「で? ゆっくりなんかに負けたの。アンタは」
思わず呆れた口調になるが仕方がない。ゆっくりなんて毛玉と同レベルの存在。そんなものに負ける妖怪の賢者って何よ。
「もはやあれはゆっくりなんてレベルじゃなかったわ」
ぼろぼろの体を神社の境内で治療している紫だけど、ここまで怪我しているのなら本当の話なのかしら。
「あれ? どうしたんだ。一体?」
そう言って私たちの目の前に降りたのは白黒の魔法使い霧雨魔理沙だ。
「よう、霊夢。紫は何でこんなにけがしているんだ?」
「ゆっくりにやられたそうよ」
「は? ゆっくりに? あははっはははっひひははははははは!!! わ、笑い殺す気か霊夢!! 卑怯だぞ!!」
「別にそんなことを考えてなんかいないわよ。というより地面を転がりまわるのはやめなさい」
下着が見えかけてるわよ、まったく。それよりも本当にこいつはゆっくりに負けたのかしら。
「なあ、そのお前が負けたっていうゆっくりは今どこにいるんだよ」
「知ってどうするの? 魔理沙」
「いやぁ、どうするかは決めてないが面白そうだったら会いに行こうかなって」
「……そう。じゃあ、今のゆっくりたちの様子を見せてあげるわ」
なんだろう。今一瞬今までの比じゃないほど勘が訴えてきたわ。ここにいると危ないって。
「ほら、境界をいじってここからそのゆっくりたちが見えるようにしてあげたわ」
「おっ、ラッキーだぜ。じゃあ、さっそく見せてもらおう」
「アンタたちね」
逃げようにも早くも始まってしまっていて逃げることができなくなった。
仕方がないわ。覚悟を決めるしかないか。
「お~い、皆夜ご飯だよ」
一瞬で僕の足元にゆっくりたちが集まる。
うわっと、いつもご飯になると@マークみたいな帽子を付けたゆっくりと赤いリボンをつけた金髪のゆっくりに額に札を貼ったゆっくりたちが強くぶつかるんだよな。
「ほらほら、慌てない慌てない。きちんとご飯はみんな分あるから」
「「「ゆっくり食べていってね」」」
「ゆっくりたちがね」
「「「「「ゆ!」」」」」
「おい、紫」
「なにかしら?」
「お前、あいつらゆっくりが何言っているかわかるか?」
「わかるわけないじゃない。あの男の子が特別なだけよ」
ふっふふふ、紫たちが何か言っているけど問題はそこじゃないということをこいつらは分かっていない。
「許さない。絶対に許さない!!」
「霊夢? いきなりどうした」
「ぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱる……」
「それはパルスィのお家芸だろうが!! 本当にどうしたんだ、一体?」
「魔理沙。私はね、ほかの何を許してもあいつらゆっくりたちだけは許せないのよ」
「なんだ、一体。ゆっくりに何をされたんだ? そんな怒りを持つほどだ。何かされたんだろう? 場合によっては相談に乗るぞ?」
相談? そんなものは意味ないわ。この地獄の業火より燃え盛るこの焔をだれにも消火することなど出来ないわ。
「ええ、確かにアイツらは絶対に許せないことをしたわ」
魔理沙からごくりと唾を嚥下する音が聞こえる。けどそんなことを気にしている場合ではないわ。
「いますぐ映姫のところで地獄行きの判決をされるほどの許しがたい悪を」
「なんだって!? それほどのことをあいつらゆっくりが?」
「そう。その罪は」
私は人差し指を境界に映るゆっくりたちに向ける。
「私よりもはるかにいい食事をしていることよ!!」
「へっ!?」
なんでか知らないけど場の空気がしずんだわ。けどその程度で私のこの思いは止まらない。
「霊夢……」
「あれを見なさい。カレー? 私なんて数年前に一回食べたことがあるだけよ!! それに牛乳? そんなもの飲んだことすらないわよ!!」
「……すまん、それ以上は言わんでくれ、霊夢。なんだか涙が出てきちまったから」
そんなの知らないわよ!! それにあれの中に私のゆっくりまでいるじゃない。私のゆっくりならそんな豪華なものなんて食べられるはずがないじゃない!
「紫。これ以上はって、紫? ん、この手紙はなんだ?
えーっと、なになに
大妖怪としての自信を失ったので実家に帰らせてもらいます。
って、なんだこりゃ!? え? さりげなくアイツ気にしていたのか!?」
魔理沙が何か騒ぎだしているけどそんなことは気にしないわ。
今すぐ陰陽玉にありったけの符、お祓い棒を持ってこのスキマからでてあのゆっくりたちを退治してくれるわ。
「って、霊夢何しようとしてるんだよ!? 落ち着けって」
「放しなさい魔理沙! あいつらは一度退治しなきゃいけないのよ!!」
くそ、魔理沙に止められているがこの程度であきらめてたまるか!
けど、力に関しては野山を走ったり、キノコを命がけで採取している魔理沙の方が強い。取り押さえられてしまって、妖怪退治ができずにスキマがゆっくりと閉じていく。
「よくやったぜ!! 紫! どこにいるかわからんが」
ぅうう、せめて私もあれくらいの食事ができたら今すぐこの拘束を抜け出してスキマが閉じきる前に入ることができたのに。
「なんだろう? なんか周りが騒がしいような?」
周りがざわざわと騒がしく、バッタンバッタンあわただしい音がどこからか響いてくる。
けど、周りには特にそういった光景は見えないし、気のせいか。
「はい、お前の好きなお茶だよ」
この赤いリボンを頭の頂上で結んでいる最初に見つけたゆっくりは、お茶が好物なのかよくお茶を要求するのだ。
「ゆ! っゆ~、ゆっくりのんでいってね」
「ゆっくりがね」
ゆっくりがお茶を飲んでいたら突然お茶を置いて、形容しがたい顔をした。なんというんだろう? そう、相手を見下した顔という感じかな? なんでこんな顔をしたのだろう?
しまった。なんてことだ。まさかあの男の子が霊夢のゆっくりにお茶をやるなんて! っていうか、あのゆっくりムカつくな!! 私も少しイラッと来たぞ!
「ふんぎぎぎぎぎ」
形容できない形相になりながらも霊夢はだんだんと私ごとスキマに近づく。閉じたといってもまだ完全に閉じていないため今なら無理すれば一人二人は入れるくらいのスキマは空いている。
「絶対に許すものか!! 私がほぼお湯になっているお茶を飲んでいるのにあいつはまともなお茶を飲むですって!! ふざけんじゃないわよ、このピーが!!」
「うおい! 霊夢。それはまずい。さすがに女の子がそんな言葉を使うのはどうかと思うぜ、私は」
霊夢の好物であるお茶を男の子がゆっくり霊夢にあげたせいでもはや霊夢が鬼とかしちまった。
畜生! 止まらねえ。せめて、これ以上先に進ませないためにも
『恋符 マスタースパーク』
私の魔法、マスタースパークでスキマを破壊する!!
一直線に伸びるマスタースパークはスキマを破壊した。
「よくやった、私」
こんな妖怪と間違われるような禍々しさを放つ霊夢を外に出すわけにもいかないしな。紫が言ったようにあのゆっくり達は恐ろしい。さっきなんて私たちのことを認識していたからあんなムカつく顔をしたぞ。ちょっかいかけるのはやめとくぜ、何が起きるかわからんからな。
そして今はゆっくりからじゃなく、この鬼巫女霊夢から逃げないとな。
「ま~り~さ~!!」
「じゃあな!!」
速度なら私の方が上だぜ? 箒に乗って逃げれば、
『霊符 夢想封印』
って、ええ!!? そこまできれていたのか! マズッ、よけきれ
ピチュン
「ゆっゆっゆっゆwww」
「どうしたの? ゆっくり。何か面白いものでもあった?」
お茶を飲んでいたゆっくりが突然笑い出したんだけど、どうしたんだろうか? まあ、いいか。
「じゃあ、そろそろ寝ようか。お休み」
「ゆっくり寝ていってね」
明日はまた何をしよう。
本当は霊夢達って意外と裕福な生活をしているそうです。ですが、この話では違います。
今回のゆっくりの紹介
ゆっくり霊夢
親 名無し
能力 主に空を飛ぶ程度の能力
地位 ゆっくりの部隊長的な扱い。ただし、主人である名無しの言うことは必ず聞く。
好物 お茶。