次回作の備えの為、これからは三人称視点でのお話が多くなるかもしれません
よかったら、その感想やアドバイスでも教えていただけると更なる参考になります。
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ではどうぞ
ーー成仏得脱斬
それは魂魄流に伝わる技の一つ。
白楼剣と楼観剣を同時に振るい、纏わせた激しい剣気を炸裂させる技である。
その色は、纏わせた剣気の圧縮具合によるが、完成させたこの技の色は………鮮やかな桜色。
完成されたこの技の威力は、修行をしたような強者でも瞬く間に斬り伏せる程のモノである。
裏をかき、隙を突き、上から振り降ろされた妖夢の剣技は、確かに霊那の姿を呑み込んだ。
しかしーー
「ッ!!? なんで……!?」
妖夢の眼は、平然と両刃を受け止める霊那の姿を映していた。
「…百式多重結界」
そう呟く霊那と妖夢の間には、確かに結界が張られていた。
それに阻まれて、彼女へと刃を届かせることができなかったのだ。いや、刃どころか炸裂した剣気さえ霊那へは届いていない。
それ程までに彼女は落ち着き払った態度をしていたのだ。
ショックと困惑で動けなくなっている妖夢へ、霊那は言う。
「この結界を
「千…枚…?」
「はい。ですが、この結界を本気で破る気なら、今の
「…………ッ!?」
千枚の結界を破る力の、千倍。
その途方も無い数字に妖夢は絶句した。
霊那の発動した"百式多重結界"。
それは、
、彼女の最高防御結界である。
普通、常識外れの霊力を持たない限り百万枚の結界など到底作ることは出来ない。
しかし……結界の規模を最小にまで絞れば実現は可能なのだ。
当然、小さな結界を百万枚作ったところで殆ど意味は無い。攻撃を防いでこその防御結界である。防ぐどころか攻撃との間に割り込ませることができない。
だが、霊那には
霊那の能力は、展開する程度の能力。
元さえ在れば、広げることができる。
つまり、霊那は百万枚の小さな結界を発動し、それを能力で通常の結界の大きさまで広げたのだ。
霊力の消費も、普通に作る時の五パーセント程で事足りる。少量の霊力で、計り知れない防御性能を持つ結界を作り出せるのだ。
それでも、それを瞬時に作り出す霊那の技量は、やはり彼女が相当の強者である事の証明と言えよう。
霊那が、百万枚の結界を作り出したと気がついた妖夢は、驚愕と恐怖を貼り付けた表情で叫ぶ。
「あなたは………何処まで"規格外"なんですかっ!!」
「幻想郷を、この手で護れる程度には」
圧倒的な霊力が、霊那の薙刀を包み込む。
同時に、大量のお札が桜のように舞った。
「
無数の斬撃が、解き放たれたーー
薄く、目を開く。
自らの背に硬い感触を感じながら、唯一動かせる瞼だけを、そっと開いた。
意識も朧げな妖夢のその視界には、彼女を覗き込む女性の姿があった。
霧が掛かったようにボヤけるその顔は、先程相対していた"規格外な存在"ではなく、どこか母親のような暖かみを持つ"霊那"のモノだった。
はっきりしない意識の中に、優しい声が届く。
「あら、起きましたか」
「霊、那…さん…?」
その声に、妖夢は途切れ途切れ答える。
薄くボヤけたその顔は、ゆっくり頷いてみせた。
「はい。気絶してしまったので心配しましたが、意識があれば大丈夫ですね」
"私が言う事ではありませんが…"と、自重気味の声が聞こえる。
頰に薄っすらと暖かい何かを感じた。
「…妖夢さん。あなたはまだ半人前です。門番か、はたまた用心棒か…私は知りませんが、これではその仕事もこなすには足りないでしょう」
薄い意識の中で耳を傾ける妖夢に、少しだけズキっと痛みが走る。
それは傷が痛むのか、それとも別の何かが痛むのか。
「"我が主の命"。言われたままに動くのは、従うとは言いません。主従とは言いません。あなたに心がある内は、選択するのはあなたなんです。知っていますか? あなたの主人の命とやらで、たくさんの人が困っている事を」
少し見開く妖夢の目に、霊那は静かに微笑みかけた。
妖夢の銀色の髪を撫でながら、再び意識を手放そうとしている妖夢へ、語りかける。
「妖夢さん、あなたはまだ成長できます。半人前という事は、一人前になる事ができるという事。………今は、お休みなさい。目が醒める頃にはきっと、従者としてするべき事が分かるでしょう」
暖かな言葉を心に染み込ませながら、妖夢は再び意識を手放した。
冥界には、おびただしい量の桜の木が植えられている。
それはこの冥界を管理しているある少女の意向によるものなのだが
……それにしたって、量が多い。
"視界を埋め尽くす"という言葉の意味を、まさしく体現している。
そして、その桜の木の中でも、一際目立つ桜の木が存在する。
ーー西行妖。
そう呼ばれるその桜は、決して小さい訳ではない他の桜たちが見上げてしまう程大きな…いや、巨大な桜の木である。登って見下ろせば、冥界のあらゆる物が米粒以下の小さな点にしか見えなくなってしまうだろう。
しかし、他の桜たちが満開と言っても足りない程に咲き誇っているのに対し、西行妖は未だ満開には至っていない。
正確には、あともう少し時間があれば、満開に至るであろう、というところだ。
美しい、と言うには少しばかりまだ足りない、その巨大な木の根下。
それを彩るのは、お札、星、ナイフ、
そしてーー蝶であった。
「ふふふ、元気な子達ねぇ♪」
「うっさいわよ!! 余裕かましてる位ならサッサと負けてくれないかしらっ!?」
霊夢が大量のお札を連射する。
向かう先に浮かぶ青い着物の少女ーー西行寺幽々子は、その顔に微笑みを浮かべたまま、それこそ幽霊のようにユラユラと避けていく。
…実際彼女は、亡霊なのだが。
「ほらほら、もっと頑張りなさいな。
「あら、
刹那、ユラユラと浮かんでいた幽々子の周囲に無数のナイフが出現した。
その鋒は当然、円の中心へ向かうように内側を向いている。
「ならばここはメイドらしく、ご注文の品をお届けしましょう」
咲夜の言葉とともに、銀色に輝く鋭利なナイフが中心の幽々子へ殺到する。
普通の人間ならば発狂モノのシチュエーションなのだがーーあいにく彼女は、普通どころか人間にすら程遠い。
「あらあらメイドさん、注文の品と違うわ。出直して来なさい」
笑顔は欠片も崩さず、スッと一枚のカードを取り出した。
言わずもがな、である。
よく通る美しい声で、ポツリと宣言した。
「
瞬間、ナイフは嵐とも言える様な量の弾幕に阻まれた。
幽々子からは、青い弾幕が回転する風車の如く放たれる。その量たるや、視界を彩る桜の如し。
加え、同時に放たれる大弾幕が、拮抗していたナイフと弾幕のバランスを崩していく。
咲夜のナイフを弾き飛ばすに飽き足らず、幽々子の弾幕は咲夜、魔理沙、そして霊夢に迫っていった。
「ちょっ、何よこの弾幕量っ!?」
「速かねぇけどこりゃヤバイな」
驚愕する霊夢の隣で、魔理沙はスペルを構えた。
「だが…避けれない程じゃないぜ!!」
その真っ直ぐな性格に従ったのか、魔理沙はその弾幕へと速さを効かせて飛び出した。
若干呼び止める言葉が頭によぎった霊夢ではあったが、彼女も、異変解決者としての魔理沙の実力は知っているし、認めている。
喉元まで出かかった声には歯止めがかかった。
「案外隙だらけだぜ!?」
風車の如く、という事は、回転するように隙間が生まれるという事である。
その隙間を瞬時に見つけた魔理沙は、躊躇いなどおくびにも出さず、その風車に星の尾を引く。
"流星"には似合いそうもない、円を描く尾だった。
「あらあら、バレちゃったわね」
「勝手に余裕ぶっこいてろ! こっちは容赦しないからな!」
叫んだ魔理沙は、あらかじめ構えておいたカードを突き出し、高らかに宣言した。
「恋符『ノンディレクショナルレーザー』ッ!!」
彼女の周囲に浮かぶ魔法陣。そこから、それぞれ別の色をしたレーザーが照射された。
スペルカードと言うだけあって、普段彼女が放つレーザーとは桁違いの威力をしている。四方八方に向きを変えるレーザーは、幽々子の圧倒的な弾幕量にも抵抗し、着実に掻き消していった。
「おい霊夢! 咲夜!」
一人幽々子のスペルに対抗する魔理沙から、二人へ怒号にも似た声が響いた。
それを合図と受け取った二人は、連れ立って幽々子の方へ飛び出す。
二人がスペルを構えた頃には、幽々子のスペルはブレイクしていた。
三人の前に、勝利は目前。
「傷魂『ソウルスカルプチュア』!」
ーー斬撃が。
「恋符『マスタースパーク』ッ!!」
ーー魔砲が。
「霊符『夢想封印』!!」
ーー光珠が。
ようやく笑みの消えた幽々子へ、
肉薄したーー
ーーが。
ドウッ
一瞬。
それは、本当に一瞬であった。
刹那に、瞬く間に、須臾の程に、
後ろの、
「………ッ!?」
「なんだ…コレ…」
「………………ッ」
三人は、動けなくなっていた。
何も、スペルが吹き飛ばされたショックで動けない訳ではない。もちろん、あの三枚のスペルは本人達にとっても完成度の高いもので、あっさり破られたとあっては当然ショックもあるだろうが……それよりも、三人の身体は別の事に支配されていた。
西行妖から放たれる、不気味極まりない妖力である。
見ているだけでも冷や汗が止まらなくなるほどの、大きく、不気味で、不吉な妖力。
場数を踏んできた魔理沙と霊夢でさえ、思わず後退りしたほどである。
そんな三人を後ろに、異変の首謀者である幽々子は西行妖に振り向き、呟いた。
「あ、ら…? なに…が……」
ふらり。
幽々子の体は、先ほどまでのフワフワとした様子ではなく、本当にふらりと力を無くし、ダランと肩を落とした。
そしてそこへ、先程の強烈な妖力が集まっていく。
まるで
しかし、その理由も理屈も今の三人には知る由も無い。いや、そんな事を心配している場合ではないのだ。
すでに幽々子は、不気味な妖力を振りまいてこちらを睨みつけているのだから。
先程までのあっけらかんとした、どこかイライラとする様子は、既に産毛ほども見受けられない。
彼女が今放っているのは、突き刺さるような殺気と、どうしようもなく嫌悪感を膨らませる妖力だけだった。
睨みつける目にも、光は宿っていない。
肩と、そこから伸びる腕は前でダランとしており、見るからに力は入っていない。
一見無気力そうな印象を受けるその様子は、しかし彼女が正気ではない事を鮮明に表していた。
「「「……………………」」」
三人は、皆黙って一点を見つめる。その視線の先は、言わずもがな様子のおかしな亡霊の少女。
誰が言わずとも、誰もが分かっていた。
分からないはずはない。例え誰かがこの戦いを見ていたとして、実力者でなくともそれは何よりも鮮明に分かる事だ。
ーー本番は、これからであると。
「ん、この妖力……………相当マズイな…。……急がねぇと!」
え? 霊那の技見覚えある? さ、さぁなんのことでしょぉねぇ〜?
ではでは。