ジメジメして蒸し暑くなってきたこの頃。今日も何時ものように博麗神社の社務所にみんな集まっていたんだけど、一つ問題が出来た。というより、最初から分かっていた問題なんだけど。
「ええい! 暑苦しいから、何匹かどこかに行っていなさい!! ゆっくりチルノ以外!!」
「「「「「ゆっくり!!? ゆっくりさせていってね!!」」」」」
「させないわよ!」
そう。何十匹もゆっくりがいる所為で、この部屋の暑苦しさは外の数倍になっている。その所為で、霊夢さんの額には、しっかりと怒りのマークが浮かび上がっている。それに、
「霊夢~。私の事を少しくらい心配してくれても良いんじゃないか?」
ゆっくりたちの隙間から、二本の角が伸びている。萃香さんだ。おそらくは、眠っていたところにゆっくりたちが一斉に部屋に入ったことで踏みつぶされたんだろう。この部屋はそこまで広くないから、ゆっくりとはいえたくさんいると狭い。
「暑いを通り越して、熱いよ」
「アンタたちは溶岩に入れるんだから問題ないでしょう」
「そういう熱さじゃないよ。これは」
確かに暑い。からりとした暑さなら、幾らでも我慢できるけど、このジメッと暑さは少し厳しい。ちょっと考えないと。
「それで家に来たんですか?」
「うん」
あれ? 何でため息をつかれたんだろう?
(流石に今のこの子に期待するのは酷よね。……少しずつそういった事も教えた方が良いのかも)
「あら、逆光源氏? 妖夢もなかなかやるようになったわね」
「ひゃあああ!!?」
「あ、幽々子さん」
「あら、いつも言っているでしょう。お義母さんで良いって」
なんだかいつもこういった話をする時、幽々子さんから凄い怪しい感じがする。それに勘が告げている。その言葉を言えば、帰ってこれなくなるって。しかも、
「ゆっくりしないで行ってね!!!!!」
ゆっくりが怯えて警告しているし。あのゆっくりがゆっくりしないで言うなんて。デフコンならレベル1クラスだよ。幽々子さんが恐ろしくなってきた。
あっ、妖夢さんが刀を振り回しながら幽々子さんを追いかけまわし始めた。
「しししし失礼なこと言わないでください!!」
「あら、良いじゃない。私は賛成よ。朴念仁よりは、自分色に染め上げるって言うのも」
とうとう、真っ赤な顔でスペルカードを使い始めた。まあ、それ自体怒っている所為か狙いが甘く避けられているけど。
「うわ!?」
「ゆっゆゆ!!?」
飛んできた弾幕が、流れ弾となって僕達を襲う。ゆっくりならまだしも、僕が弾幕に当たっちゃうと、大変なことになる。
「逃げよう!!」
「ゆっくり!!」
結局、何のアイディアも出ないまま、僕たちは逃げるように白玉楼を後にした。
はぁ。どうしよう。人里を当てもなく彷徨いながら考えていた時、行き成り僕の顔に水が掛かった。
「冷たい!!」
「ああ、すまない!」
「慧音先生?」
声がした方を向くと、そこにはすまなさそうな顔をした慧音先生が柄杓と桶を持って立っていた。何で水なんか撒いていたんだろう? 花なんてここにはないのに。尋ねたら、快く丁寧に教えてくれた。
「ああ、これは打ち水と言ってな。暑い日に、こうやって水を撒くと涼しくなるんだ」
「へぇ」
初めて知ったことに、うんうんと首を振りながら昔の人は凄い事を考えるもんだと思った。だって、水を使うのなら、クーラーが無くても大丈夫だし、ゴミも出さないからすごいエコだ。
それに、暑い夏の日を涼しく過ごせる。まさに一石二鳥じゃないか。そんな事を考えていたら、気が付いた。これならば、涼しく過ごせるんじゃないかな? さっそく試してみよう。
ああ、暑い。全くこんな時期に神事とはいえ、火を炊くものじゃないわね。汗が流れてきて止まらない。額から流れて目に入りかける汗を手で拭い、社務所の扉を開き、そこから流れてくる冷気に、びっくりした。
「え? 涼しい? いえ、むしろ肌寒い位」
「あ、霊夢さん。これならいくらゆっくりが居ても大丈夫でしょ!」
何をしたかあの子に尋ねると、如何やらゆっくりたちを利用して外の世界にあるクーラーというものを再現したらしい。冷気はゆっくりチルノとゆっくりレティが協力して作り、風はゆっくり文が巻き起こして冷風を起こしているとのこと。冬になれば、ゆっくりお空を利用して、逆に温かくもできるという事。
「良くやったわ! これで暑い夏とはおさらばね!!」
大喜びしながら、その日はキンキンに冷えたお酒を萃香と飲み、熱い鍋を楽しんだ。
ゆっくりたちと協力して数日、社務所にて僕たちは座っていた。というより、座らざるを得なかった。
「ええい! 暑苦しいからアンタたち出ていきなさい!!」
「「「「「絶対に嫌」」」」」
霊夢さんがとうとう怒った。というのも、何処からか疑似クーラーの事を知った幻想郷の知り合いが、社務所に詰め寄ったせいでクーラーの限界を迎えちゃって、涼しいどころかまた以前みたいに暑苦しい日々に戻っちゃったからだ。
「せっかく快適な夏がすごせると思ったのに!」
「独り占めは良くないぜ、霊夢」
「そうそう」
結局こうなるのね。皆から押しつぶされながら、そんな事を僕は思った。