遊戯王GXへ、現実より   作:葦束良日

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間話 休み-刷新-

 

 その日、朝からテレビはあるニュースで独占されていた。

 テレビ局、新聞社、それぞれにそれぞれの見出しが躍り、そのニュースを報道する。様々な言い方をされてはいるが、要約すればそのニュースとはこういうことである。

 

 曰く、「I2社 デュエルモンスターズのルール改訂を発表!」と。

 

 

 ――後に、今年はデュエルモンスターズの革命期と言われるようになる。

 理由は二つあり、そのうちの一つにして最も大きな理由が、シンクロモンスターの登場である。

 融合カードを必要とせず、融合デッキからモンスターを特殊召喚する。そういった効果を持つ融合モンスターはこれまでにも少なからず存在していた。だが、それはあくまで融合モンスターであり、その枠を出ることはなかったのである。

 しかし、ここで新たに登場したシンクロモンスターは違う。融合デッキから召喚されることは一緒だが、チューナーと呼ばれるモンスターが必須であり、また素材は全てフィールドに表側表示で存在しなければならない。

 またレベルの合計分と等しいレベルのモンスターを特殊召喚するという性質上、レベルの低いモンスターは必然的に重要度が増す。これまでのステータス至上主義に一石を投じるそのシステムは、素人目にも画期的だったのだ。

 融合モンスターとは全く異なる手法で召喚されるモンスターのため、新たに「シンクロ召喚」と「シンクロモンスター」として分類されたそれらは、そういった意味もあり従来のデュエルモンスターズとは一線を画す存在だと評されたのである。

 それが革命期と呼ばれるようになる最も大きな理由である。

 

 

 そして第二の理由こそがニュースとなって世界中を駆け巡ったI2社による発表。

 俺が行ったシンクロ召喚のテスト、そしてそれを一般に少数ながら流通させてみる第二段階。それらの検証を終えたために発表された――「ルール変更」である。

 これは元の世界で言うマスタールールにかなり近いものだ。

 これにより把握しておかなければならない重要な要素は、まず名称の変更である。

 「融合デッキ」は「エクストラデッキ」に変更。これは融合モンスターだけでなく、シンクロモンスターもそのデッキに加えるためである。

 そして「生け贄召喚」は「アドバンス召喚」に変更。これは単に名称があまりに直接的だったからだと思う。同じく「生け贄」も「リリース」となった。

 次に枚数制限の変更も重要だ。

 メインデッキは40枚以上から40~60枚へ。エクストラデッキは0枚以上から15枚以下、と。それぞれに上限が定められた形だ。

 ちなみにサイドデッキについてはノータッチである。マッチ戦が大会の主流ではないこちらの世界では必要がないからだろう。

 

 

 とまぁ、これがつい先日にI2社から発表されたルール変更の概要である。

 俺がシンクロ召喚を持ち込んだ時点で、5D’s時代に当たり前だった名称やルールへの変更が早まることは予想していたが、思ったよりも早かったという印象である。

 これにより、アカデミアで教えられる内容にもかなり修正が加えられることになるだろう。また、旧カードのエラッタも大変なことになる。しばらくはカード界も騒がしくなりそうだ。

 俺にしてみれば元に戻っただけだが、この世界の人にしてみればずっと慣れ親しんできた常識が打ち砕かれたようなものだ。馴染むには暫しの時間を必要とするだろう。

 この間ペガサスさんと電話で話した時も、「ルールの変更を発表した後、もし困っている子が周りにいたら助けてあげてくだサーイ」と頼まれた。無論、俺は快く頷いたので、新ルールが定着するまでは俺なりに手伝っていこうと思っている。

 ペガサスさんも今はカードのエラッタなどで大変だそうだ。隼人のような新人の手も借りて急ピッチで行っているらしく、隼人は「カードデザインも並行してやるのは大変なんだな」と苦笑交じりにぼやいていた。

 その時はその話を中心に、俺がアカデミアでやっていたこと、ペガサスさんが既にシグナーの竜は全て手放したこと、その他諸々互いの近況などを話した。

 トラゴエディアの話になって、ペガサスさんの声が険しくなったのは言うまでもない。千年アイテムに関わる話だけに、他人事とは思えなかったのだろう。

 尤も、既にトラゴエディアは消滅しているし、三幻魔も再封印されてるので心配はない。それらの話を聞いたペガサスさんは相槌を打ちつつ、そのうち視察に行く、と言っていた。

 まぁ、忙しい人なのでだいぶ先のことになりそうな話ではあったが。

 ちなみに。俺とマナがそういう関係になったことを話すと、一気にテンションが上がったのはこれまた言うまでもないことだった。

 

 

 

 

 そんなわけで、朝からテレビはデュエルモンスターズのルール改訂の一報で大賑わいだ。

 恐らく全国のカードショップの話題もそれだろうし、カード関係者全員が驚愕と共にニュースを見ていたに違いない。

 まぁ、アカデミアのように事前にそういったことを知っていないと支障が出る関係各所には通達が先に行っているかもしれないが……。基本的に一般人は今日初めて知ったわけだから、かなり混乱していると思われる。

 まだまだ従来のデッキのまま戦うデュエリストが多いとはいえ、シンクロモンスターの使用が可能になっている以上ルールの変更は必要不可欠だ。

 何故なら、エクストラデッキの上限がない場合、シンクロモンスターの独壇場になる可能性が高い。レベルさえ合えば、素材指定がない場合どんなモンスターでも召喚できるという特性上、エクストラデッキに片っ端から詰め込めばそのぶん戦術の幅が広がるのがシンクロモンスターだ。ここで変更しておかないと、後で大変なことになるのは目に見えている。

 とはいえ、融合デッキに上限が設けられるなんて考えもしなかった面々にしてみれば、大きな戦術の変更を迫られたことになる。

 要するに、これからは融合デッキでもカードの取捨選択が必要になるということなのだから。

 きっと今頃、十代なんかは頭を抱えているに違いない。融合こそが本領である十代にとって、融合モンスターの枚数制限はかなり切実な問題だからな。

 融合が現在の主流である現環境では、このルール変更は大きな意味を持つと言っていいだろう。

 ……とはいえ、俺は特に問題はない。OCGの意識が根強く残っている俺は、最初からエクストラデッキのモンスターは15枚までしか投入していないからな。気楽なもんだ。

 そんなことを思いながら、ソファに預けていた背中をずるずると下げていき、ごろりと寝転がる。

 

「あ、遠也! 見た? 新ルールだって!」

「ん、ああ」

 

 と、そこにマナがパタパタとスリッパを鳴らしながら駆け寄ってくる。

 どうも俺より先に朝のニュースを見ていたらしく、ルールの改訂にかなり驚いたのだろう。少々興奮気味に話すマナだが、それに対して俺は寝転がったままで頷くだけだ。

 それを不思議に思ったのか、仰向けに寝ている俺の頭上に来たマナが上から見下ろしながら首を傾げる。

 

「あれ? あんまり驚いてないんだね」

「まぁ、元々俺の世界では一般的だったルールだからな」

 

 ちなみにシンクロやエクシーズを伝えた時に、一緒にペガサスさんに伝えていたものである。

 そう俺が返すと、マナは「なーんだ」と言って残念そうに笑う。

 

「遠也もルールの変更なんて大事には、驚くと思ったのになぁ」

「それは悪かったな」

 

 どうも驚きを誰かと共有してほしかったようだが、それを俺に求めてしまったのがマナの間違いだったな。俺としても一緒に驚いてやりたいが、さすがに既知のことである以上驚きようがない。

 俺はマナの顔を見上げつつ苦笑した。

 そんな中、マナは突然名案を思い付いたとばかりに手をポンと打った。

 

「そうだ! ねぇ、遠也」

「なんだ?」

「デュエルしようよ!」

「おう、いいぞ」

 

 問われ、あっさりと返答する。

 あまりにも即答過ぎたためか、マナがちょっときょとんとしていた。

 

「なんだか凄く即答だね?」

「まぁ、特に何か用事があったわけでもないしな。それに、女性からの誘いを断るような真似はしませんことよ、俺は」

「私以外の女の人からのも?」

「えーっと、訂正。お前からのものだけ」

 

 

 言葉のあやというか、口が滑った。俺が即座に訂正を付け加えると、マナは小さく噴き出して「冗談だよ」と笑った。ほっと胸を撫で下ろした俺である。

 さてと。デュエルするとなるといつまでも寝転んでいるわけにもいかないな。

 そういうわけで身を起こそうとするが、その前に俺の頭上に立って見下ろしているマナに言うことがある。

 

「ところでマナ」

「ん、なに?」

「今日は水色なんだな」

「へ?」

 

 寝転んでいる俺の頭上にマナが立ち、見下ろしている。ということはつまり、仰向けになっている俺の視界はそのまま下からマナを見上げた格好になっているわけで。

 つまるところ、丸見えなのだった。

 

「~~~っ!?」

 

 そして今のマナの格好は夏らしい部屋着である身体のラインを強調するぴったりとしたTシャツに、ミニのフレアスカートという出で立ちだ。

 自身がミニスカートで、かつ俺が下から覗いているという事態に気付いたマナが瞬時にその場から後ずさる。

 それを見終えてから、俺はゆったりと身を起こして立ち上がった。そして、若干頬を染めてこっちを見ているマナに、ぐっと親指を突き上げてサムズアップと満面の笑みを見せる。

 

「ごちそうさまでした!」

 

 ――1分後、俺の両頬は思いっきり伸ばされて赤くなっていた。痛い。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 そんなこんなで、新ルールに則ってデュエルすることにした俺たち。

 さっそく室内でデュエルディスクを用いないテーブルデュエルを行った。

 最初の方こそマナは新しい名称に戸惑っていたようだが、終盤になれば普通にリリースと言っていた。慣れてくれたようで何よりである。

 ちなみにデュエルの結果は俺の負け。最後の最後で一族の結束を受けたブリザード・プリンセスさんにやられました。ちくしょう。

 というわけで、デュエルも終わりひと段落ついた頃。今度はマナが新たな提案をしてきた。どうせなら、新ルールをよくわかっていない子たちの前でもやろうと言い出したのだ。

 再び出された突然の提案に俺は驚くが……しかし。なるほど、それは確かにいいかもしれないと考える。

 幸いここのところよくカードショップに顔を出して、子供たちに顔と名前を覚えられるぐらいには親しんでいる俺たちである。

 新しい言い回しなんかも慣れるまではやりにくいだろうし、そういう皆の前でデュエルするのもルールを浸透させる意味ではいいかもしれないな。

 こういう草の根的な活動は、まさに俺なりの普及活動だ。全体への普及はペガサスさんたちに任せるとして、俺はこういう身近なところで協力していけばいい。

 そう考えた俺はマナの提案に肯定を返し、俺たちは先日のカードショップに向かうことになったのだった。

 

 

 

 

「あ、シンクロの兄ちゃんだ!」

「ホントだぁ! マナおねえちゃんもいる!」

 

 カードショップに到着した途端。

 表で遊んでいた子達が俺たちに気付いてわっと近寄ってくる。

 俺には男の子が、マナには女の子が寄ってきたので、それぞれ適当に相手をしつつ店内へと進む。

 

「店長、デュエルスペース借りる。あとマナにデュエルディスク貸して」

「はいはい。それにしても、君たち二人がデュエルとは、珍しいね」

「まぁね。新ルールに合わせたデュエルをしようと思ってさ」

「あの皆本遠也がわざわざ、か。それは勉強になりそうだ」

 

 店長の物言いに、俺は苦笑いで応える。

 “あの”というのは俺がシンクロのテスターであり、ペガサスさんに勝ったからだろう。また、俺の家にペガサスさんが出入りするのを見た人もいるらしく、俺がペガサスさんの関係者ということはかなり知られているようだ。

 そして新ルールを発表したのはI2社。だからこそ、店長は俺が新ルールに詳しいと思ってそう言ったのだと思われる。

 俺が新ルールに詳しいのは正解だが、その理由は間違っている。だが、俺は特に訂正はせずにそのまま笑って店の奥、そこから繋がる小さな広場に歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 広場の中ほど。そこまで子供たちを張り付けたまま辿り着いた俺たちは、それぞれ左腕にデュエルディスクを装着した。

 その様子を、子供たち、それからデュエルを見に来た中高生含めたこの店の常連さんたちがじっと見ている。

 そんな中、俺はディスクにデッキをセット。マナのデッキは俺の魔法使い族デッキを軸に自分が調整したものとなっているので俺が持っている。そのため、俺は自分のもう一方のデッキをケースから取り出すと、マナに差し出した。

 ちなみにさっき家でデュエルした時のデッキのままである。

 

「ほら」

「うん、ありがと。借りるね」

 

 受け取ったデッキをディスクに収めたのを確認後、俺たちは周りの子供たちに離れるように言い聞かす。

 

「ほらほら。またあとで相手してやるから」

「ちぇー。でも兄ちゃん、マナ姉ちゃんとデュエルなんて、喧嘩でもしたの?」

「ちゃうわ。新ルール対応のデュエルをするだけだよ」

 

 言って、俺たちは互いに距離を開ける。

 これでデュエルの準備は整った。そしてここで、俺は周囲にも聞こえるように声を上げた。

 

「ルールは最新のものを採用! デッキは40~60枚、旧融合デッキ――エクストラデッキは15枚まで! OKだな!」

「うん! 大丈夫だよ!」

 

 その答えを聞き、俺はデュエルディスクを着けた左腕を僅かに上げる。

 マナもまた同じく構え、そして開始の宣言を行った。

 

「「デュエル!」」

 

皆本遠也 LP:4000

マナ LP:4000

 

「先攻は俺か。ドロー!」

 

 手札はなかなか……。けど、マナが相手の時って何気に負ける率が上がるから油断ならない。たぶん、精霊の加護という名のドロー力補助がなくなっているからだと思われるが。

 そりゃ加護をくれる精霊自身と敵対しているんだから、そうなりますよね。

 

「俺は《カードガンナー》を召喚! 効果によりデッキの上から3枚まで墓地に送り、枚数×500ポイント攻撃力をアップさせる。ただし攻撃力はエンドフェイズに元に戻る。俺は3枚墓地に送り、攻撃力アップ!」

 

《カード・ガンナー》 ATK/400→1900 DEF/400

 

 さて墓地に送られたのは、なーにっかな、なーにかなっと。

 ……なになに、《ジャンク・シンクロン》《ジャンク・シンクロン》《ジャンク・シンクロン》。

 ………………ひょ?

 待て待て。なんでジャンクロンが全部落ちてんだよ。

 どんだけ事故ってたんだ、この野郎。

 

「……俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

「な、なんか急にテンション下がった? えっと、私のターンだね。ドロー!」

 

 そして上がるギャラリーからの……主に男子中高生からの声援。

 さすがはこの近辺のカードショップで若い男たちからアイドル視されているマナ。その人気はやはり凄まじい。

 尤も、隣に俺がいるためそういう意図で寄ってくる輩はいないのだが。本当にアイドルとして見ているだけのようなのだ。

 そしてそんなマナは、声援に笑みを見せつつ手札からカードを手に取ってディスクに置いた。

 

「私は《マジシャンズ・ヴァルキリア》を召喚! そしてバトル! カードガンナーに攻撃! 《マジック・イリュージョン》!」

 

《マジシャンズ・ヴァルキリア》 ATK/1600 DEF/1800

 

 マナによく似た魔術師の少女。違いはその服装の装飾と、それから属性が真逆であることだろうか。

 その宝玉がついた大きな杖から迸る光の波動が、カードガンナーに迫る。しかし俺は慌てず騒がず、伏せカードを使用する選択をした。

 

「罠発動、《くず鉄のかかし》! 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、このカードは再びセットされる」

「うーん、やっぱり防がれるよね。私はこれでターンエンド!」

「俺のターン!」

 

 お、手札が厳しい時には嬉しいカードが来てくれた。

 

「手札から《強欲で謙虚な壺》を発動! デッキの上から3枚めくり、その中の1枚を選択して手札に加える。ただし、このターン俺は特殊召喚が出来なくなる」

 

 他にも強欲で謙虚な壺は1ターンに1枚しか発動できないという制限があるが、そもそも手札に1枚しかないので問題はない。

 

「めくったカードは《ボルト・ヘッジホッグ》《増援》《サルベージ・ウォリアー》の3枚。俺は《サルベージ・ウォリアー》を手札に加え、あとの2枚はデッキに戻してシャッフルする」

 

 よし、ここでサルベージさんはありがたい。まさかのジャンクロン全滅という事故が発生したからな。

 とはいえ、このターン俺は特殊召喚が出来ない。シンクロ召喚もその分類である以上、このターンでサルベージさんを出すのは得策じゃないな。

 

「カードガンナーの効果発動! 3枚墓地に送り、攻撃力を1500ポイントアップさせる!」

 

《カードガンナー》 ATK/400→1900

 

 今度は《クイック・シンクロン》《調律》《エンジェル・リフト》。まぁ、マナが味方になっていない時だとこんなもんか。ぐすん。

 

「バトル! カードガンナーでマジシャンズ・ヴァルキリアに攻撃! 《トリック・バレット》!」

「きゃっ……」

 

 カードガンナーの腕から放たれた銃撃がマジシャンズ・ヴァルキリアを直撃する。

 それによってヴァルキリアは墓地に送られ、マナのライフを削った。

 

マナ LP:4000→3700

 

「ターンエンドだ」

 

 微々たるものだが、先手はもらった。さっき家でやったデュエルでは負けただけに、ここではさすがに勝ちたいところだ。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 カードを加えたマナは手札を見ると、一つ頷いてカードに手をかけた。

 

「《召喚僧サモンプリースト》を召喚! 効果により守備表示となり、手札から魔法カード《魔術の呪文書》を捨ててデッキからレベル4モンスター《ライトロード・マジシャン ライラ 》を特殊召喚!」

 

《ライトロード・マジシャン ライラ 》ATK/1700 DEF/200

 

「ライトロード・マジシャン ライラの効果発動! このカードを守備表示に変更し、遠也の場の魔法・罠カード1枚を破壊する! 私は《くず鉄のかかし》を破壊!」

「まぁ、そうくるよな」

 

 ライラが放った魔力がセット状態になっているくず鉄先生を破壊し、墓地に送る。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド! そしてこの時、ライラの効果でデッキの上から3枚を墓地に送るよ」

「俺のターン!」

 

 さて、場にモンスターを残すことには成功している。とくれば、どうにかこのターンでシンクロ出来そうだ。

 

「俺はカードガンナーの効果を使い、デッキから3枚墓地に送り攻撃力をアップ! そしてカードガンナーをリリースして、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚!」

 

《サルベージ・ウォリアー》 ATK/1900 DEF/1600

 

 落ちたのは《死者蘇生》《スポーア》《リビングデッドの呼び声》。なぜ死者蘇生が落ちてしまったのか。

 そして出てくる、青い肌の厳つい大男。身に纏った黄色いダウンベストと、鎖、そして水属性であることから、その名の通りに海で救助を行う姿をイメージしたモンスターなのだろう。

 それは、その効果にも見ることが出来る。

 

「サルベージ・ウォリアーの効果発動! このカードがアドバンス召喚に成功した時、手札か墓地のチューナーを1体特殊召喚できる! 墓地から《ジャンク・シンクロン》を特殊召喚!」

 

 墓地に通じるのだろうかフィールドに空いた黒い穴にサルベージ・ウォリアーが鎖を投げ入れ、一気にそれを引き上げる。

 その鎖を掴んで穴から出てきたのは、オレンジ色を基調にした機械の身体に眼鏡をかけたチューナー。ジャンク・シンクロンである。

 

《ジャンク・シンクロン》 ATK/1300 DEF/500

 

 サルベージの名前通りの効果を持つモンスターだ。

 サルベージ・ウォリアーのレベルは5。昔はこれでクイック・シンクロンを蘇生してエクシーズ。ヴォルカさんを呼んで、マグマックスゥゥゥ! とかやったもんだ。

 まぁ、今は残念ながらできないが。

 そしてリリース、アドバンス召喚という新たな単語の登場に、周囲もざわざわとしている。なるほどああいう言い方をするのか、と頷いている姿もあり、皆なんとも勉強熱心である。

 元の世界では名称変更が発表された途端、リリース(笑)とか言われてたからな。それに比べれば、真面目に受け取ってくれてこちらもやりやすいってものだ。

 さて、これで今回のデュエルの目的の一つは果たしたと言っていいだろう。あとは勝ちに行くだけである。

 

「俺はレベル5サルベージ・ウォリアーにレベル3ジャンク・シンクロンをチューニング!」

 

 場に素材が揃った以上、やることは一つだ。

 俺の指示と共に、場の2体が飛び上がりシンクロ召喚のエフェクトが始まる。

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!」

 

《スターダスト・ドラゴン》 ATK/2500 DEF/2000

 

「バトルだ! スターダスト・ドラゴンでライトロード・マジシャン ライラに攻撃! 《シューティング・ソニック》!」

「待ってました! リバースカードオープン! 罠カード《次元幽閉》! これで攻撃してきたスターダストを除外するよ!」

「げっ!? ならそれにチェーンして《サイクロン》! 更にチェーンしてスターダスト・ドラゴンの効果発動! このカードをリリースし、俺のサイクロンによる破壊を無効にして破壊する! 《ヴィクテム・サンクチュアリ》!」

「ああっ!?」

 

 チェーンの逆順処理により、まずはスターダストの効果によって俺のサイクロンの破壊が無効となり、破壊される。そして効果を発動したスターダストは墓地へ。

 対象を失った次元幽閉は不発に終わり、効果を正常に処理することが出来たスターダストは、エンドフェイズに戻ってくることになる。

 

「むぅ……さすがにそう何度も上手くはいかないかぁ」

「当ったり前だ。さっき俺が負けたパターンじゃないか、今の」

 

 そう、さっきは今と同じ状況でスターダストを除外され、返しのターンでマナがブリザード・プリンセスを召喚。そこに2枚の結束を使って、俺のライフを0にしたのだ。

 さすがに同じ手を日に2回も喰らうわけにはいかない。

 

「俺はこれでターンエンド。そしてこのエンドフェイズに、自身の効果でリリースされたスターダストがフィールドに戻る」

 

《スターダスト・ドラゴン》 ATK/2500 DEF/2000

 

 さて、この次でマナがどう動くかだな。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 カードを引き、マナがにやりと笑う。

 

「ふふーん、いくよ遠也! 私はライトロード・マジシャン ライラをリリースして、《ブリザード・プリンセス》をアドバンス召喚!」

 

《ブリザード・プリンセス》 ATK/2800 DEF/2100

 

「おいおい……」

 

 まんまさっきと同じ展開じゃないか。

 一族の結束がないしスターダストが場に残ってる分マシだけどさ。

 

「ブリザード・プリンセスの召喚に成功したターン、相手は魔法・罠カードを発動できない! いって、ブリザード・プリンセス! スターダスト・ドラゴンに攻撃! 《コールド・ハンマー》!」

「ぐぁっ!」

 

遠也 LP:4000→3700

 

「私は1枚カードを伏せて、ターンエンド!」

 

 ちくしょう、結局スターダストは破壊されたか。

 だが、厄介な破壊効果を持つライラがいなくなったのは大きい。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを確認し、更に行動を続ける。

 

「俺は《貪欲な壺》を発動! 墓地から《ジャンク・シンクロン》2枚と《カードガンナー》《サルベージ・ウォリアー》《クイック・シンクロン》をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

 ……よし、いいカードが来た。これなら上手くいきそうだ。

 

「相手の場にモンスターがいて、俺の場にモンスターがいないため、手札から《アンノウン・シンクロン》を特殊召喚! 更に《精神操作》を発動し、《召喚僧サモンプリースト》のコントロールを得る! そして手札から《増援》を捨て、サモンプリーストの効果発動! 《ライトロード・マジシャン ライラ》を特殊召喚する!」

 

《アンノウン・シンクロン》 ATK/0 DEF/0

《召喚僧サモンプリースト》 ATK/800 DEF/1600

《ライトロード・マジシャン ライラ》 ATK/1700 DEF/200

 

「ライラの効果発動! 守備表示に変更し、相手の場の魔法・罠カードを破壊できる! その伏せカードを破壊だ!」

「ああっ、《魔法の筒(マジック・シリンダー)》が……!」

 

 おいおい、なんて危ないものを。

 知らずに攻撃してたらこっちがダメージを受けるところだった。

 だがまぁ、これで相手の伏せカードは0だ。懸念がなくなった以上、安心して行動できるってものである。

 

「いくぞ! レベル4召喚僧サモンプリーストとレベル4ライトロード・マジシャン ライラにレベル1アンノウン・シンクロンをチューニング!」

「合計レベルが9……ま、まさか……」

 

 マナがレベル計算後に、たらりと冷や汗を流す。まぁ、レベル9のシンクロモンスターなんて限られるからな。予想は容易い。

 そして恐らくその予想は大正解である。

 

「集いし求めが、暴虐の化身となって牙を剥く。光差す道となれ! シンクロ召喚! 滅ぼせ、《氷結界の龍 トリシューラ》!」

 

《氷結界の龍 トリシューラ》 ATK/2700 DEF/2000

 

 全身を角ばった白銀の鱗で覆った、三つ首のドラゴン。氷の結晶の形をした胸部の鱗と合わせて特徴的なその巨体は、氷結界において古来より封印されてきた伝説の龍である。

 そしてその性質は凶悪にして強靭。封印解放後は暴走を繰り返し、一度は世界を滅ぼしてしまったほどの破壊の権化でもある。

 

「や、やっぱりトリシューラ……」

 

 そしてその恐ろしさはカードの効果にも表れている。それを知るマナの顔は、やはりちょっと引き気味だった。

 

「氷結界の龍 トリシューラの効果発動! シンクロ召喚に成功した時、相手の手札、フィールド、墓地からそれぞれ1枚ずつ選択して除外できる! 俺はマナの手札から右のカード、場からブリザード・プリンセス、墓地からライトロード・マジシャン ライラを除外する! いけ、《氷結の咆哮》!」

 

 トリシューラの三つ首、それぞれが大きく口を上げて雄叫びを上げる。

 それによって発生した物理的な衝撃まで伴う冷気の波動に、手札が1枚、墓地から1枚、そして耐えていたブリザード・プリンセスも除外されて場から消えていく。

 ブリザード・プリンセスが耐えていたのは、やはり同じ氷に関係する存在だったからなのか。まぁ、今となっては関係ないが。

 

「バトルだ! トリシューラでプレイヤーに直接攻撃! 凍てつけ、《氷結のフリージング・バースト》!」

 

 咆哮を上げたトリシューラの三つの頭。その口腔に目に見えるほどの冷気が圧縮されて集まっていく。

 その集束が終わりを迎えた時、一瞬の間隙の後、三つ首から一気にそれが解き放たれる。

 それは発射直後に混じり合って一つになり、巨大な冷気の砲撃となってマナへと襲い掛かった。

 

「きゃあっ!」

 

マナ LP:3900→1200

 

 よし、大ダメージだ。

 だがまだ油断はできない。俺のライフはだいぶ残っているとはいえ、それが一気になくなる危険性を秘めているのが、デュエルというものだ。

 それに、トリシューラも召喚以降はバニラ同然なんだ。過信は禁物だろう。

 よって、俺は1枚のカードを手に取った。

 元の世界で制限に指定されるほどに有用なカードだ。ここはひとつ、万全を期してこのカードを伏せておくことにしよう。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド!」

「むむ……私のターン、ドロー!」

 

 カードを引き、それを見たマナが一つ頷く。

 

「私は墓地の光属性モンスター《マジシャンズ・ヴァルキリア》と闇属性《召喚僧サモンプリースト》を除外して、《カオス・ソーサラー》を特殊召喚!」

 

 カオス・ソーサラーか。攻撃権を放棄することで相手の場のモンスター1体を除外するという、強力な効果を持つ。

 特殊召喚扱いになるため通常召喚権が残るというのも地味ながら嬉しいところであり、優秀なモンスターだ。

 だが。

 

「悪いな、マナ。リバースカードオープン! 《神の宣告》! ライフポイントの半分を支払い、その特殊召喚を無効にして破壊する!」

 

遠也 LP:3700→1850

 

「え、えええ!? ここでそんなカード!?」

「伏せておいて良かったよ。それを許すと面倒なことになるかもしれないからな」

「うっ」

 

 言葉を詰まらせたマナが残り1枚の手札に目を移す。はてさて、それがどんなカードかはわからないが、マナとしてはこれで予定が狂わされたといったところか。

 たとえばソーサラーの効果で除外、その後ソーサラーをリリースして上級モンスター、あるいはチューナーを召喚してシンクロ召喚、もしくは単純に死者蘇生による蘇生で追撃、という可能性もあるからな。

 このターン内で俺が負ける可能性は高くはないが、それでもここで無効にしておかないと一気に流れを持っていかれる可能性もある。となれば、やはりここで打っておいて正解だろう。

 さすがは神の宣告。制限カードは伊達じゃないな。この世界では違うけど。

 

「むむ……ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 

 さて、これでマナの場には何もカードはなし。対して俺の場にはトリシューラがいる。

 そして、そんなトリシューラを見てマナが肩を落としていた。

 

「はぁ……せめて除外じゃなくて破壊ならなぁ。蘇生だって出来るのに……」

 

 そうぼやくマナに、苦笑い。

 そこがトリシューラの恐ろしい所だ。さすがは元の世界での制限カード、そして5D’sの時代でも最強のカードとして数えられているだけのことはある。

 ともあれ、そのトリシューラのおかげもあって相手の場は空っぽ。これで安心して攻撃できるというものだ。

 

「バトル! トリシューラでプレイヤーに直接攻撃! 《氷結のフリージング・バースト》!」

「きゃぁあっ!」

 

マナ LP:1200→0

 

 三つ首から放たれた冷気の砲撃がマナを直撃し、そのライフを削り切る。

 これによりこのデュエルは俺の勝利で終わり、決着がついたことによってソリッドビジョンもゆっくりと消えていった。

 デュエルを終え、それを見ていた観客一同が拍手をしてくれる。それにどーもどーもと手を振りながら、俺はマナの方へと近づき、話しかけた。

 

「よし、さっきの雪辱は果たしたぜ」

 

 にやりと笑って言ったそれに、マナは膨れ面でこちらを見た。

 

「負けず嫌いだなぁ、もう。トリシューラはひどくない?」

「だってなぁ、あそこでトリシューラを出したから勝てたんだし」

 

 無論他のカードでも手はあったかもしれないが、トリシューラが一番確実だった。それを除くとレベルの合計が5のモンスターだけになるし、ここはトリシュに頼ってもいいじゃないか。

 と、そんな風にマナと会話しつつ、俺たちは店の方へと移動する。

 すると、さっき離れてもらっていた子供たちが早速とばかりに寄ってきた。

 

「すっげぇ、兄ちゃんあんなドラゴンも持ってたのかよ!」

「リリースって言い方もカッコいいね!」

「マナ姉ちゃん、ドンマイ!」

 

 わーわーと俺たちに纏わりつく子供連中に、俺たちはそれぞれ笑みを浮かべる。

 これだけいい反応をしてくれれば、暑い中デュエルした甲斐があったというものだ。

 

「よーし、それじゃあ新しい言い方はわかったよな? 今度はみんなでデュエルといこう」

 

 俺がそう言うと、子供たちは「はーい」と頷いて店内へと戻っていく。恐らくデュエルディスクを貸してもらうためだろう。小学生である彼らは自分のデュエルディスクを持っていないのだ。

 5D’sで龍可や龍亜は自分のディスクを持っていたが、あれは二人の家がお金持ちだったからこそだ。一般的にデュエルディスクはやはり高価であり、小学生なら持っていない率の方が遥かに高い。

 だからこそ、カードショップには貸し出し用のディスクが置いてあり、それゆえに子供たちはカードショップに入り浸るのだ。ソリッドビジョンでのデュエルの方が盛り上がるのは間違いないからな。

 案の定ディスクを持って戻ってきた子供たち。それを見て、俺は早速口を開いた。

 

「それじゃあ、せっかくだし新ルールに則ったデュエルといこう!」

 

 その言葉に子供たちが「おー!」と腕を突き上げて応え、それぞれがデュエルを始める。

 そしてその光景を見ていた中高生もそれぞれデュエルを始め、いつの間にか広場一杯、そこかしこでデュエルが行われていた。

 やはりみんな新しいルールというのは気になっていたのだろう。それにあわせてデッキを作り直し、あるいはカードをこの場で買い加えて、皆がデュエルを楽しんでいる。

 夏であろうとお構いなしに外でデュエルとは。中のテーブルでデュエルをしている人もいるが、それは外がいっぱいだからという理由である。やはりソリッドビジョンの力は偉大だということか。

 そんなこんなで、結局俺たちもその場に付き合って夕方までカードショップに滞在した。

 その日の帰り際、出来れば明日も来てほしいなぁといつもよりカードが売れてホクホク顔の店長に言われたのは完全な余談である。

 

 

 

 


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