ふうん、そうなんだ。そんな事をしているんだ。
「なら、知らないとね。人を騙そうとするのならそれは騙される事と同義だっていう事を」
僕の目の前でフルフルと震えるゆっくりこいしを抱えて僕は神社の用意されている自室へ行く。
「そんな怖がらなくて良いよ?」
「ゆ、ゆっくり落ち着いてね!!」
あは、怖がりだな。ゆっくりたちは。
「ふふ、ふふふ、ふふふふふふふふふふふふ」
先日から数えて幾日か経過した。あの少年の花粉症はすぐに薬によって症状は抑える事は出来たが、もう一つの事が難航している。
「うどんげ」
「ダメです、師匠」
冥界の半霊については上手くいっていない。うどんげがしているカウンセリングも効果は薄いらしく、効果は出ていない。
「というより、誰かがカウンセリングの効果を打ち消しているような感じなんですよね」
「如何いう意味?」
「カウンセリングの効果が次来た時には消え去っている感じですね」
「そう。カウンセリングで分かった事は?」
うどんげが彼女のカウンセリングで手に入れた情報を聞いたが、何と言うのだろう。あまりにも古風というべきか。
「そうですね。今の時代肌を見たから責任取れはさすがに」
「けれど彼女にとってそれは重要な事なんでしょう?」
「ええ。尊敬する祖父に言われた事らしく、多分何があってもその考え方は変わらないでしょう」
彼女の婿云々は彼女の祖父から言われた事らしく、それを忠実に守っているそうだ。
「そのことを認めながら一応、それとなくあの子に対する感情を調べもしたのですが」
「結果は?」
「間違いなく愛情になっているんです。それも親愛の情じゃなく恋愛の。恐らくですが彼女は周りに影響されやすいので、自然体で接触できる子供の彼にひかれたのではないでしょうか?」
だんだん状況が悪くなってきたわね。これで彼女がしきたりや掟などで少年を伴侶としているのならいくらでも説得できたのだけど。そこに愛情が入ると話は変わってしまう。愛情は時に恐ろしいまでの力を発揮するから気を付けなければならないわ。
「拙いわね。愛情程扱いずらい感情はないわ」
「そうですね。橋姫や般若などを始め、恋愛の恨み妬みは鬼になるほど凄まじいですからね」
それが分かるからこそゆっくりと、彼女と少年の間は上手くいかないといった話をうどんげはしている。彼女の感情を弄んでいるようで余りしたくはないのだけど。
「それでもするしかないでしょう」
「というより、空しくなってきました。何が悲しいかって人の恋路を邪魔してうれしく思う自分に気が付いた時の絶望感が……」
「……」
言わないで、うどんげ。私たちは結局宇宙人のようなもの。地球で恋人なんて望めないわ。
アンニュイな気持ちになってしまったけど、それでも気を取り直して最後のカウンセリングと少年の診断をするとしましょう。
「こんにちわ」
笑顔であの少年がゆっくりを抱えて診察室に来た。しばらくは私が話し相手になって時間を稼いで、その間にうどんげが半霊のカウンセリングを済ます。
「ええ、こんにちわ」
笑顔で返事をする。以前大人と同じ対応をしたら子供に泣かれた事が有った。如何やら私が怖かったらしい。無表情で薬や診察結果を見ていたら、自分でも気が付かないうちに視線が鋭くなっていたらしくそれが恐ろしかったそうだ。
私ってそんなに顔が怖いのかしら?
「如何したの?」
「い、いいえ、何でもないわ。それよりアレ以降きちんと薬を飲んでいる?」
「うん!」
元気な声で返してくれたけど何だろう。何か違和感が。
「それにしても病気なかなか治らないんですね」
「そうね。けど大丈夫すぐに治るわよ」
うん? 今一瞬笑った?
「そうなんですか? 治るんですか」
「え、ええ」
気のせいかしら?
「そうですか。それは」
まあ、病気が治れば誰だって嬉しいものよね。
「嘘ですね」
「……え?」
一体、何を?
「僕の花粉症はとっくのとうに薬で症状を抑えられている。先生が治せるといったのは全く違う人ですよね?」
「一体何の事かしら?」
気づかれている!? 何故!?
「ゆっくりは色々な種類がいるんですよ」
いきなり何を?
「そしてゆっくりはそのゆっくりに似た人と同じ力を持っている。例えば、ゆっくり霊夢は霊夢さんと同じように。僕自身は会った事はないけど、こいしちゃんって呼ばれる妖怪がいるそうですね? その子の能力は誰にも知られないで行動することもできるし、無意識を操ることもできる」
「!?」
この子がしたことは!
「ゆっくりこいしを妖夢さんについていかせたんだ。誰にも気が付かれないように、そして言われた言葉を無意識で忘れるように」
うっすらとしたその笑みは子供に出来るような類の笑みじゃない。
「そう言えば能力ってあるよね? 僕の能力は『ゆっくりと~する程度の能力』だけど、僕自身は違うと思うんだよね。
僕は僕自身の能力を『演技する程度の能力』って思っているよ」
それはつまり。
「きっと先生は頭が良いからすぐに分かるだろうね。演技する能力は演技しなければならないから生まれたものだよ。無邪気な性格を演じる事で自分の本来の性格も変える。それがこの能力の正体、自分ですら騙される演技は他の人には見抜けない」
「そういう事。貴方は演技をしなければ日常生活ができなかったのね」
しまった。彼女じゃない。本当にカウンセリングが必要だったのはこの子だった……!
「僕は頭が良かったんだ。先生もそうでしょ? これでも僕は頭が良いって自覚はあるけど、本来なら先生を騙せるほどじゃない。けど、先生は侮った。僕を子供とみて、下として見ることで本来の頭の良さが出なくなっていた」
この子の言うとおり。私は地球人を侮っている。愚かだと思っている。だからこそ、見抜けなかった。
「ゆっくりと会ったのは一人の時だった。
ほかのみんなと遊んでいたけど、馴染めなかった。その時はまだ演じる事を知らなかったから。ほかの子と比較されて、異端として扱われて嫌われた。そんな時に、ゆっくりにあったんだ。ゆっくりには一人だった僕を救ってくれた。だから、ゆっくりに酷い事をする人は許さないし、今の僕の周りの大切な人を騙したりする人も許さない。
何度も、何度も僕を周りの人は騙そうとしたからね。ゆっくりを資料としてしか見ない学者たち。ゆっくりを見世物にしようと考える人たち。そんな人ばっかり見ていたから、僕は子供を演じながら何度も何度も対策を練ったよ。ゆっくりたちの力を借りて、学者は失脚させたりしたしね」
くすくすと愉快そうに笑う子供。心当たりがある。いや、心当たりじゃない。この子は昔の私と同じ。頭が良すぎるがゆえに誰ともなじめなかった。そして私にとって大切なものを害そうとした者に対して、私も同じことをした。
「そうね、ならうどんげのしていることは全くの無駄ね。とはいえ、私ならこの程度で終わらせないけれど」
「僕はそこまで頭が良くないもの。ゆっくりが教えてくれなければこんなことはできなかった」
笑みを引っ込めて彼は真剣な表情で、私を睨みつけてきた。
「だから、これ以上僕の近くにいる人を騙そうとするのなら、容赦しないよ」
……はぁ、仕方ないわね。私ならまだしもうどんげはこの子の仕掛けた策に引っかかりそうだしね。
「分かったわ。貴方の周りの人も、ゆっくりにも手は出さないわよ」
そう言うと先ほどまでの歪んだ笑みではなく、子供らしい笑みを浮かべてイスから立ち上がった。
「じゃあ妖夢さんを迎えに行かないと」
「そうそう、一つだけ良い事を教えてあげるわ」
「? なに?」
「貴方、あの半霊にもらってくださいって言われたんでしょう?」
「うん」
ふふふ。やられっぱなしは性に合わないわ。
「それはね、結婚してくださいって意味よ」
「え?
……
……
……
きゅう」
あらあら目を回して、可愛らしいわね。さて、うどんげを呼んでカウンセリングの終了を伝えないと。
「ゆっくり! ゆっゆっゆ!!?」
「大丈夫よ。その子は唯たんに恥ずかしくなって気絶しただけだから」
「ゆ? ゆっくり休んでいってね?」
「そうよ」
床で倒れている子供を抱えて私はゆっくりを連れてうどんげの所に向かっていった。
じ、次回は笑いを取ります。今回みたいなシリアスっぽい何かじゃなくって。
主人公が今より幼い時はかなりの期間一人ぼっちでした。その為、孤独から救ってくれたゆっくりに依存している部分があります。また、自分の周りの人間もゆっくりと似た感情を持っています。