ごくり、とシャリーは息を呑む。
喉が渇いて目が覚めたので、下の階に行こうと廊下を歩いていたらハルキの部屋から話し声が聞こえて思わず立ち止まってしまった。
そこから聞こえてきたのはハルクの彼女であるルナ・シノハラの正体。
今年で11になるシャリーでも理解することができる内容だった。
(そん、な。.....でも、どうし−−−!?)
ガチャ、と部屋の扉が開かれシャリーは扉の内側に立つようにして隠れる。
ハルキは扉を開いたままにしておいたため何とか隠れることはできた。
シャリーはハルキが下のフロアに行ったタイミングを見計らって部屋にまで急いで戻る。
冷や汗が止まらない、知ってはいけない真実を知ってしまった。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう!)
部屋に戻り布団に篭ると収まらない動悸と体の震えと戦いながら忘れようと、これは夢だと自己暗示をかけながら眠れぬ時を過ごすこととなった。
※
「が、ハッ、ぁ?」
「もう一度聞くぜ。ルナ・シノハラはどこにいるんだ?」
もう何度目になるかわからないカラスの質問に対して口を固く閉ざしていた。
−−−いや、この場合は口を開けないと言った方が正しいのかもしれない。
既にエイラの首の肉は薄くなり、白い骨が表面に浮き出ようとしていた。
しかも、血液を通すべき血管は避けて皮を剥いていっているため彼女が即死するなんて事故は起きていない。
「お前が答えるまで何度でも聞いて何度でも皮は剥がせてもらうぜ。例えお前が死んだとしてもここにいればティロスの死を知らない街の人間共はノコノコとやってくるだろうよ。そいつらに聞いてもいいんだぜ、代わりはいくらでもいるんだ。お前が死んだところで大した支障はない」
「ぃ、いぁ!!?」
「じゃあ、もう一層薄くいっとくか」
「ひ、ぃ、ぃう!いいばす!いいばすから!!」
「おー、やっとその気になったか女」
「こ、ごごから離れだとこに小さな一軒家があるんだ!!そこに住んでるギースっでいゔきょ、姉弟ど一緒に暮らじでる!!本当なんでず!!信じで!!」
「ギース.....?」
カラスだけでなく、シャチもギースという名前に僅かに反応を示す。
「あ、あだじはごれ以上は知らない!!だから、だから−−−!!」
鮮血が散る、カラスがエイラの首筋に当てていた呪臓を横に振るいエイラの首を跳ね飛ばした。
ゴロ、とエイラの頭が転がる。
目隠し越しからでもわかるぐらい両目から涙が流れていることがわかった。
それでいて表情は苦悶の表情を浮かべており、この世の終わりでも見たかのような表情だった。
「ご苦労だったな女」
「良かったのかカラス?」
「構わねぇよ、十分すぎる情報だ。ていうか、まさかここでギースの名前を聞くなんてなぁ、シャチ」
「フン」
ヒヒヒ、と笑みを浮かべながらカラスは目元にマスクを装備する。
その両の目からは怪しげな光が宿っていた。
カラスはエイラの頭を掴み、目隠しと髪留めなどのアクセサリーを外し丸々口の中に放り込む。
ぐちゃぐちゃ、と柔らかくなった頭が噛み砕かれる音と咀嚼する音が不気味な雰囲気を引きたてる。
「あー、やっぱ人肉美味いなぁ」
「丸飲みかよ」
「きちんと味わったさ。死ぬ間際に恐怖で顔に水分が集まったときは特に美味だぜ」
ヒヒヒ、と腹を撫でながらカラスは更に禍々しさの増した呪臓を仕舞い込む。
ぐ、と口元に飛びついた血飛沫を拭い全身の関節をポキポキと鳴らす。
「行くぞシャチ。場所の目星は付いた、ルナ・シノハラを手に入れるために」
「あぁ、バルダ草はどうする?」
「持っておけ。ここに置いていっても仕方ないしどうせ使うんだからよ。お前が持っていれば盗まれる心配もない」
「同感だ」
ゴォォォ、と二人は気を高ぶらせ禍々しい魔力が無意識のうちに放たれる。
カラスとシャチ、人類の恐る魔族が目的に向かって動き始める。
−−−激突の刻は少しずつゆっくりと迫ってきていた。
満月に向かって屋敷から飛び出したカラスとシャチは跳躍し、木々を掻き分けルナの元へと走り始めた。
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