東方双神録   作:ぎんがぁ!

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朝からずっと3G回線&ネットが繋がらなくて嘆きまくってたら、どうやら母が携帯料金を払ってなかったのが原因だったそうです。

焦せらせんなよ母さん…。

ではどうぞ!


第百三十三話 再びの月へ

ーー月。

 

様々な生物の棲む生命の星、地球の、衛星に当たる星。

この広い広い銀河の中心である、太陽からの光を反射して満ち欠けを繰り返し、そこに人が生きる為の空気などは存在しない、岩の塊。

そして地球の人間達の夢の象徴でもある。

 

 

 

 

 

 

 

ーーと、地球人達は思っているらしい、というのは、昔読んだ本に書いてあった事だ。

 

確かに地球の衛星ではあるし、太陽光を反射して満ち欠けしているのは確かだけれど、空気が存在しないなんていうのは全くの嘘。

当然空気は存在するし、したがってここに生きる人間やウサギ達も居る。なんなら海だってあるのだから、岩の塊というのも、地球人達の勝手な思い込みだ。

 

夢の象徴と言うのはまぁ…昔この月に訪れた人間達の事なのだろう。図々しくも、"自分達のものだ"とでも言わんばかりに旗を立てて行った、忌まわしき事件である。

 

ーーまぁそれは置いておいて。

 

「やっぱり、この場所が一番落ち着くわねぇ…」

 

図々しいし、下等だし、自分勝手な地球人達の住む忌々しい星ではあるけれど、この"静かの海"の浜辺から見渡す地球は、私が見たどんな光景よりも美しい。

 

残念ながら、この静かの海には生き物はいない。何故かは知らないけれど、いない事は事実なのだ。だからこそ、地球のあの海には憧れる。

一体、あの青い海にはどんな生き物が棲んでいるのだろう。

どんな匂いがするのだろう。

どんな景色が見られるのだろう。

 

何処かの姫様と師匠の様に、決して行こうとは思わないけれど、想像して楽しむのは私の自由だ。好き勝手にやらせてもらう。…なんたって、暇なんだもの。

 

今日も今日とて、仕事は真面目な妹がやってくれている。私の仕事を奪ってしまうくらいなのだから、私が暇になってこうしてのんびりしていても仕方の無いことだろう。私は悪くない。きっと悪くない。

 

……まぁ私が悪かったとして、叱る人もあまり居ないのだけど。

 

「それはそれで、好都合よねっ♪」

 

のんびりゆっくりマイペース。

やりたいことをやって、気ままに自由に生きる。そんな生活のなんと幸せな事か。少しくらい、あの子も休んで、私のように生活してみれば良いのに。

 

手に持つ扇子を広げ、暑くもないけど軽く扇ぐ。こういうのは雰囲気が大事。暑くなかろうと、扇いでいれば様になるじゃない。

霊力を込めたらまずいけれど、普通に使うのなら全く問題ない。そういう扇子なのだ。

 

そんな、誰に見せるでもない所作をしながら、美しい地球を眺めていた。週に何度か来るこの場所は、海が満ち引きする音と地球の青さが妙にマッチしていて、心が落ち着く。

 

…でも、そろそろ帰らないとマズイわよね。

 

名残惜しい景色から目を逸らし、妹がせっせと働いているであろう我が家の方へ足を向ける。

 

ーーが、振り返る視界の端に、気になるものが映ってしまった。

 

「? あんなモノ…さっきまであったかしら?」

 

浜辺の近くに鎮座する、黒い裂け目のようなもの。見るからに中は真っ暗で、先を見通すこともできやしない。

 

…興味を持ったら、止まれない性分だ。

自分でも驚くくらいに軽く、その黒い裂け目へと進んでいく。こういうのを、"怖いもの見たさ"というのだろうか。

 

近くに寄ってみてみれば、それは本当に真っ暗な物で、光すら飲み込んでしまいそうな錯覚さえ覚える。

少しだけ覚悟をして触ってみると、意外にも触れた感覚は殆どなく、私の指はその黒い物の中に入ってしまった。

とは言え、やっぱり気味の悪い物だったので、感触を確認したらすぐに手を引っ込めた。

……これは何なのだろう?

 

「不思議な物もあるものねぇ…」

 

思わずジロジロ見てしまう。興味を持ってしまったのだから仕方ない。だって、こんな不思議なもの見たことないんだもの。

 

触る勇気は最早無かったものの、今度は視線で撫でるように見回していく。

 

ーーすると突然、裂け目に変化が起きた。

 

具体的には……

 

 

 

 

 

 

「ん、ちょっとゴメンよ」

 

 

 

 

 

「〜〜ッ!!!」

 

片手に刀を持つ人間が、出てきたのだ。

 

突然の事過ぎて、私は声も出せずに後退りする。だって、得体の知れないものから、何の前触れもなく人が現れたら、そりゃ驚くでしょう?

動悸の所為で胸と喉が苦しい。本当に驚くとこんなに苦しいのか。

ーーってそうじゃなくて。

 

「あ、貴方は? 何をしに来たのかしら?」

 

やった、上手く声出てくれた。

なんて事は当然、頭の片隅で思った事だ。頭の大部分は、突然現れた謎の少年に注意を向けている。

そりゃ、鉄壁といって良いであろう結界を超えてきたのだから、警戒するのは当たり前。扇子にも一応、霊力を込めておく。

端から見ても、私の警戒心は丸出しだったろうに、それでも男は平然と言葉を発した。

 

「ん、俺は神薙双也。ちょっと話し合いたい事があってな。…取り敢えず、綿月依姫って奴知らないか? そいつに会いたいんだが…」

 

 

 

 

ーー警戒度MAX。

 

 

 

 

ゴウッと、我ながら少なくはないだろう霊力を解放する。

この男が言ったことは、そうするに値するほどの事なのだ。

神薙双也? あの英雄は、とっくのとうに死んでいるじゃないか。それこそ一億年以上前にだ。その頃はよくその話を聞いたが、会ったことはない。そんな者が今更現れるわけがないし、幽霊になったって、もう転生しているだろう。

 

そして何より……妹の名が出てきた。

 

月から出た事が無いはずの妹の名を、どうして知っている? 怪しいにも程がある。

 

そうは思うものの、男は未だビビる様子はない。解放直後に少しだけ驚いた様だけど、すぐに表情は元に戻った。

……少しショック。

 

「……なぁ、戦うつもりは無いからさ、その霊力しまってくれよ」

 

「無理を言わないで頂戴? 英雄の名を語り、妹の名まで知っている貴方を前に、警戒を解くなんて事出来る訳ないじゃない」

 

そう言うと、男は驚いた顔をした。

 

「! なんだ、依姫は姉ちゃん居たのか。初めて知ったな…」

 

「そう。私の名は綿月(わたつき)豊姫(とよひめ)。綿月依姫は私の妹よ」

 

「なら話が早い。依姫を呼んでくれよ。あいつが俺を見れば一目瞭然だから」

 

「得体の知れない貴方に、そう易々と妹を会わせるわけにはいかないわ。腐っても姉ですもの」

 

そう、こんな時こそお姉ちゃんの出番。

大切な妹なら、自分の手で守らなければ。

 

「……どうしたら、俺が神薙双也だって信じてもらえるんだ?」

 

「……霊力を、解放しなさい。それで見極めましょう」

 

霊力は、年月を重ねると大きくなっていく。その増加量は多くはないけれど、もし神薙双也が生きていて、さらにそれがこの男だというなら、相当な量の霊力になるはず。

ふさわしくない量の小さな霊力だったら、即この扇子で粒子に変えてやるわ。

 

「……良いんだな?」

 

男が聞いた。

 

「ええ、どうぞ」

 

簡潔に答えた。

 

正直、それを問うた意味が分からないが、解放してもらわなければ見極めようがない。

選択の余地なんて、初めから無かった。

 

「行くぞ」

 

ゴオッ!! 霊力が解放されるーーその瞬間

 

 

 

 

 

 

「〜ッ、っ…あ"っ…ぅ…」

 

 

 

 

 

 

呼吸が、出来なくなった。

 

何も、空気が無くなったとか首を絞められたとか、そんな理由ではない。呼吸が出来なくなった理由はただ一つ。

 

ーーその霊力の膨大さ。

 

最早理解不能というレベルの、圧倒的過ぎる量と質の霊力。

彼はきっと、ただ霊力を解放しているだけなのだろう。でもそれが、たったそれだけの事が、今私の身体を何処までも強く締め、圧迫し、今にも気絶しそうな状態にまで追い込んでいる。

 

「(う…ぁ…い、しき、が…)」

 

私だって霊力は全て解放している。きっとそれが、ある程度は彼の霊力を相殺してくれているはず。それでも、意識が刈り取られそうになる。

意識はただただ朦朧として、平衡感覚すらももう無いが、もしかしたらこの星自体が大きく揺れているのではないだろうか。

 

 

ーーこんなの、化け物じゃない。

 

 

彼が問うた意味が、よく分かった。

 

もう、ダメ…。

 

意識が落ちる中最後に見たのは、心配そうな顔で駆け寄ってくる少年の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ、だいじょぶかな…」

 

依姫の姉らしい豊姫と名乗る少女は、現在この浜辺で気を失っている。ーーと他人事のように言っているが、十中八九俺が悪い。

"全開放なんてすれば人に迷惑がかかる"なんてのは、とうの昔に学んだ事じゃないか。いくら豊姫に言われたからといっても、するべきじゃなかった。

 

「んまぁでも、これで信じてもらえるかな」

 

豊姫がどうやって俺を見極めようとしているのか。それは俺でもよく分かる。霊力の量で判断しようとしていたのだろう。

自惚れかも知れないが、正直俺以上に霊力を持っている存在なんて、西行妖くらいしか知らない。霊力の量で見極めようとしてるなら、俺にとってこれ以上の存在証明が他にあろうか。

ーーと、その時

 

「ん…ぅぅ…」

 

豊姫の目が覚めたようだ。

実に短時間の事だったが…一応、謝っておこうか。

 

「あ、えっと…ゴメンな。無理させたみたいで」

 

「…あ、いえ…これは私が貴方を見くびっていた所為よ。謝る必要はないわ。……お会い出来て光栄よ、神薙双也さん?」

 

「…ありがとう。"双也"でいいよ。宜しく」

 

「ええ。私の事も"豊姫"でいいわ」

 

軽く自己紹介し、仲直りもかねて握手をした。

信じてもらえたようで何よりだ。

 

「…さて、依姫に会いたいんだったわね。行きましょうか」

 

「ん、ああそうだな。案内宜しーー」

 

く。という言葉は、目の前を通り過ぎた銃弾(・・)によって掻き消された。

そしてそちらを振り向けば、俺から見て近未来的な、様々な装備を着た月人たちが大量にこちらを見ていた。

 

「豊姫様! ご無事ですかっ!?」

 

「先程の地震と霊力反応は、その男から発せられたものです! 直ちに避難をっ!」

 

ーーああ、これも俺が招いた事か。

うん、マジでこれからは全開放しないにしよう。面倒事が多過ぎる。

 

…取り敢えず、どうしようか。

 

向こうはもう戦闘態勢に入っているわけだし、大体こういう状況に陥ると戦う以外選択肢が無くなってしまう。弁明しても大抵は聞き入れられないのだ。

 

"無力化だけして逃がそう"

諦めを込めた溜息を吐きつつ、俺は仕方なく刀の柄に手をかけた。

 

ーーしかし。

 

 

 

ポン「面倒臭そうね。ほっといて行きましょ」

 

 

 

イタズラをする前の子供のような笑みを浮かべて、豊姫は俺の肩に手を置きながらウィンクをした。

ーー瞬間

 

俺の視界はグニャリとねじ曲がった。

 

「目的の我が家までショートカットォ〜♪ 一名様ご案内よ♪」

 

豊姫の、そんな陽気な声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 




戦闘なんてカットです。大群相手に戦闘したら文字数が大変な事に……。

ではでは。

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