東方双神録   作:ぎんがぁ!

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いつもより短いです。
三千に届かなかったくらい…ですね。

あ、初の霊那視点です。

ではどうぞ!


第百五話 "魂魄"の剣士

冥界。

 

それは、死者が裁判所の判決を待つ間一時的に住まう死者の世界。

広大な土地の空は常に暗く、上空どころかそこかしこに人魂が浮いており、訪れるものを祝うかの様に、もしくは拒絶するかのように、あらゆる所で踊り狂う。

 

そして、冥界の最も際立つ特徴と言えば………疑う余地もなく、それは桜。

 

どこに視線を移そうとも、必ず何処かに映り込む程の桜並木である。

真の意味で、この世のものとは思えぬ程美しく、優雅な桜達。

それらが風に揺れ、はたまた人魂に揺らされて、ふわりふわりと舞い落ちる花びらが織り成す桜吹雪も、当然現世では見る事が出来ない程の美しい光景である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーのような事を師匠が言っていたんですが…聞いていた通り、素晴らしい所ですね」

 

「…そうだな」

 

「私、こんなに咲いている桜並木を見るのは初めてです。異変が終わったら、ここに花見をしに来るのも良いかもしれませんね」

 

「…そうだな」

 

「その時は、霊夢達も呼んでみんなで宴会するんです。双也さんも来るんですよ?」

 

「…そうだな」

 

今、結界の穴を越えて階段の上を飛んでいる最中。

すぐ横に植え付けられた桜並木に感激しながら、目的地へと歩を進めていたのだが……何故か、双也さんの元気が無い。私が話しかけても同じ返答ばかりを返してくる。

…どうしたんでしょう?

 

「あの…双也さん、どうかしたんですか?」

 

「ん…?」

 

「元気が無いようですが…もう一度休みますか?」

 

念の為、聞いてみた。

先程休んだばかりなのでそこまで疲れているわけは無いと思うが、もしかしたらという事もある。

実際、彼は疲弊しているようだし、私も休憩を挟むのはやぶさかではなかった。

私が問うと、双也さんは視線を落とし、苦笑いをしながら小さく呟いた。

 

「いや…俺は休むよりある事を聞きたい…」

 

「ある事?」

 

「霊那、お前さ…」

 

双也さんは、指を横へと指しながら少し強い口調で言った。

 

 

 

 

 

三十分以上(・・・・・)こんなの見続けて飽きねぇのっ!?」

 

 

 

 

 

「? 飽きませんよ? 綺麗なものは綺麗じゃないですか」

 

確かに、冥界へ潜入して三十分…いや、それ以上は経過しているし、その間ずっと桜を見ていたけれど……驚く程の事?

 

「いや、俺も桜は好きだよ!? そりゃ綺麗な桜を見て気分が高揚したりはするけどさ! さすがに長時間見てたら飽きるだろ!」

 

「双也さん、そんな事いうと宴会に参加できませんよ? 宴会は華のあるところでするものなんですから」

 

「宴会だってずっと花見てる訳じゃないだろっ。料理とか話とかあるだろっ。お前誰とも話さずボーッと桜見てる気かっ!?」

 

「それも良いですけど…え、何処かおかしいですか?」

 

なんだろう、凄く呆れられている気がしてならない。

私の考え方がどこかおかしかったのだろうか?

そういえば、昔霊夢にも宴会で同じ様な事を言われた気も……。

 

湧き上がってきた自らへの不信に首を捻っていると、突然隣を飛んでいた双也さんが止まった。

私も慌てて停止し、前を見ると……

 

 

 

 

 

刀を二本差した、銀髪の少女が立ち塞がっていた。

 

 

 

 

 

「おおっと、コレは…」

 

その少女を見、呟く双也さん。

その視線は、少女自身というよりももう少しだけ別の所に向いているような感じだった。

 

どこか服がボロけた少女は背中の長刀を抜刀し、私達に向けた。

 

「あなた達も侵入者ですねっ!? 我が主の命により、ここから先は通しませんっ!」

 

ーーと、言い切るなり突然迫ってきた。

 

「気が早ーー!」

 

ガキンッと、少女の刀は目の前で止まった。

止めているのは私ではなく……双也さんの刀だった。

 

「言うだけ言っていきなり攻撃とは…早計なもんだ、な!」

 

「く…」

 

弾き返された少女は、身軽なのかクルッと一回りし、元の場所に着地した。

刀は依然、こちらに向けたままだ。

 

「剣士は、まず最初に名前を名乗るべきじゃないのか? なぁ"魂魄"」

 

「? 双也さん?」

 

「なっ!? なぜ私の名を知ってるのですか!?」

 

違和感のあるセリフに、私もあの少女も驚き、彼を凝視した。

その視線には何も反応せず、彼は淡々と告げる。

 

「なに、お前の一族とは面識があるんでな。もっと言うなら…お前のその刀、妖忌が持ってた楼観剣と白楼剣だろ」

 

「師匠の事まで……」

 

双也さんの言葉で、少女は更に訝しげな視線を強めた。

そんな表情のまま、ゆっくりと口だけ動かした。

 

「……そうです。私は魂魄妖夢(こんぱくようむ)。魂魄妖忌は私の祖父であり、師匠です」

 

「アイツは今どうしてる?」

 

「…お答えする必要はありません」

 

「それもそうだ」

 

はは、と軽く笑い、一通り問答を終えた双也さんは片手に刀を作り出し、構えた。

が、

 

「…なんだよ霊那」

 

「この子の相手は私がします。さっき斬り掛かられた借りがあるので。双也さんは先に行ってください。急ぎの用…なのでしょう?」

 

一瞬の間をおいたが無言で頷き、刀を消す双也さん。

私も彼に関しては疑問が増えてきた所だけど、他人の過去に簡単に踏み入るのも愚の一つ。

そもそも、ここで話す事ではない。

あくまで優先するべきは、最初の目的である。

 

「じゃあ、頼むな」

 

そう言い残し、パッと消えると、既にその姿は妖夢と名乗る少女の後方へ消えていった。

妖夢さんも慌てて振り返り、追おうとするが……そんな事はさせない。

首元に針を飛ばし、威嚇した。

 

「あなたの相手は私ですよ。妖夢さん」

 

「あなたは…なんですか? さっき私が負けた三人のうちの一人に服装が似てますが」

 

「ああ、霊夢の事ですか。ふふふ、あの子に負けたんですね」

 

凛々しく戦う霊夢の様子を思い浮かべ、思わず微笑んでしまう。こんなに強そうな剣士に勝ったなんて…我が子の成長が嬉しくてたまらない。

 

「ふふ…では、我が子の成長を見届けた所で、私も名乗りましょうか。私は博麗霊那といいます。先代博麗の巫女を勤めました。よろしくおねがいしますね。妖夢さん」

 

袖から一枚の札を取り出し、横に突き出す。

そこからは光が溢れ出し……

現れたのは、刀身と柄の間に綿のような装飾を施された、一振りの薙刀。

 

現役時代、私が愛用していた武器である。

 

「そうですねぇ、私は弾幕勝負の事はよく分からないので、ハンデをあげましょう」

 

「……そんなものは要りません。弾幕勝負が出来ないのなら、直接戦闘すればいい事でしょう。どちらかといえば、私もその方が助かります」

 

「ですから、するのは直接戦闘ですよ」

 

薙刀を一振り回し、目の前の地面にトンッと突き立てた。

 

 

 

 

 

 

 

「私はここから一歩も動きません(・・・・・・・・・・・・)。好きな時、好きな所に攻撃して下さい。それを全て捌いた上で、あなたに勝って見せましょう」

 

 

 

 

 

 

微笑みを崩さず、あくまで余裕を持って言い放った。

さっき斬り掛かられた分倍以上にして返してやろう、と決意したからだ。

 

当然、挑発とも取れる私の言葉には、妖夢さんも反発した。

 

「〜〜ッ!! 先代博麗の巫女だか知りませんが…私のこの剣を侮辱するとはいい度胸ですね!!」

 

「侮辱ではありません。全て見切って、叩き伏せてあげます、と言っているだけです」

 

売り言葉には、買い言葉で返す。

誰もが知っている挑発の作法。

 

初めに気迫を見て"強そう"、と思ったけれど…

 

「〜〜ッ!!! 覚悟して下さい! 霊那さんっ!!」

 

「やれやれ、これではーー

 

「この楼観剣に…斬れぬ物など、あんまり無いッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

ーー半人前、ですね」

 

 

 

 

 

 

 

刀同士が、火花を散らした。

 

 

 

 

 




霊那が自信家になってる…!!

ではでは。

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