遊戯王GXへ、現実より   作:葦束良日

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1:一年生
第1話 入学


 

 ――今では”元の世界”と呼んでいる場所から、この世界に迷い込んで一年後。俺は海馬ランドの施設にいた。

 

 何故かと言うと、デュエルアカデミアの入学試験を受けるためである。俺、もうすぐ十七になるのに……。これでは、年齢的に中学でダブったことになってしまう。仕方ないとはいえ悲しいことだ。

 とはいえ、この世界のことを体験から学んできてくだサーイ、と言われては断れないわけで。しかも、海馬ボーイ(俺がそう呼ぶとキレる)に話はつけてあるとか言うので、お世話になっている身としては頷くしかなかった。

 その話をした時、遊戯さんは苦笑して頑張れと言ってくれた。あの人は本当にいい人だ。餞別に、と言ってカードを渡してくれようとしたけど、丁重に断った。

 

 好意は嬉しいのだが、俺はこの世界のカードを使うつもりが全くなかったからだ。

 

 理由は簡単。俺はこの世界に元の世界で作った二つのデッキ含め、所持していたカード全てと一緒にやって来た。そして、それが俺の持つあの世界との関わりの全てだ。未練がましいかもしれないが、それ以外のカードを使ってデッキを組む気には、どうしても俺はなれなかったのだ。

 そのことを遊戯さんも知っている、だから、遊戯さんはハッとした顔になると、わかったと頷いてくれた。うん、やっぱりいい人だ。

 そこで終われば綺麗に締められたのだが、「じゃあ私がついていきまーす」と言って精霊が一人ついてきた。解せぬ。

 けどまぁ、とんでもない美少女であったし、何よりよく話す仲で友人のように思っていたのでその申し出は嬉しかった。

 誰しも、一人は寂しいものである。

 ちなみに、そいつは今俺の二つ目のデッキのカードに宿っている。偶然、同じカードを持っていたから都合がよかったと言えばよかったのだろう。

 

「次! 受験番号13番!」

 

 おっと、気がつけば俺の番になっていたようだ。

 ちなみに俺の受験番号が13番だったのは、単純に筆記でそこそこ間違えてしまったからだ。OCG通りだったりアニメでは効果が異なっていたカードだけなら良かったんだが、アニメでは触れられていないのにOCGとは効果が違うカードとかあったんだよ。そんなんわからんて。

 それにしても13番……不吉な数字が不安をあおるぜ。

 

『がんばってね、遠也』

「おう」

 

 まぁ、こうして応援してくれる奴もいることだし、頑張るとしましょうか。

 そんなこんなで、俺はデュエルフィールドに立ち、対戦者となる試験官と向き合う。

 

「受験番号13番。皆本遠也です」

「よろしい。それでは実技試験を始める。リラックスして、普段の力を出せるようにしなさい」

「はい」

 

 あちらがデュエルディスクを構え、こちらも同じく構える。

 そして、互いに始まりの一言を叫ぶ。

 

「「デュエル!」」

 

遠也 LP:4000

試験官 LP:4000

 

 互いに手札五枚を引き、デュエルディスクを確認する。先攻は……向こうか。

 

「私の先攻、ドロー!」

 

 試験官の先生が、シュピーンと効果音がつきそうなほどに勢いよくカードをディスクから引き抜く。いいけど、カードを傷めないのかねそれ。

 

「私は《神獣王バルバロス》を妥協召喚! 更にカードを二枚伏せてターンエンドだ!」

 

《神獣王バルバロス》 ATK/3000→1900 DEF/1200

 

 おい、試験用デッキ使えよ。

 しかも、バルバロスとか。元の世界でもそれなりに高価で有名だったが、この世界ではとんでもない高値がつく激レアカードだ。よくそんなカード持ってるなこの人。

 っていうか、バルバロスとなると、あの伏せカードのどちらかが《スキルドレイン》の可能性が高いな。妥協召喚では攻撃力1900だが、スキドレの発動下では元々の3000に早変わりだ。この世界では破格の攻撃力と言えるだろう。

 まぁ、とはいえ……。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 実は俺の初期手札的に、すでに勝てるんだけど。

 現在の手札はちなみに、

 

・クイック・シンクロン

・シンクロン・エクスプローラー

・ボルト・ヘッジホッグ

・くず鉄のかかし

・レベル・スティーラー

・サンダー・ブレイク

 

 である。

 そう、勝てるんだが……さすがに、このデッキの切り札を使うわけにもいかんしなぁ。あのカード、LP4000の世界じゃ鬼畜すぎる。元々の攻撃力4000で複数攻撃可能かつ魔法・罠・効果モンスターの効果が効かないってどんだけだよ。

 まぁ、もともと召喚する気はないけど。俺の心情的に。

 というわけで、今回は別の戦術でいく。というか、切り札には基本的に今後も切り札のままでいてもらうつもりだ。あのカードを使おうと思ったら、それなりに覚悟がいるしな。

 

「俺は手札の《レベル・スティーラー》を墓地に送り、チューナーモンスター《クイック・シンクロン》を特殊召喚!」

 

 さて、まずはテキサスのガンマンのような風体をしたモンスターがフィールドに立つ。このデッキの要となるモンスターの一体である。

 

《クイック・シンクロン》 ATK/700 DEF/1400

 

「クイック・シンクロン? 見慣れないモンスターだな……」

 

 でしょうね、と内心で相槌を打つ。ペガサスさんがシンクロ召喚を提唱したのはまだ一週間前のことだ。聞き覚えがなくても仕方がない。

 おっと、まぁそれは今は置いておこう。まずはデュエルに集中しないとな。

 

「更に、クイック・シンクロンのレベルを1つ下げ、レベル・スティーラーを墓地から特殊召喚する。来い、レベル・スティーラー!」

 

 墓地のカードをフィールドに置く。同時に、背中に1つ星が描かれたてんとう虫が現れる。

 

《レベル・スティーラー》 ATK/600 DEF/0

 

「更に俺は《ボルト・ヘッジホッグ》を守備表示で通常召喚!」

 

《ボルト・ヘッジホッグ》 ATK/800 DEF/800

 

 背中にボルトが刺さった、名前そのままなネズミが召喚された。召喚時にチューと鳴くのが可愛い。俺の周囲には不評だったが……こいつ、可愛いよね?

 しかし、やっぱり表側守備表示便利だな。特にこういう状況では、セットされてると意味がないし。

 しかし、周囲は俺の行動に何やら疑問顔だ。攻撃力=強さの風潮が強く、ビートダウンが大半なこの世界。低ステータスのモンスターを並べることに、あまり意味を見いだせないのだろう。

 が、試験官の先生は反応が違った。

 

「待てよ、チューナー? そういえば聞いたことが……まさか!?」

 

 その反応に、思わずニヤリと口角を上げる。さすがはデュエルアカデミアに勤める先生だ。発表されたばかりにもかかわらず、きちんと最新情報はチェックしていたようである。

 

「そのまさかですよ、先生。俺はレベル1のレベル・スティーラーにレベル4となったクイック・シンクロンをチューニング!」

 

 クイック・シンクロンが銃を抜き、現れたルーレットを打ち抜く。打ち抜かれたのは、ジャンク・シンクロンの絵だ。

 そしてクイック・シンクロンは四つの輪となり、レベル・スティーラーが一つの輝く星となってその輪をくぐる。

 

「――集いし星が、新たな力を呼び起こす。光差す道となれ!」

 

 ひときわ強い光がそれらを包み、その中から青い体躯を持った機械の戦士が現れる。

 

「シンクロ召喚! 出でよ、《ジャンク・ウォリアー》!」

 

 飛び出したジャンク・ウォリアーが力強く拳を突き出し、フィールドに降り立った。

 

《ジャンク・ウォリアー》 ATK/2300 DEF/1300

 

 うん、何度見てもかっこいい。さすがは遊星のエースモンスター。最終回でコイツがフィニッシャーになった時は感動したもんだ。

 そんな感想に浸る俺とは裏腹に、なんだかざわざわとし始める会場。案の定、大騒ぎのようだ。たぶん、初めて見るだろうからなぁ、みんな。

 

「し、シンクロ召喚!? それはまだ発表されたばかりで、実用はされていないはず……!」

 

 先生も大変驚かれているご様子。ふふふ、この周囲の反応がシンクロ召喚の楽しみの一つである。何といっても、この世界でシンクロ召喚を使うのは今のところ俺しかいないわけだし。ふっふっふ。

 

『悪い顔してるなぁ、もう。それよりほら、説明しなくていいの?』

 

 おっと、そうだった。発表されたばかりということは、知らない人のほうが多いということ。一応、仕事として説明をしないわけにはいかない。

 こほん、とひとつ咳払いをして話し出す。なぜなにシンクロ! の始まりである。

 

「シンクロ召喚とは、チューナーモンスターとそれ以外のモンスターを使って行われる召喚方法です。フィールド上に存在するチューナーとそれ以外の素材となるモンスターを墓地に送り、そのレベルの合計分と等しいレベルを持つシンクロモンスターを融合デッキから特殊召喚する。それがシンクロ召喚です」

 

 懐から取り出したマイクを使って、説明をする。なるほど、と頷いている姿を確認してから、さらに言葉を続ける。

 

「ちなみにこの新たな召喚方法は一週間ほど前にI2社のペガサス・J・クロフォード会長から発表されました。そして、私はそのテスター兼普及担当として選ばれたので、こうしてこの召喚方法を使ってデュエルしています。わからないことがあれば、ぜひI2社日本支部、KC社、あるいは最寄りのカードショップにお問い合わせください。また実装についてはもう少し先になりますので、あしからず」

 

 よし、仕事終わり。

 というわけで、さっさとマイクをしまい、改めてディスクを構える。デュエルの再開である。

 

「ジャンク・ウォリアーの効果発動! シンクロ召喚に成功した時、このカードの攻撃力は自分フィールド上に表側表示で存在するレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計分アップする! 《パワー・オブ・フェローズ》!」

 

 現在の俺の場にいるレベル2以下のモンスターは、ボルト・ヘッジホッグ1体。その攻撃力がジャンク・ウォリアーに上乗せされる。

 

《ジャンク・ウォリアー》 ATK/2300→3100

 

「攻撃力が3000を超えた!?」

 

 ギョッとする先生。攻撃力3000が最高水準の環境では、やはり驚きなのだろう。以前、これで青眼を殴り殺された時の海馬さんの顔ったら、こっちが殺されるかと思ったもんだ。

 さぁて、これで攻撃力は十分。いくとしますか。

 

「バトル! ジャンク・ウォリアーで神獣王バルバロスを攻撃! 《スクラップ・フィスト》!」

 

 これが決まれば、バルバロスは倒され、先生は1200のダメージを受ける。とはいえ、そう簡単にはいかないだろうけどね。

 

「罠発動! 《攻撃の無力化》! その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」

 

 やっぱり。

 さすがに伏せカードが二枚もあると、そう簡単に攻撃は通らないか。

 

「メインフェイズ2に移行。俺はカードを2枚伏せて、ターンエンドです」

 

 しかし、バルバロスを倒せなかったのは痛いな。あの伏せカードが《スキルドレイン》だとしたら、ジャンク・ウォリアーの効果は意味がなくなる。発動しないってことは違う可能性もあるが……。

 いずれにせよ、一応対策はあるし、大丈夫だろう。

 俺のエンド宣言を聞き、先生にターンが移る。

 

「私のターン、ドロー! 私は伏せていた永続罠、《スキルドレイン》を発動! LPを1000払い、この効果で神獣王バルバロスの攻撃力は元に戻る! それは、君のジャンク・ウォリアーも一緒だ!」

 

試験官 LP:4000→3000

 

《神獣王バルバロス》 ATK/1900→3000

《ジャンク・ウォリアー》 ATK/3100→2300

 

 あらら、やっぱりかぁ。ってか、なんで俺のターンで発動しなかったんだ。様式美だろうか。

 

「私は更に《ダーク・ヒーロー ゾンバイア》を召喚! バトル! 神獣王バルバロスでジャンク・ウォリアーに攻撃! 《トルネード・シェイパー》!」

 

 バルバロスが厳つい顔を更に険しくさせながら突進してくる。先生の思惑通り、スキルドレインのおかげでこちらの攻撃力は下がり、あちらは上昇した。このままでは破壊されるが……。

 ま、そうは問屋がおろさないってね。

 

「罠発動! 《くず鉄のかかし》! 相手モンスター1体の攻撃を無効にする!」

「くっ、防がれたか……」

 

 キャー、くず鉄センセー!

 さすがはくず鉄先生。どんな攻撃だってお茶の子さいさいである。

 

「更にくず鉄のかかしの効果、発動後このカードは墓地に行かず再び場にセットされる」

「なんだって!? それでは……」

「はい。このカードを破壊するか、2体以上のモンスターで攻撃をするしかありません」

 

 苦虫を噛んだような顔になる先生。

 この場持ちの良さが、くず鉄のかかしが先生と呼ばれる所以ですよ。なぜかアニメでは二回目が発動する前に破壊されてばかりだが、現実で実際に出すと地味に効いたりするんだよね。

 

「ゾンバイアの攻撃力は2100……僅かに及ばないか。では、私はボルト・ヘッジホッグを攻撃!」

 

 さすがにこれはどうしようもない。ボルト・ヘッジホッグは破壊されて墓地に行った。ごめんよ、俺の癒し。

 

「一枚カードを伏せて、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードは《調律》。……やっぱり主人公級のチートドローは俺にはないようだ。まぁ、このままでもいけるからいいけどさ。

 

「まず伏せていた罠カード発動! 《サンダー・ブレイク》! 手札を1枚捨て、先生の場のスキルドレインを破壊する!」

「くっ……」

 

 雷がフィールドに降り注ぎ、スキルドレインのカードを破壊する。これで、準備は整った。

 

「そして、俺はジャンク・ウォリアーのレベルを一つ下げ、レベル・スティーラーを墓地から特殊召喚! 更に《シンクロン・エクスプローラー》を召喚!」

 

《シンクロン・エクスプローラー》 ATK/0 DEF/700

 

 身体の真ん中に空洞を持つモンスターが召喚される。周囲は攻撃力0のモンスターを攻撃表示で出していることに驚いている。

 低レベルモンスターの重要性は、さっきの説明だけではわからなかったようである。まぁ、それでなくてもこのモンスターの効果は強力だけどね。特にシンクロン主体のデッキにとっては。

 

「シンクロン・エクスプローラーの効果発動! 召喚成功時、墓地のシンクロンと名のつくモンスターを効果を無効にして特殊召喚する! 蘇れ、クイック・シンクロン! そしてチューナーが場にいるため、墓地からボルト・ヘッジホッグを特殊召喚!」

 

 というわけで、フィールドにはジャンク・ウォリアー、レベル・スティーラー、シンクロン・エクスプローラー、クイック・シンクロン、ボルト・ヘッジホッグの五体が並ぶ。

 これで墓地がすっからかんだ。墓地のモンスターを使いすぎである。

 

「一気にモンスターゾーンを埋めるとは……。チューナーを蘇らせた以上、またシンクロ召喚をするつもりか?」

 

 その問いに返す答えは決まっている。

 

「もちろんです! 俺はレベル1のレベル・スティーラーとレベル2のシンクロン・エクスプローラーに、レベル5のクイック・シンクロンをチューニング!」

 

 クイック・シンクロンが打ち抜いたのは、ジャンク・シンクロン。そして、光の輪となったクイック・シンクロンに続き、3つの星が輝きを放つ。

 

「集いし闘志が、怒号の魔神を呼び覚ます。光差す道となれ! シンクロ召喚! 粉砕せよ、《ジャンク・デストロイヤー》!」

 

《ジャンク・デストロイヤー》 ATK/2600 DEF/2500

 

 光の中から現われるのは、4本の腕を持つスーパーロボットのようなモンスター。こいつもまた、ジャンク・ウォリアーとは違った意味でロマン溢れるモンスターだ。

 そして、こいつの効果は強力だ。早速いくぜ。

 

「ジャンク・デストロイヤーの効果発動! シンクロ召喚に成功した時、シンクロ素材としたチューナー以外のモンスターの数までフィールド上に存在するカードを選択して破壊できる! 素材としたチューナー以外のモンスターは2体! 俺は先生のフィールドの伏せカードと、神獣王バルバロスを破壊する! 《タイダル・エナジー》!」

「な、なんだって!?」

 

 ジャンク・デストロイヤーからエネルギーの奔流が解き放たれ、それはフィールドを覆うように飲みこんでいく。

 そしてその奔流が過ぎ去ったあと、先生のフィールドに残っているのはゾンバイアが1体だけだった。

 

「バトル! ジャンク・デストロイヤーでゾンバイアに攻撃! 《デストロイ・ナックル》!」

「くっ……!」

 

試験官 LP3000→2500

 

「更にボルト・ヘッジホッグとジャンク・ウォリアーでダイレクトアタック!  《スクラップ・フィスト》!」

「うわぁぁっ!」

 

試験官 LP:2500→0

 

 先生のLPが0をカウントし、決着となる。

 うん、終わってみれば開始2ターンで1ターンキルか。こっちのLPは削られていないし、まぁ上等な結果だろう。

 それに公の場で初めて行うシンクロ召喚でジャンク・ウォリアーを呼び出すという俺の夢も叶ったし。これでこっちの世界でもシンクロモンスターの代名詞になってくれるといいなぁ。

 

『あ、遠也。試験官の人がこっち見てるよ』

 

 おっと、なんだろう。何か連絡事項でもあるんだろうか。

 

「受験番号13番。合否は追って通知するから、今日はもう帰ってもよろしい。……あと、個人的にシンクロ召喚というものをこの目で見れて楽しかった。ありがとう」

「あはは、いえいえ、どうも」

 

 なんだかいい笑顔で満足げに言う先生に愛想笑いで返しつつ、俺は会場を後にする。周囲から聞こえるざわめきから、シンクロ召喚の実演としても上手くいったようだ。

 この世界でお世話になったペガサスさんに、これで少しでも恩返しができるといいんだけど。

 ちなみに俺がお世話になった人は、遊戯さん、海馬さん、ペガサスさんといったこの世界のそうそうたる顔ぶれである。

 

 遊戯さんはこの世界で初めて頼った人であり、当時改めて現実を受け入れて色々混乱していた俺に根気強く付き合ってくれた人だった。八つ当たりもしてしまったというのに、本当にいい人だ。

 そんな遊戯さんと彼の精霊も一緒に、いささか情緒不安定だった俺を支えてくれたのだ。ちなみに、精霊は何故か見えた。

 そして遊戯さんの紹介で海馬さん、ペガサスさんに会った。そして二人にも俺の境遇を話し、海馬さんには戸籍の世話を。ペガサスさんには生活の世話を受けたのだ。

 海馬さんも、普段なら俺ごとき気にもしないだろう。だが遊戯さんの紹介であることと、強制的に天涯孤独となった境遇に何か思うことがあったのか、破格の対価で手を貸してくれた。それでも対価をきっちり取るあたりは、さすがにしっかりしている。

 そしてペガサスさんには保護者として生活を支援してもらった。代わりに俺は自分の世界のシンクロという概念の提供をした。他にも実際にOCGにあったカードの説明や、様々な情報の提供を行うことを約束し、俺はこの世界での基盤を手に入れたのだ。

 

 ちなみに、シンクロ召喚がこの世界でも可能になったのは、海馬さんのおかげだ。俺の話を聞き、新たにデュエルディスクに改良を加えたのだとか。これによって、この時代のデュエルディスクでもシンクロ召喚が行えるようになったのだ。

 俺のディスクはこの世界に来た時に持っていたもので、時代的には5D’sかそれ以降のものだ。外見は遊星が使っていたものによく似ているうえ、オートシャッフル機能も付いてるし、動力はモーメントっぽいので間違いないだろう。

 だからこそ俺はシンクロ召喚ができる。しかし、通常のディスクではできない。シンクロ召喚そのものはモーメントがなくても可能なため、海馬さんは現在のデュエルディスクを改良して対応したのだった。

 そしてペガサスさんがシンクロを実用できるようにしたのがつい最近のこと。ただし相当なレアカードという位置づけになるらしく、完全に普及するには数年以上かかることになるだろう。

 とまぁ、そんなこんなで何とかやってこれた俺だが、これからはついにアカデミアで学生をやることとなるわけだ。

 さすがにあれだけやって不合格ということもないだろう。これで不合格なら泣くぞ。そして海馬さんに抗議してやる。一蹴されるだろうけど。

 

 まぁ、なにはともあれ。

 

「これで俺も高校生か。一年遅れだけど。ダブリだけど」

『まぁまぁ。その代わり、私に会えたと思って』

「それは確かに。ありがとう親友」

『親友かぁ。いいけどね、別にー』

 

 俺の横をふわふわ浮かぶいかにもな魔女っ子と話しつつ、俺はひとまず帰路につく。

 これから始まる新生活。GXという名の人生の1ページに、自分がどのように関わっていくのかを考えながら。

 

 

 

 

 


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