遊戯王GXへ、現実より   作:葦束良日

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間話 休み-帰島-

 

 アカデミアから本土に戻った俺は、その中でペガサスさんと会って話をし、またレインのお見舞いをし、マナとデートをし、といった具合に過ごしていた。

 そして、そのデートの翌日。俺はアポイントを取っていた海馬さんに会うことが出来た。

 海馬さんのKC社も技術力ではI2社に勝るとも劣らない。いや、デュエルディスクの開発を一手に担っていることを考えれば、一部においては上回っていると言っていい。

 その協力を取り付けられれば、レインにとって何か力になるかもしれない。そう思って俺は海馬さんにも協力を申し込んだ。

 最初は「何故この俺が小娘のために動かねばならん」と一蹴されたが、そうなることは予想済みだ。俺は海馬さんにある情報を渡すことで、最終的にはどうにか協力を取り付けることが出来た。

 その情報とは、イリアステルに関するものだ。イリアステルがどんな組織で、何を目的に結成されているのか。それすら通常であれば完全に秘匿された情報である以上、この情報には価値がある。

 海馬さんは、プライドが高く他人に唯々諾々と従うことを良しとしない。それゆえ、遥か頭上から見下ろすかのような立場にいるイリアステルをもともと快く思っていなかった。いわば、仮想敵。その情報ということで対価として認めてくれたのだ。

 これで、レインについて現状で俺が出来ることはすべてやった。本土でやり残したことはもうないと言っていい。

 

 そういうわけで、アカデミアから本土に戻っておよそ一週間。俺は再びアカデミアに戻ることにした。今回は皆も早く島に戻ると言っていたことだし、早く戻ったとしても退屈することはないだろう。

 そう思えば、わずか一週間離れていただけとはいえ皆と会うのが楽しみになってきた。アカデミアへと向かう船の上。徐々に見えてきた島に目を向けながら、俺は腰のベルトに通したデッキホルダーにそっと触れるのだった。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 島に着き、荷物を肩に担ぎつつ港から真っ直ぐに校舎に向かって伸びる道を歩く。ちなみに、マナは先にレッド寮の部屋に向かっている。

 部屋に向かったと言うが、正確にはレイに会いに行ったと言うほうが正しい。どうも俺が離れている間、レイがあの部屋に住んでいるようなのだ。本土に着いた後、本人からのメールで知ったことである。

 とはいえ、それは俺が帰るまでの間だけのこと。俺が帰ってきたらブルー女子寮に行くらしい。それなら問題はないかと思って、事後承諾で許可は出してあるので問題はない。

 だから、いまあの部屋にはレイがいるはずだ。先に行ってもいいかと問うマナに、女の子同士積もる話でもあるだろうと考えた俺は首肯した。

 そのままマナは寮に向かったため、この場にはいない。まぁ、どうせすぐに合流することになるわけだが。

 そんなことを思いつつ石畳の上を歩いていると、校舎前に差し掛かったところで早速見慣れた顔に会った。アカデミアの中で、黒い衣装を着ている奴なんて一人しかしない。なんともわかりやすいことだ。

 

「おーい、万丈目」

「……ん? なんだ、遠也か」

 

 どこかに向かおうとしていた万丈目に呼びかければ、こちらに気付いた万丈目が足を止めた。

 それに合わせ、俺は早歩きになって近づいていく。

 

「なんだとはご挨拶だな。久々に会う友人に向かって」

「ふん、言っていろ。それより、俺はいま忙しいのだ。用事があるなら後にしろ」

「忙しいって……その手に持ったメガホンと関係があるのか?」

 

 腕を組み、相変わらず不遜な態度をとる万丈目の手には黄色いメガホンが握られている。日常ではまずお目にかかることはないアイテムだが、なぜ万丈目はそんなものを持っているのだろうか。

 その疑問から問いかけてみれば、万丈目は自慢げに胸を張った。

 

「ああ。いま俺は、同じく光の結社の一員となっていた生徒と共に白く染まってしまったブルー寮を元の青に染めている真っ最中なのだ」

「へー、感心だな。でも、それなら普通手に持つのはペンキじゃないのか?」

 

 なんでメガホン?

 と、やはり解消されない疑問を抱くと、それに答えを返したのは万丈目ではなかった。

 

「それは、万丈目君がペンキを塗る側じゃなくて現場監督として参加しているからよ」

 

 そう言って万丈目が来た方向から歩いてくるのは、明日香だった。

 

「お、久しぶりだな明日香。っていうか、現場監督?」

「ははは、いやぁなに。指示を出す者は必要だろう。だから俺は皆のリーダーとしてだな……」

「まぁ、確かに必要だけどね」

 

 空笑いする万丈目を、明日香は苦笑交じりの表情で見つめる。

 どちらかというと目立つことが好きな万丈目だけに、ひょっとするとそういう理由からその役目を請け負ったのかもしれないな。明日香の反応を見ると。

 

「そういうわけだ、遠也。俺は奴らに指示を出してやらねばならんから、これで失礼するぞ。じゃあな」

 

 そう言って、万丈目はそそくさと立ち去っていく。目立ちたかったというのは間違いないらしかった。

 まぁ、だからといって不真面目な奴ではないから、恐らくは普通に現場監督をしているんだろう。忙しいのは嘘ではないはずだ。

 なら、変に話を長引かせるのは悪いかと思う。さっきの言葉を聞く限り、明日香も恐らくそのブルー寮の再塗装に参加しているはずだ。

 既に立ち去った万丈目はいいとしても、明日香を引き留めていては誰かに負担がかかることになる。

 そう判断した俺は、肩かけ鞄のベルトの位置を直しつつ明日香に片手を軽く上げた。

 

「んじゃ、俺はレッド寮の部屋に行ってくる。荷物も置かないとな」

「あ、ちょっと待って遠也」

 

 くるりと明日香に背を向けようとしていた俺は、唐突な呼びとめの声に半ば反対方向に向いていた身体をもう一度明日香に向けた。

 

「どうした?」

「ん……ちょっとね。今、マナはいるの?」

「いや、今ここにはいない。先にレッド寮に行ってる」

 

 俺がそう告げると、明日香は「そう……」と妙に重々しく呟くと口を閉ざした。

 明朗快活、物怖じしない性格の明日香にしては珍しいな。今の明日香の姿にそんな感想を抱いていると、不意に明日香が顔を上げて俺を真っ直ぐ見つめてきた。

 わりあい至近距離で目と目が合い、なんだか少しだけ居心地が悪い。しかし目を逸らすのも何か違う気がして、俺はただ明日香の目を見ることしかできなかった。

 その時、閉じられていた明日香の口が小さく開いた。

 

「――ねぇ。遠也は、マナのこと……好き?」

「ぶフぉッ!?」

 

 噴いた。

 咄嗟に明日香から顔を逸らし、その綺麗な顔に唾を吐きかけるような事態にならなかったことに俺は心底安堵する。

 だが、それよりもだ。明日香は、いま何を言ったんだ? いや、聞こえてはいたが、勘違いかもしれない。なにせ、明日香ってそういうキャラじゃないだろう。

 そう、そうだ。きっとこれは冗談に違いない。俺をからかおうとしているのだ。うん、きっとそうだ。

 内心で自分にそう言い聞かせ、動揺を抑えつける。そして、俺は逸らしていた顔を戻して明日香に向き合った。

 そして、俺を見つめる表情、その真剣さに驚く。そこには、からかおうなんて意図はどこにもなかった。そうはっきりとわかる程に、明日香の表情にふざけたような色は一切見られない。

 明日香は、本気で俺にその問いかけを投げかけたのだ。その目は、そう悟らせるに充分なものだった。

 

 何故、と思う。だが、それよりもまず質問に答えるのが先決だろう。意図こそわからないが、しかし明日香が真剣なのはわかる。ならば、その気持ちを尊重して俺はそれに応えてやりたい。そう思った。

 だから、俺は一つ溜め息をつく。そして、すぐに息を吸う。一度呼吸でも整えないと、恥ずかしくてこんなこと口に出来るわけがない。

 そうして幾分か気持ちを落ち着かせたところで、俺はしっかりと明日香を見て言った。

 

「ああ、そうだ。俺はマナのことが好きだよ」

 

 万が一にも聞き逃したりなんかしてもう一度言うようなことにならないよう、出来るだけはっきりとした口調で俺はそう言葉を紡いだ。

 くそ、顔から火が出そうだ。なんだって俺は本人がいないところでこんなことを言っているんだろう。

 そんな風にどこかやるせなさを感じていると、目の前の明日香の表情が崩れる。真剣そのものだった強い眼差しは潜められ、張りつめたような空気も弛緩していく。

 そんな中で明日香の顔に浮かんだ表情。それは、どこか困ったような笑みであった。

 

「……そう。うん、そうね。ありがとう、ちゃんと答えてくれて」

 

 そう言う明日香に、俺は照れ隠しもかねて少しだけ憮然とする。

 

「ったく、なんだよ一体。いきなりこんなこと言わすとか」

「私もね、女の子だから。そういうコトにも興味があるのよ」

「……え、それだけ?」

「ええ、そうよ。ほら、マナが待っているんでしょう。行かなくていいの?」

「ぐ……くそぅ、なんかしてやられた気がする」

「ふふ、ごめんなさい。それじゃ、またあとでね遠也」

「……はぁ。ああ、またあとでな」

 

 俺は明日香に背を向けて、レッド寮へと向かう。結局、あの真剣な表情も含めてからかわれていたのだろうか。いや、そういう奴じゃなかったはずだが、今の発言を考えると……むぅ。

 その後、レッド寮への道すがら。今の明日香とのやり取りについて悶々としながら歩く羽目になったことは、言うまでもなかった。

 

 

 

 *

 

 

 

 明日香は歩き去っていく遠也の背中を見送っていた。一年の頃からずっと、仲間として、友として、そして……たぶん恋の相手として見てきた背中だった。

 明確にそうだったのかと言われれば、わからない。明日香にとってそうかもしれないと思える相手は、二人いるのだ。だからこそ、明瞭に説明することはできなかった。

 一人は遠也。そして、もう一人は……。共に、一年の頃から過ごしてきた仲間だった。あの二人の背中を、自分はいつも見ていたように思う。

 それは恋だったのか。そうだったのかもしれないし、違ったかもしれない。答えを出せない明日香ではあったが、しかし惹かれていたことはたぶん本当だった。

 最初はきっと、二人のうち遠也に惹かれていた。しかし、彼にはマナがいる。もしマナがいなかったらどうなっていただろうと考えたが……詮無いことだと首を振る。

 それに、そちらについては今の問答で折り合いをつけた。そして、いつからかその気持ちはもう一人の方へ傾いていっていることを明日香は感じていた。

 だから、明日香は遠ざかっていく背中に向けて小さく手を振る。それは己の心にとってのケジメとなる、儀式でもあった。

 

「……さよなら、――」

 

 心のうちで呟かれたそれは、誰の耳にも届かない。

 一拍置いて、明日香は身を翻してブルー寮の方へと向かう。その顔には、小さな笑みと涙がにじんでいた。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 さて、レッド寮に着いた俺はそのまま自室に入った。そして先に部屋に戻っていたマナと合流し、一週間ぶりに会ったレイと「遠也さん!」「よ、これお土産」みたいな会話を交わす。

 そうして互いの近況を笑い声と共に報告し、外に出た俺とレイはデュエルしていた。うん。

 

皆本遠也 LP:4000

早乙女レイ LP:4000

 

「先攻はボクだよ! ドロー!」

 

 勢いよくカードを引いたレイが、手札から1枚のカードを手に取ってディスクに置いた。

 

「ボクはモンスターをセット! 更にカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

「よし、俺のターン!」

 

 手札は……悪くない。特に墓地肥やしを行うことが出来るカードガンナーが来てくれたのは嬉しい。

 当然、俺はそのカードを手に取った。

 

「《カードガンナー》を召喚! そしてその効果により、デッキからカードを3枚墓地に送り、攻撃力を1500ポイントアップ!」

 

《カードガンナー》 ATK/400→1900 DEF/400

 

 墓地に落ちたのは、《クリッター》《ゾンビキャリア》《闇の誘惑》の3枚だった。ゾンキャリはいいにしても、結局全部制限かかってるカードとか。墓地肥やしで制限カードが落ちるのが半ばお約束みたいになっていて、何とも微妙な気分である。

 はぁ、と溜め息を一つ。それで気持ちを切り替え、俺はカードガンナーに指示を出した。

 

「バトル! カードガンナーでセットモンスターを攻撃! 《トリック・バレット》!」

 

 カードガンナーの両腕から放たれた銃弾が裏側守備表示になっているカードに直撃する。

 それによってカードが破壊される中、うっすらと見えたのは男性の天使だった。

 

「っ……破壊されたのは《シャインエンジェル》! そしてこの瞬間、シャインエンジェルの効果が発動するよ! このカードが戦闘で破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の光属性モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚できる! きて、《恋する乙女》!」

 

《恋する乙女》 ATK/400 DEF/300

 

 ぽん、と軽快な音と共に現れるのはクリーム色のドレスに身を包んだ可憐な少女だ。

 レイにとってこだわりのカードであり、戦術の要に数えられる重要なカードである。

 

「きたか、レイの十八番。俺はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

 そしてこの瞬間、カードガンナーの攻撃力は元の値に戻る。

 

《カードガンナー》 ATK/1900→400

 

 

 さて、なぜ俺たちがいきなりデュエルしているのか。それは、俺がお土産としてレイに渡したものに起因している。

 ペガサスさんの手で作られたパワー・ツール・ドラゴンのサポートカード。それにレイは非常に喜び、それを入れたデッキで早速デュエルがしたいと言い出したのだ。

 その際、きらきらとした目で俺を見てくるので、「俺と?」と問いかければ、レイは頷いた。俺としてもデュエルならば拒否する理由はなかったため、快諾して今に至るというわけだ。

 ちなみに、マナは俺たちから少し離れたところでデュエルを見ている。

 と、やがて寮から人が出てくるのが見えた。二階から顔を覗かせたのは、十代と翔、剣山だ。

 

「あれ? 遠也! 早いな、もう戻ってきたのかよ!」

「遠也くん、久しぶりっす! まだ一週間だけど」

「っていうか、なんでいきなりデュエルザウルス?」

 

 錆が目立つ階段を三人が駆け下りてくる。そうしてマナの隣に立つと、三人はマナにも同じく久しぶりと声をかけていた。

 俺とレイはいったんデュエルを中断し、そんな三人に目を向けた。

 

「よ、十代。翔、剣山。元気してたか?」

「ああ、俺は元気が取り柄みたいなもんだからな! っていうか、遠也。なんでレイとデュエルしてるんだよ?」

「それはだな……」

 

 ここに至るまでの経緯を十代に話そうと口を開くと、それよりも先にレイが笑顔で十代たちに話し始めていた。

 

「遠也さんが、ボクのために新しいカードをくれたの! だから、そのカードを早く使ってみたくて!」

「お、おう。そうなのか」

 

 勢い込んで言うレイに、十代はちょっと身を引いて受け答える。

 ちなみに、確かに渡したのは俺だが、実際にレイのことを思ってカードを準備したのはペガサスさんである。しかし、そのあたりはレイの中でよくわからない変化を遂げているようだった。

 嬉しそうに言うレイは、そのあと「それに」と言葉を続ける。そして、十代たちから視線を外して俺を真っ直ぐに見つめてきた。

 

「前に遠也さんとデュエルした時は、一度もダメージを与えられなかったんだもん。そのリベンジをさせてもらうわ!」

「そんなこと考えてたのか」

 

 正直、新しいカードを使いたいだけだと思っていたから素直に驚いた。

 そういえば確かに、かつてのレイとのデュエルで俺はダメージを受けることはなかった。そのことに、レイは意外と悔しい思いを感じていたのか。

 やはり、人の心の内なんてわかるものじゃないんだな。言われて初めて気が付いた俺だが、知った以上はそれに応えてやりたいと思う。

 とはいえ、手を抜いてダメージを受けるなんて真似はデュエリストとしてのプライドが許さないし、レイも望みはしないだろう。

 だから、俺に出来ることはただ一つだ。

 

「よし! 来い、レイ! 手加減はしないぞ!」

「もちろん! 手加減なんてしたら、遠也さんでも許さないんだから!」

 

 どこか剣呑な言葉の応酬。しかし、それを口にする俺たちの表情は楽しみと喜びに染まっている。

 それがわかるからだろう、デュエルを見ている皆もそんな俺たちに負けず劣らずの笑顔でこちらを見ていた。

 

「へへ、一体どんなデュエルになるんだろうなぁ。楽しみだぜ!」

「とりあえず、二人とも頑張れっすー!」

「どっちも負けるなドーン!」

「あはは、レイちゃん頑張れー!」

 

 おい、最後。

 レイが「マナさん見ててね!」とひらひらと手を振り、その声援に応える。何故俺に応援の声がないのか。思わずマナを見ると、マナは片目をつぶってゴメンねと手を合わせてきた。

 まぁ、あまりデュエルを見る機会のないレイのほうを応援したくなる気持ちはわかる。なので、俺はマナに気にするなという意味を込めて小さく手を振ると、改めてレイと向き合った。

 

「じゃ、いくか」

「うん!」

 

 デュエルを再開。

 ちょうど俺のエンド宣言後に中断したため、レイのターン開始がそのまま再スタートとなる。

 

「ボクのターン、ドロー! ……ボクはカードを3枚伏せ、ターンエンド!」

 

 カードを伏せて、ターンエンド。レイにはよく見られるプレイングだ。すなわち守りが固いということでもある。

 

「俺のターン!」

 

 カードを引くと同時に、だからこそ警戒しなければいけないと考える。あるいはその守りすら吹き飛ばす攻勢に出るかだが……今の手札でそれは無理だ。

 ここは堅実に進めていく。

 

「俺は《ジャンク・シンクロン》を召喚! そして効果発動! 墓地からレベル2の《ゾンビキャリア》を特殊召喚する!」

 

《ジャンク・シンクロン》 ATK/1300 DEF/500

《ゾンビキャリア》 ATK/400 DEF/200

 

 二等身で小柄な機械の戦士に、丸々と太ったゾンビ。ともにチューナーであり、そして俺の場にはチューナーでないモンスターがいる。

 シンクロ召喚の場は整っている。

 

「レベル3カードガンナーにレベル2ゾンビキャリアをチューニング! 集いし狂気が、正義の名の下動き出す。光差す道となれ! シンクロ召喚! 殲滅せよ、《A・O・J(アーリー・オブ・ジャスティス) カタストル》!」

 

《A・O・J カタストル》 ATK/2200 DEF/1200

 

 白く輝く装甲に、金色の装飾。四足で大地に立つ機動兵器が、青いレンズをレイの場へと向けた。

 

「更にジャンク・シンクロンをリリースし、《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚! このカードは場の戦士族モンスター1体をリリースすることで、手札から特殊召喚できる。そしてその際、リリースしたモンスターの攻撃力分だけ攻撃力がアップする!」

 

《ターレット・ウォリアー》 ATK/1200→2500 DEF/2000

 

 まるで城塞をそのまま動かしたような風体のモンスターだ。大きさこそ小型化しているが、その肩から飛び出た砲塔が、物々しく存在感を主張している。

 さて、場にある程度の攻撃力を持つモンスターを確保できたのはいいが、問題はレイの場に存在する恋する乙女だ。攻撃しなければダメージを与えられないというのに、攻撃すれば奪われる可能性がある。更に戦闘破壊耐性すら持つ。何とも厄介なモンスターである。

 とはいえ、効果破壊には対応していないので、カタストルの前には無力である。だからこそカタストルを召喚したともいえるわけだが。

 

「バトル! カタストルで恋する乙女を攻撃! そしてカタストルには闇属性以外のモンスターを破壊する効果がある! 《デス・オブ・ジャスティス》!」

 

 カタストルの青いレンズに光が集束していく。それはすぐにレーザーとなって放たれることとなるだろう。

 このままなら恋する乙女は為す術なく破壊されることになる。さぁ、どうするレイ。

 

「カウンター罠、《天罰》! 手札を1枚捨てて、効果モンスターの効果を無効にして破壊する! これでカタストルは破壊されるよ!」

 

 天罰か。スペルスピード3のカウンター罠。これはさすがにどうしようもない。爆散するカタストルに、心の中で詫びつつ次の一手に移る。

 

「なら、ターレット・ウォリアーで恋する乙女を攻撃! 《リボルビング・ショット》!」

「罠発動! 《ガード・ブロック》! この戦闘ダメージを0にして、ボクはカードを1枚ドロー!」

 

 防がれたか。そして、これこそがレイの望んでいた展開に違いない。

 

「恋する乙女は攻撃表示でいる限り戦闘で破壊されず、攻撃してきたモンスターに乙女カウンターを乗せる!」

 

《ターレット・ウォリアー》 乙女Counter/0→1

 

 恋する乙女がウィンクをすると、ターレット・ウォリアーがもじもじと身を揺する。見た目が無機質な砦のようなモンスターなので、実に異様な光景である。

 

「まぁ、仕方ないか。俺はこれでターンエンド!」

「ボクのターン、ドロー!」

 

 デッキからカードを引き、それを確認したレイの顔がぱっと輝いた。

 

「いくよ遠也さん! ボクは《ジャンク・シンクロン》を召喚! そしてその効果で、さっき墓地に捨てた《恋する乙女》を特殊召喚!」

 

《ジャンク・シンクロン》 ATK/1300 DEF/500

《恋する乙女2》 ATK/400 DEF/300

 

 俺と同じ、ジャンク・シンクロン。そしてレイの場には他に恋する乙女が2体となった。

 これで、レベルの合計は7。となれば、レイが呼ぶモンスターは1体しかいない。

 

「レベル2恋する乙女2体にレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング! みんなの想いを守るため、機械の心が燃え上がる! シンクロ召喚! 愛と希望の使者、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 

 シンクロ召喚のエフェクト、溢れ出る光の中から姿を現すのは機械の竜。

 黄色く染まった装甲に青いシャベルと緑のドライバーを両手にしたその姿は、ドラゴンと言うには異質である。

 しかし、その形状は確かにドラゴンを象っており、そしてその迫力は確かにただの機械には存在しない躍動感を覚えさせるものであった。

 

《パワー・ツール・ドラゴン》 ATK/2300 DEF/2500

 

 そして、パワー・ツールの登場に、観戦しているギャラリーも沸き立つ。

 

「おおっ! きたぜ、レイのエースが!」

 

 十代の興奮した叫びに、周囲も頷く。特に翔はパワー・ツール・ドラゴンに目を奪われているようだった。本人がロイドという機械族デッキだけに、何か惹かれるものがあるのかもしれない。

 それらの視線を受けながら、レイは不敵に笑ってパワー・ツール・ドラゴンに向けて手をかざした。

 

「パワー・ツール・ドラゴンの効果、《パワー・サーチ》! 1ターンに1度、デッキから装備魔法カードを3枚選択し、相手がその中からランダムに選んだものを手札に加える! ボクが選ぶ3枚は、これだよ!」

 

 デッキから抜き取ったカード3枚を、レイがこちらに向けた。

 

《キューピッド・キス》《キューピッド・キス》《キューピッド・キス》

 

 ……おい、どっかで見たぞこの光景。ちらりとマナを見れば、これにはマナも苦笑い。

 選択肢はないに等しいが、選ぶのは必須手順だ。俺はとりあえず三枚の真ん中を指さした。

 

「うん! ボクは手札に加わった《キューピッド・キス》をパワー・ツール・ドラゴンに装備! そして、パワー・ツール・ドラゴンでターレット・ウォリアーに攻撃! 《クラフティ・ブレイク》!」

 

 パワー・ツール・ドラゴンがその両腕となっているシャベルを勢いよくターレット・ウォリアーに振り下ろす。

 これを通せば、ターレット・ウォリアーのコントロールはレイに奪われてしまう。なら、この攻撃は防ぐしかない。

 

「罠発動、《くず鉄のかかし》! 相手モンスターの攻撃を無効にする!」

「させない! カウンター罠《魔宮の賄賂》! 魔法・罠の発動を無効にして破壊する! ただし、遠也さんはカードを1枚ドローできるよ」

「く、ドロー!」

 

 止められたか。それによって、パワー・ツール・ドラゴンの攻撃がターレット・ウォリアーにヒットする。

 

レイ LP:4000→3800

 

 しかし、パワー・ツール・ドラゴンの攻撃力は当然ターレット・ウォリアーには及ばない。反射ダメージがレイにいくが、それこそがレイにとっての狙いだ。

 

「キューピッド・キスの効果発動! このカードを装備したモンスターが乙女カウンターの乗ったモンスターに攻撃して戦闘ダメージを受けた時、そのモンスターのコントロールを得る! 更にパワー・ツール・ドラゴンの効果により、装備しているキューピッド・キスを墓地に送ることでパワー・ツール・ドラゴンの破壊を無効にする!」

「ぐぬ……」

 

 隣に立つパワー・ツール・ドラゴンの身体を撫でながらこちらにウィンクする恋する乙女。墓地にいるためだろうか少し薄らいでいるその姿に、ターレット・ウォリアーは吸い寄せられるようにしてふらふらと向かっていく。

 完全に色香に惑わされてやがるぜ。パワー・ツール・ドラゴンで攻撃しても、乙女カウンターを乗せたのが恋する乙女だからだろうか。いずれにせよ、永続的にコントロールが移るのはやはり厄介だ。

 本来大きな戦闘ダメージを犠牲に可能となるこのコンボも、パワー・ツール・ドラゴンを手に入れたレイには最小限のコストで済む。改めて、強くなったもんだ本当に。

 

「いくよ、遠也さん! ターレット・ウォリアーで直接攻撃! 《リボルビング・ショット》!」

「なんの! 手札から《速攻のかかし》! 直接攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了させる!」

 

 ターレット・ウォリアーの攻撃はこれで防いだ。しかし、防がれたというのに、レイの顔には悔しさよりも納得の色が強く出いるようだった。

 

「やっぱり防がれたかぁ。ボクはこれでターンエンド!」

「俺のターン!」

 

 手札に来たカードを見る。そして手札に残る2枚と共に吟味し、俺はカードを手に取った。

 

「モンスターをセット! カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

「ボクのターン、ドロー!」

 

 カードを引き、そのままレイはパワー・ツールに指示を出す。

 

「パワー・ツール・ドラゴンの効果発動! 今回選ぶ3枚は、これだよ!」

 

 そして示されたのは、《ハッピー・マリッジ》《ハッピー・マリッジ》《魔導師の力》の3枚。示された後に裏側になったそれを見て、俺は即座に答えた。

 

「左のカードだ」

 

 結局どれであっても相手の攻撃力増強は間違いないのだから、そう悩むことではない。上昇値にしたって、500ポイント違うかそうでないかだ。あとは野となれ山となれ。

 そう思って示したカードを手にしたレイが、小さくガッツポーズを作った。

 

「やった! ボクは《ハッピー・マリッジ》をターレット・ウォリアーに装備! このカードは元々の持ち主が相手のモンスターがボクの場にいる時に発動可能! そのモンスターの攻撃力分、装備モンスターの攻撃力をアップする!」

 

《ターレット・ウォリアー》 ATK/2500→5000

 

 ターレット・ウォリアーに装備したということは、実質攻撃力を2倍にするのと同じ状態になったわけだ。

 元々の攻撃力を参照するカードではないらしく、ターレット・ウォリアーの攻撃力は5000という、究極竜騎士とタメを張れる存在になってしまった。恐ろしいな。

 

「更に《ダブルツールD&C》をパワー・ツール・ドラゴンに装備! このカードを装備したパワー・ツール・ドラゴンは、ボクのターンの間攻撃力が1000ポイントアップし、バトルの間攻撃対象モンスターの効果を無効にする!」

 

《パワー・ツール・ドラゴン》 ATK/2300→3300

 

 そしてパワー・ツールが装備したのは、今回俺がレイに渡したカードの1枚だ。ちなみに相手ターンでは自身に攻撃を誘導する効果と、その後戦闘した相手モンスターを破壊する効果に変わる。

 自ターンでの効果は、レイが言った通り。まさに攻防一体の装備カードと言えるだろう。

 装備したパワー・ツールの両腕が、シャベルとドライバーから、ドリルとカッターに変化する。より殺傷力の上がったそれらを手に、パワー・ツールが甲高い鳴き声を上げた。

 

「いって、パワー・ツール・ドラゴン! 《クラフティ・ブレイク》!」

 

 ドリルとカッターが裏側のカードを引き裂く。それによって露わになったモンスターは、一匹の白い犬であった。

 

「くっ……破壊されたのは《ライトロード・ハンター ライコウ》だ。リバース効果として場のカード1枚を破壊できる効果があるが……」

「えへへ、ダブルツールD&Cの効果でその効果は無効だよ」

 

 そういうことだ。効果そのものが無効になっているので、破壊だけでなく墓地肥やしも行えない。まったくもって厄介なものである。

 

「ボクは続いてターレット・ウォリアーで直接攻撃!」

「罠発動、《ガード・ブロック》! 戦闘ダメージを0にし、俺はカードを1枚ドローする!」

「むむ……カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

「俺のターン! 《貪欲な壺》を発動! 墓地の《A・O・J カタストル》《カードガンナー》《ゾンビキャリア》《ライトロード・ハンター ライコウ》《速攻のかかし》をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

 さて、相手の場には攻撃力5000と攻撃力3300のモンスター。更に伏せカードが2枚ときた。いくらなんでも容易に突破することは敵わない布陣だ。さすがは中等部で上級生たちを抑えレインと共にトップに君臨する実力者なだけある。

 そう再確認していると、俺と同じことを思ったらしい翔が真剣な表情でレイを見ていた。

 

「……やっぱり、レイちゃんって強いっす」

「ああ。ホント、ワクワクするデュエルだぜ!」

「あ、兄貴ってば……」

 

 十代のひたすらデュエルを楽しむ発言に、レイの強さを前に身体に力を入れていた翔ががくりと肩を落とす。

 剣山とマナは、そんないつもの光景に口元を緩ませる。そして、それを見た俺も変わらないその姿に、苦笑した。

 そうだ、やっぱりレイは強い。けど、だからといって負けるつもりは更々ない。

 こう見えて、俺にも意地があるんでね。レイの先輩として、負けてやるわけにはいかないのさ。

 

「まず俺はカードを1枚伏せる。そして、伏せてあった《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地から《ジャンク・シンクロン》を特殊召喚する! 更に墓地からモンスターを特殊召喚することに成功したため、手札から《ドッペル・ウォリアー》を特殊召喚!」

 

《ジャンク・シンクロン》 ATK/1300 DEF/500

《ドッペル・ウォリアー》 ATK/800 DEF/800

 

「更に《死者蘇生》を発動し、墓地から《クリッター》を特殊召喚!」

 

《クリッター》 ATK/1000 DEF/600

 

 レベルの合計は3+2+3で8だ。さぁ、一気に行くぞ。

 

「レベル2ドッペル・ウォリアーとレベル3クリッターにレベル3ジャンク・シンクロンをチューニング! 集いし闘志が、怒号の魔神を呼び覚ます。光差す道となれ! シンクロ召喚! 粉砕せよ、《ジャンク・デストロイヤー》!」

 

《ジャンク・デストロイヤー》 ATK/2600 DEF/2500

 

 巨大な黒鉄の巨神。その威容が俺の場に現れるのは、なんだか久しぶりになる気がする。

 そのレベルと巨体に比べて攻守はさほど高くないジャンク・デストロイヤーだが、そのぶん効果のほうは強力である。

 

「ジャンク・デストロイヤーの効果発動! シンクロ召喚に成功した時、素材としたチューナー以外のモンスターの数までフィールドのカードを破壊できる! よって、俺は2枚のカード――ハッピー・マリッジと右の伏せカードを破壊する! 《タイダル・エナジー》!」

 

 ジャンク・デストロイヤーの胸部装甲が開き、そこから放たれるエネルギーの波。それはレイのフィールドを瞬く間に覆い、俺が指定したカードを押し流していった。

 ハッピー・マリッジが破壊されたことで、装備していたターレット・ウォリアーの攻撃力は元に戻る。

 

《ターレット・ウォリアー》 ATK/5000→2500

 

「更にシンクロ素材として墓地に送られたドッペル・ウォリアーとクリッターの効果発動! ドッペル・ウォリアーの効果により、レベル1のドッペル・トークンを2体特殊召喚!」

 

《ドッペル・トークン1》 ATK/400 DEF/400

《ドッペル・トークン2》 ATK/400 DEF/400

 

「更にクリッターの効果により、デッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を手札に加える。俺はデッキから《クイック・シンクロン》を手札に加える!」

 

 クイック・シンクロンのカードを手札に加えたところで、俺はもう一枚の手札をデュエルディスクに差し込んだ。

 

「《シンクロキャンセル》を発動! ジャンク・デストロイヤーをエクストラデッキに戻し、その素材一組を墓地から復活! そして再びシンクロ召喚! デストロイヤーの効果で《ダブルツールD&C》ともう1枚の伏せカードを破壊する!」

「そ、そんな! ならボクはここで罠カードを発動! 《パワー・ブレイク》! このカードは「パワー・ツール・ドラゴン」が存在する時に発動できる! フィールドと墓地の装備魔法を3枚までデッキに戻し、戻した枚数×500ポイントのダメージを与える!」

 

 ダブルツールと同じく、俺がさっき渡したカードか。パワー・ツール専用のサポートカード。装備魔法のサーチ効果を持つパワー・ツールにとって、デッキに戻すこのカードは大きな助けとなる。

 

「ボクはフィールドの《ダブルツールD&C》と墓地の《ハッピー・マリッジ》《キューピッド・キス》の3枚の装備魔法カードをデッキに戻す! これで、遠也さんに1500ポイントのダメージ!」

「くッ、やるな……!」

 

 パワー・ツールから飛んできた三本の電撃が俺に直撃する。それによって、俺のライフは一気に削られた。

 

遠也 LP:4000→2500

 

《パワー・ツール・ドラゴン》 ATK/3300→2300

 

 ダメージは負ったが、同時にレイの魔法・罠ゾーンにカードはなくなった。レイのフィールドに残るのは、元々の攻撃力に戻ったモンスターたちだけである。

 

「ジャンク・デストロイヤーのシンクロ召喚によって墓地に送られたドッペル・ウォリアーとクリッターの効果が再び発動! ドッペル・トークン2体を特殊召喚し、攻撃力1500以下のモンスター1体を手札に加える! 《カード・ブレイカー》を手札に!」

 

《ドッペル・トークン3》 ATK/400 DEF/400

《ドッペル・トークン4》 ATK/400 DEF/400

 

 そしてこのターン、俺はまだ通常召喚を行っていない。ジャンク・デストロイヤーとドッペル・トークン4体で埋まったフィールドに向けて、俺は手をかざした。

 

「ドッペル・トークン1体をリリースし、クイック・シンクロンをアドバンス召喚! そして、レベル1のドッペル・トークン3体にレベル5クイック・シンクロンをチューニング!」

 

 飛び立ったクイック・シンクロンが5つの輝く輪となり、その中を3つの星となったドッペル・トークンが駆け抜けていく。

 

「集いし希望が、新たな地平へ誘う。光差す道となれ! シンクロ召喚! 駆け抜けろ、《ロード・ウォリアー》!」

 

《ロード・ウォリアー》 ATK/3000 DEF/1500

 

 淡く金色に輝くフルプレートの鎧姿。堂々と立つその姿は、まさに君主の名が相応しい王であり戦士。攻撃力もさることながら、その効果もまたその名に相応しいものである。

 

「ロード・ウォリアーの効果発動! 1ターンに1度、デッキからレベル2以下の戦士族または機械族モンスター1体を特殊召喚できる! 《音響戦士(サウンドウォリアー)ベーシス》を特殊召喚!」

 

《音響戦士ベーシス》 ATK/600 DEF/400

 

 王の呼びかけに応える臣下のように、デッキから現れる機械族のレベル1チューナー。

 俺は現れたベーシスの効果を発動させる。

 

「音響戦士ベーシスの効果! 場の音響戦士サウンドウォリアーのレベルを手札の枚数分アップする! 俺の手札は1枚! よって、ベーシスのレベルが1から2にアップ!」

 

 これでベーシスはレベル2のチューナーとなった。自身でレベルを変動できるチューナーほど有用なものはない。

 そして、俺の場に伏せられた1枚のカードを一瞥した後、俺は最後の手札に指をかけた。

 

「更に! 俺は伏せカードを墓地に送ることで《カード・ブレイカー》を特殊召喚! このカードは、自分の場の魔法・罠カード1枚を墓地に送ることで手札から特殊召喚できる!」

 

《カード・ブレイカー》 ATK/100 DEF/900

 

 握り拳の形をした穂先を持つ槍を手に持ち、赤い軽鎧を身に纏った男がフィールドに降り立つ。

 さて、これで準備は整った。

 

「レベル2カード・ブレイカーにレベル2となった音響戦士ベーシスをチューニング! 集いし勇気が、勝利を掴む力となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 来い、《アームズ・エイド》!」

 

 シンクロ召喚のエフェクトによって溢れる光。それを赤い爪で引き裂いて現れたのは、手首から上部分の姿をした赤い爪が鋭く光るモンスターである。

 

《アームズ・エイド》 ATK/1800 DEF/1200

 

「アームズ・エイドはメインフェイズに装備カード扱いとして他のモンスターに装備することが出来る。そして装備したモンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせる! ロード・ウォリアーに装備!」

 

《ロード・ウォリアー》 ATK/3000→4000

 

 これで、やるべきことは全てやった。手加減をするなんてことは、絶対にしない。俺は持てる力をこの手に込め、一気にフィールドに向かって手を払った。

 

「バトルだ! ジャンク・デストロイヤーでターレット・ウォリアーを攻撃! 《デストロイ・ナックル》!」

「ぅう……っ!」

 

レイ LP:3800→3700

 

 ジャンク・デストロイヤーの巨大な鉄拳が城塞のごとき戦士に振り下ろされる。重力すら加わった鉄の塊をぶつけられ、ターレット・ウォリアーはその身を爆散させる。

 そして、俺の攻撃はこれで終わりではない。残るもう1体に向けて、俺は指示を出した。

 

「更に、ロード・ウォリアーでパワー・ツール・ドラゴンを攻撃! 《ライトニング・クロー》!」

「きゃあッ!」

 

レイ LP:3700→2000

 

 ロード・ウォリアーの両手から伸びた爪。瞬時にパワー・ツール・ドラゴンに接近したロード・ウォリアーはそれを縦横無尽に振るい、攻撃を受けたパワー・ツール・ドラゴンは金属が擦れるような悲鳴を上げて破壊された。

 

「うぅ、でもライフはまだ半分だから、まだまだ……」

 

 空っぽになった自分のフィールド。それを見て顔を曇らせつつレイは言うが、それは勘違いというものだ。

 

「いいや、これで終わりだレイ」

「え?」

 

 不思議そうにしているレイに、俺は淡々と答える。

 

「アームズ・エイドの効果。このカードを装備したモンスターが戦闘でモンスターを破壊し墓地に送った時、その破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える」

「ええ!? ってことは……」

「ああ。パワー・ツール・ドラゴンの攻撃力、2300ポイントのダメージを受けてもらう!」

 

 その言葉と同時、ロード・ウォリアーに装備されていたアームズ・エイドが分離し、そのままレイに直進すると一気にその爪を振り下ろした。

 

「きゃぁああッ!」

 

レイ LP:2000→0

 

 それによって与えられたダメージは2300。レイのライフはこれで0となり、デュエルは俺の勝利で終わった。

 ソリッドビジョンが消えていく中、レイは軽く肩を落として俯いていた。

 

「また負けちゃった……。でも、今回はダメージを与えられたし、成長はしてるはず!」

 

 むん、と胸の前で握り拳を作り、レイは力強く顔を上げた。

 そんなどこまでも前向きなレイに近寄り、俺は笑顔でその頭に手を置いた。

 

「だな。間違いなく成長してるよお前は」

 

 次やったら、俺も勝てるかどうかわからない。ていうか、今だって余裕はなかった。

 それほどまでにレイは引きがいい。そして、その結果攻撃力3000どころか5000越えすら出てくるのだ。自信を持って勝てるとはとても言えん。

 とはいえもちろん、やれば勝つつもりだけども。しかし、油断すれば負けるのは間違いないことだった。

 

「えへへ。恵ちゃんとの特訓のおかげかな。恵ちゃんはボクの親友だけど、ライバルでもあるから。戻ってきた時に、今度こそ勝てるようになりたいんだ」

「……そうか」

 

 レインが倒れた直後。その時の沈みきった顔が嘘のように明るく話すレイに、俺はレイの強さを見たような気がした。

 悲しんでいればいいわけではないことを、レイは知っているのだ。まだ実際には十二歳ほどでしかないレイのそんな姿に、俺は胸を打たれる思いだった。

 俺はそんな気持ちを胸の内に抱きつつ、にっと笑顔をレイに向ける。

 

「なら、俺に勝てるようになってもらわないとな。レインにはあと一歩まで追い詰められたことがあるし」

 

 実は今のデュエルかなり危なかったとは言わない。先輩としての意地である。

 

「ええ!? っていうかそもそも、遠也さんと恵ちゃんってデュエルしたことあったの!?」

 

 驚くレイに、おうと返せば、一体いつの間に、と更にレイは驚いていた。

 そして俺が言っていることが事実であると知ったレイは、「むぅ、ボクも負けてられない」とか何とか小声で呟いている。

 その姿を微笑ましく見ていると、観戦していた十代から「おーい」と呼びかけられる。どうしたのかと顔を向ければ、十代はにかっと気持ちのいい笑みを見せた。

 

「お前ら、レッド寮の食堂に行こうぜ! 今トメさんに連絡したらさ、俺たちにメシ作ってくれるってさ!」

「お、マジか。久しぶりだなぁ、トメさんの料理ってのも」

「だろ! 今は島にいる生徒も少なくてトメさんも時間あるらしいんだよ。せっかくだし、遠也たちが帰ってきた歓迎会やろうぜ!」

 

 そう言うと、翔と剣山が真っ先に「賛成!」と喜色がにじむ声を上げた。

 お前ら俺たちを歓迎するってのを建前にメシ食って騒ぎたいだけだろう。そう思ったが、しかし騒ぎたいのは俺も同じだったりした。なので、俺もすぐさま賛成の意を示した。

 

「よっしゃ! じゃ、メシ食ったらデュエルしようぜ遠也! 腹ごなしにもなるしな!」

「当然OKだ。尤も、勝つのは俺だろうけどな」

 

 俺がそう言えば、十代は、いいや俺だ、と返す。当然そんなわけはないので、俺が勝つと更に言い募る。すると、またしても十代は、勝つのは俺だぜ、と言い返してきた。

 俺たちは立ち止まって互いの顔を見る。まるで火花でも散っていそうな雰囲気に、翔たちは口を挟めないのか黙ってこちらを見ている。

 数秒間そうしていた俺たちは、やがてがっしりと肩を組んだ。

 

「まぁ、それはそうとまずはメシだ! デュエルは実際やってみるまでどうなるかわからないしな!」

「同感だ。まずは腹に物を入れないとな」

 

 さっきまでの雰囲気はどこへやら。肩を組んだまま歩き出した俺たちに、翔と剣山は呆れたような溜め息をついていた。

 

「……ホント、似た者同士っす」

「だドン。あの二人のノリについていける人間なんて、いるザウルス?」

「万丈目くんですら、同類だと思われてはかなわんって言って匙を投げた二人だからねー」

 

 おい、聞こえてるぞそこ。誰がデュエル馬鹿だ。あながち間違ってはいないけど。

 

「うーん、でもボクはそんな遠也さんだから好きになったんだし」

 

 何気なく呟かれたレイの言葉に、翔たちが注目する。それを見つつ、俺はレイに呼びかけた。

 

「なんて先輩思いのいい後輩なんだ、レイ。ほら、一緒に行こう」

「あ、うん!」

「お、そうだ! 明日香と万丈目にも声かけとくか。やっぱ人は多いほうが楽しいしな!」

 

 生徒手帳代わりのPDAを取り出した十代が、早速とばかりに電話を繋ぐ。それを見つつ、俺たちは揃ってレッド寮の食堂へと向かうのだった。

 

 そうして、やがて始まった名目ばかりの歓迎会。そこには、俺、マナ、十代、翔、剣山、レイ、明日香、万丈目、吹雪さんのお馴染みの面子がいた。更にトメさんに、クロノス先生とナポレオン教頭も。

 料理をしてくれるトメさんがいるのは当然として、何故クロノス先生とナポレオン教頭がいるのか。なんでも、トメさんがここに来る途中で会い、二人ともお疲れのようだったから誘ったのだとか。

 駄目だったかい? と聞かれたので、全く問題ないですと返す。実際、二人がいて困ることは何もない。むしろ人が多くなった分雰囲気が盛り上がるので感謝したいぐらいである。

 皆で色々な話をしながら、トメさんお手製の料理に舌鼓を打ちつつワイワイと過ごす。普段はなかなか気軽に話せない先生方とも、こういう場だと話が弾む。

 トメさん曰くお疲れ気味だった二人に話を聞くと、なんでも海馬コーポレーションから新しいデュエル機材が実験用としてアカデミアに送り込まれたため、その設置やら何やらで忙しかったようだ。

 通信デュエルシステムというそれは、離れた者同士でデュエルが出来るというシステムらしい。

 へー、ほー、と相槌を打っていると、二人は気を良くしたのか身を乗り出して俺に迫ってきた。ち、ちょっと近すぎじゃないですかお二人さん……。

 

「そうなのでアール。でも本当はシステムではなく、動力のほうの実験らしいともっぱらの噂なのでアール」

「は、はぁ」

「なノーネ。なんでもこの動力は画期的なものーデ、動かすとキレイな七色というよりは極彩色の光を――」

「おーい、遠也! ちょっと話を聞かせてくれよ!」

「十代! すみません、先生方。十代が呼んでるんで、またあとで!」

 

 呼びかけられたことをこれ幸いに、俺は二人から離れた。「あ、シニョール待つノーネ」「ムッシュ、話はまだ続いているのでアール」と声が聞こえてきたが、ここは申し訳ないが離脱させてもらおう。

 実はかれこれ10分近く話に付き合っていたのだ。そろそろ他のところにも顔を出したかったのである。

 そのため最後のほうが気もそぞろでよく聞いていなかったが、どうか許してほしい。そう先生方に心の中で詫びつつ、俺は十代の元へと向かっていく。

 こうして俺たちは飲んで食べて、大いに騒いだ。休み期間中だからこそ可能な芸当だ。新学期になってからではこうはいかない。

 十代と俺がデュエルをし、万丈目が茶々を入れ、マナと明日香が窘め、翔と剣山が突っ込み役に回る。それをレイと吹雪さんが笑いながら見て、クロノス先生とナポレオン教頭はそんな俺たちを見渡して満足そうに頷く。

 やはり途中から歓迎会とは名ばかりになってしまっていたが、しかしそんなことは関係ないぐらいに楽しい時間だった。

 料理を作ってくれたトメさんには後片付けも任せてしまうことになったが、皆が笑っている姿が見れたからどうってことはないとトメさんは笑った。

 俺たちはトメさんにお礼を言い、そして歓迎会はそこでお開きとなった。

 皆それぞれ好き勝手に食べて飲んで笑うだけの、名ばかりの歓迎会。しかし、それでも俺にとっては歓迎会であることに間違いはなかった。

 こうしてみんなと一緒に笑って時間を過ごせる。それだけで、充分に帰ってきたんだという実感を得ることが出来たからである。

 

「ふふ。楽しかったね、遠也」

 

 だから、横からそう声をかけてくるマナに、俺は心からの笑みと共に

 

「ああ。最高だった」

 

 と返すのだった。

 本当に、それほどまでに楽しい時間だった。そんな満足感に包まれながら、俺の帰島一日目は過ぎていったのであった。

 

 

 

 


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