしていた。
と、そんな会話を繰り広げながら花を眺めていると、俺はふと、ある花に目を留めた。
赤い花びらが上を向くように大きく開き、雄しべが燃え上がる炎の様に逆立った一輪。ーー彼岸花。
『(あれ…彼岸花…?)』
どこか頭の中に引っかかる感じがした。何か忘れているような、そんな感じ。
彼岸花をジッと見つめて考え込んでいた為か、そんな俺の様子に幽香も気が付いたらしい。
『あら、彼岸花? 私もその花は形が整っていて好きな部類よ。ここら辺だと……再思の道辺りに咲いていたわね』
『再思の道?』
初めて聞く言葉に、俺は問い返した。
百年近くも幻想郷に住んでいるのに、未だに聞いた事のない地名がある事に内心驚いた。
『ええ。魔法の森の奥の奥へと進んだ先にある道の事よ。そこを歩いて行くと、
『あ、無縁塚…!』
その単語を聞き、全ての引っ掛かりが解けた気がした。
彼岸花、無縁塚、そして……魂。
思い当たる場所が、もう一箇所ある事に気が付いた。
『ありがと幽香! 助かった!』
『え、ええ。また来なさい双也』
『戦わないならな! じゃ!』
それだけ言い残し、俺はすぐに飛び出した。
二箇所を回って空振りした事など、最早微塵も悲しく思わなかった。
魂の事なら、この異常事態の事なら、答えられそうな人物に、会いに行くのだから。
ーーそして、現在。
「灯台下暗し…は少し違うけど、我が家の裏手にヒントがあったとはなぁ…」
再思の道。
異変の影響なのか、それとも年中コレなのか、道の脇には大量の彼岸花が咲いていた。
彼岸花は確か、軽い毒がある花だった筈。俺には効かないと思うけど、念の為入るのはよしておこう。
少しばかり、その赤色の美しい光景を眺めながら、てくてくと進んでいった。
しばらく歩くと、迫り出した岩の上に誰かが寝そべっているのを見つけた。赤い髪をツインテールで纏め、左右逆襟の縁起の悪い着方の服、そして何より、立てかけられた歪な鎌。
ーー見たことあるぞ。つーか知り合いだぞ。
ぐがーと寝息を立てて、相変わらずサボりまくっているらしい彼女に歩み寄った。
そうしてする事など、一つだけだ。
「すぅぅ〜〜……起きろ小町ぃいっ!!!!」
「うひゃぁあぁああゴメンなさい映姫様これにはふかぁ〜い訳がありまして…………って、あれ?」
飛び上がり、息もつかずに勢いよく頭を下げた少女ーー小野塚小町。一応だけど、俺の部下に当たる死神だ。
小町は、見つかった時の言い訳として考えていたのか、妙に流暢な弁明を言い始めると、途中で顔だけを上げてこちらを見てきた。
「よっ、小町。久しぶり」
「だ、旦那じゃないか! ひっさしぶりぃ!!」
さっきまでの焦り様は何処へやら、小町は昔から変わらないフレンドリーな挨拶を返してきた。元気そうで何より。
……一応、俺上司なんだよな…。
「小町、相変わらずサボりまくってるみたいだな」
「さ、サボりまくっちゃいないさ! ただちょっとぉ…休憩をもらってるというか…」
「要するにサボってるんだろ」
「…そうとも言う」
にへら、と、小町は半ば諦めたような笑みを浮かべた。全く、映姫だって結構叱ってるだろうに、まだ懲りてないのか。流石はサボマイスタだ。
「はぁ…小町、仕事ってのはやらなきゃいけない事なんだよ。自分の好き勝手ばかりやっても、自分の存在意義を失うだけだぞ?」
「うっ………で、でもさ! 旦那はこんな事で怒ったりしないでしょ?」
「怒って欲しいなら怒ってやるけど」
「いやいやいや! 遠慮しとくよっ!」
やれやれ。
身振り手振りで慌てて遠慮する小町の様子に、そんな事を思った。
まぁ彼女のようにゆる〜く生きるのも悪くはないと思うけど、上司としては、そんなこと言って甘やかしてはいけないな。
これ以上話すと、ついつい彼女を甘やかす方向に行ってしまいそうだ。次いでだから、俺は小町にも話を聞いてみる事にした。
「なぁ小町、今幻想郷で起きてる異変…何か知ってる事ないか?」
「異変? ……ああ、魂が花を咲かせまくってるヤツかい?」
「そうそう。知ってたら教えてくれないか?」
「あーっとだね…心当たりはあるんだけど…ふむ」
そこまで言って、小町は一つ頷いた。
「どうせなら、映姫様に直接聞いてみたら良いんじゃない? せっかくここまで来たんだ、少しくらい顔を見せてあげたら、映姫様も喜ぶと思うよ」
「ん? ああー…それもそうだな…でも、別にここで教えてくれてもーー」
「それじゃあ映姫様に会いに行く大義名分が無くなっちゃうじゃないか」
「んー、そっか。じゃあそうするよ」
小町の気遣いは、素直に嬉しいと思った。サボりはするが、彼女は誰に対してもフレンドリーで、気遣いが出来る。そういう意味では、"映姫も良い部下を持った"と言えるだろう。
「さぁ〜て、じゃあもう少し寝るかなぁ」
……苦労は絶えない様だが。
まぁその点に関しても、元々説教好きの映姫と相性が悪い何てことは決してない筈だ。
再び岩に寝そべり始める小町に手を振りながら、俺はこの先ーー無縁塚へと足を進めた。
幻想郷には、時々外の人間が迷い込む。
幻想と現実の結界で覆われている幻想郷だが、ふと結界が緩んだ隙にたまたま入り込んでしまう者達ーー外来人が存在するのだ。
大きなカテゴリで見れば、別世界である裁判所から来た俺も外来人ではあるが、それももう百年近く前の話。
流石に俺も、"幻想郷住民"とは言えるだろう。
ーーさて、その外来人達であるが、ほとんどの者は一人で迷い込んでくる。そしてその場所は完全にランダムであり、運が良ければ人里や博麗神社に出るが、運が悪ければ迷いの竹林、魔法の森など…最悪の場合、妖怪達のど真ん中に出ることさえあるらしい。
そんな理由から、ここで亡くなった外来人達は完全に孤立無縁の仏となってしまうのだ。
主にそんな無縁仏を弔っている場所が、この無縁塚。
紫色の不思議な桜が咲いている、それこそ幻想的な場所だ。
「………映姫」
「お久しぶりです、双也様」
無縁塚にて、桜を見上げながら立っていた少女ーー四季映姫。
振り向いた彼女の表情は、優しく微笑んでいた。
「ここに来てるとは思ってなかったな。最悪裁判所まで行くことも覚悟してたんだけど」
「この幻想郷は私の管轄する地域です。特に、今起こっている事がどれくらいの影響を及ぼしているのか、見ておかなければなりませんからね」
「今起こっている事…やっぱり、映姫はこの異変の原因を知ってるみたいだな」
コクリと、映姫は黙って頷いた。
もう一度桜を見上げ、ゆっくり歩いていく。
「"原因"と言っても、六十年周期で訪れる、言わば"定期的な異変"という事しか、私も知りません。何せ、溢れている魂達は殆ど外界の人間達なのですから」
「周期的……じゃあ、特に解決方法は無い…って事か?」
「はい。自然に収まるのを待つしかありません」
立ち止まり、映姫はこちらを振り向く。
「双也様は、この事を訊く為にここまで来たのでしょう?」
「…ああ。少しだけ遠回りしたけどな」
「ふふ…一直線に答えを求めるより、その方が楽しいかも知れませんよ?」
"双也様は面倒臭がりなんですから"
少しからかう様に、映姫は言った。
長い間世話になったお陰か、映姫は俺の行動原理を弁えているらしい。
確かに、楽しい方が、モチベーションは上がるものだ。
そうして微笑んでいた映姫は、少し視線を横に移すと、遠くを見るような、少しばかり悲しそうな表情をした。
「……一体、外の世界では何が起こっているのでしょう? 大災害にしろ、天変地異にしろ、一度にこんなにたくさんの人が死ぬなんて…酷過ぎます」
「………映姫が気にやむ事じゃないさ」
「え?」
「他人の事を思って悲しくなれるのは良いことだけど…お前はどうやら、気にし過ぎているみたいだ」
不思議そうな表情をする映姫に近付き、ポンと優しく、肩に手を乗せた。
「いくら裁く者として位が高くても、一個人にできる事には限りがある。内側の世界に生きてる俺たちには、外の世界で起こっている事には手出しが出来ない」
手を離し、近寄った桜の木から花びらが落ちてくる。
それはふわりと、広げた掌の上に着地した。
「出来ることをするしかないんだよ。外の世界で死んだ者達が溢れてくるなら、せめて公正な裁判で、正しい道を歩んでもらう事を考えろ。……内側に生きるお前には、それくらいしかしてやれないだろ?」
「そう…ですね。私は、最高裁判長という位に胡座をかいて、自惚れていたみたいですね」
「そこまでは言ってないけど……上司として、アドバイスだ。"思い詰めすぎるな。自分に出来ることさえ、見えなくなるぞ"」
「……はい!」
表情に明るさが戻り始めた映姫を見て、俺も少し気分が戻ってきた。
自然に収まるのを待つしかないとなっては、最早何かを急ぐのも億劫だ。このまま少しだけ、久しぶりに再会した映姫と語らうのも悪くない。
ずっと立っているのもなんなので、座るのに邪魔になるだろう天御雷を持ち上げて、桜の木の下に腰を下ろした。
「……双也様、その刀は…あの時の」
「ん? ああ、コレか。そう言えば、俺の裁判の時に見てこれの事は知ってるんだったな」
俺が天御雷を手にしたのを見て、映姫が話を始める。
会話が欲しかった身としては、少しばかり嬉しい。
「あの少女ーー西行寺幽々子の自殺の原因となった木…それを封印しているんですね。自らの手で」
「…ああ。あの木は危険過ぎる。それの元と言っていいこの妖力も。幻想郷の創造主である紫の師匠としては、これくらいしてやらないとな」
「"これくらい"……ですか」
そう言葉を反復した映姫。
少し間を置いて、彼女は身体をこちらに向けた。
「………双也様、一つだけ言っておきたい事があります」
「ん?」
映姫の視線が、真剣な物に変わる。
完全にこちらに向き直った彼女の目は、真っ直ぐに俺を貫いていた。
「西行妖が危険な事は承知しています。双也様が、それを封印する為に蘇りを望んだことも。……でも…それを封印しているあなたが一番危険な立場にいる事を…分かっていますか?」
真剣な視線の中に、少しばかりの悲しさが見えた。
「西行妖を封印するーー確かに、生半可な存在では到底できないことでしょう。況してや、この幻想郷に限らずとも強大と言える双也様なら、まさに適任とすら思います。……ですが……あの木の力とあなたの力は、拮抗している。そんな状態の封印は、いつ解けるのか分かりません。
………もしそうなって、一番に呑み込まれるのは…双也様なんですよ…?」
「……映姫…」
「私は…あなたにもう一度死んで欲しくありません。二百年以上行動を共にした上司に…友人に…危険な目にあってなど、欲しくないじゃないですか……。人柱みたいな真似…しないで下さい…」
映姫の頬に、一筋涙が伝った。
泣き叫ぶ様な事はなかったけれど、彼女のその姿が、言葉が、俺の心には重低音のように響いていく。
「……大丈夫、そんなつもりは無い。いつか、力で押さえつける以外の方法を見つけてやるさ。そうすれば、問題ないだろ?」
「問題とか…そういう意味じゃありません…」
歩み寄り、少しだけ頭を抱いてやる。
涙を流す者が一番欲するのは、最後まで泣き切れる"場所"だ。文字通りに泣き切るまで、俺は映姫の頭を撫でていた。
暫くして泣き止んだ映姫。
気を紛らわす為、俺たちは何でもない談笑をしていた。そうしているうち、彼女にも笑顔が戻ってくる。どこか、裁判所での日々を思い出させるような時間だった。
と、そんな時
「あんたが異変の犯人っ!?」
ーー聞き慣れた声が、響き渡った。
声のした方向を見れば、急いで来たのか、少しだけ息を切らした博麗の巫女ーー霊夢の姿があった。
「れ、霊夢? 今回は行かない事にしたんじゃーー」
「もうそれはいいの! 事情が変わったから!」
「…?」
なんとなく要領の得ない言葉に、少しばかり首を捻った。
ただまぁ…理由はどうあれ、結果的に投げ出さなかったことは褒めてあげたい。実は内心、俺以上に怠けまくる霊夢に呆れかけていたところだ。
「あなたが博麗の巫女ですか。噂は少し聞いていますよ。神社で日々怠けに怠けているとか」
「ええ、怠けてるは余計だけどこの際もういいわ。取り敢えず、異変を起こした理由でも訊きましょうか」
「……何か誤解している様なので言っておきますが、私は異変を起こした訳ではありませんよ。コレは周期的に訪れる自然現象です」
「……………………ほんと? 双也にぃ?」
「ほんとだ」
そう言ってやると、霊夢はピタリと動きを止めた。
そして、俺が"どうしたんだ?"なんて思っている隙に、パタリとその場に倒れた。
「お、おい霊夢。大丈夫か?」
見た感じ怪我はしていない様だったが少しだけ心配になり、近寄って覗き込む。
すると霊夢は……
「ぅうぅ……せっかく今日は頑張ったのにぃ……」
なんて、うつ伏せのまま呟いていた。
流石に、今日に関しては同情しようと思う。
よくよく考えれば、今日の霊夢は異変解決に行くのを嫌がっていただけで仕事はこなしていた。
どうして動く気になったかは分からないが、せっかくもう一踏ん張りして解決に乗り出したのに、こんなオチでは気が沈むのも当然だろう。
「うぅ〜……紫のバカぁあぁ〜…」
「……仕方ない」
どうにも動きそうにない霊夢を、仕方なく
「ふぇ…?」
「じゃあ映姫、またいつか世間話でもしよう。霊夢がこんな状態だから、今日のところは引き上げるよ」
「そ、そうですか。ではまたいつか、双也様」
「ああ、じゃあな」
霊夢をおんぶしたまま、少しだけ別れ惜しいけれど無縁塚を飛び立った。
道中で小町も気が付いたのか、こちらに手を振っていたので振り返し、博麗神社を目指す。
「ちょ、ちょっと双也にぃ!? なんでおんぶなんて!?」
「今日は頑張ったご褒美だ。博麗神社まではおぶってやるよ。頑張った分だけ休んどけ」
「あ……………うん」
しばらく飛んでいると、背中から微かに霊夢の寝息が聞こえてきた。
本当にご苦労様、なんて思い、そろそろ日が傾き始めた空を眺めながら帰路に着く。
溢れかえった魂達は、約一週間後に収まりを見せ、余りに派手過ぎた幻想郷は、やっと落ち着きを取り戻したのだった。
なんか、双也が霊夢に甘過ぎる気も……。
まぁ妹ならこれくらいするかなと思って書きました!
私は妹居ませんけど!
ではでは。