今回はギャグ少な目でほのぼのを目指してみました。
ちゅんちゅんと小鳥の鳴く音に目が覚める。
「今日も良い天気だな」
う~ん、と背伸びをしながら暖かい日差しを浴びる。ぽかぽかとした日差しは心地よく思わずもう一度寝たくなってしまう。
「ゆっくり」
「おはようゆっくり」
僕の足元で起きてきたゆっくり一匹一匹に挨拶を交わす。それが終わると幾らかのゆっくりは台所に行って調理の準備を。ほかのゆっくりは霊夢さんの寝室で霊夢さんを起こしている。僕と少しのゆっくりは井戸に向かって水をくむ。
「よいっしょ」
家にいた時と違って蛇口をひねるだけで水を手に入れられる訳ではないので、こうやって井戸から汲まないといけないけどこれが意外と大変だ。
水を入れた桶は重く、井戸のふちまで上げるのに僕は苦労してしまう。ほかのゆっくりたちはゆっくりたちで僕が汲んだ水を他の容器に移し替えて、台所にある水瓶にためるために移動している。
「ゆっゆっゆ」
ぴょんぴょんと体全体で跳ねるその姿が可愛らしく面白いからついつい張り切って僕も水を汲む速度を上げていく。
「よいっしょっと!」
最悪の目覚めね。
「ホラ、さっさと起きなさい」
「うるさいわね。もう少し寝ても良いじゃない」
まだ、辰の刻(六時頃)じゃない。まだ眠い眼をしょぼしょぼとさせて言う私に、ゆっくりたちはあのムカつく笑い方で嘲笑いやがった。
「子供のあの子がもう起きて水汲みをしているのに貴方は何もしないのね? これだから腋巫女は」
やれやれと首を振るそいつらに殺意を覚えながら私は、事実だから何も言い返せなかった。
「ほら、布団から出た。布団を干すから早く出る」
追い出されるように布団から出され、ぼーっとする頭を振って少しだけしゃきとさせていく。
あれ、家主って私よね? なのになんでゆっくりたちが家を仕切っているんだろう?
「霊夢。さすがにそろそろまずいんじゃないかい?」
「何がよ、萃香」
私の横に霧が集まり一匹の鬼が現れる。
その鬼は懐にある瓢箪から酒を飲みながら続きを言う。
「いやさね、霊夢お前あの子が来てから家事ほとんどしていないじゃん?」
「う!」
そのことは薄々感じていたし何とかしようと思ったけど、朝は私より早く起きていろいろな家事をしていて、昼は昼でいつの間にか掃除を済ましてしまう。夜は夜で布団は敷かれて晩御飯はできていて、さらにお風呂も沸かされている。
「思いっきり堕落してるじゃないか。神に仕える巫女がそんな状態でどうすんだい。私みたいな妖怪ならまだしも霊夢のような人間が子供に面倒を見てもらうってのもね恥ずかしい話しだよ」
諭すように言われるが私とて仕事をしようとしたことはある。けれど、仕事を見つける前に人海戦術ですでに終わらされているのだ。この頃あいつらは私を堕落させようとする悪魔かと思い始めてきた。紅魔館にいる小悪魔じゃなくまっとうな人間を堕落させようとする悪魔かと。
「私だって一応そう言った悪魔ですよ!!」
何か聞こえたような気がするけど無視しておこう。
兎に角、ゆっくりは私の天敵であることに間違いない。一匹を除いて。
「zZZZZZ」
「こいつはこいつで涎垂らしてすっごい寝ているけどこうなっちゃお終いだよ」
「分かってるわよ。私だってさすがにそこまで堕落しないわ」
私と萃香の目の先には未だに眠り続けているゆっくり紫がいた。
「ゆ」
「「ハァ」」
私たちの呆れの瞳を気にせず眠り続けるゆっくり紫を見ているとなんだか莫迦らしくなってきて思わずため息を二人ついてしまう。
「とにかく食事がそろそろできる頃だから食卓へ行くわよ」
「はいはい。こいつもさっさと起こすとしようかね」
「ゆっゆ! ゆっくり作ってね」
井戸から今日の分の水を出し終わって台所に行くと一人のゆっくりが指揮を執って台所を動かしていた。頭には雀の羽を飾っている帽子をつけているゆっくりは何処ら出したのか割烹着をつけて張り切っている。
「ゆっくりミスティア、何か手伝うことある?」
僕が聞くとすぐさまゆっくりミスティアは頭の羽飾りで米を研いでくれと伝えてきた。何でもできるように思うゆっくりたちだが、一つだけ欠点がある。それは頭しかないから手が必要な作業がほとんどできないのだ。
物を切るときは包丁を口でくわえてジャンプしながら切るといったように器用に作業を進めるゆっくりだけど、米とぎ等の腕が無いとどうしてもできない作業ができない。だから米とぎとお皿に盛りつけるのは僕の仕事だ。
シャカシャカと米を研ぎ終わり、炊き始めると同時に霊夢さんが台所に顔を出してきた。
「おはよう。朝食の準備は……ってもうほとんど終わっているのね」
あれ? なんだか霊夢さんがゆっくりたちを見る顔が少し怖いような。気のせいだよね?
「おはようございます。霊夢さん」
「私からもおはよう」
「おはようございます。萃香さん」
「ゆっくり!」
ピシリと萃香さんがのばしていた手をゆっくりミスティアが菜箸で叩く。よく見ると萃香さんの手がお酒に伸びていた。
「ちぇ、見つかっちまったか」
「ダメですよ。お酒は夜だけです」
瓢箪からお酒が出るのは知っているけど、萃香さんいわくこの味にそろそろ飽きたという事でこの頃は料理に使うお酒や貯蔵しているお酒を狙い始めている。僕やゆっくりたちが何とか抑えているけど気が付けば一部のゆっくりと酒盛りをしているなんてしょっちゅうだ。
「ゆっくり」
どうやらそうしている間にご飯ができたようだ。お皿に盛りつけてみんなで食卓に運んでいく。全員が集まったのを確認してからみんなで言う。
「いただきます」
「それじゃ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
霊夢さんに挨拶したらゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙。ほかのゆっくりたちと一緒に霧の湖を目指す。最初は一人で幻想郷を歩き回ることに反対していた霊夢さんだがゆっくりがついてくれると知ってからは認めてくれた。
霧の湖で待ち合わせをして、そこでみんなが集まってから遊びをする約束だ。楽しみに思わず足が速くなると同時に僕の頭の上でゆっくりも勢いよく跳ねる。そんな仕草にくすりと笑って目の前に見えてきた皆に手を振る。
「おはよう、皆」
「おはよう」
明るく皆が返してくれて今日の遊びは始まった。
「ただいま」
「おかえり、ずいぶんとドロドロになったわね。お風呂が湧いているから早く入っちゃいなさい」
言われた通りにお風呂場へ向かうとすでに湯が張られてちょうどいい温度になっていた。すぐに服を脱いで体についた泥をお湯で流していく。下ではゆっくりたちが思い思いの場所でかけ湯をしている。
「ほら、皆」
さすがに濡れた地面の場所ではねるのは危ないので湯船の中には僕がゆっくりたちを運んであげている。
「「「「「「「「「「「「「「ゆっくりしていってね~」」」」」」」」」」」」」」
「気持ちいい~」
湯船の中でリラックスする。ゆっくりたちもいつもの顔をさらにとろけさせて溶けるんじゃないかというくらい破願している。そんなゆっくりたちを見て笑みを浮かべながら、
「ほら、体を洗うからみんなも用意して」
僕が湯船の外で体を洗うと同時に、皆も湯船から出てお互いの体を洗い始める。皆綺麗になってお風呂から出るとどうやったのかは知らないけど牛乳が用意されていた。牛乳は高価だから買えないはずなんだけどな?(作者注:渡した宝石の価値を知らないために、こんなことを言っています。売ったら何年も遊んで暮らせる事が可能な価値ばかりの宝石を霊夢に渡していました)
「お風呂上りはやっぱりこれが一番だね」
「「「「「「「「「「ゆっくり~」」」」」」」」」」
口の周りを牛乳で白いひげを作りながら皆してお風呂の後の一杯を楽しむ。
「ほら、晩御飯よ。牛乳を飲み切っちゃって早く来なさい」
「あ、はーい」
おなかもすっかり減っているから晩御飯が楽しみだ。
僕が歩くのと一緒にぴょこぴょこと皆跳ねてついてくる。
「霊夢。あの子たちは?」
「すっかり寝ているわ」
綺麗な満月の中、私は霊夢と一緒に縁側で月見酒を楽しんでいる。
「そうかい。まあ、子供は泥だらけにまるまで遊んでよく食べてよく寝るのが仕事だからね」
「そうね。というより、あの子の体の中にどれだけ力があふれているのやら」
分かっていないな、霊夢は。子供ってのはある意味私たち妖怪よりも幻想だという事を。子供に常識は通用しないさ。だからこそ、どこまでも希望を持って走り続けられるんだよ。
「それが分からないなら霊夢はまだまだね」
「……如何いう意味よ」
じとっとした目で私を見てくる霊夢だがそんな視線を気にせずに私は続ける。
「何、これから霊夢もわかるさ」
それが分かるようになったらまた酒でも飲もうじゃないか。そう思いながら美しく輝く満月を肴に杯をあおる。
如何でしたか? 楽しんでいただけたでしょうか?
忘れられていたゆっくり紹介。
ゆっくりミスティア
親 名無し
能力 歌で人を惑わす程度の能力
地位 料理長
好物 八目鰻