ミスティとカラスの放出された魔力がぶつかり合い小規模の爆発を巻き起こす、それを合図にミスティは杖の形状を身長より少し大きめの両刃刀に変形させ、カラスに斬りかかる。
一度鉄の生成を行ってしまって魔力も大幅に消費してしまった。
木々の生い茂る林の中では周囲の鉄の形状を変化させるという戦法が使えないため戦闘方法はかなり制限されてしまう。
ミスティが両手で剣となった杖を横振りにし、カラスの胴に向けて斬りかかる。
「ぬ!?」
しかし、カラスはそれを軽々と避け自らの身体を宙に浮かせる。
そのままカカト落としの要領で器用に空中で左脚を軸にして一回転しミスティ目掛けて強烈な蹴りを放つ。
その蹴りはミスティが防ぐために使った鋼鉄に綺麗な足跡をくっきりと残すには十分な威力だった。
カラスは動きを止める様子はなく、くるり、と一回転しビキビキビキィ、と赤黒い触手に魔力を集中させミスティに向けて槍のように放つ。
「わっ!?」
「へぇ、こいつを避けるのか」
凄まじい勢いで放たれた触手はズガガガガガッ!!と音を立てて大地を貫き、削るようにして刺さったままである。
ぐにゃ、と柔軟性を取り戻した触手の上に足を乗せたカラスはミスティのことを興味津々に観察し続ける。
ミスティは体制を立て直すと再び剣を振るう、今度は攻撃と同時にリーチを伸ばしてより遠く、より長い距離に向けて攻撃が届くように。
カラスはリンボーダンスをするように身体を仰け反らせて一撃を回避する。
(.....別に勝たなくてもいい、というか勝てない!だから、せめてライム君達が逃げるのに十分な時間さえ稼げることができれば!)
「おいおい、そう焦るなといいたいが、俺もあの小僧の息の根止めないといけないからそうも言ってられないか」
ふぅ、と溜息を吐いたカラスは地面から赤黒い触手を抜き再び魔力を集中させる。
ヒュ、とカラスが触手を横薙ぎに振るうと風を切る音が軽く鳴る。
−−−その威力は凄まじく、カラスの背後に立っていた木が根元からバッサリと綺麗に切断された。
「ぐっ!?」
「魔力と四肢、武器しか持てない人間に俺たちに勝ち目はない。俺たち魔族はそれらに加えてこの呪臓があるんだ。それだけでお前らとは天と地の差があるんだよ」
とん、とん、とステップを踏むように軽やかな足取りでカラスは呪臓を軸にしてゴォ、と自らの身体を弾丸のようにしてミスティに突っ込む。
ミスティはそれを紙一重で回避し、最初に生成しておいた鉄の塊に手を向ける。
すると、彼女の魔力に呼応するようにぐにゃぐにゃとスライムのように動き始め、先端が刃と化しカラスを覆い尽くすように展開する。
「なるほど、鉄を生成するだけじゃなく自在に操作することもできるのか。本当ならじっくりと遊びたいところだが、なァ!」
ズギャギャギャギャギャギャ!と呪臓を自らを軸として乱回転させ迫り来る無数の鋼の刃を大雑把に粉砕していく。
呪臓から放たれている赤黒い微弱な禍々しい魔力は物体に侵食する性質も兼ね備えている。
侵食された物質の部分は僅かだが脆くなり、突破口となる。
それでなくても呪臓の硬さは岩を砕くことも不可能ではない、むしろ容易く破壊することができると言っても過言ではない。
カラスが鋼の包囲網から脱出した先にミスティの姿はなかった。
「あン?」
カラスは呪臓をぐちゅぐちゅぐちゅ、という音を立たせながら根元から収納していく。
周囲に散らばった鉄からミスティの魔力が感じられるせいで個人の特定は困難である。
「.....参ったな、つい熱くなっちまった」
ポリポリと頭を掻きながらカラスは大きく溜息を吐く。
(このままあの小僧探してもいいが、どこまで逃げたかわからねぇ。第一そう遠くまでは行けないはず、だがあの女があいつら側なら簡単にはやれねぇからな)
ふむ、とカラスは念のため標的であるライムの魔力を探ろうとするがそれも感じられなかった。
余程微弱なのか、そもそも魔術師ではないのかもしれない。
(ここは一旦、シャチと合流して体制を立て直すとしますか。あんまり街の近くで暴れて怪しまれんのもよくないし)
カラスは踵を返して屋敷へと引き返して行った。
ゴォォォォォ!!と音が鳴るほど凄まじい速度でスキップを踏みながらなぎ倒してきた木々を目印に道を進んでいく。
(それに俺たちの真の目的はルナ・シノハラだ。サブターゲットに時間をかけるわけにはいかねェ)
※
ギース家に戻ったライム達は殿を務めたミスティの帰りを待っていた。
「ねぇ、ハルクさん。そろそろ家に帰らないとお父さんに怒られちゃう」
「あー、そうだな。もうすぐ太陽沈むからなぁ」
「ていうか、レッドは一体どこに行ったんだ?」
ライムはギース家に飛ばしたはずのレッドが未だにやって来ていないことを疑問に思っていた。
そこにハルクがライムに小声で話しかけてくる。
「で、さっき言ってたことって本当なのか?」
「あぁ、あいつらの狙いがルナさんなのと交渉に向かった先でティロスさんが殺された。両方とも俺もレッドも現場にいたからな」
「そうか」
ハルクは苦虫を潰したような表情を浮かべ、さっき家の中に入れておいたシャリーのことを想いながら頭を抱えたくなる思いで一杯だった。
ライムは知るタイミングこそなかったが、シャリーはティロスの一人娘である。
このことを伝えるべきか伝えないべきなのか、どちらにしろ彼女を屋敷に戻すわけにはいかなかった。
彼女の今後をハルクの姉であるハルキと相談する必要が出てきた。
他人に対しては積極的ではないが、知人であれば少しの間家に置くことを許可してくれるかもしれない。
ルナのこともあるため、できることならば皆が一箇所に固まっている方がいざとなれば互いに助け合うことができる。
−−−ガサガサ、と茂みが揺れる。
即座にハルクは武器を構え、ライムも音のした方向に目を向ける。
カツンカツン、という音が聞こえたのと同時に茂みから現れたのは見知った少女の姿だった。
あと、彼女の頭にはこれまた見知った赤い鳥の姿があった。
「うぅ、やっと辿り着いた」
「全く。心配になって引き返してみたらこいつが倒れてるんだから、よ。世話が焼ける」
「レッド、ミスティも無事だったのか!」
ライムは安堵した表情を浮かべ、小走りになって側に駆け寄る。
ハルクはその後ろからフッと笑みを浮かべ、ポケットから取り出した煙草を吸いながらライムの後に続いてゆっくりと歩き始める。
「すまないなライム。一度ここの目の前にまで来たんだが、魔力の爆発に巻き込まれてな」
「そうだったのか。まぁ、無事ならよかった」
「うぅ、そろそろ限界」
「わ、倒れるな倒れるな!今治療するから!!」
ライムがミスティの額に手を当てると、ポワァ、と淡い魔力の篭った光が発生する。
どうやら傷の回復ではなく魔力を過剰に使いすぎてしまった持病の方のケアだったようだ。
「で、ライム君。あいつは一体何なの?何で魔族がこんなところで」
「そうだな。一度俺とレッドがティロスさんの屋敷で見たことを話した方がいいな。ハルキさん達も一緒に、ルナさんも狙われてる」
「たしかに、な。何故かは知らないがライムのことも狙ってるみてぇだしな。姉貴とティルナさんにも話しておくべきだ」
「とりあえずお邪魔するか。いつまでもここにいても仕方ないからな」
「そうね。もう日も暮れそうだし、一度対策を練りましょう」
治療の終わったミスティがゆっくりと立ち上がるとライム達もハルクに連れられ家に入ることとなった。
その時、ハルクは表情には出さなかったが人一倍焦っていた。
何か、何故かはわからないがこんなことでモタモタしている場合じゃない。
そんな気持ちが彼の胸の内でモヤモヤと渦巻いていた。
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