「大丈夫?」
「うん。だいひょうぶ。鼻から血が出ているだけだから」
重たい扉が開いた先には扉に鼻をぶつけて悶絶していた少女がいた。今は部屋の中で血を止めようとしているところ。
「ねえ、一緒に遊ばない?」
「え?」
そう言って綺麗な宝石が付いた羽を揺らしながら、フランちゃんは話しかけてきた。
「鼻血は大丈夫?」
「もう大丈夫。吸血鬼の再生力でもう止まったわ」
良かった。はたから見てもすごかったから。
「今度から扉を開けるときは気をつけないとダメだよ? さっきみたいに急いであけると鼻をぶつけちゃうからね?」
「うん」
赤い可愛らしい服装に枯れ枝のような翼。そこにさらにクリスタル色の羽がついている。そんな彼女はあまり人と会う事が出来なくてコミュニケーションがうまく取れないらしい。さっきも慌てて扉を開けて鼻を打ち付けていたし。
「咲夜が来るまで何して遊ぶ?」
「じゃあ、ゆっくりお手玉は?」
「え?」
あれ、知らないのかな? ゆっくりをお手玉代わりにしてするんだけど意外と難しいんだよね。重いし、羽や角でバランスが崩れやすいし。けど、やっているうちにだんだんと慣れるんだよね。何も遊び道具を持っていない時に良く空き地で遊んでいたんだけどね。……そういえば以前ピエロ姿の人が弟子入りさせてくださいって来た事が有ったなぁ。
「えっと、この子たちを投げるの?」
「そうだよ」
(えっと、大丈夫なのかな? この子の頭が)
「じゃあ、まずはお手本ね。えっと、このゆっくりとそのゆっくり、最後にあのゆっくりで」
ポンポンと優しく投げてキャッチする。それをどんどん繰り返して、早くしていく。
「うわ~! すごいすごい!! 私もやる!!」
「ゆっくり投げていってね!!」
「うん!!」
フランちゃんも投げ始めたけど、
「あ、アレ? うまくいかない」
「最初は二つくらいのゆっくりのが良いよ。いきなり三つは大変だから」
「こう?」
「そうそう。それで膝を柔らかく使って……、それで勢いよく投げるんじゃなくって……。
うん。これで大丈夫だよ。あとは慣れるだけ」
ゆっくりを抱えて渡す。普段より軽くなっているゆっくりたち。どうやら少し空を浮かんでいるみたい。いつもゆっくりお手玉をするときはそうしてくれる。
「よいしょ!」
ポン、ポンとおどおどとたどたどしくゆっくりを上に投げてキャッチする。キャッチしたゆっくりを今度は反対の手へ。そしてまた上げて。それをだんだんと早く、正確に。
「すごい、フランちゃん! こんなに早く上達するなんて!!」
しかもフランちゃんは僕よりも早く投げていく。そして、
「ゆっくり回していってね!!!!!!」
今では五つのゆっくりを回している。
「あははははは!! 楽しい、楽しい!!」
クルクルと回っているゆっくり。だんだんと早く、……あれ? 早すぎない?
「「何があったの!!?」」
私とサクヤが地下室へ向かって扉を開けたら、目の前にはボロボロの部屋に予想と違ってフランと子供が倒れていた。子供が【自主規制】のような姿になるなら想像できていたけどこれは余りにも予想外すぎるわ。
「お嬢様! こちらを」
「何かあったの咲夜?」
咲夜が指差すとこを見ると何かが高速で跳ね回った後があった。その跡をたどっていくとそこには目を回しているゆっくりが一体。そこから周りには何体ものゆっくりが倒れていた。
「「「ゆっくり投げて……」」」
謎の声を上げているがさっぱり意味が分からない。混乱しているとフランとあの子供が起きだしてその顔を見て噴き出してしまった。
「「ぶふぅ!!」」
ちょ、一寸待て。その顔は反則よ! 私を笑い殺したいの? フラン。
「何を笑っているの?」
「フ、フラン、鏡を見なさい」
もう、駄目。あんまりにも可笑しくて。笑いをこらえきれない。
「何よこれ~~~!!!?」
あっ、気づいたみたい。
フランちゃんのお手玉が暴走した。言葉にすれば簡単だけど余りの勢いでゆっくりたちが吹き飛んで僕の顔に激突した。フランちゃんも同じようだったらしく顔には跡が残っている。
「いや~! これ嫌!」
「そうはいっても貴方がしたことなんでしょう? 少しは反省して力加減を覚えなさい」
そう言ってフランちゃんを怒っているのはレミリアさん。(さんを付けなさいって言われたからさん付け)フランちゃんの顔にはゆっくり魔理沙の顔がくっきりと残っている。僕も鏡を見たけどそこにはゆっくり霊夢の顔が後になって残っていた。
あの時あまりにも早く勢いよくゆっくりたちが部屋中をバウンドした結果僕とフランちゃんには痣が出来て、部屋中の物にはゆっくりの衝突で壊れている。
ちなみに今は僕も怒られています。
「分かりましたか? 幾ら客人とはいえやりすぎです」
「ごめんなさい」
フランちゃんがあんな力が強いと思わなかった。ゆっくりも予想外だったらしいし。
こうして始めて紅魔館に入ったけどその結果は怒られることになった。今度は気を付けよう。
二人して正座で反省させられていると雨が止んでいた。そろそろ日も沈むから帰らないといけない。そのことをフランちゃんに言うと見送りに来てくれた。
「またね、フランちゃん!」
「うん。……あのね、また今度遊んでくれる?」
「うん、もちろん!!」
新しい友達ができた。災難なこともあったけど今日は遊びに出ていて良かった! 日がしずむ中を博麗神社へと歩いていく。
「ね、ゆっくり?」
「「「ゆっくり楽しんでいってね!!」」」
それでは皆様良いお年を。