遊戯王GXへ、現実より   作:葦束良日

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第46話 加速

 

遠也 LP:2200

手札4 場・伏せ1枚

 

レイン LP:4000

手札2 場・《氷結界の龍 ブリューナク》《ゾンビ・マスター》 伏せ1枚

 

 

 まだ開始2ターン目だというのに、ライフ・フィールドともにアドバンテージは大きく持っていかれてしまった。そのうえ、レインの場にいるのは《氷結界の龍 ブリューナク》……。非常に強力なバウンス効果を持つ大敵である。

 しかもレインのデッキはどうも展開力に優れた【シンクロアンデット】。一時期には元の世界の環境がこれ一色に染まったこともある、ガチに分類される強力なデッキだ。

 状況は圧倒的に不利。だが、それでもデュエルには何があるのかわからない。俺はただ己の力とカードたちを信じてプレイするだけである。

 ――カードをドローした俺は、メインフェイズを迎えて手札と取るべき手段を模索する。僅かな間の後、俺はカードを手に取ってディスクに置いた。

 

「カードガンナーを守備表示で召喚。その効果によりデッキトップからカードを3枚墓地に送り、エンドフェイズまで1500ポイント攻撃力をアップする。更にカードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

《カードガンナー》 ATK/400→1900→400 DEF/400

 

 墓地に落ちたのは《異次元からの帰還》《ライトロード・ハンター ライコウ》《ドッペル・ウォリアー》か。

 墓地で効果を発動するカードが一つもない。そのことが少々残念だが、こればっかりは仕方がないことだった。

 

「……私、ドロー」

 

 レインが静かにカードを引き、手札のカードを1枚手に取った。

 

「……《おろかな埋葬》。デッキから《グローアップ・バルブ》を墓地に。……ブリューナク、効果。手札1枚を捨て、くず鉄のかかしを戻す」

「くっ」

 

 ブリューナクの効果が発動。その口から映像とは思えないほどリアルな冷気が吐き出されると、その冷気に当たった伏せカードが手札に戻ってくる。

 これで、レインの攻撃を止めるカードはなくなったわけだ。

 

「……戦闘。ゾンビ・マスター、カードガンナーを攻撃」

 

 ゾンビ・マスターの攻撃により、カードガンナーは為す術なく破壊された。

 

「だが、カードガンナーは破壊された時デッキからカードを1枚ドローできる! ドロー!」

 

 カードを手札に加える。それを見た後、レインは俺を指さした。

 

「……ブリューナク、直接攻撃。大きいの」

「罠発動、《奇跡の残照》! このターンに戦闘破壊されたモンスター1体を特殊召喚する! カードガンナーを守備表示で特殊召喚!」

 

《カードガンナー》 ATK/400 DEF/400

 

 再び俺の場に現れるカードガンナー。そして俺の場のモンスターの数が変動したことにより、バトルフェイズが巻き戻る。

 レインは再度攻撃を宣言した。

 

「……ブリューナク、攻撃」

「カードガンナーは破壊される。そして、その効果により俺はデッキからカードを1枚ドローする!」

「……エンド」

 

 どうにか凌いだ。さすがにここであっさりやられては先輩としての面目丸潰れである。どうにか守り切れて、正直ほっとした気分である。

 

「俺のターン!」

 

 だが、問題はここからだ。相手はシンクロアンデット。それに、俺とは毛色こそ違うが、同じくこの時代には存在しないカードを使う相手だ。

 更に、背後にいるのはあのゾーンなのだ……油断はできない。

 

「手札から《闇の誘惑》を発動! デッキから2枚ドローし、手札の闇属性モンスター《レベル・スティーラー》を除外する!」

 

 手札に来たのは……よし。これならこの状況も逆転できるはずだ。

 俺は手札から1枚のカードを手に取ってディスクに攻撃表示で配置した。

 

「《アンノウン・シンクロン》を特殊召喚! このカードは、相手の場にモンスターがいて自分の場にモンスターがいない時、手札から特殊召喚できる! 更に《チューニング・サポーター》を通常召喚!」

 

《アンノウン・シンクロン》 ATK/0 DEF/0

《チューニング・サポーター》 ATK/100 DEF/300

 

 レベル1のチューナーと非チューナー。ならば、召喚するモンスターは決まっている。

 

「レベル1チューニング・サポーターにレベル1アンノウン・シンクロンをチューニング! 集いし願いが、新たな速度の地平へ誘う。光差す道となれ! シンクロ召喚! 希望の力、《フォーミュラ・シンクロン》!」

 

《フォーミュラ・シンクロン》 ATK/200 DEF/1500

 

「……フォーミュラ・シンクロン」

 

 俺に場に現れた、F1カーが手足を持つロボットに変形したかのような機械族モンスター。その姿を見て、レインはぽつりと呟きを漏らす。

 既にあちらにも存在がバレているカードだ。今更使うことを躊躇うことはない。それよりも、このデュエルに負けた時に何があるのかわからないのが怖い。イリアステルが介入しているなら、警戒しておいて損はないからな。

 レインは信頼しているが、イリアステルはそうではない。負けないに越したことはない以上、ここは全力で勝ちに行くしかないのである。ならば、デュエルに躊躇いなんてものが入り込む余地はない。

 俺は手を場のフォーミュラ・シンクロンに向け、言葉を続ける。

 

「フォーミュラ・シンクロンの効果発動! シンクロ召喚に成功した時、デッキから1枚ドローできる! 更にチューニング・サポーターはシンクロ素材となった時に1枚ドローできる! ドロー!」

 

 そして、すかさず手札からカードを発動させる。

 

「《シンクロキャンセル》を発動! フォーミュラ・シンクロンをエクストラデッキに戻し、その素材となったモンスター一組を特殊召喚する! そして再びフォーミュラ・シンクロンを守備表示でシンクロ召喚し、2枚ドロー!」

 

《フォーミュラ・シンクロン》 ATK/200 DEF/1500

 

「更に《ボルト・ヘッジホッグ》を墓地に送り、《クイック・シンクロン》を特殊召喚! そして場にチューナーがいる時、ボルト・ヘッジホッグは墓地から蘇る! 来い、ボルト・ヘッジホッグ!」

 

《クイック・シンクロン》 ATK/700 DEF/1400

《ボルト・ヘッジホッグ》 ATK/800 DEF/800

 

 再び揃うチューナーと非チューナー。レベルの合計は7となり、クイック・シンクロンが構えた銃は、現れたルーレットの中からニトロ・シンクロンの絵を撃ち抜いた。

 

「レベル2ボルト・ヘッジホッグにレベル5クイック・シンクロンをチューニング! 集いし思いが、ここに新たな力となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

 

《ニトロ・ウォリアー》 ATK/2800 DEF/1800

 

「更に墓地の闇属性モンスター《ジャンク・ウォリアー》と光属性の《ライトロード・ハンター ライコウ》を除外し、《カオス・ソーサラー》を特殊召喚!」

 

《カオス・ソーサラー》 ATK/2300 DEF/2000

 

 鬼のような強面に鍛え上げられた緑色の体躯を持つ戦士、ニトロ・ウォリアー。それに続いて召喚されたのは、黒い法衣を纏い顔を同色の頭巾で隠した魔法使い族モンスター。

 その手には明るい魔力と暗い魔力がゆらりと陽炎のように揺れていた。

 

「カオス・ソーサラーの効果発動! 1ターンに1度、このカードの攻撃権を放棄することで場のモンスター1体を除外できる! 俺はこの効果で氷結界の龍 ブリューナクを除外する!」

 

 俺の指示を受け、カオス・ソーサラーは光と闇の魔力を宿したそれぞれの手を重ね合わせ、混ざり合って生まれたエネルギーを一気にブリューナクへと解放する。

 その波動を受けたブリューナクは、徐々にその姿が薄れていき、やがて蜃気楼のようにフィールドから消えてしまうのだった。

 これで、恐れるべきブリューナクはいなくなった。除外した以上、そう簡単には帰ってこれないだろう。

 これで安心して、攻勢に出られる。俺は内心でそう思うと同時に、口を開いた。

 

「レベル6カオス・ソーサラーにレベル2フォーミュラ・シンクロンをチューニング! 集いし願いが、新たに輝く星となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!」

 

 フォーミュラ・シンクロンが作り出した2つのリング。その中を6つの星が潜り抜ける瞬間、爆発的に溢れた光の中から1体のドラゴンが飛び立った。

 

《スターダスト・ドラゴン》 ATK/2500 DEF/2000

 

 俺の場に現れたエースモンスター。だが、まだこれで終わりではない。俺はデュエルディスクを操作し、伏せていたカードを起き上がらせる。

 

「罠発動! 《ギブ&テイク》! 自分の墓地に存在するモンスター1体を相手フィールド上に守備表示で特殊召喚し、そのレベルの数だけ自分の場のモンスター1体のレベルをアップさせる! 俺は《カードガンナー》を守備表示でレインの場に特殊召喚! そしてカードガンナーのレベル分、ニトロ・ウォリアーのレベルを上昇させる」

 

 攻守ともに400ポイントのカードガンナーがゾンビ・マスターの横に現れる。またニトロ・ウォリアーのレベルが7から10に上がるが、こちらはあまり関係がない。

 重要なのは、表側守備表示のモンスターを相手の場に出すことなのだから。

 これでメインフェイズは終了。長くなったが、いよいよバトルフェイズだ。上手くいけば、このターンで決着がつくんだが。

 

「バトル! ニトロ・ウォリアーでゾンビ・マスターに攻撃! 《ダイナマイト・ナックル》!」

「……ぅ」

 

レイン LP:4000→3000

 

 ニトロ・ウォリアーの拳がゾンビ・マスターに直撃し、一撃でゾンビ・マスターを葬り去る。そしてこの瞬間、ニトロ・ウォリアーが持つ効果が発動する。

 

「ニトロ・ウォリアーの効果発動! このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、相手の場に存在する表側守備表示のモンスター1体を攻撃表示に変更させ、そのモンスターに続けて攻撃することが出来る! カードガンナーを攻撃表示に変更する! 《ダイナマイト・インパクト》!」

 

《カードガンナー》 ATK/400 DEF/400

 

 ニトロ・ウォリアーが地面を強く殴りつけると、地面を強烈な振動が襲う。それに驚いたのか、カードガンナーは守備表示から攻撃表示に変更された。

 ニトロ・ウォリアーは、魔法カードを使ったターンのダメージ計算時に攻撃力を1000アップさせる効果と、いま使った効果の2つの効果を持っている。ともに相手に大ダメージが見込める強力な効果であり、こと戦闘においてニトロ・ウォリアーは他のウォリアーの中でも特に秀でているのだ。

 

「カードガンナーに攻撃! 《ダイナマイト・ナックル》!」

「……ん……っ!」

 

レイン LP:3000→600

 

 ニトロ・ウォリアーの拳がカードガンナーを砕く。そして砕かれたカードガンナーは俺の墓地に戻ってきた。

 カードガンナーのドロー効果は自分の場で破壊された時にしか適用されないため、残念ながらドローは出来ない。それでも、大ダメージを与えることに貢献してくれただけでカードガンナーには感謝である。

 

「更にスターダスト・ドラゴンでレインに直接攻撃! 響け、《シューティング・ソニック》!」

「……これ、罠発動。《炸裂装甲(リアクティブ・アーマー)》」

 

 炸裂装甲……攻撃宣言に対して発動し、攻撃してきたモンスターを破壊する罠カード。

 この攻撃が決まっていれば、勝っていたんだが……。

 

「やっぱ、そう上手くはいかないか。ならこの瞬間、スターダスト・ドラゴンの効果発動! フィールド上のカードを破壊する魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、自身をリリースすることでその発動を無効にし、破壊する! 《ヴィクテム・サンクチュアリ》!」

 

 攻撃を防がれたうえに破壊されてはたまらない。ここは素直にスターダストの効果を使い、炸裂装甲を空撃ちさせる。

 スターダストは光の粒子となってフィールドから消えていった。

 

「俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド! そしてこの時、自身の効果で墓地に存在するスターダストはフィールドに戻る」

 

《スターダスト・ドラゴン》 ATK/2500 DEF/2000

 

 再び俺の場に降り立つスターダスト。そして今伏せたうちの1枚は、もちろん手札に戻ってきた《くず鉄のかかし》である。

 既にブリューナクはいない。破壊に強いスターダストもいることだし、これでよほどのことがなければ大丈夫なはずだ。

 

「……私、ドロー。……魔法カード《闇の誘惑》。2枚ドロー、《龍骨鬼》を除外」

 

 ドローの後、手札交換。更にレインは手札に加わったカードの1枚をこちらに見せる。

 

「……これ、《強欲な壺》。2枚ドロー」

 

 見せたカードをディスクに差し込み、カードを2枚引く。これで手札は3枚。その中からレインはカードをディスクにセットする。

 

「……《生還の宝札》発動。次、《生者の書-禁断の呪術-》発動。……先輩の墓地の《フォーミュラ・シンクロン》を除外。《ゾンビ・マスター》特殊召喚」

「くっ……!」

『フォーミュラ・シンクロンが……』

 

 破壊ではなく除外されるのは、正直痛い。墓地にいてくれるならすぐに蘇生することも出来るのだが、除外となると再利用が途端に難しくなるからだ。

 だからこそ除外してきたのだろうが、される方としては厄介極まりなかった。

 そして墓地からの特殊召喚に成功したため、当然レインは生還の宝札の効果によりデッキからドローできる。

 

「……ドロー。ゾンビ・マスターをリリース。《砂塵の悪霊》をアドバンス召喚」

「砂塵の悪霊!?」

 

《砂塵の悪霊》 ATK/2200 DEF/1800

 

 白い長髪と小さく飛び出た角。そんな鬼に似た容姿と、そして赤く染まった薄手の着物が印象的なアンデット族のスピリットモンスター。特殊召喚できないモンスターなのでアンデット族との相性はあまり良くないが、そのぶん効果は強力である。

 

「……砂塵の悪霊、効果。このカード以外のフィールド上のモンスターを全て破壊」

 

 成功すれば、ほぼ確実に直接攻撃が決まる強力な効果。だが破壊効果である以上、素直に喰らってやる道理はどこにもない。

 

「スターダスト・ドラゴンの効果発動! その破壊効果を無効にして砂塵の悪霊を破壊する! 《ヴィクテム・サンクチュアリ》!」

 

 砂塵の悪霊は破壊され、スターダストは墓地に行く。しかしレインはごく冷静に手札から1枚のカードを手に取った。

 

「……速攻魔法《異次元からの埋葬》。《馬頭鬼》《龍骨鬼》《氷結界の龍 ブリューナク》を墓地に。馬頭鬼除外、《ゾンビキャリア》特殊召喚」

 

《ゾンビキャリア》 ATK/400 DEF/200

 

「……ドロー。……墓地の《グローアップ・バルブ》の効果。デッキの上のカードを墓地に送り、特殊召喚。守備表示」

 

《グローアップ・バルブ》 ATK/100 DEF/100

 

 おろかな埋葬で墓地に送ったカードか。生還の宝札を発動した状態だと、墓地肥やしとドローを兼ねるカードになる。この瞬間に効果を使ったのは、手札にいいカードが来なかったためだろうか。

 

「……ドロー。……《思い出のブランコ》。墓地から《地獄の門番イル・ブラッド》を特殊召喚」

 

《地獄の門番イル・ブラッド》 ATK/2100 DEF/800

 

 丸く大きな身体と、それを覆う囚人服。その腹を裂いて外を覗く何者かの顔が非常にグロテスクなレベル6のアンデット族デュアルモンスター。こいつは、再度召喚することで墓地からアンデット族を特殊召喚できる効果を持つ。

 デュアルモンスターは墓地とフィールドでは通常モンスターとして扱うため、通常モンスター専用の蘇生カードである《思い出のブランコ》で特殊召喚できるというわけだ。

 そして、このモンスターもフィールドには出ていない。今のグローアップ・バルブかブリューナクのコストで墓地に落ちたものなのだろう。

 

「……ドロー。……地獄の門番イル・ブラッドにゾンビキャリアをチューニング」

 

 レインが宣言すると、それぞれが飛び上がり、光のリングと星を形成する。

 それを見つめながら、レインはどこか信頼感を滲ませる声で呼び出されるモンスターの名前を告げる。

 

「……深き闇から現れよ……シンクロ召喚、《ダークエンド・ドラゴン》」

 

 ゾンビキャリアとイル・ブラッド。2体のモンスターによって作り出された光の中から、漆黒の翼が光を切り裂いて羽ばたいた。

 中から現れたのは、翼と同じく全身が黒に染まった漆黒のドラゴン。側頭部から平行に伸びる巨大な角、そして胸部には鋭い目と禍々しい牙が生え揃った悪魔のような顔が鎮座しており、ダークという名の通り闇を連想させるドラゴンであった。

 

《ダークエンド・ドラゴン》 ATK/2600 DEF/2100

 

「……ダークエンド・ドラゴンの効果。攻守を500下げ、相手モンスター1体を墓地へ送る。……《ダーク・イヴァポレイション》」

 

《ダークエンド・ドラゴン》 ATK/2600→2100 DEF/2100→1600

 

 ダークエンド・ドラゴンの胸部にある顔。その口が開かれ、牙の隙間から闇が漏れる。それはやがて闇の濁流となってフィールドに溢れ、ニトロ・ウォリアーをいとも簡単に呑み込んだ。

 

「ぐっ……ニトロ・ウォリアー!」

 

 まずい、これで俺の場はがら空き。対してあちらの場にはダークエンド・ドラゴンがいる。

 効果を使用したためその攻守は下がっているが、俺の残りライフは2200。そのまま受ければ残りライフはわずか100になってしまう。

 だが、俺の場にはくず鉄のかかしがある。これがあれば、どうにか。

 そう思う俺を余所に、レインは更に行動を起こしていく。

 

「……《埋葬呪文の宝札》。墓地の《異次元からの埋葬》《思い出のブランコ》《闇の誘惑》を除外、2枚ドロー。……《サイクロン》、右の伏せカードを破壊」

「くっ」

 

 右のカードはくず鉄のかかしだ。これで攻撃を止める手段はなくなった。

 そして、レインは俺の場に指を向けた。

 

「……戦闘。ダークエンド・ドラゴンで直接攻撃。《ダーク・フォッグ》」

 

 ダークエンド・ドラゴンの頭部。本来の口から放たれた闇の奔流が俺に襲い掛かる。これを食らえば、今後の展開が一層厳しくなるのは必至だ。

 俺はすかさず伏せカードを発動する。

 

「罠発動、《リミット・リバース》! 墓地の攻撃力1000以下のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する! 《ドッペル・ウォリアー》を特殊召喚!」

 

《ドッペル・ウォリアー》 ATK/800 DEF/800

 

 しかし、ドッペル・ウォリアーの攻撃力はわずか800。攻撃を止める道理はなく、レインは攻撃を続行。ドッペル・ウォリアーは闇の奔流に呑みこまれて消えていき、俺もまた闇を浴びることとなった。

 

「ぐぅうッ!」

 

遠也 LP:2200→900

 

 残りライフ900。そこまで俺のライフを削ったレインは、手札全てを手に取ってディスクに差し込む。

 

「……2枚伏せる。エンド」

「この瞬間、墓地に送られたスターダストはフィールドに戻る。――俺のターン!」

 

《スターダスト・ドラゴン》 ATK/2500 DEF/2000

 

 引いたカードを見ると……よし、きてくれたか。

 小さく笑みを浮かべると、俺はカードをディスクに置いた。

 

「《ジャンク・シンクロン》を召喚! そしてその効果により、墓地のレベル2以下のモンスターを効果を無効にして特殊召喚する! 《チューニング・サポーター》を特殊召喚!」

 

《ジャンク・シンクロン》 ATK/1300 DEF/500

《チューニング・サポーター》 ATK/100 DEF/300

 

「レベル1チューニング・サポーターにレベル3ジャンク・シンクロンをチューニング! 集いし勇気が、勝利を掴む力となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 来い、《アームズ・エイド》!」

 

 このカードをスターダストに装備させれば、スターダストの攻撃力は一気に3500になる。倒したモンスターの攻撃力分のダメージがたとえなくとも、充分に勝負を決められるはずだ。

 そう考えるが、しかし。俺がシンクロ召喚を行ったその瞬間。レインの場の伏せカードが起き上がっていた。

 

「……カウンター罠、《昇天の黒角笛(ブラックホーン)》。特殊召喚を無効にして、破壊」

「と、特殊召喚メタ!? なんだってそんなカードを……」

 

 まさに俺を狙い撃ったとしか思えないカード。それに思わず驚きの声を上げると、レインはちらりとぼそっと呟いた。

 

「……特殊召喚を使う人、周りに多いから」

「……な、なるほど」

 

 レインの言葉に、思わず納得してしまう。

 確かに特殊召喚を使用しないデッキのほうが珍しいといえば珍しい。昇天の黒角笛はそれら特殊召喚に対して発動し、大きなアドバンテージを得られる可能性を秘めたカードだ。入れているのは不思議じゃない、か。

 それはそれとして、これは正直マズい。特に素材が失われたのは痛いな。しかもシンクロ召喚そのものを無効にされたため、チューニング・サポーターのドロー効果も発動しないという。

 更に言えば召喚権も既に使ってしまったため、これ以上モンスターを展開することも出来ない。となれば。

 

「なら、バトルだ! スターダスト・ドラゴンでダークエンド・ドラゴンに攻撃! 《シューティング・ソニック》!」

 

 攻撃力の差は400ポイント。この一撃でレインに勝てるというほどではないが、それでもダークエンド・ドラゴンを倒し、ライフを削れるなら実行するべきだ。

 だが、そんな俺の思惑は再び打ち砕かれる。

 

「……罠発動、《あまのじゃくの呪い》。このターン、攻守増減効果が逆転」

 

 それも、予想外のカードによって。

 

「あ、あまのじゃくの呪いぃ!?」

『うわぁ、懐かしい』

 

《ダークエンド・ドラゴン》 ATK/2100→3100 DEF/1600→2600

 

 マナの言う通り、なんとも懐かしいカードを使ってくれたものだ。確かに効果発動後に戦闘で破壊されやすいダークエンド・ドラゴンにとっては優秀なサポートカードだろう。

 効果を使えば使うほど強力になるし、相手の攻守アップをダウンにさせることも出来る。更に罠カードなので相手の思惑を崩すことに一役買うため、ダークエンドがいるなら投入しているのも納得のカードだ。

 そして、そんなカードに見事にしてやられたのが俺である。

 

「……迎え撃って。……《ダーク・フォッグ》」

「ぐぁっ……!」

 

遠也 LP:900→300

 

 ダークエンドが吐き出した闇にスターダストが呑み込まれる。

 これで俺の場にはモンスターも伏せカードもなし。しかも、手札には伏せられるカードはない。

 

「く……ターンエンド」

 

 この瞬間、攻守増減効果が逆転していたダークエンドのステータスは元の値に戻る。

 

《ダークエンド・ドラゴン》 ATK/3100→2100 DEF/2600→1600

 

「……私、ドロー」

 

 カードを引き、レインはすぐにダークエンドに指示を出した。

 

「……戦闘。ダークエンド・ドラゴンで直接攻撃。《ダーク・フォッグ》」

 

 ダークエンド・ドラゴンから放たれた闇が俺の身に迫る。

 だが、俺はその瞬間手札のカードを手に取っていた。

 

「手札から《速攻のかかし》を捨て、効果発動! 直接攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」

 

《速攻のかかし》 ATK/0 DEF/0

 

 場に一瞬現れたかかしが、ダークエンド・ドラゴンの攻撃を受け止めた後に消えていく。

 これで俺の場は空っぽだが、速攻のかかしの効果はバトルフェイズそのものを強制的に終了させてしまう。

 よって、たとえ攻撃していないモンスターがいたとしても、レインは攻撃をすることが出来ない。まぁ、今レインの場にはダークエンドを除くと守備表示のグローアップ・バルブしかいないのだが。

 

「……エンド」

 

 レインはそのままエンド宣言をした。

 状況は圧倒的に俺に不利。どうにか逆転できる手を引かなければ。

 

「俺のターン!」

 

 カードをデッキから引く。手札は今引いたこれ1枚だけ……そしてそれは、やはりこの状況を逆転できるカードはなかった。

 だが……。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

 今の俺に出来ることはこれだけだ。

 俺の斜め後ろでマナが心配げに見ているのがわかるが、しかしこれしか取れる手がないのだから仕方がない。

 

「……私、ドロー」

 

 カードを手札に加え、レインはディスクを操作して墓地のカードを回収する。

 

「……墓地の《ボルト・ヘッジホッグ》の効果。チューナーがいる時、特殊召喚。生還の宝札でドロー。更に《ファラオの化身》を召喚」

 

《ボルト・ヘッジホッグ》 ATK/800 DEF/800

《ファラオの化身》 ATK/400 DEF/600

 

「ボルト・ヘッジホッグ!? そんなのいつ……」

「……グローアップ・バルブのコスト」

 

 俺がつい発した疑問に、レインは小声でそう答えた。

 ということは、さっきのイル・ブラッドはブリューナクのコストで送られたカードだったのか。そして今回のボルト・ヘッジホッグがバルブのコスト。

 ボルト・ヘッジホッグはアンデット族ではないが、シンクロ召喚を肝にするなら投入して損はない。俺自身が使うからこそ、その便利さはよくわかっている。

 そして、これでレインの場にはレベル2のボルト・ヘッジホッグ、レベル3のファラオの化身、レベル1チューナーのグローアップ・バルブが揃った。

 ということは、だ。

 

「……ボルト・ヘッジホッグとファラオの化身に、グローアップ・バルブをチューニング。……シンクロ召喚、《大地の騎士ガイアナイト》」

 

《大地の騎士ガイアナイト》 ATK/2600 DEF/800

 

 きたか、シンクロ召喚。レベル6で素材指定なしとなれば、やはりガイアナイトが最有力。加えて、ファラオの化身がシンクロ素材である以上、ここから更にコンボは繋がる。

 

「……《ファラオの化身》の効果、墓地から《ゾンビ・マスター》を特殊召喚。……ドロー」

 

《ゾンビ・マスター》 ATK/1800 DEF/0

 

 ファラオの化身はシンクロ素材となった時、墓地のレベル4以下のアンデット族を特殊召喚できる効果を持ったモンスター。シンクロ召喚を主にしたレインのデッキでは、確かに有用なカードだ。

 

「……《シンクロキャンセル》を発動。ダークエンド・ドラゴンを戻し、素材一組……《地獄の門番イル・ブラッド》と《ゾンビキャリア》を特殊召喚。……ドロー、もう一度シンクロ召喚。……《ダークエンド・ドラゴン》」

 

《ダークエンド・ドラゴン》 ATK/2600 DEF/2100

 

 再度シンクロ召喚されたことで、攻守ともに本来の値に戻っている。たぶん、それを狙ってのシンクロキャンセルだったのだろう。しかも生還の宝札の効果でドローのおまけつきだ。

 こうして見ていると、生還の宝札は本当に便利すぎる。禁止カードになったのも納得だ。相手にした時、これほど恐ろしいカードもない。

 そして、レインの行動はまだ続く。

 

「……手札から《生者の書-禁断の呪術-》、先輩の墓地の《スターダスト・ドラゴン》を除外。《ゾンビキャリア》を特殊召喚、ドロー」

 

《ゾンビキャリア》 ATK/400 DEF/200

 

「くッ、スターダストまで……」

 

 フォーミュラ・シンクロンに続き、スターダスト・ドラゴンまで除外されるとは。

 そうして意識をそちらに向けている間も、レインの場では目まぐるしい変化が起きていた。

 

「……ゾンビ・マスターにゾンビキャリアをチューニング。……シンクロ召喚、《蘇りし魔王 ハ・デス》」

 

 2つのリングを4つの星が潜り抜け、光の中から現れるのは濃紺のローブに身体全体を隠した、かつて冥界の頂点に君臨した魔王。

 悪魔族からアンデット族となり、角は欠け、煌びやかだった装飾品が腐食していても、やはりその風格はどこか高貴なものが感じられた。

 

《蘇りし魔王 ハ・デス》 ATK/2450 DEF/0

 

「……《死者蘇生》。墓地の《氷結界の龍 ブリューナク》を特殊召喚。ドロー」

 

《氷結界の龍 ブリューナク》 ATK/2300 DEF/1400

 

 おいおい、またブリューナクかよ。せっかく除外したのに戻ってきたことに、俺は少々げんなりした顔になる。

 しかも生還の宝札の効果によって、レインの手札は今3枚ある。つまり……。

 

「……ブリューナク、効果発動。手札1枚を捨て、伏せカードを戻す」

 

 やっぱりそうきたか。

 だが、俺が伏せたカードはフリーチェーンの罠カード。俺はすぐにディスクを操作して伏せカードを発動させた。

 

「その効果にチェーンして罠カード《威嚇する咆哮》を発動! このターン相手は攻撃宣言できない!」

 

 これで、レインはこのターン攻撃を行うことが出来なくなった。俺の場には1体もモンスターが存在していないのに対して、あちらの場には攻撃力2000を超えるモンスターが3体も存在している。しかし、攻撃を封じてしまえば問題はない。

 攻撃を封じられたため、レインはバトルフェイズに移行することはないようだ。手札のカード2枚を手に取ると、それをディスクにセットした。

 

「……カードを2枚伏せる。……エンド」

 

 どうにか、首の皮一枚繋がった。さっきから不甲斐なくも一方的なわけだが、我ながらよく防ぎ切れていると思う。ダメージは受けても、最低限で抑えているしな。

 だが、さすがにこれ以上耐えることは出来ない。次のターンでどうにかできなければ、終わりだろう。

 つまり、ここで引くカードが明暗を分ける。俺はデッキトップのカードに指を置き、一拍そのまま静止した後、一気に引きぬいた。

 

「俺の、ターンッ!」

 

 引いたカードは……よし。

 

「……《貪欲な壺》を発動! 墓地の《ニトロ・ウォリアー》《アームズ・エイド》《クイック・シンクロン》《ジャンク・シンクロン》《ドッペル・ウォリアー》をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

 デッキから引いたカードをゆっくり表側にし、その絵柄とカード名を確認する。

 ――……きたか!

 瞬間、俺は心の中でガッツポーズをとる。そして、まさに待ち望んでいたカードを手に取って、ディスクに差し込んだ。

 

「《調律》を発動! デッキから《ジャンク・シンクロン》を手札に加え、デッキトップのカードを墓地に送る! 《ジャンク・シンクロン》を召喚! そしてその効果により、墓地から《チューニング・サポーター》を効果を無効にして特殊召喚する!」

 

《ジャンク・シンクロン》 ATK/1300 DEF/500

《チューニング・サポーター》 ATK/100 DEF/300

 

 墓地に落ちたカードは《ジャンク・コレクター》。そして、ここまではさっきのアームズ・エイドの時の焼き直しである。

 だが、ここで俺は手札からもう1枚のカードを発動させる。

 

「速攻魔法《地獄の暴走召喚》! 相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分の場に攻撃力1500以下のモンスターを特殊召喚した時、その特殊召喚したモンスターの同名カードをデッキ・手札・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する!」

 

《チューニング・サポーター2》 ATK/100 DEF/300

《チューニング・サポーター3》 ATK/100 DEF/300

 

「この時、相手は自分の場のモンスター1体を選択し、その同名カードを相手自身の手札・デッキ・墓地から特殊召喚できる。が……」

「……私の場は、シンクロモンスターだけ。特殊召喚は出来ない」

 

 暴走召喚はあくまでデッキ、手札、墓地の同名モンスターが対象だ。エクストラデッキには対応していない。

 そのため、恩恵を受けるのは俺だけだ。そしてその効果によって、俺の場には必要なシンクロ素材は全て揃った。

 

「チューニング・サポーターはシンクロ素材とする時、レベルを2として扱える! 2体のチューニング・サポーターのレベルを2として扱い、レベル2となったチューニング・サポーター2体とレベル1のチューニング・サポーターに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!」

 

 レベルの合計は2+2+1+3で8となる。となれば、ここで出すモンスターは決まっている。

 

「集いし闘志が、怒号の魔神を呼び覚ます。光差す道となれ! シンクロ召喚! 粉砕せよ、《ジャンク・デストロイヤー》!」

 

《ジャンク・デストロイヤー》 ATK/2600 DEF/2500

 

 攻守ともに高く、そして非常に強力な効果を持った鋼鉄の巨人。俺は早速フィールドのジャンク・デストロイヤーに手を向けて、指示を出す。

 

「ジャンク・デストロイヤーの効果発動! シンクロ召喚に成功した時、シンクロ素材としたチューナー以外のモンスターの数まで相手の場のカードを破壊できる! 素材となったモンスターは3体! よって、伏せカード2枚と氷結界の龍 ブリューナクを破壊する! 《タイダル・エナジー》!」

「……っチェーン。速攻魔法、《収縮》。……ジャンク・デストロイヤーの攻撃力を半分に」

 

《ジャンク・デストロイヤー》 ATK/2600→1300

 

 寸でのところで収縮を発動されてしまったが、デストロイヤーから放たれたエネルギーの波が、それ以外のカード2枚を押し流す。

 破壊された伏せカードは《聖なるバリア-ミラーフォース-》。つまり、ミラフォと収縮の2枚が伏せてあったわけだ。

 前者は攻撃反応型であり、この状況では破壊されるしか道はない。後者は速攻魔法であることを生かして効果を使われてしまったが……これは仕方がないことだろう。

 伏せカードはそれでいいとして、ブリューナクとダーク・エンド……破壊するモンスターには悩んだが、結局はブリューナクにした。

 何故なら、このあと俺はチューニング・サポーターの効果でドローするが、もし逆転の手が引けなかった時。つまりレインにターンが渡った時に、モンスターだけでなく伏せカードまでバウンスできるブリューナクのほうが厄介だと判断したからである。

 そして、このデュエルの明暗を分けるドローを俺は行う。

 

「チューニング・サポーターの効果発動! シンクロ素材となった時、デッキからカードをドローする! 素材となったチューニング・サポーターは3体! よって俺は合計で3枚ドロー出来る!」

 

 相手の場のカードを3枚まで破壊し、こちらは3枚ドローする。チューニング・サポーターと暴走召喚は、組み合わせれば莫大なカードアドバンテージをプレイヤーにもたらす。

 もっとも、それを狙って常にチューニング・サポーターを3枚フル投入というのも事故の元だ。俺もそんな構成にするのは時々であり、それがたまたま今回だったのは運が良かったからに他ならない。

 

「――ドローッ!」

 

 これが正真正銘ラストドロー。このドローしたカードによって、このデュエルの行く末が決まる。

 引いたカードは……《死者蘇生》、《異次元の精霊》、《禁じられた聖杯》の3枚。手札のそれらを見た後、俺は墓地に置かれたカードたちを確認する。

 ――それらが終わった途端、俺の頭の中にはこれから辿るべきルートが映し出される。俺はそれに則り、まずは《死者蘇生》のカードを手に取った。

 

「いくぞ、レイン! 俺は《死者蘇生》を発動し、墓地から《ジャンク・コレクター》を特殊召喚!」

 

 人形の素体のように関節の継ぎ目が晒された身体に深緑の外套を羽織り、ひょろりとした細い体格の人型モンスターだ。

 手には人の頭より大きいハンマーを持ち、背中にはいくつかのくず鉄が背負われている。

 名前の通り、ジャンクのコレクターということなのだろう。

 

《ジャンク・コレクター》 ATK/1000 DEF/2200

 

「ジャンク・コレクターの効果発動! このカードと自分の墓地に存在する通常罠カードを除外することで、このカードの効果はこの効果を発動するために除外した罠カードの効果と同じになる! 俺は墓地の《異次元からの帰還》とこのカードを除外する!」

 

 ジャンク・コレクターが次元の渦に呑まれて消え去り、また墓地からも異次元からの帰還が除外される。これは最初にカードガンナーの効果で墓地に送られた3枚のカードのうちの1枚である。

 そしてこれにより、セットする必要もなくこの瞬間に俺は《異次元からの帰還》の効果を使うことが出来るようになった。

 

「異次元からの帰還は、除外されている自分のモンスターを可能な限り場に特殊召喚する罠カード。――《スターダスト・ドラゴン》《フォーミュラ・シンクロン》《レベル・スティーラー》《ジャンク・コレクター》の4体を特殊召喚!」

 

《スターダスト・ドラゴン》 ATK/2500 DEF/2000

《フォーミュラ・シンクロン》 ATK/200 DEF/1500

《レベル・スティーラー》 ATK/600 DEF/0

《ジャンク・コレクター》 ATK/1000 DEF/2200

 

 一気に俺のフィールドが埋まる。

 そして、その中に存在するある2体をレインはじっと見つめていた。

 

「……スターダスト・ドラゴンと、フォーミュラ・シンクロン……」

 

 場に揃った2体のモンスター。この2体が揃うことが何を意味するのか俺も分かっているが、しかし今はそれより先にすべきことがある。

 

「俺はレベル・スティーラーを除外し、手札からチューナーモンスター《異次元の精霊》を特殊召喚! このカードは自分の場の表側表示モンスター1体を除外することで、手札から特殊召喚できる!」

 

《異次元の精霊》 ATK/0 DEF/100

 

 昆虫の触角のようなものを頭から生やした、妖精のごとき小さな天使。光に包まれてふわりと浮かび上がった異次元の精霊は、ジャンク・コレクターの傍をくるりと回る。

 これで、準備は整った。

 

「レベル5ジャンク・コレクターにレベル1異次元の精霊をチューニング! 集いし嘆きが、事象の地平に木霊する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 推参せよ、《グラヴィティ・ウォリアー》!」

 

 2体のモンスターによって作られたリングと星の中、溢れ出す光を突き破って現れたのは重力の名を冠した戦士である。

 その姿は生身の部分が存在しない機械の身体。人型でありながらその風体は獣じみており、顔つきは狼のそれに近い。頭部を中心に全身の随所にみられる動力パイプと青に輝く装甲。そして鋭く伸びた両手の鋼鉄製の爪は、まさに凶器という言葉が相応しかった。

 

《グラヴィティ・ウォリアー》 ATK/2100 DEF/1000

 

 召喚されたグラヴィティ・ウォリアーがフィールドに立ち、その効果が発動される。

 

「グラヴィティ・ウォリアーの効果発動! シンクロ召喚に成功した時、相手の場に存在するモンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする! そっちの場にいるモンスターはハ・デスとガイアナイト、それにダークエンド・ドラゴンの3体! よって900ポイント上昇する! 《蛮勇引力(パワー・グラヴィテーション)》!」

 

 相手の場の3体から立ち昇るエネルギーが仁王立ちするグラヴィティ・ウォリアーに引き寄せられていく。

 そしてそれを吸収したグラヴィティ・ウォリアーは、鉄の爪を更に伸ばして雄叫びを上げた。

 

《グラヴィティ・ウォリアー》 ATK/2100→3000

 

「更に――」

 

 俺が言葉を続けると、レインの肩がピクリと動く。

 その視線が俺の場のスターダストとフォーミュラ・シンクロンに向かっていることから、レインが何を考えたのか想像するのは容易い。恐らくは、俺がアクセルシンクロをするものと思ったのだろう。

 だが、俺はいまだそれを行うことが出来ない。心の問題についてはいずれ克服してみせると言い切れるが……モーメントについてはどうしようもないのだから。

 ゆえに、俺が取る行動はレインが想像するものではない。

 手札のカードをディスクに差し込んだ。

 

「――速攻魔法《禁じられた聖杯》を発動! このカードはフィールド上のモンスター1体を選択し、エンドフェイズまでそのモンスターの攻撃力を400ポイントアップさせ、効果を無効化する! 俺はスターダスト・ドラゴンを選択!」

 

《スターダスト・ドラゴン》 ATK/2500→2900

 

 攻撃力が上昇する代わりに効果は無効になったが、相手の場に伏せカードはなく、破壊効果を持つダークエンドも相手のターンにそれを使うことは出来ない。

 ゆえに、効果が無効になったことは全く問題ではない。スターダストの攻撃力が相手の攻撃力より50ポイント以上上回ったという事実こそが重要なのである。

 これにより、勝利への道は全て辿りきった。俺は勢いよくフィールドに向けた手を握りこみ、高らかにフェイズ移行の宣言を行う。

 

「バトル! グラヴィティ・ウォリアーで蘇りし魔王 ハ・デスに攻撃! 《超重力十字爪(グランド・クロス)》!」

 

 途端、グラヴィティ・ウォリアーは獣のごとき咆哮と共に相手フィールドに駆けると、その鋭い爪を一気に縦横に振り抜いた。

 鋼鉄の爪は難なくハ・デスの身体を十文字に切り裂き、蘇ったハ・デスを再び闇の世界へと送り返していった。

 

「……ぅ……っ」

 

レイン LP:600→50

 

 これで、レインの場にいるモンスターは共に攻撃力2600のガイアナイトとダークエンド・ドラゴンの2体。

 そして、俺の場には攻撃力2900となったスターダスト・ドラゴンがいる。

 その差は300。そして、レインの残りライフは僅か50。

 俺は最後の指示をスターダスト・ドラゴンに出した。

 

「いけ、スターダスト・ドラゴン! ダークエンド・ドラゴンに攻撃! 響け、《シューティング・ソニック》!」

 

 スターダスト・ドラゴンの口腔に集束していく星屑のようにきらめく空気の粒。それらが凝縮されて真空の砲弾を形成したところで、そのままスターダストが首をしならせる。

 そして遠心力を利用して顔を正面に戻してくると、その勢いのまま真空の砲撃が発射される。それは音の壁を破り、一直線にダークエンド・ドラゴンへと向かっていき、狙い違わず直撃した。

 そして、その威力にダークエンド・ドラゴンは耐え切れない。一時踏みとどまるものの、やがて断末魔の叫びを上げながらダークエンド・ドラゴンは姿を消したのだった。

 

「っ、ぁああッ!」

 

レイン LP:50→0

 

 同時に超過ダメージがレインの身体を襲い、ライフポイントが0を刻む。

 この瞬間、俺の勝利という形でこのデュエルは決着がつくことになったのであった。

 デュエルが終わったことで、ソリッドビジョンが解除されてモンスターたちも消えていく。どうにか勝てたことに安堵して胸を撫で下ろした俺は消えていくモンスターたちに目でお礼を言いつつ、大きく息を吐いた。

 

「ふぅ……」

『お疲れ様。それにしても、メインフェイズが長いデュエルだったね』

「あー、確かに」

 

 俺もレインもシンクロ召喚が主のデッキだったからな。メインフェイズに大量展開、そしてシンクロに繋げるという戦術が共通していたため、メインフェイズの長さはかなりのものだった。

 それでもソリティアといわれるようなデッキほどではないが、この世界のデュエルとしては随分長い部類だったとは思う。

 それもあってか、確かに少し疲れたような気もするな。終わって気が付いたが、気を張っていたこともあって随分と身体に力が入っていたようだ。

 俺は軽く首を回して小気味の良い音を鳴らしつつ、レインのもとへと歩いていった。

 

「よ、デュエルはしたぜ。これで良かったのか?」

 

 片手を上げて声をかけると、レインはこちらを見て頷いた。

 

「……うん。……でも」

「ん?」

 

 でも。そう続けたレインは、デッキをセットしたままになっている俺のデュエルディスクを見る。

 そして、視線を俺に戻して問いかけてきた。

 

「……最後のターン。フォーミュラ・シンクロンでシンクロをしなかった。……どうして?」

「どうしてって……そりゃあ、ほら。フォーミュラ・シンクロンじゃグラヴィティ・ウォリアーのレベルに合わないだろ?」

 

 フォーミュラ・シンクロンのレベルは2。ジャンク・コレクターのレベルは5。そしてグラヴィティ・ウォリアーのレベルは6だ。

 レベルの合計値が合わない以上、あそこでは異次元の精霊を特殊召喚するのが最善だった。

 俺はそうレインに話す。

 

「……そうじゃなくて」

 

 何か言いたげにするレインの肩を、ぽんぽんと軽く叩く。

 ……レインが言いたいことがそうではないことは分かっている。確かに他にも手はあったのだから。

 恐らくレインはこう言いたかったのだろう。フォーミュラ・シンクロンとスターダスト・ドラゴンをアクセルシンクロしていれば、それで済んだはずだと。

 ――シューティング・スター・ドラゴン。いまだ俺には扱えない、スターダスト・ドラゴンの進化系。攻撃力3300を誇るアイツを出せていれば、確かにわざわざ異次元の精霊を特殊召喚する必要はなかった。

 だが、クリアマインドにも至っておらず、Dホイールから発生するモーメントの出力にも全く及ばないこのデュエルディスクでは、到底それは為し得ない。

 それに、別段シューティング・スター・ドラゴンの力を借りなければならないほど切羽詰った理由があるわけじゃない。なら、今は召喚しないに越したことはないのだ。イリアステルに俺がシューティング・スター・ドラゴンのカードを持っているとバレるのはさすがにマズイからな。

 シンクロチューナーだけなら正史よりシンクロ召喚が早く出てきたズレを理由に誤魔化せるが、アクセルシンクロは特別なシンクロ召喚。出来る者は限られるため、同じように誤魔化すことは出来ないからだ。

 そのため俺は半ば強引にレインの話を打ち切った。

 

「それより、そろそろ腹が減ったな。そうだ、皆を呼んでメシを食おう。な、マナ」

 

 呼びかけると、精霊化していたマナが制服姿で実体化して俺の隣に立つ。

 

「うん、いいね! ……明日香さんもいればなぁ」

 

 口に出して言い、少し目を伏せるマナ。

 それについては俺も同じ思いだ。いつまでも明日香を斎王の元にいさせるわけにはいかない。これは十代をはじめ、皆が思っていることでもある。

 明日香についても、早いうちにどうにかしなきゃな。そのことについても、皆と話した方がいいかもしれない。

 明日香のことについてとりあえずそう考えをまとめると、俺はレインに話しかけた。

 

「それじゃ、そういうことだから。レイを誘うのは任せたぞ」

 

 何気なくそう言うと、レインはふるふると首を振った。

 

「……私より、先輩が誘った方がいい。……レイも、好きな人からの方が喜ぶと思うから」

「す、好きな人……ってゆーかやっぱバレバレなんだな、それ。けど、うーん、こういうのは俺より友達からのほうがいいと思うんだけどなぁ」

「……どうして?」

「どうしてって……それを俺に訊くのか?」

 

 俺は思わず問い返すが、レインは意味が分からないようできょとんとしている。

 これは、本当に他意なく純粋に疑問に思っているだけか。……そうなるとさすがにスルーしづらい。だとしても、その理由を当事者である俺が言うとかどんな拷問だよ。

 しかし、レインは俺の答えを待っているのかじーっと俺を見つめる視線を外さない。それを受けて、俺は心の中で盛大に葛藤したあと、「すまん、レイ」と勝手にこんなところで話題に出すことへの謝罪を口にする。

 そして、諦めの溜め息と共にぼそぼそと口を開いた。

 

「……そ、それはだな……えっと……れ、レイはなんでか俺に好意を持ってるだろ? けど、そういう相手からの誘いって少なからず緊張するもんだしさ。俺も経験あるし。その点、友達からの誘いなら変にそういうのがなくていいかな、ってああもう! なんで俺は自分でこんなこと言わないといけないんだよ! 恥ずかしいわ!」

「遠也、顔が赤いよ」

 

 マナに指摘され、思わず「う、うるさい!」とどもりつつ叫び返す。

 自分で自分が女子から好かれてる宣言なんてどれだけ自意識過剰で自信家な奴かと。たとえレイがそういう気持ちを俺に向けているのが公然の事実だとしても、それを自分で主張するなんて恥知らずにもほどがあるわ。

 いくらなんでもそこまで面の皮が厚くなく、いたって普通の感性を持っていると自負している俺である。さすがにこんな羞恥プレイには耐えることは出来ず、自分でもわかるほどに顔が熱くなっていた。

 すまん、レイ。勝手になんかこんなところでお前の気持ちを話題に出して。もう一度心の中でレイに謝り、俺は溜め息をもう一つ。

 なんでこんなことを後輩……それもレイの友達の前で言ってるんだ俺は、死にたい。

 そんなふうに悶えつつ落ち込んでいる俺を尻目に、俺の言葉を聞いたレインはポケットからPDAを取り出す。

 そして短縮で即座に電話を繋げると、そのまま話し出した。

 

『はーい。どうしたの、恵ちゃん?』

「……ご飯、皆で食べようって。……レイも、一緒に行こう」

『わ、ホントに!? もっちろん行くよ! ありがとう、恵ちゃん!』

「……うん」

『えへへ、よく考えたら恵ちゃんからボクを誘ってくれたのって、初めてかも。なんか嬉しいなぁ、こういうの』

「……そう?」

『そうだよ! だから、嬉しいよ恵ちゃんが誘ってくれて。それじゃ、またあとでね! レッド寮でいいんでしょ?』

 

 レイとレインの会話が、そこで途切れる。レインは確認を求めるように目を俺に向けてきた。

 

「……先輩」

「ん、ああ。そうだなレッド寮でいいぞ。……ところで、レイ。ちょっといいか」

『あれ、遠也さん? どうしたの?』

 

 レインとついでにレイにも聞こえるように答え、更にPDA越しにレイに話しかける。

 突然会話に加わってきた俺にレイは驚いたようだったが、俺はそんなレイにひとまずこう告げるのだった。

 

「……あとでお前は俺に怒ってもいいからな」

『へ? いきなりどういうこと?』

「わけは後で話す。何を言われても甘んじて受けるぞ、俺は」

 

 実はもう皆に知られているらしいこととはいえ、人の気持ちを勝手に口に出したのは俺だからな。やはりこういうのはケジメをつけないと。

 だが、当然さっきの会話を聞いていないレイにそれがわかるはずもなく、レイ『何の話なの?』と混乱していた。

 

『……うーん、まぁいいや。それじゃ恵ちゃん、遠也さん。またあとでね!』

「……うん、待ってる」

「ああ」

 

 通話が切られ、レインはPDAを再びポケットにしまう。

 そして顔を上げたレインに、俺は笑いかけた。

 

「な、嬉しそうだったろ?」

 

 そう問えば、レインは小さく頷く。

 普段あまり変化がない表情が徐々に和らぎ、それは微笑みへと移ろいでいく。

 まるで花が咲くような、レインには珍しい満面の笑顔。「……うん」と噛みしめるようにもう一度レインは頷き、俺とマナはそんな後輩の姿に一層笑みを深める。

 

「さ、レッド寮に戻ろうぜレイン」

「そうだね、いこうレインちゃん」

 

 俺たち二人が揃って促すと、レインはこくりと頷いて歩き出す。表情は既に常のものに戻っているが、それでもどことなく嬉しそうに見えるのは気のせいではないだろう。

 そんなレインを微笑ましく見ていると、歩き出したレインが不意にぴたりと足を止めた。

 

「……先輩」

「ん、どうした?」

 

 足を止めたレインにつられ、俺とマナも立ち止まる。

 そしてレインに振り返ると、レインは表情を変えずにマナを見つめてこう言った。

 

「……さっきと、今。……マナさんが突然現れたのは、何故?」

 

 素朴な疑問に、一瞬時が止まる。

 

「あ」

 

 一拍置いた後。俺の口から出たのは、そんなひどく間抜けな一音であった。

 

 

 

 

 実はレインに一度もマナが精霊であることを説明していなかったことに気づいた俺は、レッド寮への道すがらマナと共にレインにそのあたりのことを説明することとなった。

 俺の部屋に入りマナがお茶を入れに行った時も疑問に思ったらしいが、あの時はカードを見せてもらったり、デュエルをしたりといった用事が控えていたため口に出さなかっただけらしい。

 レインがマナのことを理解してくれたかはわからないが、口外はしないと約束してくれたので俺としてはほっと一安心である。

 背後の方に伝わってしまうかもしれないが……既に後の祭りだ。なにもアクションがないことを祈るしかない。

 

 ――さて、その後俺たちはレッド寮にて皆でご飯を食べたわけだが。

 その食事の席で、俺はレイにあの時電話越しに言った言葉の意味とそれに繋がる経緯を説明した。初めは驚いていたレイだったが、すぐに俺の言葉を聞いて笑い出す。

 呆気にとられる俺。しかしレイ曰く「周りに知られているなんて承知済みだし、遠也さんがボクがいないところで言っても気にしないよ」とのこと。

 その後は「むしろそこまでボクの気持ちを大切にしてくれていたことが嬉しい」と言って、お礼まで言われてしまった。怒られるつもりだったのに、どうしてこうなった。

 そんな俺たちのやり取りを、十代や翔、剣山、万丈目に三沢といった面々は可笑しそうに笑って見ていた。まぁ、万丈目だけは相変わらずの仏頂面だったが。

 更にカイザーと吹雪さんも途中で加わり、十代がそれならとエドを引っ張ってくる。こうしてかなりの大所帯となった食事会は楽しい空気の中終わり、俺たちは明日への英気を存分に養ったのだった。

 

 

 

 

 食事会が終わり、それぞれが部屋に戻った夜更けのこと。

 レッド寮に一人の男が訪れる。男は十代にあるものを託し、エドにもまた十代と同じものを託したのである。決してこれを奪われてはならないと二人に言い聞かせて、男は幻のごとく消えたという。

 夢か霞か……二人は一瞬疑うものの、しかし、その手には確かに受け取ったものが存在していたのである。

 この時から、状況は変化を始める。男の行動は今の緩やかに進む状況に一石を投じたのだ。

 これにより、この島に起こっている事態を動かす歯車は、徐々に加速していくことになるのだった。

 

 

 

 


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