今年も双神録と私をよろしくお願いしますっ!
ではどうぞ!
「…なぁ紫」
「……何かしら」
ガァン! ドォン! ……暗い竹林に、激しい衝突音が響く。
「どうしてこうなったんだろ…?」
「……知らないわよ」
その眩い光を見つめながら、静かに会話する影が二つ。
「あの後、霊夢ったら凄まじい剣幕で…出る敵全て一撃よ? 何があったらああなるのよ」
「……ん〜…呼び方争い?」
「…何よそれ」
とても疲れた表情と雰囲気を醸す二人には、激しい光を散らしながら衝突するフランと霊夢の姿が見えていた。
〜数分前〜
やっぱり寒いとの理由から、再び背に引っ付いたフランと彼女を背負っている双也は、かなり奥まで進んだ暗い竹林の中を尚も駆けていた。
本当は双也も眠くなる時間帯であったが、それは今更な話である。冷たく頬を撫でる風に加え、立て続けに戦闘など行えば、眠気も吹き飛ぶというもの。
ゆえに彼の頭は冴えに冴えていた。ーーのだが、実の所、頭が冴えている本当の理由は別にあった。
それはーー
『(やべぇ、この調子で行くと絶対霊夢達と鉢合う…)』
ーー所謂恐怖という奴だ。
今、彼に恐怖の対象は? と聞いたならば、確実に"霊夢"と返ってくるだろう。
普段ならばそんな事は無い。むしろ、大切な妹分との異変解決ならば彼だって嫌な気はしない。
しかし、当の妹分は今ーー怒っている。
響いてくる霊力の荒さから、双也はそれを悟っていた。
というか、初めに霊夢と分かれた所から、いつか来るかもしれないこの瞬間に戦々恐々としていたのだ。
目が醒めるのも当然である。
眠ったらば、待っているのは恐らく死。
ーーというのは少し大袈裟だが、ろくな事になりはしないだろう。
彼も如何にかしたいとは、思っていた。その答えも分かっていた。ただーーその鍵たるフランが、どうにも動いてくれない状況なのだ。
答え、と言うのは即ち、もう少しでもフランと離れて動く事、である。
霊夢は今、フランに怒っている。出会ったとしても、フランだけならば"二人の喧嘩"という事で片が付く。
しかしここに双也が、
きっと霊夢は"なんでそんな仲良くしてんのよ…あんたも敵だぁッ!!"…という感じで、理不尽に攻撃してくるに違いない。要は、彼はとばっちりに恐怖しているのである。
そしてフランも、霊夢に対して対抗心を燃やしている。その幼い独占欲の現れから、如何にかして
その霊夢の前で、お兄さまにおんぶしてもらっている所など見せれば、ダメージになる事は間違いないーーと、考えているのだ。
きっと、恐らく、先の事など考えていないのだろう。それに巻き込まれるかもしれない、双也の事も。
そして、いつ来るか分からないその瞬間に内心ビクビクしていたその折。
ーー彼は、前の視界に二人の影を見た。
『(…遂にか)』
そう思った刹那。
視界に捉えていたはずの"赤色の背中"は、唐突に姿を消し、
『鉄槌『妖怪下し』ッ!!!』
『禁忌『レーヴァテイン』ッ!!』
突然過ぎて反応の遅れた双也の頭の直ぐ上。
そこでは、ありったけの霊力を込められた大幣と、炎の大剣であるレーヴァテインが、文字通り火花を散らしていた。
ーーもう一度言うが、双也の頭の直ぐ上、である。
『うぉい霊夢!! いきなり仕掛けてくんなっ!!』
『あら双也にぃ、さっき振りね。元気してた?』
『……ッ!!?』
ーー不釣り合いだ。
一瞬にして、彼は思った。
言葉は実に優しい。
言ってしまえば普段よりも、である。
だがそれは逆に、底知れない不気味ささえ孕ませた、背筋の凍るような
怒りを超えた笑顔、とでも形容しようか。今の霊夢は、"鬼"という言葉すら生温い。
"鬼神"ーーどうやら、フランは押してはいけないスイッチを押してしまったようだ。
『おい、霊ーー』
『双也にぃ♪ ちょっと邪魔だから場所開けてね♪』
グルン。
腹の強烈な痛みと同時に双也の視界は一気に反転し、続いて背中に何かが衝突した。
いや、何か、など言わなくても彼は直ぐに理解していた。
地面。全力ではなかったとはいえ、あの双也が、高い高い空中から一瞬にして蹴り落されたのだ。
霊夢の底が知れない。仕様のない理由であれ、怒りによって覚醒ーーしたような状態ーーの彼女は、そのポテンシャルをフルに発揮した本物の強者であった。
『うっ……なんだよ、あいつなんか取り憑いてんのか?』
『いえ…そんなはずは無い…と思うけど…』
『おお、紫。お前もさっき振り』
双也の零した一言に反応したのは、この異変における霊夢のパートナー、八雲紫であった。
彼女も、少々困った表情で上を見上げ、恐らく全力であろうフランを圧倒する霊夢を見守っていた。
…そして双也は、彼女の意識が完全にフランへと向かっていた事で、結果とばっちりを受けずに済んだらしい事に、少しだけ安堵していた。
ーーそして、現在。
「ホントに、一体何がどうなったらあんなに怒るのよ」
「…………逆鱗に触れたからじゃね?」
「……なんて言ったの?」
「フランが……ビンボー脇巫女…って…」
「……はぁ」
"言ってしまったな"と、紫は顔を伏せた。
誰にだって、沸点というものはある。
紫だって普段は温厚だが、幻想郷の危機とあらば誰よりも怒り狂う。
双也も、誰もが知っている通り、命を蔑ろにする行為にはとても怒る。
個人差はあるが、霊夢にだって沸点がある。
ただ、彼女が本気で怒る事は殆どと言って無い。軽く怒る事はあるが、本気とまでいく事はほぼ無いのだ。そういう意味では、"沸点が二重にある"と言っていい。
今回の事も、なんの前置きもせずに"ビンボー脇巫女"と罵ったならば、確かに怒りはしただろうが、本気とまでは行かなかったはずだ。
だがーー今回は、その前に口論して、イラつきが募りに募った状態だった。
その上に追い打ちとして罵しられれば、いくら霊夢と言えど怒るのは当然の事。フランは、霊夢が"ビンボー"と"脇
「はぁ、仕方ないわね。それよりも双也、気が付いているかしら?」
どうしようもない、と霊夢の事は区切りをつけ、紫は双也に問いかけた。
「ああ、月の異変って言うと…
答えた彼は、未だ闇空に大きく鎮座する月を見上げた。相変わらず、馬鹿みたいな魔力が溢れており、長く見つめ続けるのは彼でも避けたい程である。
「月の事情を知ってるやつじゃなければ、こんな月を顕現させる訳がない。となると…あいつらですら、
彼らもまた、"月の事情"とやらを知る、よく知る人物達である。脳裏をかすめるその予想に、二人の表情は自然と引き締まっていった。
「……どう思う?」
「さぁな。ただ…覚悟はした方がいいかも知れない」
どうなるのかは、分からないけれど。
「……まぁ、あんな状態の霊夢がいたら、どうとでもなる気はしなくもないけどな」
「…ふふっ♪ 全く、その通りね」
空気を紛らせるかのような彼の言葉に、紫も固くなった気を少しだけ緩める事が出来た。
そう、今身構えても仕方ない。心だけは気を抜かず、取り敢えずは首謀者の元へ。理由なんかは、その時聞けばいい。
異変の最中、人知れず心を決める二人であった。
「…ん、終わったっぽいな」
「まぁ、結果は予想通りね」
双也は立ち上がり、瞬歩で移動して、地面に叩き落されたフランを抱き留めた。
ーー彼女はやはり、身体中をボロボロに傷付けて気絶していた。
「ふぅっ! コレでこの子を黙らせられるってもんね!」
「気は済んだか、霊夢」
「ええ、そりゃもう。なんかいつも以上に力が出てた気がするけど、まぁ私に掛かればこんなもんよね」
「あ、ああ…そうだな…」
怒りによる覚醒ーーっぽいものーーに気が付いていないらしい彼女へ、双也は乾いた笑いを溢した。
全く、この巫女は何処までの力を秘めているのだろうか。真面目に修行とかしてたら、全解放状態の双也にも劣らないかも知れない。流石は博麗の巫女、彼の妹分である。
ーーまぁ、結局は"もしも"の話になってしまうのだが。
「さて、気分もすっきりした事だし、もう行きましょうか。私の勘に寄ると、目的地はもう直ぐそこよ」
「そうか。じゃ、気を引き締めて行こうか」
フランの怪我を治癒して背負いながら、双也は言った。
紫も近くへと寄ってきて、霊夢の隣に並ぶ。
彼らが進んだその先は、竹林の終わりを思わせるかのように大きく開いており、その中心にはーー
ーー大昔のお屋敷のような、日本家屋が鎮座していた。
鬼神霊夢の一方的展開……怖くて戦闘は書けそうにありませんね…(ガクガクブルブル)
ではでは。