遊戯王GXへ、現実より   作:葦束良日

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第3話 覗き

 

 入学以降、なんだかシンクロ召喚見たさに色んな人にデュエルを申し込まれて、ちょっと困ってる遠也です。

 

 ラーイエロー、オベリスクブルーの生徒がその大半だ。オシリスレッドの生徒は、なぜかあまり挑んでこない。

 中には三沢大地もいた。デュエルのあとにシンクロ召喚について根掘り葉掘り聞いてきたあたり、本当に勉強熱心な奴だと感心したもんだ。

 ちなみに今のところすべて勝っています。そしてデュエルしながら、元の世界から持ってきたカードを使ってデッキ調整をする日々だ。持ってきたカードはそれほど多くないからな。細かな調整を繰り返して、この時代のデュエルに対応できるようにしないといけない。

 ただ、この世界では強欲な壺や天使の施しがまだ現役なのが痛い……。俺の世界では禁止カードだったから、持ってないんだよね。まぁ、そのぶん他のドローカードやモンスター効果とかで何とかするわけだけど。

 それに、少しはデッキも応えてくれるようになってきていると思う。1年以上共にこの世界で戦い過ごしてきたんだから、そんなこともあったらいいなぁ。カードゲームに、そこまで期待しちゃいけないのかもしれないけどさ。

 ちなみに、それこそ一日に何度もデュエルを申し込まれているのだが、それを苦に思ったことはない。元の世界では遊戯王OCGはこの世界ほど一般的ではなかったからな。それに、ソリッドビジョンもなかった。だからこそ、今こうして思う存分デュエルできることが楽しくて仕方がない。

 そこら辺で十代とは気が合うのか、あのデュエル以降頻繁に行動を共にしている。やれデュエルだ、やれあのメシが美味そうだ、やれこのカードを入れるべきだ、等々。違う寮のくせにかなり親交を深めていると思う。

 翔曰く、「似た者同士っすね」だそうだ。まぁ、デュエルは好きだからな。いいじゃない、別に。

 ちなみにメインキャラでデュエルをしたことがあるのは、十代と丸藤翔、前田隼人と三沢大地だけだ。……オベリスクブルーにはねぇ、あんまりこっちから近づきたくないんだよね。あそこ、居心地が悪いし。負けた後に捨て台詞とか言うし。

 とはいえ、一応シンクロの概念の普及も頼まれている身。よほどのことがなければ挑まれたデュエルは受けるようにしている。ただ、こっちからは行かないというだけである。

 さて、そんな日々を過ごす俺は、夜の自室でマナとおしゃべりに興じていた。部屋は一人部屋であるため、マナも気兼ねなく実体化している。なんでもお菓子やジュースを飲み食いしたいからだそうだ。まぁ、精霊状態じゃ出来ないわな。

 けど、それなら格好を普通の格好にしてほしい。あの服装って露出が激しいんだよな。夜にそういう格好で実体化されるのは、困る。紳士的に。

 しかし、本人はその姿が一番過ごしやすいらしく、滅多に服を着替えることはない。せいぜいが帽子を脱ぐくらいか。……布面積減ってるじゃん。

 今日も今日とてそんな感じに過ごしていた俺たちだが、不意にマナが人の気配を感じたと言って精霊化する。ほどなく、俺の部屋のドアが突然開け放たれた。

 ……おい、ノックしろよ。

 

「遠也! 翔がさらわれたんだ、力を貸してくれ!」

 

 あー、なるほど、今日だったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば、別にかまわないけど、なんで十代はわざわざラーイエローまで来たのか。オシリスレッドの誰かを連れていけばよかっただろうに。

 疑問に思って聞いてみたところ、なんでもオシリスレッドで声をかけた生徒は全員、二の足を踏んだからだそうだ。それというのも、ただでさえ後がないオシリスレッドなのに、夜に出歩くという校則違反を犯して退学になるのを避けたいからだとか。

 まぁ、そういう理由ならある意味で仕方がない。彼らにも目的があったり、お金を出してもらって学校に通えているのだ。それがフイになるかもしれないような選択を突然突きつけられて、即座に頷ける人間は少ない。当然のことだ。

 というわけで、十代は時間が惜しいということでオシリスレッドを離れ、ラーイエローで一番仲が良く、更に実力もはっきりしている俺のところに来たというわけらしい。

 ふむ……そこまで高く買ってもらえるとはな。

 

『とーやー。顔が緩んでるよ』

 

 おっと、いかんいかん。

 マナに言われ、表情を引き締める。翔が拉致されたというのに、不謹慎だぞ俺。

 ともあれ、そうまで頼りにされては応えるのが男というもの。まして、十代の頼みである。ここはこの皆本遠也、全力で翔の救出に力を貸そうじゃないか!

 

 

「――……って、思ってたのになぁ。これはないわ翔」

「だから冤罪だよ! 僕は覗いてないー!」

 

 細かいところは覚えていなかったから、大したことじゃないんだろうと思っていたが、ある意味大したことだったな。犯罪的な意味で。

 だがしかし、その翔自身はやっていないと言っている。……容疑者本人の弁解って証拠能力あるんだろうか?

 とはいえ、実のところ俺は翔がそんなことをやったとは全く思っていない。だって、ねぇ?

 

「翔、わかっている。お前は無実だ」

「うぅ、信じてくれるんだね、遠也くん! ありが――」

「お前にそんな度胸はない」

「……う、ぐ、な、なんか複雑」

 

 否定したいが、そうなると覗きをしたと間接的に認めてしまう。かといって、男の矜持として度胸がないというのは認めがたい。

 そんな板ばさみにさらされた翔の気持ちは、推して知るべし。

 ちなみに現在の状況は、翔が手を縛られた状態でオベリスクブルーの制服に身を包んだ女生徒3人の傍にいるところだ。それに相対する形で俺と十代が立っている。

 時刻は夜、場所は湖、オベリスクブルー女子寮の小さな港。こういう状況でもなければ、それなりのロマンスが期待できるシチュエーションなのになぁ。向こうの女性は3人とも美少女なのに。残念。

 特に真ん中のリーダー格の女子。天上院明日香。さすがはメインヒロインだけあって、スタイルもよく美人だ。とりわけあの胸は同年代とは思えん。マナに匹敵するぞ。いや、全くもってけしからんな。おっぱい。

 

『と・お・や? なにを見てるのかなー?』

「痛い、痛い! 何をするだー!」

「……何やってんだよ、お前ら」

 

 相手から見えない背中で部分的に実体化するという器用な技を使って、俺の背中をつねるマナ。しかも結構力こめやがって、痛いっての。

 そして、精霊が見える十代には一部始終を見られ、呆れられてしまった。シリアスになれなくてごめんなさい。

 

「まぁ、いいや。で、なんだっけ。デュエルすればいいんだったか?」

「ええ。あなたが勝てば翔君は解放するわ。覗きの件も今回は目を瞑ってあげる」

 

 十代の問いかけに、明日香が答える。

 覗き容疑で捕えられた翔だが、どうもこれは元々明日香が十代とデュエルすることが目的みたいだな。翔はその口実にされたようだ。

 だって、明日香はもう翔のことなんか全く見ていない。十代だけを見ているからな。わかりやすいことで。

 

「俺は挑まれたデュエルからは逃げないぜ! 受けて立つ!」

「そうこなくちゃ」

 

 というわけで、わざわざボートに乗って湖の真ん中まで移動する俺たち。そして互いのボートを離して距離をあける。そして十代と明日香はデュエルディスクを構え、互いに開始の宣言をした。

 

「「デュエル!」」

 

 

 

 

 

 ……で、結果は十代の勝ち、と。

 どうやら基本的に明日香のデッキは戦士族、それも《サイバー・ブレイダー》を中心としたデッキ構築をしているようだ。しかし、サイバー・ブレイダーか。なかなかにクセがあるモンスターを使う。その分、使いこなせれば強いだろうし勝った時の喜びもひとしおだろうが。

 ただ、《ドゥーブルパッセ》のような使いどころの難しいカードを、そんなクセの強いデッキに投入するのは、ちょっとどうだろうか。《エトワール・サイバー》とのコンボだとしても、600ポイントの攻撃力上昇だけだとなぁ。LP4000の場合、それでもいい、のか?

 ともあれ、十代のサンダー・ジャイアントがフィニッシャーとなって、十代は明日香に勝利した。これで翔は解放され、めでたしめでたし、か。

 

「よかったな翔。十代と俺に感謝しろよ」

「遠也くんは何もしてないじゃないか。来てくれたのは嬉しかったけど」

 

 確かに。

 

「よっし! 遠也、翔、帰ろうぜ!」

 

 デュエルが終わり、明日香と話していた十代がこちらに振り返る。何を話していたのかは知らないが、帰っていいなら帰るか。もう夜だし。教師に見つかったら事だしな。

 

「だな。それじゃあ――」

「待って」

 

 帰るか、と二人に言おうとしたところで、俺の言葉は突然遮られた。待ったをかけたのは明日香である。なんぞ私めにご用でも?

 

「本当は十代だけを呼んだつもりだったけど、あなたもいるのは嬉しい誤算だったわ。皆本遠也、私とデュエルしてくれないかしら?」

 

 なぜ俺まで。

 というのが、俺の正直な感想だった。目的はまぁ、シンクロ召喚で間違いないだろうけど。だが、俺は挑まれればデュエルは受ける。毎日そうしているのだから、知らないはずがないだろうに。

 もっと明るく時間に余裕がある時を希望したい。今は夜だ。まだ眠くはないが、それでも外にいるよりは部屋に帰りたい気持ちが強い。

 

「明日じゃダメか? 頼まれれば受けるぞ」

「けど、あなたはオベリスクブルーの生徒とのデュエルを極力避けているでしょう? ブルー生が近付く場所にはあまり来ないし……気持ちはわかるけど」

「ブルーの生徒に負けたくないからって、情けない」

「もっと堂々となさったら?」

 

 明日香に続き、ジュンコとももえ、だったか? さっき聞いた限りだと。その二人も何か言いだした。

 けど、明日香の言う「気持ちはわかる」はそういう意味じゃないと思うぞ。事実、明日香は二人の言葉に溜め息をついてるし。

 けど、やっぱりバレてたのか、俺がブルーを避けてるの。無論、見つかって挑まれれば受けているが、やはり気持ちよく終われないデュエルはあまり乗り気になれない。だから避けているのだが、明日香はその俺の心情を察していたようだ。

 けどまぁ、そういうことなら、いいか。よくよく考えたら、明日にして明日香との勝負を他のブルー生に見られるのも面倒だしな。勝っても負けても何か言われそうだし。

 それぐらいならここで受けて、楽しいデュエルをしたほうが断然いいや。

 そうと決まれば、やることはひとつだ。

 

「悪いな十代、翔。帰るのはもう少し遅れそうだ」

「俺は構わないぜ。遠也と明日香のデュエルを見るのも楽しそうだしな!」

「遠也くん、頑張るっす!」

 

 十代と翔の応援を受けて、俺は明日香に向き直る。向こうは既に準備万端だったようで、既にディスクを構えていた。

 

「ふん、どうせ明日香さんには敵わないわ」

「ブルー生から逃げるような方ですもの。器が知れますわ」

 

 そして口先が絶好調なお二人。あ、明日香に窘められてヘコんでる。

 

『むぅ、あの二人感じ悪い。頑張ってね、遠也!』

「おう! さて……」

 

 デッキはもちろんいつものデッキ。そして、デュエルスタートボタンをぽちっとな。

 デュエルディスクにライフポイントが表示され、準備完了!

 

「「デュエル!」」

 

遠也 LP:4000

明日香 LP:4000

 

「先攻は私ね。ドロー!」

 

 ちなみに、この世界では先攻後攻はスタート時にデュエルディスクに表示されます。決して言った者勝ちなんていう不公平なルールではないので、あしからず。

 

「私は《エトワール・サイバー》を召喚するわ」

 

《エトワール・サイバー》 ATK/1200 DEF/1600

 

 来たか。さっきも出てきていたし、3積みされているのかもしれない。ちなみに日本語版では裸のような格好だが、英語版では服を着たモンスターである。

 

「更にカードを2枚伏せて、ターンエンドよ」

 

 ふむ。十代とのデュエルを見るに、伏せてあるカードには《ドゥーブルパッセ》がある可能性があるな。もしくは補助系の魔法、はたまたカウンター罠か。

 まぁ、考えてもわからん。思うままにプレイするのみだな。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ……なるほど。いきなりいけそうだが、手札には優秀なリバースモンスターがいる。ここは様子を見るか。

 

「俺は手札から《おろかな埋葬》を発動! 自分のデッキからモンスターを1体選択して墓地に送る。俺は《ジャンク・シンクロン》を墓地に送る。更にモンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

 ひとまず無難に終える。最初だし、こんなもんでしょ。

 

「意外と堅実なのね。私のターン、ドロー!」

 

 カードを見て、明日香は小さく笑う。何かキーカードでも引いたのか?

 

「私は手札からフィールド魔法、《フュージョン・ゲート》を発動! このカードが存在する限り、《融合》を使用せずに融合召喚が出来る! 私は場のエトワール・サイバーと手札の《ブレード・スケーター》を融合!」

 

 いま引いたカードはフュージョン・ゲートかブレード・スケーターだったのか。しかし、結構すぐにエースを出すよな、十代も明日香も。まぁ、それは俺もなわけだが、シンクロ召喚はそこらへん緩いからなぁ。融合召喚でこうもポンポン出すのは、流石としか言えん。

 

「《サイバー・ブレイダー》を融合召喚! そして融合素材となった2体はフュージョン・ゲートの効果で除外されるわ」

 

《サイバー・ブレイダー》 ATK/2100 DEF/800

 

 長い髪をなびかせ、赤いバイザーをつけた女性がフィールドを滑走するように現れる。モデルがフィギュアスケートだからこその演出だろうか。

 このモンスターは効果が厄介だからな。相手フィールドのモンスター数によって効果を変えるという特殊なモンスター。さて、どう攻略するか。

 

「更に私は永続魔法カード《地盤沈下》を発動! あなたの使用していないモンスターゾーン2ヶ所を指定し、使用不能にする!」

「いぃ!?」

 

 おいおい、まさか【トランス】デッキか? いや、【トランス】に必要なおジャマは後の万丈目にとってのキーカードだったはず。だとしたら、おジャマなしの【トランス】?  にしても珍しい。まぁ抜け道は結構あるから、そう問題ではないが。

 

「バトルフェイズに入るわ。サイバー・ブレイダーでセットモンスターを攻撃! 《グリッサード・スラッシュ》!」

 

 身体を勢いよく回転させ、そのまま近づいてくる。遠心力を利用した攻撃か。本当に、モデルになったスポーツならではの行動をするモンスターだ。

 そしてそのまま繰り出された鋭い蹴りがセットモンスターに炸裂。カードが反転され、モンスターが現れる。

 

「セットしていたのは《ライトロード・ハンター ライコウ》だ。そしてそのリバース効果が発動! フィールドに存在するカード1枚を選択して破壊できる。俺はサイバー・ブレイダーを選択する!」

 

《ライトロード・ハンター ライコウ》 ATK/200 DEF/100

 

 ライコウの効果によって、攻撃を仕掛けたサイバー・ブレイダーがライコウと共に消滅する。サイバー・ブレイダーの効果は正直面倒くさいからな。早めに除去できたのは僥倖だった。

 

「更にライコウの効果。デッキの上からカードを3枚墓地に送る」

 

 落ちたのは《ボルト・ヘッジホッグ》、《カードガンナー》、《死者蘇生》か。まぁ、ボルト・ヘッジホッグが落ちてくれたから良しだな。

 

「くっ……、メインフェイズ2に罠発動! 《リビングデッドの呼び声》! サイバー・ブレイダーを復活させ、ターンエンド!」

 

 再び明日香のフィールドに舞い戻るサイバー・ブレイダー。さすがはエース、そう簡単に墓地に行ってはくれないか。

 だとしたら地盤沈下のほうを除去すべきだったかな。まぁ、蘇生カードを早くから使わせられたと思っておけばいいか。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 おお、そうきたか。下手したらこれで決まっちまうぞ。

 

「俺は手札から《グローアップ・バルブ》を墓地に送り、チューナーモンスター《クイック・シンクロン》を特殊召喚する!」

 

《クイック・シンクロン》 ATK/700 DEF/1400

 

 俺のデッキではおなじみ、クイック・シンクロンさんです。

 今日もよろしく頼んます、先生!

 

「チューナー……! それがシンクロ召喚の要となるモンスターね」

「その通り! そして場にチューナーがいる時、ボルト・ヘッジホッグはフィールドに蘇る。来い、ボルト・ヘッジホッグ!」

 

《ボルト・ヘッジホッグ》 ATK/800 DEF/800

 

 俺のフィールドに2体のモンスターが並ぶ。地盤沈下の効果で3体までしか俺はモンスターを並べられないが、それだけスペースがあれば十分だ。

 

「フィールドに2体……。でもこれでサイバー・ブレイダーの第2の効果が発動! 相手フィールドにモンスターが2体いる時、サイバー・ブレイダーの攻撃力は倍になる! 《パ・ド・トロワ》!」

 

《サイバー・ブレイダー》 ATK/2100→4200

 

 

 サイバー・ブレイダーの攻撃力が結構な高さに上がるが……問題ない。俺の手札に勝利の方程式は既に完成している……!

 と、いうわけで。

 

「俺はレベル2のボルト・ヘッジホッグにレベル5のクイック・シンクロンをチューニング!」

 

 合計のレベルは7! そして、クイック・シンクロンが代わりを務めるのは、ジャンク・シンクロンだ。

 

「集いし叫びが、木霊の矢となり空を裂く。光差す道となれ! シンクロ召喚! 出でよ、《ジャンク・アーチャー》!」

 

 光の輪より溢れた輝きから、その名の由来となる弓矢を持った細身の戦士が現れる。

 アニメで遊星もそこそこ使っていたが、なぜか大きな活躍を残したことがない不遇なモンスターである。除去には成功しても、なぜか直接攻撃をいつも防がれているんだよなぁ。

 だが、今日この状況では最も頼りになるモンスターだ。こいつが今日のキーカードだぜ。

 

《ジャンク・アーチャー》 ATK/2300 DEF/2000

 

「これがシンクロ召喚……。融合が必要ない融合召喚、というのは言いえて妙だったわけね」

「誰が言ったのかは知らないが、そうだな。ただシンクロ召喚の場合、レベルを足すという特性上、モンスターをいったん表側表示でフィールドに出す必要がある。融合が必要ないのは利点だが、そこが欠点でもあるな」

「なるほどね。さすがはペガサス会長、よく考えられた画期的な召喚方法だわ」

 

 うん、ごめん。考えたのはペガサスさんじゃない、高橋先生なんだ。

 ペガサスさんはむしろこれを話した時、「ワンダフル! そんな召喚方法まったく思いつきませんでした! アンビリーボォー!」って言ってたからな。素直に感心してる明日香には、言わないでおこう。

 

「俺の場のモンスターが1体になったことで、サイバー・ブレイダーの効果は第1の効果……戦闘破壊されない効果に変わる。けど、コイツの前では関係ないんだなこれが」

「どういうこと?」

「こういうことさ。ジャンク・アーチャーの効果発動!」

 

 その言葉と同時に、ジャンク・アーチャーが矢を番える。そして、その狙いをサイバー・ブレイダーに定めた。

 

「1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体をエンドフェイズまで除外する! 《ディメンジョン・シュート》!」

「なんですって!?」

 

 ジャンク・アーチャーが放った矢がサイバー・ブレイダーに突き刺さり、そのまま次元の彼方へと消し去る。再びさらば、サイバー・ブレイダー。

 そして、その効果を前にしたギャラリーからは驚きの声が上がる。

 

「何よそれ! 1対1ならほぼ確実にダイレクトアタックが出来るじゃない!」

「強力な効果ですわね……」

「俺も前にあれで直接攻撃食らったことあるぜ」

「僕もっす」

 

 以上、周囲の反応でした。

 しかーし、俺のメインフェイズはまだ終わってないんだよね。ってなわけで、次だ。念のため、サイバー・ブレイダーの復活も阻止しておく。

 

「更にリバースカードオープン! 速攻魔法《異次元からの埋葬》! 除外されているモンスターを3体まで選んで墓地に戻す。俺が選択するのは1体! いま除外したサイバー・ブレイダーを墓地に戻してもらう!」

「そういうこと……! ジャンク・アーチャーの効果はエンドフェイズまで除外する効果。ということは……」

「お察しの通り。その間に墓地に行ってしまえば、エンドフェイズに復帰することはない」

 

 アド的には微妙なコンボだが、それでも状況によってはそれが決まり手になることもある。もともと他の利用目的で入れていた魔法カードだが、こういう使い方も面白いっちゃあ面白い。

 

「そしてもう1枚の伏せカードは速攻魔法カード《サイクロン》! 天上院の伏せカードを破壊する!」

 

 伏せカードがサイクロンによって墓地に行き、明日香のフィールドには対象がいなくなり、無意味に残ったリビングデッドの呼び声と地盤沈下、そしてフュージョン・ゲートのみだ。ちなみに伏せてあったのは《攻撃の無力化》。ドゥーブルパッセじゃなかったのね。

 伏せカードを破壊し、サイバー・ブレイダーの復活も潰した。念には念を入れたんだ。これでもう怖いものは何もない。

 このままダイレクトアタック! ……する前に。まだ俺には出来ることがある。

 

「そして、俺はまだ通常召喚を行っていない」

「あ……」

 

 明日香が思わず呆けたような声を出す。それは忘れていたのか、それともこの先の展開を予想したからなのか。

 

「俺は《シンクロン・エクスプローラー》を召喚! 効果により、墓地のシンクロンと名のつくモンスターを効果を無効にして特殊召喚する! ジャンク・シンクロンを蘇生!」

 

《シンクロン・エクスプローラー》 ATK/0 DEF/700

《ジャンク・シンクロン》 ATK/1300 DEF/500

 

 そしてシンクロ召喚は特殊召喚。メインフェイズになら何度でも行える。

 

「レベル2のシンクロン・エクスプローラーに、レベル3ジャンク・シンクロンをチューニング!」

 

 レベルの合計は5となる。来い、このデッキの切り込み隊長!

 

「集いし星が、新たな力を呼び起こす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 出でよ、《ジャンク・ウォリアー》!」

 

 よくよく出てくるジャンク・ウォリアーさん。デュエルをすると六割以上の確率で出てきます。だって、出しやすいんだもん。

 

《ジャンク・ウォリアー》 ATK/2300 DEF/1300

 

 さぁ、これで準備は整った。今度こそ、バトルフェイズに入る!

 

「バトル! ジャンク・ウォリアーとジャンク・アーチャーでダイレクトアタック! 《スクラップ・フィスト》! 《スクラップ・アロー》!」

「きゃああっ!」

 

明日香 LP:4000→0

 

 2体の攻撃、矢と拳がそれぞれ明日香自身に襲いかかり、そのライフポイントを削り取る。そして4000あったライフが一気に0を刻んだ。

 うん、久しぶりにワンキル達成だ。いや、今日はなかなか良かった。初期手札がサイクロン、ライコウ、バルブ、おろかな埋葬、異次元埋葬だった時はどうしようかと思ったが……。そこにエクスプローラーを引き、次のターンにクイックを引いたのだ。

 その時点で墓地にはジャンク・シンクロンとボルト・ヘッジホッグがいた。相手の場にはモンスター1体、伏せ1枚、フュージョン・ゲート、地盤沈下、リビデ、である。これで負けろというのが無理だった。

 まぁ、あの伏せカードが《和睦の使者》とかだったら、まだわからなかったわけだが。けど、実際にはそうではなかった。一応サイバー・ブレイダーは墓地に送っていたが、このターンを過ぎれば何か逆転の手を引いたかもしれないからな。

 とはいえ、それはもしもの話。勝ったから、何も問題はない。

 

「そ、そんな……。明日香さんが……」

「2ターン目で、それもワンターンキルだなんて嘘ですわ……」

 

 そして何やら呆然としているジュンコとももえ。それだけこの結末は衝撃的だったのだろう。

 ビートダウンが主流のこの世界では、こうして短時間で決着がつくことは稀だろうからな。だからこそ、こうしてワンターンキルが起こると騒がれるわけだが。

 

『ふふーん。思い知ったか』

 

 そしてそんな二人を見て、なぜか得意げに胸を張っているマナ。何をやってるんだと思うものの、それだけ俺を馬鹿にされたのが気に入らなかったのだと思えば嬉しく思う気持ちも湧く。可愛い奴め。

 

「マナ」

『うん?』

「サンキュー」

『あ、うん! えへへ』

 

 感謝の気持ちを素直に表せば、マナはなんだか照れて赤くなった。

 

「おー、今日は上手く決まったな遠也!」

「まあな。運が良かったよ」

 

 十代の言葉に苦笑して返し、少しだけ上げられている手に己の手を合わせ、パチンと小さなハイタッチを交わす。

 明日香の伏せカードが鍵だったが、攻撃反応型のカウンター罠だったからな。上手いこと決まってくれたと俺も思う。同時に、そんなに上手くいくことなんか滅多にないとも思うわけだがね。

 さて、その明日香だが。不満げに見てくるジュンコとももえを手で制し、真っ直ぐにこちらに顔を向けた。それに応えるように、俺も向き直って明日香と視線を合わせる。

 

「さすがね、遠也。最強のイエローの名前は伊達じゃないわね」

「………………は?」

 

 え、なにそれ。二つ名とかついてるの、俺? 超恥ずかしいんですけど。

 

「知らなかったの? オシリスレッドの遊城十代、ラーイエローの皆本遠也。強い新入生として有名よあなたたち」

 

 おいおい、そんなことになってたのか? 知らなかった……。

 まぁ、あれだけデュエルして一敗もしなければ、強いと思われるのも無理はない、のか? 実際弱いつもりではないが、なんだかなぁ。

 

 ラーイエローでは筆記こそ三沢に負けているが、実戦では今のところ無敗だからな。それを考えれば、ラーイエローで最強というのは間違いではない。

 実のところ、十代には勝ち越してこそいるが既に三度ほど負けた。さすがは十代と言うべきだろうが、今の時点で負けることになるとは。これでネオス手に入れたらどれだけ強くなるんだ……。

 

「おー、俺もかぁ。へへ、最強のレッドってのもカッコイイな!」

 

 俺がそう呼ばれているらしい以上、セットで十代もそう呼ばれている可能性は高いな。

 十代はそう称されることに満更ではないらしく、戸惑うどころか誇らしげですらあった。その単純さが羨ましいぜ、友よ。

 明日香はそんな俺達を見つめ、ふっと小さく笑った。

 

「だから、私は興味を持ったの。そんなあなたたちとデュエルをしてみたいって。特に遠也は知らない戦術を使うしね。こんな形になってしまったのは、素直に謝らせてもらう。……けど、デュエルできて良かったわ」

 

 穏やかな顔でそう言う明日香の顔を見て、俺と十代は一度顔を見合わせる。

 そして、互いに笑って、明日香の言葉に答えを返す。

 

「ガッチャ! 俺もだ、楽しいデュエルだったぜ!」

「もちろん俺もな、天上院。いいデュエルだったぜ」

 

 それぞれそう言って健闘を称えると、明日香はその言葉に同意を示すように頷いた。そして、再び口を開く。

 

「明日香でいいわ。十代はもうそう呼んでいるけど、遠也もね」

 

 と、直々にお許しが出た。後で聞いた話だが、十代たちは明日香と初めて会った時――オベリスクブルー専用のデュエル場で万丈目に絡まれた時に名前を知り、それ以降そう呼ぶようになったらしい。

 そして今許しが出た俺も、早速名前で呼ばせてもらう。

 

「了解。よろしくな、明日香」

「ええ」

 

 そうしてデュエルを通じて友情を築くという、熱血漫画のような経緯で俺と明日香は友人となった。ま、それを言ったら十代も……いや、翔も……いや、海馬さんも……あれ、城之内さんもか? ……この世界って、やっぱ何でもデュエルだよな……。

 その後、明日香のとりなしもあってジュンコとももえも一応俺たちと挨拶を交わした。そして俺たちはそれぞれの寮に戻るために別れ、互いのボートを漕いで岸へと向かっていった。

 そして岸についた俺は十代と翔と別れ、ラーイエローの自室まで戻ってきた。教師に見つかることもなく辿り着けて良かった。もう夜中に出かけるようなことはないだろうが、こういうのは心臓に悪いからな。

 ふぅ、と知らず詰めていた息を吐き出し、俺は背中から倒れこむようにベッドに横になる。そして、その隣に実体化したマナが腰を落とした。

 

「お疲れ様、遠也」

「ホントだよ……。デュエルするのはいいけど、こんな時間に出歩く羽目になるとは思ってなかったからな」

 

 いつどこでどんなイベントがあったかなんて、細かいところは覚えていない。今日の件も、十代が来なければ気付くことはなかったぐらいだ。

 

「ま、翔のためだったしな。こういうのもたまにはいいって」

 

 十代、隼人と併せて、俺の数少ない同い年の友人なんだ。苦労は苦労だが、これぐらいなら許せる。もっとも、本当に覗いていたとしたらフルボッコだったが。

 

「やっぱり、遠也って友情に厚いよね」

「そりゃそうだろ。俺には前提がないんだから、友達が少ないんだよ。その分大事にしたいのは当然だ」

 

 この世界で生きてきた、という生きていれば当たり前の前提が俺にはない。それはつまり、この世界に来る瞬間まで俺は誰ひとりと関わりを持っていなかったということだ。

 同じ故郷、同じ学校、同じクラス、血の繋がり……。そういった前提がない俺にとって、友人というのは作りづらいものだった。まして、俺はこの世界に来て早い段階で武藤家のお世話になり、その後ペガサスさんに保護者となってもらっている。

 そして、この世界に慣れることやペガサスさんとシンクロギミックについての調整をしていたため、同い年と知り合う機会なんて全くと言っていいほどなかったのだ。

 そのため、俺はこの世界で関わりを持った人――遊戯さん、海馬さん、ペガサスさんといった人たちを始め、友人関係となった十代たちのことを殊更大事に思っている。

 ま、その気持ちがどれだけ切実なものなのかは……たぶん俺にしかわからんだろうけどな。

 

「……ね、遠也」

「ぁふあ? あ、悪い、欠伸出た。で、なんだ?」

 

 声が掛けられると同時に出てきた欠伸を噛み殺しつつ言うと、マナはなんだかやるせない顔で溜め息をついた。いきなり失礼だなおい。

 

「空気読まないなぁ、もう。慰めてあげようかと思ったのに」

 

 不満げに口をすぼめて見せる。

 なんだそりゃ。……ああ、俺が事情を思い起こして沈んでると思ったのか。俺がこの世界に来たばかりの頃を、マナは思い出したのだろう。一年前は確かにこうしてマナに話して、散々愚痴を聞いてもらったっけ。

 今思えば気恥ずかしい黒歴史だが、おかげで気持ちが整理できたのは良いことだった。そして、それはもう一年も前のことだ。今じゃ、そんなに沈みこんだりはせんよ。

 

「お生憎だな。もうお前にそんな迷惑はかけんさ」

 

 にやりと笑って言えば、マナはちょっと寂しさを覗かせたものの、すぐにその表情を明るいものに変化させる。

 

「それは残念。せっかく、とっておきの手段だったのに」

 

 そして、悪戯気に笑った。

 ほう、とっておきとな。気になった俺は、知りたいという衝動のままに尋ねる。

 

「ちなみに、何をするつもりだったんだ?」

「ふふーん、添・い・寝」

「ぬぁにぃっ!」

 

 思わず跳ね起きた。

 そして隣に座っているマナを見るが、マナは既に手を振ってじゃあねーと言いつつ精霊化していた。ご丁寧にそのまま部屋の外に出て行ってしまう。

 後に残されたのは、驚きと僅かな期待で飛び起きた俺一人。……からかわれたと悟った俺は、とりあえずベッドに横になる。そして、心の中でシャウトした。

 あ、あの野郎! ……いや、女郎? まぁ、いいか。ともかくアイツめぇ……! 男の純情を弄びやがって! 期待した自分が悔しいっ!

 ぐぎぎと唸りつつ、帰ってきたらどうしてやろうかと考える。しかし、そんなことをベッドの上で横になって行ったのが良くなかった。

 なぜなら、次第に眠くなった俺の意識はいつの間にか途絶えてしまったからである。

 ――そして、気がついた時には翌日の朝。そのまま寝たために皺だらけになった制服を視界に映し、俺は起きぬけに大きな溜め息をつくこととなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 部屋を出たマナは、扉の前で立ち止まる。そして一つ溜め息をついた。

 きっと遠也は今頃マナの言葉を冗談として受け取り、からかわれたと憤慨しているだろう。そういう人だ。一年間、ずっと近くで見ていたマナにはよくわかっていた。

 

『……冗談ってわけでも、ないんだけどねー』

 

 そこまで言ったところで、マナは口をつぐんだ。そして、そのままふよふよと寮の中を浮いて行く。

 とりあえず、遠也が寝るまで散歩でもしよう。戻ってお仕置きされるのも嫌だし。

 そんなことを考えながら。

 

 

 

 

 ――ちなみに、翌朝。

 いつものように遠也を起こしたマナは、昨夜のことを忘れていなかった遠也によるお仕置きを受けた。

 遠也はマナの頬を八つ当たりと知りつつ引っ張り、そのためマナはその日頬の痛みが取れなかったそうだ。

 

 

 

 


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