遊戯王GXへ、現実より   作:葦束良日

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第2話 十代

 デュエルアカデミア、ラーイエロー寮の一室。

 オベリスクブルーの寮に比べれば貧しく、オシリスレッドと比べれば上等な、そんな間を取った普通な部屋のベッドの上で寝ていた俺は、呼びかける声に意識を覚醒させていく。

 

「ほら、遠也。朝だよもう」

 

 ご丁寧に実体化までしているらしく、布団越しに身体を揺さぶられてもいるようだ。

 比較的寝起きはいいと自覚している俺だが、しかしそれがイコール早起きに繋がるわけではない。むしろ寝られるなら好きなだけ寝ていたい。それが退屈な授業を控えた学生ともなれば、なおさらだろう。

 だがしかし、授業があるからこそ起きなければならないというのも、学生の悲しい定め。いささかならず抗いがたい魅力が布団にあるのは確かだが……ここは涙を飲んで起きるとしよう。

 そんなわけでむくりと上半身を起こし、隣で「あ、起きた」なんて呟いている奴に顔を向ける。そして、毎朝恒例の朝の挨拶。

 

「おはよ、マナ」

「うん、おはよう遠也」

 

 にっこり笑って返すのは、俺についてきた遊戯さんのカードに宿っていたはずの精霊。

 

 《ブラック・マジシャン・ガール》のマナであった。

 

 

 

 

 

 

 

 俺とマナの出会いは、実に一年前にさかのぼる。当たり前だけど。

 ともあれ、その時の俺は間違いなくこの世界が現実のものと認めざるを得ない現状に、軽度の鬱っぽい感じになっていた。

 いやだってさ、現代日本に似ているとはいえ、いきなり違う世界だからね。家族、友人、親類縁者、その他十五年かけて俺が培ってきたものが全て消滅したわけですよ。

 そりゃ、いくら同居人との仲が悪かったからといって、まったくショックを受けないなんてことはないわけですよ。

 まして、この世界は常識まで俺の世界とは微妙に異なるのだ。何かあれば「おい、デュエルしろよ」の世界である。最初、上手くなじめずに気持ちが不安定になるのは仕方がないと許してほしい。

 この世界でいきなり遊戯さんを訪ね、そして俺の事情を聞いて快く俺に宿を提供してくれた武藤家の皆さんには感謝してもしきれない。まして、そんな状態の俺に優しく接し続けてくれたのだから、その感謝度たるや天井知らずである。

 そして、その時によく話しかけてきてくれたのがマナだった。一応同年代(見た目と精神年齢的に)であるし、マナが明るくとっつきやすい性格だったからだろう。遊戯さんや彼女の師匠である《ブラック・マジシャン》のマハードも、積極的に俺と関わらせようとしていたと思う。

 俺はそんなマナの性格に影響されたのか、だいぶ精神的に楽になったし、素の自分をさらけ出してこの世界を生きる気持ちを芽生えさせることができた。尤も、マナがかなりの美少女であったことが関係なかったかといえば、もちろんあったりもするのだが。

 まぁそれは置いておいて。その結果、俺にとってマナはこの世界で一番親しい存在となったのだ。友人、親友、ちょっと照れ臭いがそんな関係だろうか。

 向こうも俺の自意識過剰でなければ、俺のことをそれなりに親しく感じてくれているように思う。

 それが俺とマナの関係だった。

 言葉にこそしないが、俺はマナの存在に感謝している。俺についてきてくれると言ってくれた時も、本当は嬉しかった。そんなこと、恥ずかしくて言えやしないけどな。

 まぁ、とはいえ……。

 

「普段は口やかましいだけだけどな」

『それ、誰のこと? あ、もしかしなくても私でしょ! もう、毎朝起こしてあげてるのは誰だと思ってるの!?』

「お黙りマナガール。誰かといえばお前のことだが、毎朝きちんと感謝している。ありがとう」

『え、うん、どうしたしまして? ……あれ、ここは怒るところ?』

「笑えばいいと思うよ」

 

 そんな複雑な言い回しでもなかろうに、納得いかなそうに首をかしげるマナはなかなかに愛らしい。言うと調子に乗るかもしれないから言わないけど。

 授業も終わり、ぶらぶらと二人で歩く(片方は浮かぶ)散歩道。こうして二人きりになる時間は居心地がいい。

 俺の事情を余すところなく知っている相手であるし、気を使う必要がない相手でもある。それがこの心地よさに繋がっているのだろう。

 そう考えれば、やっぱりこうしてついてきてくれたのは良いことだった。一人だと、いろいろ考えてしまったかもしれないからな。

 と、そんなことをつらつらと考えながら、マナと話していたその最中。

 突然背後から大声が俺たちにかけられた。

 

「あー! いたーッ!」

 

 その声に二人して思わず振り返れば、そこにはこちらを指さしているオシリスレッドの制服を着た男子が一人。

 髪の色は茶色。髪型はこれといった特徴はなく。しかし爛々と輝く生気あふれるその瞳が、その男子の印象を非常に活気あるものにしている。

 ……うん、遊城十代だな。何度かアカデミアの中で見かけたことがあるから間違いないだろう。けど、なぜいきなり?

 絶句している俺を見て、マナが『遠也?』と聞いてくるが、俺はそれには答えなかった。いやね、まさかこんなにいきなり主人公に会うとは思わないじゃない。ちょっと、意識を飛ばしても仕方ないでしょ?

 ちなみにこの俺、十代が主人公のGXのことをあんまり詳しく覚えていない。

 初代は最初ということもあって印象深かったし、しっかり覚えている。5D'sやゼアルも最近のアニメだったから覚えている。

 けど、GXは中途半端な時期だったためか、俺の中で記憶がうろ覚えなのだ。それは、この一年間この世界で作品に全く触れずに過ごしたことでひどくなっていると言っていい。

 さすがに十代やメインキャラ、大きな事件や個人的に印象深かったことは多少覚えているが……。あとは最終回までの大まかな流れや主人公にまつわる話ぐらいか。まぁ、何でもかんでも物語通りに進むわけではないから、参考になる程度しか覚えていないのは変に気にしなくていい分ラッキーだとでも思っておくことにしている。

 と、そんなことを考えているうちに、十代がこちらに走り寄ってきていた。

 そして、にかっと気持ちのいい笑顔を見せる。

 

「いやー、探したぜ! お前だろ、入学試験でシンクロ召喚とかいうやつを使ってたの!」

「ああ、うん、まぁ」

「俺の名前は遊城十代! あとでその話を聞いてさ、その場にいれなかったのが残念だったぜ! だから、俺とデュエルしようぜ!」

 

 なん……だと……。

 今の会話は一体どうなっているんだ?

 

 Q:シンクロ召喚使った?

 A:はい。

 Q:デュエルしようぜ!

 A:!?

 

 こうである。まるで意味がわからんぞ!

 いやまぁ、新たな戦術であるシンクロ召喚を見たいから、というのはわかるのだが。しかし、文法的におかしかったでしょ。その場にいなかったのが残念、デュエルしようぜ! って。

 確かにアニメでもデュエル馬鹿みたいな設定はあったが、現実でも本当にこんな性格だったのか。あれはアニメだったからで、普通はもう少し抑えられてるだろと勝手に考えていたんだけど……そのままとは。

 しかし、この真っ直ぐさが人を引き寄せ、そして確か世界すら救うというのだから馬鹿にはできない。しかし、その当事者に会うというのも妙な気分だな、やっぱり。遊戯さんたちでだいぶ慣れたとはいえ。

 

「で、どうなんだ? デュエルしてくれるのか?」

 

 そして目の前で目をキラキラさせながら俺の答えを待っている十代。うぉ、その視線が眩しいぜ! 

 しかし、デュエルか。まぁ、してもいいか。俺も、やっぱりデュエルは好きだからな。断る理由も特にない。

 

「わかった。そのデュエル受ける! それと、俺の名前は皆本遠也だ」

「やったぁ! サンキュー遠也! んじゃあ早速……って、うわっ! な、なんでここにブラマジガールが!?」

『あ、どうもー』

 

 十代にひらひらと手を振ってこたえるマナ。

 おいおい、いま気付いたのかよ。てっきり見えててスルーしているのかと思った。どれだけデュエル一直線なんだよまったく。

 ……ん? そういやこの時って、十代はまだ精霊見えてないんじゃなかったか? もう詳しくは覚えてないからな……気のせいかもしれないけど……。

 まぁ、いいや。見えてるってことは見えてたんだろ。たぶん。

 

「驚くのはわかるけど、そっちは後でな。デュエルするんだろ?」

「お、おう。わかった、それじゃいくぜ!」

 

 互いにデュエルディスクを構え、デッキをセット。ある程度の距離を開けたところで、同時に宣言する。

 

「「デュエル!」」

 

 皆本遠也 LP:4000

 遊城十代 LP:4000

 

 よし、今回は先攻だな。

 

「先攻は俺だ、ドロー!」

 

 さて、手札はというと……。

 

・チューニング・サポーター

・レベル・スティーラー

・ボルト・ヘッジホッグ

・死者蘇生

・調律

・速攻のかかし

 

 の六枚。

 むぅ、チューナーが一枚もないとか。まぁ、代わりに調律があるから何とかなるか。

 

「俺はまず手札から魔法カード《調律》を発動する! 自分のデッキから「シンクロン」と名のつくチューナー1体を手札に加え、デッキをシャッフル。その後デッキトップのカードを墓地に送る。俺が選択するのは、チューナーモンスター《クイック・シンクロン》!」

「チューナー? そいつが噂のモンスターか!」

 

 十代が驚きとともに表情を喜びに変える。自分の知らないモンスター、知らない戦術。そんなデュエルが出来ることを心底楽しんでるって顔だ。

 幸せな奴だと思うと同時に、そんな純粋さが若干羨ましくもあるな。まぁ、そういうところが十代の魅力なんだろう。確かに、こんなに素直な奴はそういないだろうし。

 そんなことを考えつつ、俺は調律の効果の処理をしていく。カードを手札に加え、デッキをディスクが勝手にシャッフル。その後、デッキの一番上のカードを墓地に送った。

 

「おぉ、すげぇ! デッキが勝手にシャッフルされてる!」

 

 あ、そうか。この機能はまだこの時代のディスクにはないんだった。

 

「俺のデュエルディスクは特別製なのさ。ふっふっふ、羨ましいだろう」

「ああ! カッコイイぜ!」

 

 なんと、このディスクがカッコイイと申すか。

 さすがは十代。きちんとわかってるじゃないの。この細かな動作をも可能にしたディスクの素晴らしさが分かるとは、できる。便利だし、カッコイイ。いいとこだらけのこのディスク。一点物のためにプレゼントできないのが残念だ。

 

「サンキュー十代。さて、俺は手札から《レベル・スティーラー》を墓地に送り、クイック・シンクロンを特殊召喚! 更にレベル・スティーラーを自身の効果で蘇生、この時クイック・シンクロンのレベルは1つ下がる。更に《ボルト・ヘッジホッグ》を守備表示で通常召喚!」

 

《クイック・シンクロン》 ATK/700 DEF/1400

《レベル・スティーラー》 ATK/600 DEF/0

《ボルト・ヘッジホッグ》 ATK/800 DEF/800

 

「一気に三体も……! なんて展開力だ!」

 

 慄く十代。しかし、本番はこれからさ。

 

「いくぞ十代! 俺はレベル1のレベル・スティーラーにレベル4となったクイック・シンクロンをチューニング!」

 

 もちろんクイック・シンクロンが打ち抜くのは、ジャンク・シンクロンだ。

 四つの光輪の中を輝く星となったレベル・スティーラーがくぐり、光があふれる。その様を、十代は目を輝かせて見入っていた。

 

「集いし星が、新たな力を呼び起こす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 出でよ、《ジャンク・ウォリアー》!」

 

 おなじみ、シンクロ召喚の代名詞。機械の身体を持った戦士が、その拳を高らかに掲げて飛び出した。

 

《ジャンク・ウォリアー》 ATK/2300 DEF/1300

 

 出てきたジャンク・ウォリアーを見た十代は、興奮しきりのようである。身を乗り出して見つめ、そして歓声を上げた。

 

「すっげぇー! めちゃくちゃカッコイイじゃん! それがシンクロ召喚かぁ!」

 

 なんだそんなに嬉しいのか。こやつめ、ははは。

 飛び上がらんばかりに喜んでいる姿に、俺もなんだか気分が良くなる。ジャンク・ウォリアーも心なしか得意げに見えなくもない。

 

「そうだろう、そうだろう。だが十代、こいつの本領はまだこれからだぜ?」

「ん?」

「ジャンク・ウォリアーの効果発動! シンクロ召喚に成功した時、このカードの攻撃力は自分フィールド上にいるレベル2以下のモンスターの攻撃力分アップする! 《パワー・オブ・フェローズ》!」

 

《ジャンク・ウォリアー》 ATK/2300→3100

 

「1ターン目から、いきなり3000越えのモンスターだって!?」

 

 十代が盛大に驚くが、元の世界ではこれぐらい日常茶飯事である。っていうか、これぐらいでは後攻ワンキルくらうこともザラだった環境だ。

 今思うと、やっぱ相当に高速化してんだなあの世界のデュエルは。ソリティアとか言われるデッキもあるぐらいだからなぁ。

 

「俺はこれでターンエンドだ!」

 

 高攻撃力のモンスターに、壁モンスターが1体。伏せカードはないが、それでもボードアドバンテージとしてはそれなりだろう。

 しかし、相手は十代だ。油断していたら速攻でやられそうな気がする。

 とはいえ、伏せカードがない以外は特に心配することもない。とりあえず、これに対して十代がどう対応するのか。それからだな。

 

「すげぇぜ、遠也! 最初からそんな強力なモンスターを呼び出すなんてな! こいつは俺も負けてられないぜ、ドロー!」

 

 さて、チートドローの代名詞として有名な十代のことだ。手札的には相当いいものが揃っているとみて間違いはないだろう。問題は、それがどの程度なのか、だ。

 手札を確認した十代は、自信満々にカードをディスクに置いた。

 

「俺は手札から《融合》を発動し、手札の《E・HEROエレメンタル・ヒーロー スパークマン》と《E・HERO クレイマン》を融合する! 現れろ、《E・HERO サンダー・ジャイアント》!」

 

 大きく丸い鎧に上半身を包まれた雷を操るHEROが場に現れる。バチバチと鳴る雷の音が実に力強い。

 

《E・HERO サンダー・ジャイアント》 ATK/2400 DEF/1500

 

 って、おい! いったいどうなってるんだよアイツの手札は!

 ただでさえ初期手札に融合素材と融合が揃ってんのに、出てくるカードがサンダー・ジャイアントだと!? 狙ってるんじゃないだろうな!?

 

『うわー、凄いねあの人。うちのマスターに負けず劣らずのドロー運みたい』

 

 確かに、それほどまでに十代のドローは驚異的だ。十代の代名詞ともいえるぐらい、ドローの凄さは強調されていたようにも思うし。

 

「いくぜ、遠也! サンダー・ジャイアントの効果発動! 手札を1枚捨てて、相手フィールド上のこのカードより元々の攻撃力が低いモンスター1体を破壊する! ジャンク・ウォリアーは確か攻撃力2300だったよな?」

 

 はい、その通りです。

 

「いけ、サンダー・ジャイアント! 《ヴェイパー・スパーク》!」

「くっ……!」

 

 サンダー・ジャイアントから放たれた雷撃がジャンク・ウォリアーを直撃し、ジャンク・ウォリアーは為す術なく破壊されてしまう。

 ちくしょう、これで俺の場には守備表示のボルト・ヘッジホッグが1体だけ……!

 

「更にサンダー・ジャイアントでボルト・ヘッジホッグに攻撃! 《ボルティック・サンダー》!」

 

 続いてボルト・ヘッジホッグも破壊される。守備表示だったからダメージこそないものの、これで俺のフィールドはガラ空きだ。

 

「よし! 俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

 エンド宣言をし、十代のターンが終わる。

 これで十代の手札は残り1枚。とはいえ、それで安心できないのが遊城十代の恐ろしいところだ。

 

「ったく、よくもやってくれたな、十代。せっかく整えたフィールドがボロボロだ」

「へへっ、そいつが俺とHEROの力さ! けど、まだまだこれからだろ? デュエルは始まったばかりだぜ!」

 

 隠すことなく笑いながら、十代はそう言って俺を促す。

 まったく、その通りだ。早速してやられてしまったが、まだまだデュエルはこれからなのだ。こうして思う存分デュエルできるところは、この世界に来て本当によかったと思えるところである。

 だからこそ、デュエルでは俺も全力を尽くす!

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを確認し、これから行う動作を一瞬で組み立てる。

 

「俺は手札から《チューニング・サポーター》を守備表示で召喚して、ターンエンド!」

 

《チューニング・サポーター》 ATK/100 DEF/300

 

 まだ上手く手札が揃わない。ここは、何とか耐えるしかない。

 

「よっしゃあ、俺のターンだ! ドロー!」

 

 さて、どうくる?

 

「俺は《E・HERO フェザーマン》を召喚! バトルだ! フェザーマンでチューニング・サポーターに攻撃! 《フェザー・ブレイク》!」

 

《E・HERO フェザーマン》 ATK/1000 DEF/1000

 

 勢いよく飛んできた羽根がチューニング・サポーターに突き刺さり、破壊される。

 

「更にサンダー・ジャイアントでダイレクトアタック! 《ボルティック・サンダー》!」

「悪いが、そいつは通さない! 手札から《速攻のかかし》を捨て、効果発動!」

「手札からモンスター効果だって!?」

 

 そういえば、この時点では手札から効果を発動するモンスターってそんなにいないんだっけか。有名どころではクリボーぐらいしか俺も知らないもんな。

 

「相手の直接攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する!」

 

 いやー、まさかピンで挿してたコイツが初期手札に来るとは思わなかったが、いてよかったぜかかしさん。

 

「ちぇ、止められたか。俺はこれでターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードは……。

 

「きたー! 俺は手札からチューナーモンスター《ジャンク・シンクロン》を召喚!」

 

《ジャンク・シンクロン》 ATK/1300 DEF/500

 

 眼鏡をかけたお馴染みのチューナー。遊星のデッキでも過労死組に分類されるアイツである。

 

「ジャンク・シンクロンの効果! 墓地のレベル2以下のモンスターを効果を無効にして表側守備表示で特殊召喚する! 来い、レベル・スティーラー! 更に俺のフィールド上にチューナーがいるため、ボルト・ヘッジホッグを特殊召喚! 更に手札から《死者蘇生》! チューニング・サポーターを蘇生する!」

 

 4体のモンスターがフィールドに並ぶ。

 レベルの合計は8。スターダストといきたいところだが……この状況では、あいつしかいない。

 

「チューニング・サポーターの効果により、このカードはレベル2として扱う! レベル2となったチューニング・サポーターとレベル2ボルト・ヘッジホッグ、レベル1レベル・スティーラーに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!」

「レベル8……! いったいどんなモンスターが出てくるんだ!?」

 

 そして相変わらず好奇心丸出しな十代である。ホント、少年漫画の主人公みたいなやつだな。ある意味その通りなわけだが。

 まぁ、それはそれとして。

 

「集いし闘志が、怒号の魔神を呼び覚ます。光差す道となれ! シンクロ召喚! 粉砕せよ、《ジャンク・デストロイヤー》!」

 

《ジャンク・デストロイヤー》 ATK/2600 DEF/2500

 

 またまた出ました、スーパーロボット! どこからどう見ても機械族なのに戦士族! しかし頼れる僕らのヒーロー、スーパーピン……おっと、危ない危ない。

 

「うおー、ロボットかよ! そいつもカッコイイなぁ!」

「だけど、効果は結構えげつないぜ?」

「へぇー、どんな効果なんだ?」

「今から見せてやるぜ! ジャンク・デストロイヤーの効果発動! このカードがシンクロ召喚に成功した時、素材としたチューナー以外のモンスターの数までフィールド上のカードを選択して破壊できる! その数は3体、よって3枚のカードを破壊できる!」

「げっ、マジかよ!?」

 

 残念ながらマジである。

 

「俺は十代のフィールドのサンダー・ジャイアントとフェザーマン、そして伏せカードを破壊する! 《タイダル・エナジー》!」

 

 ジャンク・デストロイヤーによって、サンダー・ジャイアントとフェザーマンが破壊され、次いで伏せカードも墓地に送られる。伏せカードは……《ヒーロー・バリア》か。まずまずの戦果だな。

 

「シンクロ素材として墓地に送られたチューニング・サポーターの効果。カードを1枚ドローする」

 

 さて、これで十代の場には何もない。なら攻撃を躊躇う理由はどこにもないな。

 

「ジャンク・デストロイヤーでダイレクトアタック! 《デストロイ・ナックル》!」

「うわぁっ!」

 

 デストロイヤーの剛腕が振りぬかれ、そのまま十代にたたきつけられる。ソリッドビジョンだから痛みも衝撃もないはずだが、あれだけリアルな映像に迫られた十代は、思わず膝をついた。

 

「ターンエンドだ」

 

十代 LP:4000→1400

 

 ふぅ、ようやくライフを削れたか。よかった、ジャンク・シンクロン引けて。

 まぁ、クイックと合わせて6枚も入ってるし、他にも何枚かチューナーは入ってるから引ける確率は高かったが……事故る時は本当に事故るからなぁ。シンクロデッキなのに、3ターンの間チューナーも調律も来なかった時はホントに泣けた。

 

「くっそー、攻撃力2600でその効果かよ」

 

 ライフを削られた十代が、なんつー効果だ、と呟きながら立ち上がった。

 

『でも十代くん、こんなの遠也のデッキでは序の口だよ? 中にはもっと恐ろしい効果のモンスターも……』

「そうなのか?」

「なぜ敵に塩を送るか、お前は」

 

 お仕置きしてやりたいが、精霊化していてはどうにもならん。ぐぎぎ。

 

『ごめんなさーい』

 

 てへ、と可愛く謝って見せるマナ。コノヤロウ、可愛いから許す!

 

「なぁ、さっきは後回しにしちゃったけどさ。お前の隣にいるの、ブラック・マジシャン・ガールの精霊だよな?」

『そうだよー。私はマナ、改めてよろしくね!』

「ん、おう、俺は十代だ。で、コイツが俺の相棒、ハネクリボーだ!」

『クリクリ~』

 

 おお、あれがハネクリボーか。遊戯さんが自ら手渡したという、以後ずっと十代のデュエルを支え続ける相棒。

 しかし、待てよ。もとが遊戯さんのだとすると、ハネクリボーとマナって顔見知りなのか? あの人のところ、精霊いっぱいいるからハネクリボーもいたかなんて覚えてないぞ。

 

『あ、久しぶりだね。元気してた?』

『クリ~!』

 

 旧知の仲であることが判明しました。まぁ、当然といえば当然か。

 

「相棒、知り合いなのか? 待てよ……ブラマジガールは遊戯さんのデッキにしか入っていないはず。あれ、ってことは……」

「十代、気になるのはわかるけど、まずはデュエルだ。話なんて、終わってからでも出来るさ」

 

 なんだか長くなりそうだったので、とりあえずデュエルしようぜ! である。

 さすがに長引くと寮での自由時間が削られるからな。デュエルは好きだが、それはそれ、これはこれだ。

 

「うーん、気になるけど……まぁ、確かに後でもいいか。よし、俺のターンだ! ドロー!」

 

 さて、十代の手札は1枚。フィールドは空っぽ。この状態で引くものといえば……。

 

「俺は《強欲な壺》を発動し、2枚ドロー! 更に《天使の施し》! 3枚ドローし、2枚捨てるぜ!」

 

 禁止カードの連続ラッシュきたー! そして同時にこれは十代の勝利フラグだ!

 なんだか雲行きが怪しくなってきたぜ。

 

「俺は《E・HERO バブルマン》を召喚! こいつは召喚に成功した時、自分のフィールド上に他のカードがない場合、デッキから2枚ドローできる! ドロー!」

 

《E・HERO バブルマン》 ATK/800 DEF/1200

 

 ここでくるのか、泡男! しかもこいつはアニメ効果のほうかよ! こいつこそまさにインチキ効果もいい加減にしろ、って言葉がふさわしい。

 

「俺は手札から魔法カード《E‐エマージェンシーコール》を発動し、《E・HERO バーストレディ》を手札に加える! 更に《O-オーバーソウル》! 墓地のフェザーマンを特殊召喚!」

 

 ここまでやって、十代の手札はまだ3枚残っている。そのうち1枚はバーストレディ、フィールドにはフェザーマンとくれば、残り2枚のうち1枚は決まっている。

 

「いくぜ遠也! 俺は融合を発動し、手札のバーストレディとフィールドのフェザーマンを融合! 現れろマイフェイバリット、《E・HERO フレイム・ウィングマン》!」

 

 右腕が赤い竜頭、左側の背中からは純白の翼を生やしたHEROが十代のフィールドに降り立つ。身体が緑色なのは融合素材となったフェザーマンの名残だろうか。

 

《E・HERO フレイム・ウィングマン》 ATK/2100 DEF/1200

 

 これで十代の手札はあと1枚。このままではジャンク・デストロイヤーに敵わない以上、手札にあるのはたぶんその補強カード。

 ふむ……。

 

「なるほどな。だが十代、ソイツじゃあジャンク・デストロイヤーの攻撃力には届かない!」

 

 なんとなくフラグを立ててみる。

 まぁ、こんなことしなくても結果は変わらないんだろうけど、なんとなくね。

 そんな俺の言葉に、十代はにやりと笑った。

 

「慌てるなよ遠也。ヒーローにはヒーローに相応しい戦いの舞台がある! 俺はフィールド魔法《摩天楼-スカイスクレイパー-》を発動!」

 

 カードがセットされると同時に、フィールドにその名の通りの摩天楼が現れる。しかし、やっぱりあったか、攻撃力強化のカード。しかも摩天楼とは……もはや感嘆するしかないな。

 

「《摩天楼-スカイスクレイパー-》が存在する限り、E・HEROの攻撃力が相手モンスターの攻撃力よりも低い場合、E・HEROの攻撃力をダメージ計算時のみ1000ポイントアップする!」

 

 摩天楼のネオンが煌めく中、静かに佇む二人のHERO。くそぅ、なんかカッコイイな。しかもこの摩天楼もアニメ効果じゃないか。

 

「フレイム・ウィングマンでジャンク・デストロイヤーに攻撃! この時スカイスクレイパーの効果で攻撃力が1000ポイントアップ!」

 

《E・HERO フレイム・ウィングマン》 ATK/2100→3100

 

「いっけぇ! 《スカイスクレイパー・シュート》!」

「うおっ」

 

 その言葉に応じ、フレイム・ウィングマンが風属性のくせに火炎放射で攻撃してくる。

 ジャンク・デストロイヤーは炎の渦にさらされ、そのまま破壊された。

 

遠也 LP:4000→3500

 

「まだまだ! フレイム・ウィングマンの効果発動! 戦闘でモンスターを破壊した時、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

「くっ、そうだった!」

 

遠也 LP:3500→900

 

「更にバブルマンでダイレクトアタック! 《バブル・シュート》!」

「ぐあっ……!」

 

遠也 LP:900→100

 

 一気に合計3900のダメージが俺のライフから削られる。

 あ、あぶねー! ギリギリ残ったが、危うく1ターンキルされるところだったぜ、おい!

 しかも、またしても俺のフィールドは空っぽ状態。ちくしょう、主人公勢のようなチートドローが俺も欲しいぜ……。

 そんな涙がちょちょぎれそうな俺の内心とは裏腹に、十代は至極嬉しそうであった。

 

「よっしゃあ! 俺はこれでターンエンドだぜ!」

「これはヤバい……俺のターン、ドロー!」

 

 手札は3枚。しかし、その中にまだ決着をつけられる手はない。

 

「俺はモンスターをセット、カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 これで、耐えられればいいんだが。

 

「これで決めてみせるぜ! 俺のターン、ドロー!」

 

 ちょ、そんなフラグ立てないでくれよ。

 なんか実現しそうで嫌だぞ、そういうのは。

 

「俺は魔法カード《融合回収》を発動! 墓地の融合とバーストレディを手札に加える。そして、バーストレディを召喚!」

 

《E・HERO バーストレディ》 ATK/1200 DEF/800

 

 今度はフィールドに現れるバーストレディ。

 性格キツそうではあるが、E・HEROの紅一点だ。だが残念ながら俺はレディ・オブ・ファイアのほうがイラスト的に好きである。

 

「いくぜ、フレイム・ウィングマンでセットモンスターを攻撃! 《フレイム・シュート》!」

 

 火炎放射がセットされたモンスターに襲いかかる。

 反転され、現れたのは一人の人間の少女だ。

 

「《薄幸の美少女》の効果発動! このカードが戦闘によって墓地に送られた時、バトルフェイズを終了させる!」

 

《薄幸の美少女》 ATK/0 DEF/100

 

 いかにも幸薄そうな少女を前に、仮にもヒーローを名乗るフレイム・ウィングマンは勢い良く出していた炎を引っ込めて、小さな火の粉に切り替えた。それにあわあわ言いながら涙ぐんで逃げていく美少女。

 その姿に同情を誘われたのか、バーストレディとバブルマンは攻撃する気をなくしたようだ。

 ……こういう意味でバトルフェイズが終了するのか、これ。

 

『……なんか、私も可哀想になってきちゃった』

 

 確かに、半泣きで逃げて行った姿は、同情を誘うには十分だった。強く生きろよ、薄幸の美少女……。

 ちなみに薄幸の美少女の攻撃力は0。フレイム・ウィングマンの効果でダメージを受けることもない。

 

「くそー、もう少しなのになぁ。じゃあ、俺はバーストレディとバブルマンを融合! 《E・HERO スチーム・ヒーラー》守備表示で召喚して、ターンエンドだ!」

 

《E・HERO スチーム・ヒーラー》 ATK/1800 DEF/1000

 

 最後に紫色をしたずんぐりとしたHEROを召喚して、十代のターンが終わる。それにしても、どこにもバーストレディの要素が見えないモンスターである。

 攻めきれなかった十代は悔しそうだ。

 しかし、俺もまさかアカデミアに行く前に時期的にまずいからと抜いたダンディライオンの代わりに、とりあえず入れておいたカードが早速活躍するとは思わなかった。

 一応遊星のデッキにも入っていたことがあるカードだからこれにしたが……何でも、入れておくもんだな。

 

「さて。俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードは……来たか!

 

「俺は《シンクロン・エクスプローラー》を召喚し、その効果により墓地からシンクロンと名のついたモンスターを特殊召喚する! クイック・シンクロンを特殊召喚! 更に墓地の《グローアップ・バルブ》の効果発動! デッキトップのカードを墓地に送り、デュエル中1度だけフィールド上に特殊召喚する! 来い、グローアップ・バルブ!」

「そんなのいつ……まさか、最初に調律を使った時か!?」

「当たりだ。そして更にクイック・シンクロンのレベルを1つ下げ、レベル・スティーラーを特殊召喚! そしてこの瞬間、リバースカードオープン! 罠カード《エンジェル・リフト》! この効果で墓地からレベル2以下のモンスターを特殊召喚する! 俺はチューニング・サポーターを選択!」

 

 クイック・シンクロン、グローアップ・バルブ、シンクロン・エクスプローラー、レベル・スティーラー、チューニング・サポーター。5体のモンスターがフィールドに並んだ。

 

「モンスターゾーンを0から一気に埋めるなんて……へへ、やるな遠也!」

 

 興奮しきりの十代に、俺はサンキューと返す。どこまでも憎めない奴だよ、ホント。

 けど、だからこそ手加減はしない。このデュエル、ここでエンドマークだ!

 

「いくぞ十代! 俺はレベル2のシンクロン・エクスプローラーとレベル4となったクイック・シンクロンをチューニング!」

 

 レベルの合計は6。そして、クイック・シンクロンが打ち抜いたのは、ドリル・シンクロンだ。

 

「集いし力が、大地を貫く槍となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 砕け、《ドリル・ウォリアー》!」

 

《ドリル・ウォリアー》 ATK/2400 DEF/2000

 

 右手に巨大なドリルを持ち、黄色いスカーフをたなびかせた赤い戦士が姿を現す。これまた男のロマン、ドリルである。

 そして、更に!

 

「チューニング・サポーターをレベル2として扱い、レベル2となったチューニング・サポーターとレベル1レベル・スティーラーに、レベル1のグローアップ・バルブをチューニング!」

 

 レベルの合計は4。遊星に唯一シンクロ召喚のセリフを呼ばれなかった、ちょっと可哀想なアイツである。

 

「集いし勇気が、勝利を掴む力となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 来い、《アームズ・エイド》!」

 

《アームズ・エイド》 ATK/1800 DEF/1200

 

 鋭い刃のような五本の指。それらを持った大きな人の手の形をした機械が、フィールドに降り立つ。

 これで俺のフィールドには攻撃力2400と攻撃力1800のモンスターが並んだ。いずれもアタッカーとしては十分な攻撃力を持つモンスターだ。モンスターが0の状態から考えれば、頼もしいことこの上ない。

 

「更に、素材となったチューニング・サポーターの効果でカードを1枚ドローする」

 

 引いたカードは《サイクロン》。いいカードだが、既にこの状況では意味がないな。

 さて、ここまでの怒涛の召喚劇を見て、十代はこの新たな召喚方法にやはり大きく興味を持ったようだ。シンクロ召喚するたびに瞳が輝くのだから、わからないはずがない。

 

「やっぱ、すっげぇぜ遠也! レベルの低いモンスターが、力を合わせて強くなる! そして、何度だって蘇って、また立ち上がるなんてな!」

 

 十代のその言葉に、何とも嬉しくなってしまう。

 そう、遊星のデッキ……そして俺のこのデッキは、まさにそれがテーマだ。

 弱小ステータス、低レベルのモンスターは、役立たずということとイコールではないということ。それを証明することができるのが、このシンクロデッキ。

 強いカードが強いんじゃない。どうその力を合わせるのか、どう活用するのかが強さに繋がる。それこそがシンクロ召喚の魅力なのだ。

 俺はそんなこのデッキが好きだ。そんなシンクロ召喚の代名詞であり、自身もまたそんな絆を大切にした男。不動遊星のテーマに則って作ったこのデッキが、俺にとってのフェイバリットなのだ。

 だからこそ、嬉しくなるってもんだ。そんな俺のデッキを褒められて、嬉しくないはずがない。

 そして、モンスターのステータスこそ強さと思いがちなこの世界で、まったくそんなことを意に介さない十代という男が、気持ちよく見えて仕方がなかった。

 

「……そうだろう、十代。俺のモンスターは凄いだろう!」

「ああ! へへ、けどな、俺のHERO達も負けちゃいないぜ! それに、そいつらの攻撃力じゃ俺には届かない。次のターンが勝負だぜ!」

 

 そう、十代の言うとおり。

 フィールド魔法《摩天楼-スカイスクレイパー-》の効果によって、元々の攻撃力が上回っていても、ダメージ計算時にはあちらの攻撃力のほうが高くなってしまう。

 ゆえに、今の俺のフィールドにいるモンスターでは戦闘ダメージを与えることができない。十代はそう思ったのだろう。

 無論、額面通りに受け取ればその通りだ。ドリル・ウォリアーはフレイム・ウィングマンに届かないし、アームズ・エイドはバーストレディにも敵わない。

 ――が、シンクロモンスターの力を舐めてもらっては困る。

 

「それはどうかな」

 

 にやり、と不敵に笑う。逆転フラグ立てさせていただきましたー。

 

「このターンが、ラストターンだ!」

「なんだって!? この状況で、一体何を……」

 

 まだ俺のメインフェイズは終了していない。そして俺のフィールドに、勝利へのピースは既に揃っている!

 

「俺はアームズ・エイドの効果発動! 1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に装備カード扱いとしてモンスターに装備できる! そしてその場合、装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする! 装着しろ、ドリル・ウォリアー!」

 

 アームズ・エイドの鋭利な指が限界まで開き、ドリル・ウォリアーのドリルを覆うように装着される。ドリルの側面に鋭い刃まで併せ持った、凶悪極まりない武装の戦士がここに現れた。

 

《ドリル・ウォリアー》 ATK2400→3400

 

「攻撃力3400……! フレイム・ウィングマンを上回った! けど、それじゃあ俺のライフは0にできないぜ!」

 

 確かに戦闘破壊したところで、摩天楼によってダメージ計算時にフレイム・ウィングマンの攻撃力は3100になる。その差分は300であり、十代のライフは1100残る計算となる。

 しかし、アームズ・エイドのもう一つの効果がその結果を覆す。

 

「いけ、ドリル・ウォリアー! フレイム・ウィングマンに攻撃! 《ドリル・シュート》!」

「くっ、迎え討て! フレイム・ウィングマン!」

 

 ドリル・ウォリアーがその巨大なドリルを高速回転させ、勢いよく振りぬく。

 対するフレイム・ウィングマンも炎によってその攻撃を阻もうとするが、それもやがてドリルの回転にかき消されて無防備な姿をさらすことになる。

 そこにドリルが撃ち込まれ、ついにフレイム・ウィングマンは破壊された。

 

「くっ、フレイム・ウィングマンが……!」

 

十代 LP:1400→1100

 

 十代が悔しげに顔をゆがめるが、まだだ。まだ俺のターンは終わっていない!

 

「この瞬間、アームズ・エイドの効果発動!」

「まだあんのか!?」

「アームズ・エイドを装備したモンスターが戦闘によってモンスターを破壊し墓地に送った時、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える!」

「ふ、フレイム・ウィングマンと同じ効果!? ってことはつまり……」

「そう、フレイム・ウィングマンの攻撃力、2100ポイントのダメージを受けてもらう!」

 

 その瞬間、アームズ・エイドによって破壊されたフレイム・ウィングマンが持つエネルギーが十代に向かって解放される。その総量はもちろん攻撃力分の2100。それは十代のライフを削り取るには十分な量だった。

 

「うわあっ!」

 

十代 LP:1100→0

 

 狙い違わず十代を直撃したエネルギーによって、十代のライフポイントが0をカウントする。

 そしてこの瞬間、俺の勝利が確定した。

 

「あー、危なかった……。マジで負けるかと思った……」

 

 フラグを立てたのは俺だが、迂闊にそんなことするもんじゃないな。残りライフ100とか、本当にギリギリだった。

 

『私も見ててハラハラしたよ。けど、十代くんって強いんだね。遠也のライフをここまで削るなんて』

「まぁ、ドロー運が俺とは天と地ほども差があるからな。しかし、強かったよ」

 

 さすがは主人公の一人、とでも言っておこうか。それでなくても、あのドロー力は驚異的だったが。遊戯さんを彷彿とさせる引きだったからな。

 もし《速攻のかかし》や《薄幸の美少女》がなかったらどうなっていたことか。運がいいのか悪いのか、今日はピン挿ししたカードに助けられたな。

 俺がそんなことを思ってこの結果に胸をなでおろしていると、離れていた十代がこちらに歩み寄ってきた。

 負けたというのに、その顔は笑顔そのものだ。そこに悔しさはあっても、それ以外のマイナスの感情が見当たらない。本当にデュエルを心から楽しんでいる十代ならではか。

 

「くそー、もうちょっとだったんだけどな。けど、ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 

 そう言って決めポーズを決める。その嫌みのない姿に、俺も笑みを浮かべた。

 

「こっちこそ。いいデュエルだったぜ」

『私も見ていて楽しかったしね。ね?』

『クリクリ~!』

 

 いつの間にかマナの腕に抱かれているハネクリボーも、マナの言葉に同意の声を上げた。しかしハネクリボー、ちょっと場所変われ。胸の前とか、全くもってけしからん。

 そんな俺の視線に気がついたのか、マナは一瞬こちらを見ると、更に強くハネクリボーを抱く手に力を込めた。それを見て何だか悔しくなる俺。くそう。

 しかし、マナは何故か嬉しそうだった。解せぬ。

 

「あ、そうだ! 遠也、なんでブラマジガールがいるのか、話してもらうぜ! このままじゃ気になってしょうがないぜ」

 

 デュエルに夢中で忘れていたのだろうが、マナを見て思い出したようだ。武藤遊戯のデッキにしか入っていないといわれている《ブラック・マジシャン・ガール》。その精霊をなぜ俺が所持しているのか、遊戯さんを尊敬している十代としては、無視できないことなのだろう。

 まぁ、特に何か不都合があるわけでもないから、話してもいいか。

 

「わかったよ。実は……」

 

 曰く、俺は遊戯さんとは顔見知りで一応友人(だと思う)。そして何故かマナに懐かれ、こうしてアカデミアについてきてくれた。マスターは変わらず遊戯さんであり、俺の精霊というわけではない。

 とまぁ、こんな感じ。俺の境遇とかは初対面で話せるようなものでもないしな。

 というわけで、大方の話を終えると、十代はそういうことか、と頷いていた。

 

「なるほどな。俺はてっきり俺みたいに遠也も遊戯さんからカードを渡されたのかと思ったぜ。《ブラック・マジシャン・ガール》なんて、遊戯さんしか持ってないしな」

「いや、精霊は宿ってなかったけど、ブラマジガールのカード自体は俺も持ってるぞ」

「ええ!? マジかよ!?」

 

 ほれ、とカードケースから現在マナが宿っている俺の《ブラック・マジシャン・ガール》のカードを見せる。

 それを手にとってしげしげと見つめた後、十代はすげぇ本物だ、と何やら感動していた。

 この世界では、やはりブラマジガールは相当に珍しいようだ。

 

「実戦で使うのが遊戯さんだけだっただけで、別にカードそのものは世界に1枚ってわけじゃないからな。レアではあるけど、世界を探せば持ってる奴は何人かいるだろ」

 

 とはいえ、だいたいはコレクションとしてで、デッキに入れる人間はいないだろうけどな。なにしろ、上手く回すためには更に《ブラック・マジシャン》、他にも《賢者の宝石》、その他ブラマジのサポートカードと併せて、この世界では何十万とかそれ以上のカードばかりが必要となる。

 とてもじゃないが、専用デッキを作るなんて普通は出来ないだろう。だからこそ、遊戯さんのデッキにしか入っていないと言われてるんだろうけど。っていうか、それらのカードを全部パックで引き当てた遊戯さんがすげぇ。

 そもそも、世界に1枚だとしたら《青眼の白龍》よりレアで、かつ単純なレアリティという意味ではかの《三幻神》と同じということになる。さすがにそれはないだろう。

 

「いやー、いいもの見せてもらったぜ。サンキュー、遠也。けど、マナだっけ? わざわざお前についてくるなんて、よっぽど気に入られたんだな」

「だな。何がそんなにいいのかはわからんけど」

 

 最初の頃なんて話しかけてくるのをウザがってしまったこともあったし。今では仲が良くなったが、当時のことを思えばよくついてきてくれたもんだ。

 と、そんな疑問顔でマナを見れば、マナは少し頬を膨らませて拗ねたような口調になった。

 

『いいの、私が好きでついてきてるんだから』

 

 だそうだ。

 なんか愛されちゃってるね、俺。ははは。

 

「なぁ遠也。寮は違うけど、これからもたまにはこうして会おうぜ。相棒も顔見知りが来てくれて嬉しそうだしさ」

『クリ~』

 

 ハネクリボーが嬉しそうにマナの周りを飛び回る。

 いくら十代がいてくれるとは言っても、それとこれとは感覚が違うのだろう。望郷の念と呼ばれるように、自分のルーツとなる場所は、どこまでいっても特別なのだ。マナの存在はそんな微かな寂しさを和らげてくれる、そうハネクリボーは感じているのかもしれなかった。

 そして、そういうことなら、俺にその気持ちを否定することができるはずもない。

 

「もちろん、オーケーだ。これからよろしくな、十代」

「おう! 今日は負けたけど、またデュエルしてくれよな!」

「まぁ、それはおいおいな」

 

 既に次のデュエルのことを考えている十代に苦笑しつつ、俺たちは握手を交わし新たな友情を通わせる。

 この世界は遊戯王の世界だが、しかし何もかもがアニメ通りというわけではない。ここにいる人たちは確かに生きていて、だからこそ未来というものは不確定だ。

 これから十代が歩んでいくのが、どんな道なのか。たとえそれがアニメのような内容であったとしてもそれは現実の出来事であり、それに立ち向かうことになるということは、様々な危険と隣り合わせということだ。

 勝利が確定しているわけではない。どうなるのかがわからない、という恐怖が現実だからこそついてまわる。

 だからこの時。十代と友達になったこの時、俺は自分にできることをしようと思った。

 十代が危険に遭うなら、出来る限り助け、困っているなら、力を合わせて乗り越える。それが友達ってもんだろうから。

 ま、そうは言っても。俺に何ができるかなんて、今のところわからないんだけどね。

 

 

 


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